序章
桜が散り始めた頃、私は世間から隔離されたようなところにある小さな屋敷で生まれた。
私、鈴鹿はある大名の愛人の子。
父上の顔すら見たことがない。父上は私の存在が世間に知られるのを恐れた。そのため、この屋敷にも一度も訪れたことがない。
程なくして、母上が病で亡くなった。元から身体が弱かった上に、身寄りもなく、この屋敷で隔離されて生活していたため、ストレスがたまりすぎていたのだろう。
私はまだ顔も知らぬ父上を憎んだ。なぜ母上は死ななければならなかったのか。母上は私を短い間だったが、たっぷり愛情を注いでくれた。
母上が亡くなった後の屋敷は冷たく感じた。使用人は私のことを冷たくあしらい、最低限の身の回りの世話しかしなかった。また2つだけ父上の命で絶対にしてはいけないことがあった。それは学問と武術を学ぶことだ。私が屋敷にある書物を読もうものなら、厳しく叱責され、意識が無くなるまで殴られる。だから私は屋敷ですることがなくひたすら季節の訪れを楽しんだり、動物と戯れたりした。
ある日、いつも屋敷に訪れてくる狐がけがをしていた。血が止まらず、手当てをしようにも道具がない。焦ってとっさに手を傷に当てて止血しようとした。そのとき、突然その傷が光って、しばらくして光が収まると、なんとそこにあったはずの傷がなくなっていた。これまでけがをしたことがなかったので、初めての発見だ。これは他にも使えるのかと思い、無造作に枯れた花に手を当ててみた。しかし、何も起きなかった。
「なーんだ。何も起きないじゃない」
私はそう呟いて、その場をあとにした。
月日が過ぎ、私は16歳になった。けれども、同じ歳の使用人とは身体の成長がまるで遅い。8歳くらいから身体の成長が止まっている。そんな私の姿を使用人たちは
「呪われた子だ」
「やはり生まれてくるべきではない」
「さすが卑しい母の子だ」
「まぁあの母親も無様に死んでったけどな‼」
と聞こえるように言ってきた。
別に私のことに関してはなにを言われても気にしないが、母上のことを言われたらさすが悲しくなった。母上は私のすべてだから。
思わず屋敷を飛び出した。
そして山の中を歩き続けた。生まれて初めて屋敷を出たので少し歩くだけでも、足に鉛をつけてるかのように重かった。
突然、身なりの汚い男二人組が現れた。
「へぇー、良い着物着てるね。どこぞかのお嬢様かぁ?」
その男たちは獣のように私のことを見てきた。
恐怖で足がすくみ、動けなくなっていた。
もうだめと思ったその矢先、私と男たちの前に刀が飛んできた。
「おい‼そこでなにをやってる‼」
そこには浅葱色の羽織の男たちが立っていた。
あっという間に身なりの汚い男たちを捕まえ、私は安堵して意識がなくなった。