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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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04 失踪の女生徒探しに俺も行く


 運転席のカルトさんを手で制し、話の続きを促そうとスピーカーへ向かう。


「セレナさん。光栄こうえい高校の失踪事件は、十九代目の四人が追っていたんじゃ……」


 風見かざみ先輩と桐島きりしま先輩の顔が過ぎる。そしてまだ会っていない二人。でも、その一人を良く知っている。なぜなら幼馴染みなのだから。


 天野あまの大河たいが。タイちゃんと呼び、アニキと三人でよく遊んだ。同じ高校だと知っていたが、まさか具現者リアリゼーターをやっているなど夢にも思わなかった。それを聞かされたのはつい先日だ。


 中学時代、肝試しと称して怪奇スポットを巡ったのは、間違いなくタイちゃんの影響だ。あの頃から俺たちはとりわけ霊感が強かった。

 高校に入ってからは接点が少なくなってしまったため、またこうして繋がりを持てることが素直に嬉しい。


『失踪事件は彼等が担当しているけれど、状況は決して良いとは言えないわね。今も聞いただろうけれど、四人目の被害者が発見されたわ。毎日一人ずつ。残るはあと一人……』


 失踪事件の詳細は聞かされていない。調査は順調に進んでいると思っていたが、まさかここまで難航しているなんて。


「毎日一人ずつ? 犯人の目星は?」


『悪い知らせばかりよ。ちょうど現場に居合わせたのはリョウ。どうやらそこで敵と鉢合わせたようね』


 酒賀美さかがみりょう。十九代目メンバーの一人。既に彼が襲われてしまったのなら戦力不足だ。三人だけにしておくのは不安の上、そこには桐島先輩も含まれている。


『背後から不意に一撃。どうにか逃げ出したけれど、現在、SOULソウル60。右肩から背中へ掛けて刃物で切り裂かれた形跡。失踪直後から校内を不穏な力が取り巻いている。悪霊の仕業だとしてもレベルⅡは確実。最悪、悪魔が絡んでいる可能性も』


 悪魔と聞いてはじっとしていられない。みんなを守る。その約束を果たしてみせる。


「俺も今から合流します! カルトさん。学校で降ろしてください」


「私も行きます!」


 最後部で朝霧あさぎり久城くじょうの様子を伺っていたクレアが大きな声を上げた。揺らぐことのない決意を秘めて見つめてくる。


 移動車のエンジンが掛かり、俺の心を揺さぶるように振動が伝わってきた。


「いや。俺だけでいい。クレアは二人を頼む。アジトへ無事に送り届けてくれ」


 何かあったとしても俺にはゼノの力がある。奴のことだ、人目があれば斬魔剣ざんまけんどころか同調シンクロさえためらうはずだ。


「リーダー。クレアちゃんと行って……」


「サヤカ。気が付いたのか!?」


 まだ痛みが残るのか、顔をしかめながらゆっくりと身を起こしている。


「もう、この間みたいなことはしないで。ごく、心配したんだから……クレアちゃんが、しっかり見張ってあげて」


「だそうですよ」


 久城が言っているのは、悪霊に憑依ひょういされた朝霧を追った時のことだろう。確かにあの時は朝霧を助けたい一心で、あやうく命を落とすところだった。


『カズヤのMINDマインドは40。クレアは70。カズヤは若干の心配があるけど行ける?』


「大丈夫です。行かせてください」


SOULソウルも85まで低下。疲れも見えているようだから、くれぐれも用心すること。支援を許可するわ』


 なぜかスピーカーの向こうで、セレナさんの小さな悲鳴が上がった。次に聞こえたのはなまめかしいカミラさんの吐息。


『ボウヤ。いかせてなんて言われると、体が疼いちゃう。無事に帰ってくるのよ』


「は?」


「カミラ導師のバカ……」


 背後の声に振り返ると、なぜかクレアが顔を真っ赤にしていた。対して、意味がわからず不思議そうにしている久城。


 その言葉を噛み砕き、ようやく合点が。


「下ネタかよ!?」


☆☆☆


 駅前の総合病院から移動すること五、六分。光栄高校の校舎を視界に捕らえた。実際にはたったそれだけの時間だったはずが、焦る心には何倍にも感じられて。


 慣れ親しんだはずの校舎が夕闇へ不気味に浮かび上がり、獲物を待ち受ける巨大な人食い箱と化していた。

 校門の前で停車。クレアと共に慌てて降りると、制服姿の風見先輩が真っ先に視界へ飛び込んできた。


「え!?」


 その背に誰かを背負っている。肩に降りかかる長い髪を見て、呼吸が止まりそうなほどの衝撃が。まさか桐島先輩まで。


「待っていたよ。カズヤ君」


 落ち着き払った態度と、周囲に安心感を与える中性的で爽やかな微笑み。この人のカリスマ性は相変わらずのものだ。


「あぁ。彼女は四人目の被害者。一緒にアジトへ運んで欲しいんだ」


 俺の視線から事情を察したんだろうか。そしてそれを裏付けるように桐島先輩がやってくる。その姿に安堵の息をつくと、更にタイちゃんが続いてきた。


 熊のようにがっしりとした体で、一人の男子生徒に肩を貸しながら歩いてくる。車中で聞いた報告通りなら、支えられている彼こそが酒賀美さかがみ先輩のはずだ。


 久城のように淡い茶色の髪。ウェーブパーマのかかった髪型は、人気芸能人を真似たものだろう。ワイシャツのはだけた胸元には龍のシルバーネックレス。更に、だらりと力なく垂れ下がったその腕にはシルバー・ブレスレット。指先にはドクロを模したシルバー・リングまで。うな垂れたその顔を確認できないが、随分と派手な身なりをした人だ。


「あの人が、リョウ先輩っスか?」


「うん。僕の力が及ばなかったばかりに、彼に怪我をさせてしまった」


 俺の視線を辿って背後のタイちゃんを振り返り、うれいに沈んだ顔を見せている。


 やはり風見先輩もグループを預かる者としての覚悟と責任を感じている。自分の力不足に嘆いているのは俺だけじゃない。そう思うと、風見先輩へ途端に親近感が沸いてくるから不思議なものだ。


 移動車内へ女生徒が運び込まれると、そこから久城が顔を覗かせた。天女てんにょ羽衣はごろもの力を使い、痛み止めと回復促進効果のある霊力の布を具現化ぐげんか。それを酒賀美先輩の傷口へ。


 攻撃用の技は距離の制限を設けられているが、久城の羽衣は装着者の霊力に依存するため彼女がいなくても具現化を継続できるそうだ。思えば俺が巻いた時も、タクシーで遠距離を移動したのだ。


 怪我人もいるため、移動車は引き返してくることを約束してアジトへ向かった。それを見送り、風見先輩へ視線を向ける。


「で、まずはどうするんスか?」


 何かを決心したように黙って頷く。


「今日、音楽室で見付かったのが四人目。残るはあと一人……そして、ここまでのパターン通りだと五人目は明日、呪印じゅいんを刻まれた状態で見付かるはずなんだ」


 校舎を鋭い剣幕で見据えている。


「校舎内で失踪した彼女たちが、同様に校舎内で見付かっている。きっと彼女たちはここのどこかで、監禁のような目に遭っているんじゃないかと思うんだ」


「監禁?」


「もう、じっと待っている場合じゃない。こちらから打って出ようと思うんだ。リョウ君は襲われた際、被害者の側に立つ女生徒を目撃したそうなんだ。手分けをして、その子を捜してみようと思う」


「何か特徴はないんスか?」


「三つ編みと黒縁眼鏡、かな」


 校門の側へ設けられた花壇。その周囲を取り巻く膝高のレンガに座った酒賀美先輩が、痛みに顔を歪めてつぶやいた。


 隣には、酒賀美先輩を気遣う桐島先輩の姿。俺も怪我をすれば良かった。


「優等生か真面目を絵に描いたような組み合わせっスね。それに、手分けをするって言ってもどうやって……」


「うん。僕とレイカ君で一階。リョウ君とタイガ君で二階。カズヤ君とクレア君が三階でどうかと思うんだ」


「シュンさん、ごめんなさい。私、あなたのことを誤解してました! なんて理解のある人なんですかっ!!」


 感極まったのか胸の前で両手を組み、悲鳴のような声を上げるクレア。いや、むしろ俺は抗議の声を上げたい。


「おいおい。それはナシじゃん? なんでおまえとレイカちゃんがペアなわけ?」


 俺の心を代弁するように、酒賀美先輩が咄嗟に声を上げた。ナイスです。そして、以外と元気ですね。


 今の発言を聞く限り、桐島先輩狙いは確実。疑りたくはないが、痛みに顔を歪めるその姿も気を引くための演技か。


「昨日までの三日間に被害者が見付かった場所を考えてみたんだ。運動部の部室、体育館脇の合宿場、そして体操場。一階部分に集中していたのに、なぜか今日には二階の音楽室」


 風見先輩が二階部分を見上げる仕草に、つい釣られてしまう。


「次も二階か三階の可能性が高い。カズヤ君の力は信頼しているんだ。中位悪魔ミッド・クラスを仕留めた力はダテじゃないよ。それに、リョウ君とタイガ君が中央にいてくれれば上下階どちらにも対応できるだろう?」


 もっともな意見だ。全て計算尽くというわけだ。恐るべし風見先輩。


「だったら、俺とレイカちゃんが一階でもいいんじゃね?」


「リョウ君。そのケガで、レイカ君を守りながら戦えるのかい?」


 酒賀美先輩が押し黙ったことで、チーム編成は確定。クレアを桐島先輩と交換して欲しいが、ここは耐えるんだ。


「カズ。よろしく頼むな」


 タイちゃんのいかつい手と握手を交わすと、側にいた桐島先輩と目があった。


「来てくれてありがとう。カズヤ君がいてくれると心強いわ」


「そう言って貰えると、支援に駆けつけた甲斐がありますよ」


 すると、脇腹をクレアに小突かれた。


「鼻の下が二倍になってますよ。カズヤさんのペアは私なんですからね!」


「分かってるって」


 気を引き締め、校舎の入口へ視線を向けた。

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