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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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16 目の前の究極選択、選べねぇ


 カズヤは目の前の信じがたい光景に唇を震わせる。力なく持ち上げられたその手は何を掴むでもなく、当てもなく宙を彷徨う。


「どうなってんスか!?」


 振り返ることなく、あかねと対峙するシュン。その背中からは何の感情も読み取れない。


「すまない。油断したせいでレイカ君が……君は廊下の魔空間まくうかんを頼むよ。急いでくれ!」


「なに言ってんの!?」


 朱の言葉を遮り、刀を手に斬り込むシュン。


 カズヤは混乱していた。ここへ来るまでの彼はシュンのことを疑っていた。しかし、いつもと変わらぬ聖人と呼ばれるに相応しい佇まい。啓吾けいごの話が冗談だとしか思えなかった。


 朱は三つ編みを振り解く。それらは伸び広がると、意志を持って動いた。数本ずつの束になり、シュンを突き刺そうと動き出す。


大蛇おろち!」


 シュンの背中から具現化ぐげんかした八頭の大蛇。それぞれの口から純白の刀が伸び、合計九本の刃を構えた物々しい姿へ変わる。


「悪魔は頼むよ! 手遅れになる前に!」


 朱の繰り出す槍のような突きを純白の斬撃がことごとく弾く。レベルⅡに達しているが、シュンの力なら対処できない相手ではない。その一方で、混乱するカズヤはその場を動けずにいた。そして彼の頭へ響く思念しねん


(おい。もう、てめーじゃ無理だ! 廊下で狂戦士バーサーカーモードに切り替えろ! 早くしねーと、あいつらが死ぬぞ!)


 ようやく意識を覚醒させるカズヤ。ゼノへ命のバトンを受け渡そうと廊下を向くと。


「カズヤ君……」


 室内から漏れた微かな声に、咄嗟に振り向くカズヤ。そこには、救いを求めるように彼を見つめるレイカの眼差しが。


「行かないで……」


 倒れても尚、何かを掴もうと伸ばされた右手。そこにあるのは希望か、絶望か。


(カズヤ。今は悪魔が優先だ!)


 ゼノの声が響き、究極の選択がのしかかる。


★★★


けの明星みょうじょう!」


 リョウが右手を突き出すと、目の前に立つ狼の悪魔は金色こんじきの球体に包まれた。


「あの技か……」


 廊下の奥で、黒豹くろひょうのシーナと共に戦況を眺めていた虎のティガがつぶやく。


 彼は既に一同から興味を失い、残務処理を押しつけるように狼のウォルフィンを差し向けた。今はただ傍観へ徹するのみ。


 右手を握り絞めるリョウ。直後、球体内部へスーパー・ローテーションと呼ばれる竜巻のごとき強風が発生。狼の動きを封じると、タイガとクレアが続く。


 タイガは手甲しゅこうを纏った拳を振るう。クレアは双剣そうけんを構え、空霊術くうれいじゅつを纏い跳躍。


朱雀すざく!」


 タイガの右拳が敵の腹部を直撃。紅蓮の炎に焼かれた悪魔が球体の奥へ後ずさる。


螺旋円舞らせんえんぶ轟雷ごうらい!」


 いかづち中位霊術ちゅういれいじゅつを纏ったクレア。紫の渦と化し、悪魔の背中を激しく切り付けた。


「ひぎいぃぃぃっ!」


 情けない悲鳴を上げた悪魔は、地を蹴り紫の渦から距離を取る。次いでモノクロの壁を蹴り、瞬く間に三人を引き離しながら、怒りに満ちた赤眼せきがんで彼等を睨んだ。


「あの二人の前でここまでされちゃあ、オイラも立場がないんでね。全力で行きやすぜ」


 地を這うように床へ両手をつく悪魔。リョウが右手を突き出した時には、狼の体を黒い気体が包んでいた。


餓狼群がろうぐん!」


 狼の悪魔を包んでいた気体が散り、左右へ二体ずつの複製が具現化。五体の狼は目の前の獲物へ向かい一斉に身構えた。


餓狼閃がろうせん!」


 悪魔は全てを切り裂くように腕を大きく広げた。前衛の三体が廊下目一杯に広がり、後方にも二体。驚異的な速度で三人へ迫った。


 クレアも空霊術くうれいじゅつを纏い突進。タイガは霊力壁れいりょくへき玄武げんぶを展開し防御。ただ一人、攻撃を仕掛けようと身構えたリョウの反応が遅れた。


螺旋円舞らせんえんぶ業火ごうか!」


 クレアは後方二体のどちらかが本体だと見当を付け、回転連撃で応戦。


 一体の胸元を斬り付けると、負け犬のような情けない悲鳴を上げ黒い気体となって霧散むさん。ハズレを掴まされ苦い顔をしたクレアが、着地と同時に取り逃した四体を振り返る。


「そんな……」


 そこには目を覆いたくなる光景が。霊力壁を展開したタイガは無傷。その壁を打ち崩そうと一体の狼が闇雲に爪を振り乱している。


 一方、リョウの周囲を三体の狼が取り囲んでいた。折り畳まれる寸前の漆黒の翼。その間を縫うように狼の腕が差し込まれている。まさしく、獲物に群がる狼の本能を再現したおぞましい光景に、身震いするクレア。


 彼女の目の前でリョウの体が倒れる。三体の狼はクレアを振り返り、次の獲物と見据え気味の悪い笑みを漏らした。


 肩で大きく息をするクレア。疲労が込み上げ、立っているのも辛いほどだ。カズヤが外している間に携帯用の酸素を補給したものの、回復は追い付かず活動限界が迫っていた。


「絶対に生きて帰る……」


 防戦に追い込まれたタイガは期待できない。リョウには迅速な手当が必要。自分が何とかするしかないと、気力を振るい短剣を構えた。


 その戦いを遠目に見ながら、黒豹が思い出したように声を上げる。


「そう言えば、取り逃がしたのが二人いたね。朱だっけ? 様子を見てくるよ」


 黒豹が魔空間へ解けると同時に、三体の狼がクレアを目掛け一斉に飛び掛かる。


「氷の攻霊術こうれいじゅつ氷結ひょうけつ!」


 クレアは眼前の床へ術を発動。天井へ氷柱が伸び、襲い来る一体の胸元を貫いた。だが、黒い気体となって霧散したそれも複製だった。


「残念。またまた、ハズレですぜ」


 左から襲う一体。繰り出された鋭利な爪を短剣で受け止める。直後、右から迫った一体が、駆け抜け様に彼女の脇腹を切り裂いた。


「あぐぅっ!」


 痛みで集中が揺らいだクレア。左から襲っていた本体が繰り出す連続攻撃が、腕や肩、胸元を立て続けに切り付けた。


 もはや一方的な展開。弱った子鹿を追い詰めるように二体の狼が彼女を挟み、両手の爪をせわしなく振るう。双剣で応戦するクレアだが、裁くより体に受ける数が圧倒的に多い。


 息を切らし、足下もおぼつかないクレア。彼女が死を覚悟した時、横手から迫った炎の鳥が狼の一体を弾き飛ばしたのだった。


「大丈夫か!?」


 タイガが慌てて駆け寄ってくる。しかし、その背後には複製狼が。彼女を助けようと焦る余り、仕留め損なったのだ。


「タイガさん、後ろ!」


 その隙を見逃す悪魔ではない。クレアを襲う本体と、タイガの背後にいた複製が、手元から霊力球れいりょくきゅうを同時放出。霊力壁れいりょくへきを展開中だった彼の顔と背中を直撃した。


「がっ……」


 膝を付き、うつ伏せに崩れるタイガ。それを遠巻きに眺めていた虎の悪魔が、怪訝けげんそうに顔をしかめた。するとそれは次第に、歓喜と狂気の笑みに染まってゆく。


 タイガの姿に言葉を失ったクレアを、殺戮に飢えた三体の狼が取り囲んだ。


「ここまでですぜ。命乞いでもしやすか? ティガ兄さんの機嫌が良ければ、命くらいは助かるかもしれやせんぜ」


「誰がそんなこと!」


 傷ついた体で双剣を構えるも、ここから起死回生を起こす手段など持ち合わせていない。


「じゃあ、これにて終了ですぜ」


「てめーがな」


 横手に位置する家庭科室の扉が砕け、霊力球が飛び出した。それが狼の悪魔を直撃し、押し潰すようにモノクロの壁へ激突。


「カズヤさん?」


 それは夢か幻か。朦朧としたクレアの瞳が、廊下へ歩み出してくる愛しい少年の姿を捕らえた。だが、複製狼二体が彼へ迫っている。


「随分としつけのなってねー、バカ犬だな」


 “右手”に握られた剣の一閃が、襲い来る二体をまとめて切り伏せた。悲鳴を上げる間もなく、二体は黒い煙となって霧散する。


「わりぃ。遅くなった……」


 敵から視線は外さずに、そっとつぶやく。


「もぅ……カッコ良過ぎですよ……」


 安堵の顔で崩れたクレアを左腕で抱き留め、眼前から睨んでくる狼へ剣先を向けた。


「さてと。こいつらを随分と可愛がってくれたみてーだな。礼は弾むぜ」


 言い終わると同時に振るわれた一閃。狼の左腕は肘から切断され床へと落ちた。


「ぎいぃぃぃ!」


「大げさなヤツだな。弱い犬ほど良く吼えるってか? あんたみてーだな」


 少年は飛び退いた狼など見ていない。廊下の奥へ佇む虎の悪魔を見据えている。


「おい。決着を付けよーぜ」


 薄ら笑いを浮かべつつ、左腕に抱えていたクレアの体を床へ横たえる。


「あんたの相手は俺ですぜ」


 狼は右手を床について身構えた。


餓狼閃がろうせん!」


 右手の爪を構え加速する悪魔。


下位悪魔ザコは失せろ」


 振り下ろした剣の軌跡に沿って放たれた三日月の霊力刃れいりょくが。加速の勢いと相まって狼の体が綺麗に分断。少年の元へ届いたのは斬撃でなく、存在の名残となった黒い気体のみ。


「お望み通り、狂戦士バーサーカーがてめーを消しに来てやったんだぜ。もっと喜べよ」


 歓喜と狂気の笑みを崩さぬまま、虎の悪魔はゆっくりと少年へ歩み寄る。


「そうだな。ようやく楽しめそうだ……」


 悪魔の右手から一抱えもある霊力球が矢継ぎ早に放たれた。それは目の前の少年ではなく、右手の家庭科室を粉々に打ち砕いてゆく。


 爆破ゲームでも見せられているように壁が崩れ、室内にあったはずの教壇や実習机までもが弾け飛ぶ。壁と床だけを残した空間が出来上がると同時に、周囲へ漆黒の壁がせり上がり、クレアやタイガを置き去りにしたまま、二人の戦士だけを閉じ込めた。


「これだけの広さがあれば充分か?」


「てめーの墓場としては、ジャスト・サイズってところだろーな。それとも、見世物小屋でも作ってやろーか?」


「ほざけ、小僧が」


 一触即発の空気が魔空間へ満ちる。

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