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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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23 地下施設。世界の終末、告げる音


 院内へ駆け込んだ途端、適温に冷やされた空気が体へ纏わり付いた。まるで、冷静になれとでも訴えかけるように。


「シュンさん、放っておいていいんですか?」


 追いついてきたクレアが声を上げた。


「あんな奴に関わってる場合じゃねぇ。レイカ先輩を助けるのが先だ」


 ポーチから霊光結界れいこうけっかいを取り出す。それを乱暴に割り床へ放った。このまま数分も経てば、周囲の医師や患者は蜘蛛の子を散らしたようにいなくなるだろう。


「シュンの罠っていう可能性もある。本当にあいつを信用するのか?」


「タイちゃん。今は他に手掛かりがないんだ。しかも、セイギが霊眼れいがんの見張りを付けていた女性も、上階から降ろされて反応が消えた。下に絶対、何かがあるはずなんだ」


「それにしたって、あいつがレイカを差し出した意味が分からないだろう。何か裏があるような気がするんだがな……」


 タイちゃんの言葉もうまく頭に入らない。何も考えられない。とにかく今分かっているのは、レイカ先輩が危ないということだけ。


 即座に通信機のスイッチを強く押した。


「セレナさんでもスタッフでも誰でも良い。この病院の地下二階の図面データを転送してくれ! できるだけ早く!」


『セレナよ。残念だけれどデータを転送することはできないわ。その病院、表向きは地下一階までの構造しか明かされていないの』


「隠しフロアってことなんスか?」


『どうやらそのようね。だとすれば、そこに何かがあるのは間違いなさそうよ』


「分かりました。こっちで何とかします」


 舌打ちと共に通信を切断する。こうなったら自力で探し出すしかない。


「エレベーターでは無理だ。階段で行こう」


 走り出したセイギの後を追った。


☆☆☆


 セイギの言った通り、エレベーターの階数表示は地下一階で途切れていた。


 外部から完全隔離されたフロア。風見は研究所と呼んでいたが何の実験なのか。加えて、戸埜浦とのうら邸で戦った孔雀くじゃくの悪魔。奴等のネックレスに洗脳された人たちもいるんだろうか。


 そこまで考えて不意に、消滅間際に聞いた孔雀悪魔の一言が蘇った。


 俺たちが大きな見落としをしていると。そして闇導師やみどうしに出会う時、世にもおぞましいものを目にするとも。だが、今なら分かる。大きな見落としとは、風見かざみの暴走に他ならない。


 地下一階の半分は駐車場。残りは薬品庫や霊安室だった。かなりの広さがあり、下階の探索は骨を折りそうだと辟易した。


 一階の奥にただ一つだけ設けられた階段を降り、地下二階へと到達する。目の前には鉄製の頑丈そうな扉が。


「みんな、準備はいいか?」


 ワイシャツの胸ポケットから鍵を取り出し、頷く三人を確認した。


 ドアノブへそれを差し込みながら、体の奥底を流れるゼノの霊力を探った。その力をつかみ、取り込むイメージを完成させる。


限界突破リミット・ブレイク……」


 その言葉は、扉を開く音でかき消された。


★★★


 カズヤの全身へ大きな力が満ちると同時に、目の前の景色は途端に色を失った。


魔空間まくうかんか!?」


 モノクロの廊下が一直線に伸び、左右には等間隔にいくつかの扉。振り向くカズヤの視界から、後ろの三人が消えている。


「くそっ! 分断されたのか!?」


「おまえを殺すのは俺だからな」


 通路を塞ぐように、彼の前へサイの顔を持つ中位悪魔ミッド・クラス、ライガンが。


「休眠時間まで見張りかよ。ご苦労なこった」


「シュンとか言ったか? あの小僧から侵入者があると聞いてな。半信半疑だったが、情報は正しかったようだな」


「風見? あの野郎……」


 カズヤは歯噛みをしながら、左手へ霊力を収束させてゆく。


★★★


「セレナ導師どうし。カズヤたちの霊力が消失! 恐らく魔空間です!」


「待ち伏せされていたのね……」


 苦い顔で爪を噛むセレナの元へ、駆け寄る一人の少女。サヤカだ。


「悪魔が出たんですか!?」


「そうみたいね。完全にやられたわ……ミナから連絡はあった?」


 霊能戦士れいのうせんしを頼れない今、少しでも戦力が欲しいのが彼女の本音。A-MIN(エー・マイン)の力を持つミナが加われば、多少でも好転すると踏んでいた。


ごく、ダメ。携帯はずっと繋がらないんです」


「通信機も切っているようだし、霊眼れいがんで周囲を探しているけれど見当たらないわね」


「あたし、学校の方も探してみます! 何かあったら連絡ください!」


「分かったわ。お願いね」


 司令室を飛び出してゆく小柄な少女。その背を見つめ、疲労を隠せないセレナがため息を漏らした時だった。

 それと入れ替わるように、彼女の上司である造霊術ぞうれいじゅつ賢者けんじゃラナークと、補霊術ほれいじゅつ導師どうしカミラがやってきた。


「ラナーク賢者、お戻りでしたか。二人ともお疲れの御様子。大変でしたね」


「セレナ君も留守の間、ご苦労だったな」


「とんでもない。ギャモン賢者の容態は?」


 返事を急かすように二人を見た。


 補霊術の賢者ギャモン。カミラの上司にあたるこの人物が、意識を失い倒れたという知らせがあったのは昨日のことだ。

 容態を重く見た霊界側が、同じ賢者の地位を持つラナークと、直属の部下であるカミラを招集したのだった。


「直接の原因は不明だが、かなり衰弱している。戦神せんじんに攻め込まれているこの時に、霊界も戦力のかなめを失い混乱している。霊界王れいかいおうの命により、ギャモン賢者が回復するまでの間、導師二人へ権限を移行させることになった」


「それはつまり、カミラ導師が?」


 セレナは、ラナークの背後に立つ彼女へ視線を向けた。


「そういうことになるわね。でも、私は研修が終わるまでこちらへ残るつもりだから、ゲインズ導師に任せてきたわ」


 面倒は御免だとでも言うように、疲れた顔で肩にかかった髪を払う。


「すみませんけど、先に休ませて頂きます」


 二人に背を向け出口へ向かうカミラ。その双眸は悪意に満ち、笑みを浮かべた口元は耳まで届かんばかりに釣り上がっていた。


★★★


「ここは?」


 レイカは不意に目を覚まし、ぼんやりとした瞳で周囲を確認した。


 無機質な白い部屋。照らし出す照明のまぶしさに目をすぼめた。ここがメディカル・ルームとは違うと気づき、慌てて身を起こした。


「いたっ……」


 脇腹の痛みに整った顔をしかめる。外傷はないが、霊体は風見に刺され負傷している。アジトで治療を受ければ数時間で治る傷だが、自然治癒ともなれば二、三日は要するだろう。


 なぜかブラウスの胸元が第二ボタンまで開けられており、ふくよかな胸とそれを覆う水色の下着が覗いていた。

 襟元を掴んでそれを隠すも、震える手でボタンを締め直すのは困難を極めた。


 部屋の片隅へ置かれた簡易ベッド。そこに寝かされていた彼女は床へ足を降ろした。直後、ひんやりとした感覚が襲い、靴が無くなっていることにようやく気付いた。


 教室ほどもあろうかというその部屋には、中央に大きな寝台が。その先には、机と椅子も置かれている。

 無機質な中にも生活感が漂う。ここを頻繁に利用する者がいるに違いない。


 すぐにここを離れなければ。不意に沸いた不安と恐怖が彼女を飲み込んだ。目には見えない力が体へ纏わり付く。


 焦りと痛みを堪え、一歩ずつゆっくりと寝台を横切る。左手の先に出入り口の扉。ここを離れて気を落ち着ける場所を探せばいい。壁へ手を突き、足を引きずり前へと運ぶ。


「どうなってるの?」


 風見の刀に刺し貫かれた後から記憶が抜け落ちていた。ここに彼女を運んだのが彼だとすれば、その目的は何だというのだろうか。


 間もなく扉に手がかかるというその時、目的の場所から錠を解く機械音が漏れた。

 驚いたレイカは咄嗟に後ずさり、自らの体を両腕で抱きすくめる。


 何かが擦れるような機械音と共に、車椅子へ座った少女と、それを押す一人の男性医師が踏み込んできた。

 禿げ上がった頭に丸眼鏡の医師は、黄ばんだ歯を見せていやらしく笑う。


「ようやくお目覚めか? 眠り姫」


「誰!? なんなの?」


「がっはっはっ! 随分なご挨拶だな。ワシは君の王子様に決まっているじゃないか。どこへ行こうと言うんだ?」


 医師は、手にした車椅子へロックをかけると、再びレイカへ向き直った。


「君は傷を負っているんだ。遠くへは行けない。違うか? ワシに任せれば悪いようにはせん。一緒に気持ち良くなろうじゃないか」


「来ないでっ!」


 無我夢中で突き出す右手。


「シューティング・スター!」


 声だけが空しく響く。その右手から生じるはずの霊力糸れいりょくし具現化ぐげんかしない。


「なんで?」


 自らの手を見ながら狼狽ろうばいするレイカを眺め、医師は勝ち誇ったように微笑む。その手に、勝利確定の決定打をつまんで。


「捜し物はこれだろう? 違うか?」


 男の手に握られていたのは霊撃輪れいげきりんだ。


「昨日の小僧といい、妙な力を使う奴等だ。だが、そんな力などワシには効かんよ」


 男は口元から舌を覗かせ、自らの唇を湿らせる。その目がレイカの頭からつま先までを舐めるように見下ろしてゆく。


「どんな声で泣くのか聞かせてごらん。意思を失った人形と遊ぶのに、退屈していたところなんだ……」


「こっちに来ないで!」


 怯えた表情で後ずさるレイカ。そんな彼女をなぶるように追い詰める足音が、世界の終末を告げるように響いた。

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