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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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25 歯車の崩壊


 狂戦士バーサーカーと化し、ゼノへ身を委ねたカズヤ。剣を右手に持ち替えて、悪魔の軍勢へ突進。


 それはまさに霊界で噂されている伝説の再来とでも言うべきか。悪魔が怯むほどの威圧感を纏い、一陣の風となって駆け抜ける。


「ヒャッハッ! 失せろ。カスども!」


 勢いよく振るった一撃が、トカゲの顔を持つ悪魔の腹部を切り裂いた。

 彼はそのまま、三人へ視線を向ける。


「ここは任せろ。おめーらはレイカを探せ!」


「正気ですか、カズヤさん!?」


 どことなくいつもと様子の違う彼を前にして、クレアが怪訝けげんそうな顔をする。


「時間がねーんだ。言う通りにしろ!」


 ゼノは、タイガの霊力壁れいりょくへきへ視線を向ける。


「それを維持したまま、あの出口から逃げろ! クレアが援護して、二人を守れ!」


 横手から斬り込んできたドーベルマン顔の悪魔の爪を避ける。そのまま連続で放った霊力球れいりょくきゅうで悪魔数体をまとめて吹き飛ばした。


「いつもそうやって無茶ばかりですね。私も一緒に戦いますから!」


 必死に抗議するクレアを無視して、ゼノはセイギへ並んだ。


「後は頼むぜ、正義のヒーロー。急がねーと大事な物を守れなくなる。さっさと行け!」


神崎かんざき。絶対に死ぬなよ」


 その言葉をゼノは鼻で笑う。


「こうなったら、カズを信じよう」


 サングラス越しに不安げな視線を向けるセイギの肩へ、タイガの手が置かれた。


 タイガ自身、セイギを庇う際に手傷を負っていた。霊力壁れいりょくへきで守りに徹するのが精一杯という今、彼の言葉に大人しく従う他なかった。


「さぁ、カスども。まとめてかかって来いよ。てめーらなんぞ、秒殺してやるよ!」


 まるでこの状況を楽しむように、薄ら笑いを浮かべた狂戦士バーサーカーが再び走り出す。


★★★


「次はおまえを犯せばいいのか?」


 屈強な男がレイカへ迫る。


 正面に大きな影。そして背後は郷田ごうだ。逃げ場を失ったレイカは呆然自失となっていたが、慌てて正気を取り戻した。


 このドアを、もう一度閉じればいい。ドアノブを握り、慌てて身を引いた。


「おっと!」


 そのドアにいかつい手が触れる。レイカの力では到底抗えず、閉じかけたそれは簡単にこじ開けられてしまった。


江波えなみ君。その子は違うんだ!」


「あぁ?」


 郷田ごうだの声に、男が怪訝そうな顔を向けた。その目は獲物を射殺すように鋭い。


「この女にやられたのか? ざまぁねぇな」


 男は、赤いシミの広がった郷田のズボンを眺めて楽しそうに口元を歪める。


「俺をこんな所に閉じ込めた罰だな」


 江波えなみ。その名前にレイカは聞き覚えがあった。囚人服が結び付き、彼女の脳裏へ一つの事件が浮かび上がる。


 連続婦女暴行事件。金品を奪った挙げ句に相手を乱暴、殺害。今は逮捕され、神津かみつ刑務所へ服役しているはずだった。


江波えなみ鷹緒巳たかおみ……どうしてここに?」


 その目がレイカを冷たく見下ろす。


「今日は実験じゃないのか? だったら俺も楽しませてもらうぜ」


 江波が素早くレイカの左腕を掴む。その痛みに彼女は顔をしかめた。


「だから、その子は違うんだ! 私が、危険と引き替えに手に入れたんだぞ!」


「んだよ? てめぇが楽しむつもりだったんだろ? そこに、車椅子の女もいるだろうが。さっさと消えねぇと、ぶっ殺すぞ!」


「うぅっ……」


 江波の迫力に押され、言葉を失った郷田は背中を丸めて出口へ向かう。その姿を見たレイカが慌てて口を開いた。


「待って! 行かないで!」


 だが、車椅子を押す郷田は電子板へ触れる。


 四つの電子音の後に解錠音が響き、肩を落とした彼は女性と共に部屋を出て行く。


「ねぇ! 待って!」


 すがるような視線。咄嗟に伸ばした右手が何かを掴むことはない。彼女の目の前から二人の姿が消え、ドアをロックする機械音だけが微かに広がった。


★★★


 私室を出た郷田は車椅子を押しながら、いきどおりもあらわに廊下を闊歩かっぽしていた。


 チンパンジーの悪魔バジームの指示により、江波をあの部屋へ押し込めて半月。だが、彼は元々そのことに反対だった。


 私室の隣に男。まして犯罪歴を持つケダモノがいるこの状況。実験のためとはいえ、自分の居場所をけがされているようで妙に落ち着かない日々が続いていた。


 しかも、彼自身が手に入れた逸材とも言うべき玩具は、目の前でそのケダモノに横取りされてしまったのだ。


「バジームと江波め……覚えていろ……」


 疼く太ももと同じように、胸の中にわだかまるモヤモヤとした不完全燃焼の欲望。目の前でうなだれる女性に、全てをぶちまけるしか解決法が見当たらなかった。


「仕方ない。こいつで我慢するか……」


 ため息をつき、手頃な部屋を探して歩く。


郷田ごうだあぁぁぁっ!」


 背後から突然に怒声が。驚きに肩を震わせ、郷田は振り返る。


 そこには、彼を目掛けて全力疾走してくる一人の少年。それは間違いなく、昨日に屋外へ放置したはずの人物だった。


「まさか、戻ってきたのか!?」


 郷田は一番近いドアを選ぶと、車椅子ごと慌てて駆け込んだ。

 すると、閉まりかけるドアを壊すような勢いで、セイギが部屋へ飛び込んでくる。


「彼女を返して貰うぞ!」


 荒々しく息を吐き出しながら、サングラス越しに鋭い視線が飛ぶ。その彼を追って、クレアとタイガも室内へ駆け込んできた。


 おそらくこの地下二階自体が、郷田のプライベート・スペースなのだろう。咄嗟に飛び込んだこの部屋には大型テレビや革張りソファが置かれ、リビングさながらのリラックス・ルームになっていた。


 奥へと逃げる郷田を追い詰めるように、セイギがゆっくりと近付いてゆく。


「貴様には霊撃輪れいげきりんも奪われたままだったな。だが、殴り合いなら負けん」


「待て!」


 セイギが拳の骨を鳴らした瞬間。


「それ以上、近付くんじゃない! この娘が死ぬことになるぞ!」


 いつの間に仕込んだのか。郷田は車椅子の後部からメスを引き抜き、うつむく女性の首筋へそれを突き付けた。


 言葉を無くした三人がその場に硬直する。


★★★


「おら! 来いよ!」


 必死に手を伸ばすレイカ。そのくびれた腰へ江波の手が伸び、軽々と引き寄せられる。


 彼は、自身へあてがわれている殺風景な個室へ引きずり込み、怯える彼女の顔を掴む。


「ガキだと思ったら、中々イイ女じゃねぇか……タイプだぜ」


「くっ!」


 レイカは咄嗟に、右手に持ち続けていた鉛筆を突き出した。


 直後、江波は彼女の顔を離し、鬱陶しい虫を払うようにその右腕を打つ。


「このガキぃっ!」


 怒声と共に、大きな平手が頬を打つ。

 甲高い音が鳴り、衝撃にふらついた彼女の体が大きく傾いだ。


 鉛筆が乾いた音を上げて床を転る中、江波はレイカの襟元を両手で掴んだ。

 彼女の顔は恐怖に染まり、瞳からこぼれたのは大粒の涙。それが赤く腫れた頬を伝う。


「ふざけたマネするんじゃねぇ。犯す前に殺すぞ! 分かったか!?」


 恐怖に言葉を無くしたレイカ。その様に業を煮やし、襟元を激しく揺さぶる江波。

 彼の太い腕の動きに合わせて長い黒髪が振り乱れ、首が振り子のように激しく揺れる。


「おい! 分かったのか!?」


 涙を流し、黙って頷くことしかできない。


「くそっ! 頭にきやがる!」


 江波は両手に掴んだブラウスを左右へ強く引いた。まるでスナック菓子の袋を開けるようにボタンが弾け、水色のブラを付けただけの豊かな胸元があらわにされていた。


「いやぁっ!」


 慌てて隠そうとするレイカの腕を強く振り払い、江波の手が伸びる。そして、その乳房を下着の上から乱暴に鷲掴んだ。


 自らの手に収まりきらない大きさを確認して、鋭かった目付きと口元がだらしなく緩む。もてあそぶように何度も揉みしだきながら、自らの唇を舌で湿らせ、気色悪い笑みを浮かべた。


「へぇ……線が細い割に、出るトコはしっかり出やがって。体は大人です、ってか?」


「いやあぁっ!」


 逃げようともがくレイカへ抱き付き、その動きを無理矢理に封じる。


「いや! 離して!!」


 暴れ絶叫する少女をせせら笑い、江波はいつも使用している簡易ベッドを目掛け、彼女の身体を放った。

 ベッドへ投げ出されたその身体が、打ち上げられた魚のように大きく弾む。


「誰か助けて!」


 慌てて起き上がろうとする彼女を押さえ込み、江波はこの後のことを想像して、歓喜と狂喜に満ちた顔でブラウスを剥ぎ取る。


「誰か助けて? へへっ。こんな場所に、誰も来やしねぇよ!」


 剥いだブラウスを乱暴に投げ捨て、スカートをたくし上げる江波。ショーツを眺め、すらりと伸びた太ももへ手を這わせる。


 絶望に捕らわれた彼女が咄嗟に思い浮かべたのは、頼れる存在であるシュンの姿。その彼が自分を襲ったのは、何かの間違いだと必死に言い聞かせていた。しかし、彼に対して疑念を持っていたのも事実。


 何が正しくて、何が間違いなのか。全てを見失った彼女へ残された、唯一の希望。


「カズヤ君! 助けて!」


 無我夢中で助けを求めたのは、紛れもなくカズヤだった。しかし、その悲痛な叫びが届くことはない。


 彼女の運命の歯車が今、崩壊を迎える。

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