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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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12 チーム分け。なんでこんなに揉めてんの?


 十六時過ぎの光栄こうえい高校前。十九代目の四人の他に、朝霧あさぎり久城くじょう、クレアの姿がある。


 自殺した景井かげいしのぶ。その妹のあかねを探し、景井家へ向かった朝霧と久城。だが朱の姿はなく、呪印じゅいんを刻まれた両親が倒れていたそうだ。


「今回の事件に、朱が絡んでるのはほぼ確実か。当事者なのか、巻き込まれたのか……」


「カズヤ君の予想に間違いは無いだろうね。過去の事件から考えると、忍君が単独ということは考えにくい。おそらく、朱君に憑依ひょういした忍君の犯行だろうね」


 メディカル・ルームでのやり取りを思い出し、風見かざみ先輩へ不快感が込み上げる。


「ねぇ、ねぇ。でも、そこに上位悪魔ハイ・クラスが関わっている目的って何かな? とても重要な目的なんじゃないかしら?」


「情報が少なすぎる。分かっているのは、このままだと一時間後、呪印を刻まれた水島みずしまさんがどこかで発見されるということだけさ」


 風見先輩は校舎を大きく見渡した。


「四人が見付かった部屋。そこから強烈な霊力が溢れているのを感じるかい?」


 久城と顔を見合わせながら、黙って頷いた。


「水島さんを救うことができれば、きっと僕たちの勝ちだ。頑張ろう!」


 だが、どこから手を着けていいのか分からない。久城に頼んだ宿題も未解決のままだ。


神津かみつ警察も引き上げたようだし、後は部活動で残る生徒だけだね。霊光結界れいこうけっかいを使えば巻き込む心配はないだろうけれど、くれぐれも慎重に。で、問題は編成。今日も三チームに分けるつもりだけれど、カズヤ君の意見は?」


「え!? 俺っスか?」


 風見先輩からの不意な投げかけに戸惑ってしまう。でも、ここから導く答えは一つ。


「女子はクレアが率いて、一階部分をカバー。二階はシュン先輩とリョウ先輩、それからタイちゃん。三階は俺一人で」


「なるほどね」


「待ってください! カズヤさん一人なんて危険です。納得できません!」


 案の定、クレアが抗議の声を上げる。


「彼女の言う通りだわ。一人で飛び込むなんて度が過ぎるわよ」


 腰に手を当てた朝霧が憤慨したように睨んでくる。まさか朝霧まで反論してくるとは思わなかったが、うっすらと涙を浮かべた瞳を見る限り、俺を心配してのことなのか。


「昨日の虎の上位悪魔ハイ・クラスは絶対に俺を狙ってくる。一緒にいるのは危険だ。信じてくれ。俺一人なら、あいつを絶対に止められる」


「私は間近で見ていたんですよ。その自信はどこから来るんですか!? カズヤさんは強いですけど、あいつに敵うとは思えません」


「クレア君は最後まで見ていないだろう? あの劣勢から悪魔を退けて、戻ってきたんだ」


「でも……」


 風見先輩の言葉にも納得する様子はない。


「ちょっといいか?」


 クレアの腕を掴んで輪から抜け出すと、みんなに聞こえない位置まで距離を取った。


「さっきも話しただろ? 俺を庇って誰かが傷つくのはイヤなんだ。それに何が起こるか分からねぇ。クレアには女子三人を守って欲しいんだ。この戦力の中で一番期待できるのは、おまえだけなんだよ」


 自分で言いながら、愛の告白でもしているようで恥ずかしくなってしまう。


「カズヤさんの気持ち、分からないわけじゃないですよ。でも心配なんです」


 訴えるように見つめてくる視線から目を逸らし、互いの右手首にある通信機が稼働していないことを確認する。

 上空も確認。霊眼れいがんと呼ばれるピンポン玉サイズのカメラ付き飛行物体は周辺にいない。


「クレアにだけ言うからな。俺の使う限界突破リミット・ブレイクの力。みんなには制御不能って言ってるけど、あれは嘘なんだ」


「知ってますよ、そんなこと。昨日の戦いで確信しました。カズヤさんは完全に、あの力をコントロールしていましたよね?」


「え? マジで気付いてたの!?」


 確かに、病院からの連戦であれだけの力を使って暴れたんだ。気付かない方がどうかしているかもしれない。


「大丈夫ですよ。みんなには言いませんから。何か理由があるんですよね!? 二人だけの秘密って、ドキドキしていいですね!」


 はにかむように屈託無く微笑むクレア。こいつなら信用できる。


「あの力があれば上位悪魔ハイ・クラスにも絶対に勝てる。クレアは三人を守ってくれ」


「分かりました。カズヤさんを信じます。その代わり、一つお願いがあります」


 胸の前で両手を組み、上目遣いで俺を見つめてくる。桐島きりしま先輩にも朝霧にもないこういう可愛らしい仕草を見せられると、なんだか戸惑ってしまう。


「は? どうした? 何だよ?」


「私も全力で頑張ります。だから、この事件が片付いたら、私のことをギュッと抱きしめてください! お願いします!」


「いや、いや、いや、いや。ムリだろ」


「どうしてですか?」


 アスティの顔が過ぎる。しかも俺には、桐島先輩という心に決めた人が。


「秘密、バラしますよ?」


「ぐはっ!」


 やっぱりそう来たか。頭を掻きながら、何気なくクレアの姿を見てしまう。


 身長は久城とほぼ変わらず小柄だが、均整の取れた体付き。しかも胸が大きい。俺の好みをリサーチした上での選別だったんじゃないかと、妙な勘ぐりまで入れてしまう。


 アスティには申し訳ないが、限界突破リミット・ブレイクの秘密を漏らされるのは厄介だ。うん、それは大変だ。抱きしめるだけで黙っていてくれるならその方が断然いい。


「オーケー。分かった。この事件が無事に解決したら一度だけだぞ。いいな?」


「は〜い!」


 喜々とした微笑みを浮かべるクレアと共に、みんなと合流。風見先輩が待ちかねたように口を開いた。


「どうやら話はまとまったようだね。では各自手分けをして行動に移ろう」


 校舎の入口で四人と別れ、上履きへ履き替えるために自分の下駄箱へ向かう。


神崎かんざき……」


 不意に呼ばれ顔を上げた先には、思い詰めた表情の朝霧が立っていた。


「どうした?」


 正直な所、こいつの状態が不安定な今、側にいて守ってやりたい気持ちもある。だが、相手が上位悪魔ハイ・クラスである以上、彼女を守り抜けるという保証はない。


 四人目の犠牲者が二階へ移ったことからも分かる通り、恐らく今日も上階に現れる可能性が高い。一階にいてくれた方が安心だ。


「私が一緒に行っても足手まといにしかならないことは分かってるわ。ただ、御守り代わりにこれを持って行って」


 手首に填めていたシルバーのチェーン・ブレスレットを取り外す。中心部へイニシャルを刻んだプレートが付いただけのシンプルなデザインだが、長く愛用できそうな品だ。


「必ず返しに来てよ」


「分かった。約束するよ」


 朝霧は両手の震えを堪えながら、右手首へそれを巻き付けてくれる。互いに一言も発しないがそれでも伝わる想いがある。


 自らの心を奮い立たせ、風見先輩たちが待つ階段前へ向かう。

 ゼノに対しても色々と思うところはあるが、今は余計なことを考えるのはよそう。目の前のことに集中するんだ。


(ゼノ。聞こえるか?)


(どうした? 怖じ気づいたか?)


(そんなんじゃねぇよ。一言、言っておこうと思ってな……きっと俺一人の力なんてたかが知れてる。でも、おまえと一緒ならもっと遠くまで飛べる。絶対に負ける気がしねぇ)


(今更、なに言ってやがる。それに、まだまだこんなもんじゃねーだろーが。俺たちは限界突破の狂戦士リミットブレイク・バーサーカー。底を見せたつもりはねー)


 守護神が付いているような安心感に包まれ、俄然がぜんやる気がみなぎる。


 十九代目の三人と合流し、各自の武器を具現化し二階へ。そして感じる、押し返されるような圧迫感と息苦しさ。


 二階へ来ただけで辺りの空気が一変した。足取りが重くなり、嘔吐を伴うような不快感が胃を刺激する。

 その時、右腕の通信機へ、受信サインである赤ランプが点灯した。


「どうしたんスか?」


『こちらセレナ。総員へ同時通信。病院へ向かったセイギの信号が消滅。通信機の故障かもしれないけれど、何かあったのは間違いない。霊眼れいがんでの追跡も見失ったわ』


「セイギが?」


 他人の心配をしている場合じゃないのは重々承知だが、あんな奴でも気になってしまう。一人で俺以上の無茶をしているんじゃないだろうか。それに病院にはサイの中位悪魔ミッド・クラスライガンがいたはずだ。あいつに出くわしたとなればセイギでも手に負えるかどうか。


 突然に背中を叩かれた。驚いて振り向くと、風見先輩が優しく微笑んでいた。


「ここを片付けたらみんなで病院へ向かおう。僕たちも手伝うよ」


「ありがとうございます……」


 嬉しくて、なんだか涙が出そうだ。


「まずは目先のことを確実にな」


「タイガ。相変わらず硬いんじゃね? 俺はもう、すぐにでも病院に駆け付けたいね。白衣の天使、そそられるじゃん?」


 手串で髪を撫でながらキメ顔を作る酒賀美さかがみ先輩。なんだか啓吾けいごと同じ臭いがする。


「クックックッ。随分と余裕だな? それが命取りにならなければいいがな」


 油断した。まさか敵の接近に気付かないとは。校舎内を取り巻く霊力のせいで、敵の霊力を補足できなかったのか。


 だが余裕を見せているのは相手も同じ。廊下の先に現れた虎の上位悪魔ハイ・クラスティガは、三日月刀シミターを片手にゆっくりと近付いてくる。


「皆さんは三階へ行ってください! こいつは俺が引き受けます!」


「待つんだ。こうして相手から出てきてくれたんだ。四人で一斉攻撃しかない」


 風見先輩の言葉を悪魔は鼻で笑う。


「言ったろう? 随分と余裕だな、と。早く三階へ行かないと手遅れになるぞ」


 それが何を意味するのか。言われずとも察した俺たちの心へ、焦りだけが渦巻いていた。

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