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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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09 温もりが俺の思考を奪い去る


 朝霧あさぎりとの話が途切れた時、経過報告のために会議室へ集合との知らせが届いた。


 今の話は誰にも言わないで。余計な心配はかけたくないから、という朝霧の強い希望に頷き、二人で会議室へ向かう。


 室内には久々に見るボスの姿があり、いつもの通り上座の定位置へ座している。その左右を挟むように、セレナさんとカミラさんの姿。セレナさんの隣には久城くじょう桐島きりしま先輩も。


「ミナ。ここ空いてるわよ」


 カミラさんが隣の座席へ手を当てると、朝霧は引き寄せられるように近付いてゆく。


 この瞬間、究極の選択を迫られた。左の女神と右の朝霧。川へ斧を落とした木こりの童話を思い出す。どっちを選べばいいんだ。


「カズヤ君、どうしたの?」


 声を上げる桐島先輩。その顔は、無言の内に朝霧の隣へ座ることを勧めていた。きっと今は、それが一番の選択だろう。


 朝霧の隣へ腰掛けると同時にセイギが入室。いつものように入口付近の壁へもたれ、腕組みの姿勢を取っている。


 見ているだけで苛立つ。あそこまでかたくなに周囲を拒絶する理由はなんなのか。以前にゼノがセイギのことを、自分と同じ臭いがすると言っていた。あいつは何かを感じ取っているようだが、俺には見当も付かない。


「今動けるのは、このメンバーだけか」


 スタッフが飲み物を運んでくれている中、ボスが苦々しい顔で俺たちを見回す。

 十九代目の三人とクレアは、メディカル・ルームで霊術れいじゅつによる治療の最中だ。


 みんなの視線がボスへ向いているというのに、取り乱した心臓が早鐘を打ち、思わず視線が泳いでしまう。

 椅子の横へだらりと下げていたはずの右手へ、突然温もりが収まった。それが隣に座る朝霧のものだと気付くのにそう時間はかからなかった。その細い指が俺の指を絡め取る。これは俗に言う、恋人つなぎというヤツか。


神津かみつ総合病院の件だが、二体の悪魔と接触したそうだな。内一体を取り逃がしたとか」


「すみません。ライガンと名乗る、サイの中位悪魔ミッド・クラスに逃げられました」


 言葉を発するも意識は右手に奪われる。ボスの言葉がうまく頭に入ってこない。


「やむを得まい。次は一層の警戒をおこたらないように。気になるのは悪魔の出現だ。そうまでして守るべき物があるということだろう」


「俺もそう思います」


 ボスは深く唸り、眼下のグラスを取る。中身の牛乳を一気に煽り口元を拭った。


「病院を調べたいが、優先すべきは光栄こうえい高校だろう。上位悪魔ハイ・クラスの出現。そして残る失踪生徒は一人。カズヤ君の報告では悪魔は去り際、後一日の猶予があると言ったそうだな?」


「はい。その通りです」


「だとすれば、明日、何かが起こるのは確実だ。明日は二十代目のみんなも光栄高校の事件解決に加わるように」


「分かりました」


「待ってくれ!」


 おもむろに声が上がる。セイギだ。腕組みを崩さず、挑むようにボスを見る。


「私は外してくれ。引き続き病院を調べたい。今日は無理だったが、院長を捕まえればきっと情報を得られるはずだ」


「勝手なこと言うんじゃねぇ! 少しは協力したらどうなんだ?」


神崎かんざき。貴様は黙っていろ! 勝負に負けたこと、忘れたとは言わせんぞ。私のやり方に一切口出ししないという約束だったはずだ」


 言い返せない悔しさに奥歯を噛みしめる。すると、俺の気持ちへ共感するように、右手を繋ぐ力が強まった。その想いを受け、怒りは徐々に静まってゆく。


「分かった、セイギは外れていい。その代わり、ボスとカミラさんに頼みが……」


 セイギを視界から遮断すると、部屋を出て行く足音。あいつはもう、どうでもいい。

 すがる想いで二人へ視線を向けた。


「アッシュとアスティを至急呼び戻してもらえませんか? 相手は上位悪魔ハイ・クラス。二人の力がどうしても必要なんスよ」


「うむ。もっともな意見だ。しかし、霊界へ打診しているが難しい状況だ」


「どうしてなんスか!?」


 信じられない言葉に声を荒げてしまった。


「二人の訓練が終わっていないこともあるが、霊界でも戦神せんじん女王じょおうの動きが活発化し、劣勢に追い込まれている。戦力が必要なのだ」


「そんな……」


 ぞう霊術士れいじゅつしに風当たりが強いというアッシュの言葉が過ぎる。戦力の出し渋りがダイレクトに首を絞める。後はゼノに頼るしかない。


「厳しいわね。四人の治療も明日の午後には終わるだろうけど、事態が好転するとは思えない。鍵となるのはボウヤの限界突破リミット・ブレイクの力。それがどこまで通用するか、よね?」


 一瞬、カミラさんの視線にただならぬ気配を感じたのは気のせいだろうか。挑むような、試すようなそんな気配。


「やるしかないってことっスね」


 どうにか単独行動へ持ち込み、狂戦士バーサーカーモードで一気に蹴散らしてみせる。だが、それができなかった時が問題だ。


 今日は霊力回復後に、ゼノから同調シンクロへ乗り出してきた。本人も言っていたが、クレアが傷つけられたことに耐えかねたというのは本心だろう。それはきっと、以前に見たゼノの記憶。ティアという女性に繋がっているはず。あいつは何も話したがらないが、人質に捕られた彼女はあの後どうなったんだろうか。


「現状で一番有効なのは、カズ君とクーちゃんによる相乗攻撃ね」


「クーちゃん?」


 セレナさんの顔を直視してしまう。


「あら。クレアのことだけど」


「納得です。でも、最後に一つだけ。光栄高校の失踪事件。支援に向かった時、ざっくりとは聞きましたけど、もう少し詳細な情報を知りたいんスけど……」


「じゃあ、それは私から説明するわね」


 桐島先輩から声が上がった。


「失踪したのは二年生の女子五人。彼女たちは無作為に選ばれた訳でなく、友達同士だったことは知っているわよね?」


「ええ。朝霧と久城くじょうから聞きました」


「今日、呪印じゅいんを刻まれた状態で見付かったのが四人目。津路元つじもとさん、網谷あみやさん、木戸きどさん、磯貝いそがいさん。残るは水島みずしまさん。彼女が、五人の中心になっていたみたいね」


ごく、感じの悪い人だよ。ツンケンしてて、美奈みなちゃんへ対抗意識を丸出しなんだから」


 久城は露骨に顔をしかめるが、ここまで不快感を示すのは珍しい。余程、素行に問題のある奴等なんじゃないだろうか。だからこそ、こんな事件に巻き込まれたのかもしれない。


「被害者が見付かるのは一日に一人ずつ。風見かざみ君も言った通り、グラウンド端の運動部の部室、その反対にある体育館脇の合宿場、そして校門側の体操場。三角形を描くように展開していたと思った矢先、今日は音楽室」


「場所を変えることに意味がありそうっスよね? こういうの、久城は得意だろ?」


「う〜ん。急に振られても分かんないよ。一応、光栄高校の簡易図面は通信機へ転送してもらったけど……」


「じゃあ、久城の宿題ってことで」


「ひどっ! 一緒に考えてよ!」


 頬を膨らませる久城に笑いが漏れる。


「かき氷おごるから。頼むよ」


「報酬にしては安くない? 今日だって、リーダーはゴリラの悪魔を倒したんでしょ? 賞金から五万でいいよ」


「高けぇよ。ぼったくりだろ」


「あたしのごく、優秀な頭脳を使うんだよ。当然の報酬です。前回だって、どんだけ協力したと思ってんの?」


 それを言われると言い返せない。


「分かった。五万でいいよ。頼むぜ」


「やった! 任せといて!」


 溜め息をつき、桐島先輩を見る。


「すいません。話の腰を折っちゃいましたね。で、後は酒賀美さかがみ先輩が見たっていう黒縁眼鏡の三つ編み女子が何かを知っているかもしれないってことっスよね?」


「そういうこと」


「今はレイちゃんが話してくれた情報が全てね。以前にも話したけれど、神津かみつ警察にいる具現者リアリゼーターOB。彼も今回の捜査に加わっているけれど、これ以上の情報は出てこなかったわ」


「そっか! OBさんが加わってくれれば!」


 名案だとばかりに明るい声を上げる久城に、セレナさんは渋い顔で首を振る。


「通常業務だけで手一杯だそうよ。妙な動きをすればそれだけで目立つし……」


 落胆する久城をよそに、一人燃えていた。


 自分自身の居場所を守り、必要としてくれる人たちのために存在価値を示す。ここが正念場だ。でもきっとやれる。

 自分の力と可能性。それを絶対にあきらめないと心に誓ったから。


「明日の動きはこちらでも考えてみるわ。今日は帰ってゆっくり休んで頂戴。それから、カズ君、ミナちゃん、サヤちゃんの獲得賞金を更新しておくわね」


 セレナさんの背後に置かれていた黒板ほどのディスプレイへ、俺たちの名前と獲得金額が表示される。


下位悪魔ロー・クラス、ゴリラのゴウラム。賞金は100万。クレアの支援分として35万を差し引いて65万。カズ君の取り分から5万円をサヤちゃんへ移動と……」


 でも、なんで俺が五万を払う流れなの。


「結果発表よ! カズ君は550万。ミナちゃんが215万。サヤちゃん198万!」


 ディスプレイには他の面々の賞金も表示されている。単独任務をこなしていたセイギは508万まで上がっている。


 視線を移すと十九代目の名前も記載されていた。シュン218万、リョウ225万、タイガ231万、レイカ206万という数字だ。


「相変わらず、カズ君とセイギ君の独走ね。たっぷり稼いで欲しいけれど、くれぐれも無茶をしないようにね」


「分かってますって」


 報告も終わり、俺たちはアジトの移動車でそれぞれの自宅へ運んで貰った。


 明くる朝、寝ぼけ眼で顔を洗っていた時、その知らせは不意に訪れた。通勤途中の父が倒れ、病院へ。搬送先は神津総合病院。


 目に見えない悪意が俺を引き寄せる。

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