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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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26 止まれない。殺したいなら本気出せ


「どうした? こんなもんかよ?」


 笑みを浮かべ、肩で息をするゼノ。その足下へ悪魔が倒れ、黒い瘴気しょうきとなって霧散むさんする。

 これで五体目。残るは十五体。彼を取り囲む包囲網は徐々に弱まっていた。


 彼の足下にはいくつかの大きな穴。それは、先程仕留めた土竜もぐらの悪魔が開けた物。それを再利用し、一体の悪魔が飛び出した。


 ゼノが視線を向けた先には、頭部がひるにすり替わった男性悪魔の姿。その口から透明な液体が吐き出され、彼の右足へ付着した。


「ちっ!」


 粘液に足を取られたゼノ目掛け、悪魔たちの放った霊力球れいりょくきゅう怒濤どとうのごとく押し寄せる。


「シールド!」


 霊力壁れいりょくへきを展開するも、それだけの数を打ち込まれてはひとたまりもない。半透明の球体は無残に砕け、霊力球の雨が次々と襲った。


 殴られたような衝撃と共に、その体が前後左右へ激しく揺れる。だが決して倒れない。両足を踏ん張り留まり続ける。


「うらあぁぁっ!」


 気合一閃。大きく振るった一撃が霊力球のいくつかを弾き飛ばした。


 聞こえる。声が聞こえる。ゼノの中へ訴えるように、懇願するように響く。それが痛いほど伝わるからこそ、彼も止まれない。


「分かってる。レイカを助けんだろ? 俺を殺したいなら本気で来い。カス悪魔ども!」


 吠えるゼノが再び剣を振るう。


★★★


「もうイヤ……」


 涙を流し、四つん這いになって逃げるレイカ。それを逃がすまいと、江波えなみの太い左腕が彼女の剥き出しの肩を掴んだ。


「どこに行こうって言うんだ?」


 彼女の肩へ置いた手を素早く首へ回し、背後から強く締め付ける。


「うぐっ……」


 レイカの体は弓なりに反り、苦痛にうめきながら江波の腕をほどこうともがく。


「また殴られたいのか? 俺は構わねぇぜ。おまえの鼻が折れようが、歯が折れようが、たっぷり可愛がってやるよ」


 耳元でささやかれる絶望への選択。どれを選んでも希望などありはしない。活路を失ったレイカの体から生気と抵抗力が失せ、すすり泣く声だけが部屋に響いた。


「良い子だ。大人しくしてな」


 江波の手がレイカの背中を這い、ブラのホックを手慣れた仕草で取り外した。下着の隙間へ指を滑らせ乳房へ直に触れる。形が変わるほど指が食い込み、その先端をもてあそぶ。


 苦痛と恥辱ちじょくと悔しさに唇を噛むレイカ。野蛮な男に胸を揉まれ、貞操ていそうの危機を迎えながらも抵抗できない自分が惨めでならなかった。溢れて止まらない涙が頬を濡らし続ける。


「すぐに天国へ連れて行ってやるよ。俺は、ベッドの中じゃ優しいんだ……」


 耳元で聞こえる邪悪な声。それが彼女の心へ津波となって押し寄せる。その心を蹂躙じゅうりんし、澄み渡っていた心を濁り淀ませてゆく。


 それは津波の怒号どごうだろうか。絶望したレイカの耳に届いた一つの異音があった。


「残念だよ、江波さん。あなたの手にあるのは地獄への片道切符だけだ」


「あん?」


 背後からの声に、いぶかしげな顔を向ける江波。直後、その腹部を純白の刀身が貫いた。


「いってえぇぇぇぇ!」


 レイカを突き飛ばし、ベッドに倒れ込んだまま苦悶くもんの表情でのたうち回る江波。


 むせながら顔だけを起こしたレイカは、驚きと恥ずかしさの余り、うつぶせのまま胸元を押さえて硬直してしまう。


「シュン……」


 その名を呼ばれながらも、彼は江波から視線を外さない。激しい怒りに満ちたその顔は、レイカも初めて目にする凄まじきものだった。


「気になって戻ってみればこの有様。彼女の貞操が危ないと煽ったのは、彼を焚き付けるためのほんの口実だ……」


 風見かざみの背に八頭の大蛇が具現化ぐげんかする。


「おまえらのような鬼畜きちくのせいで、美咲みさきは命を絶った……黒川くろかわもそうだ! 僕の手でもっと追い詰めてやろうと思っていたのに、自殺なんていう楽な方法でこの世を去った」


 大蛇たちが口を開け、威嚇音を発する。


「江波さんも知っていますよね? 僕の能力。普通の人間だろうと、何の痕跡も残さずに殺すことができるって……」


 レイカの顔が恐怖に引きつった。聖人と呼ばれていた彼の顔が、それほどまでに狂気染みた笑みを浮かべていたから。


「悪かった。この女には手を出さない。だから許してくれ!」


 必死に懇願しながら、這うように逃げる江波。その彼をゆっくりと追い詰める風見。


 歩きながら素早くワイシャツを脱ぎ、真っ白なTシャツ姿をさらすシュン。手にしたそれを、レイカの背中へそっと落とした。


「江波さん。あなたが暴行した女性たちもそうやって懇願したはずだ。それをあなたは欲望のおもむくまま蹂躙じゅうりんした。今度は、僕があなたに思い知らせる番だ」


 逃げる江波の両足へ大蛇が食らいつく。


★★★


 時は僅かに遡る。カズヤたちが病院の地下へ着いた頃、アジトのメディカル・ルームの一室で、新たな事件が起きようとしていた。


「あら。どうしたの?」


 自身にあてがわれた診察室。その室内でデスクへ向かっていた彼女は、突然の来訪者を興味深く眺めた。

 回転式の椅子を向け、黒の網タイツに覆われた脚を組み解く。


「お話があって来ました。あなたなら知ってるはずです。ミナちゃんの居場所を……」


 挑むようにカミラを見つめる来訪者。それはサヤカだった。


 アジトの廊下でラナークとカミラの姿を見かけた瞬間、彼女の中に閃くものが。それが疑念に変わるのにそう時間はかからなかった。


 学校周辺の捜索をリョウに頼んだ後、彼女はこうしてカミラを追い、メディカル・ルームへ辿り着いたのだ。


 カミラはその問いに頬を緩める。


「どうしてそう思うの?」


「レイカ先輩を襲おうとしたミナちゃんの言葉がずっと引っ掛かってた。“あの人”も言ってたって。それは誰?」


「へぇ。誰かしらね?」


「とぼけないでください! アジトへ運ばれたミナちゃんが最後に接触したのは、あなたに間違いないんです!」


 空気をつんざくような声が響いた。


「一体、何を言ったんですか? それがミナちゃんを狂わせたんですよ!?」


 カミラの口から深いため息が漏れた。


「さすがね、名探偵さん。気付くとしたら、あなたじゃないかと思っていたわ」


 薄ら笑いを浮かべながら引き出しを開け、数枚の写真を取り出した。

 引ったくるようにそれを受け取ったサヤカの表情が、恐怖と嫌悪に強張る。


「なんなんですか。この写真……」


 彼女の手からこぼれ落ちた写真。そこに映っていたのは惨殺死体の山。顔が判別できないほどに崩れ、刻まれバラバラになった体は、誰のどのパーツかも見当がつかない。


戸埜浦とのうら邸での任務。まだ記憶に新しいわよね? あの時、悪霊に憑依ひょういされたミナがどこへ向かったか覚えてる?」


神津かみつ刑務所……」


「そう。実はその日に起こった事件は、鬼島きじまの脱獄だけじゃなかったのよ。これ。囚人の集団惨殺事件」


 サヤカの顔が血の気を失い青ざめてゆく。


「まさかそれをミナちゃんが? でも、ボスもセレナさんからも何も聞いてない! 何かの間違いです!」


「確かに何の証拠も根拠もない事件。あなたたちが知らないのも無理はないわ。私たちの間で揉み消したんだから」


 直後、カミラの瞳へ狂気が宿る。


「だからそれを利用した。これはあなたがやったんだとミナへ突き付け、彼女の精神を追い詰めた。私たちだけの秘密だと。私に従えば間違いはないって」


「ひどい……」


 口元を押さえたサヤカの瞳から涙が溢れた。その時のミナの気持ちを思い、胸が張り裂けそうなほどの悲しみが彼女に押し寄せていた。


「まさか、あそこまでの暴走をするとは思わなかったけど。だから私も、彼女の行方は知らない。私が出した命令はたった一つだけなのよ。ボウヤ。神崎かんざき和也かずやとりこにしろってね……まぁ、方法は問わないとは言ったけど」


「何のためにそんなことを!?」


 睨むサヤカの視線を真っ向から受け止め、カミラはゆっくりと席を立った。


「決まってるじゃない。私の名誉と栄光のため……それには何としても、ボウヤの力の秘密が知りたいの。最後のサンプルが手に入れば、それが解明できるかもしれないわ……」


「最後のサンプル?」


 涙を拭い、いぶかしげな顔をするサヤカへゆっくりと近付くカミラ。


 彼女の右手、人差し指と中指が天へ向かって伸ばされているが、サヤカにはそれが意味する所など分かるはずも無い。


 サヤカの心を飲み込むように、その瞳を正面から覗き込むカミラ。


補霊術ほれいじゅつ夢幻むげん……」


 次の瞬間、サヤカの体が大きく震え、その場へ棒立ちになった。視点は定まらず意識の無い抜け殻となって宙を見る。


 相手に幻惑を見せる術。補霊術の導師どうしである彼女が扱う威力は、以前にゼノが使用したそれの比ではない。


「今の話はあなたの記憶から消える。光栄こうえい高校へミナを探しに戻りなさい。一時間もすれば意識が戻るわ」


 サヤカが部屋から去るのを見届けたカミラは、スマートフォン型の通信機を取り出す。


「計画を急ぐ必要がありそうね。すぐに出られるよう、彼等に伝えておきなさい。最後のサンプルならどうにかするわ。任せなさいな」


 赤紫に彩られた唇へ舌を這わせ、野望の実現に狂った女神が動き出す。

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