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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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03 情けねぇ。こんな自分が許せねぇ


 アジトの司令室にある巨大ディスプレイは、左右に異なる映像を映していた。


 左の映像は夕闇の迫る白塗りの廊下だ。その内部を探索する四人の人影が映る。そして右はといえば、ディスプレイが故障したのではないかというほどの砂嵐。


「またコレ? いい加減、新型の霊眼れいがんとか開発できないわけ?」


 呆れたような溜め息を吐き、黒い網タイツに覆われた足を組み解いたのはカミラだ。緩慢な動作で椅子から立つと、ディスプレイを見つめるセレナへ歩み寄る。


「今の技術では難しいです。カズヤの限界突破リミット・ブレイクに耐えるほどの強度は……きゃっ!」


「そんな難しい顔しないの。どうせ何も見えないんだから、休憩でもしたら?」


「んあっ! お願いですから、止めてくだ……はんっ! 休憩とセクハラに……どういう関係が……あるんですかっ!」


 両胸をまさぐってくる手を掴み、背中に張り付いた彼女を振り解くセレナ。


「私のはセクハラじゃなくて、スキンシップだから。その弾力が病みつきなの……」


 薄紫のルージュが引かれたつややか唇。そこへ人差し指を押し当て、何かを期待するように豊満な胸を見つめている。


「冗談に思えない時があるので自重してください……それはともかく、今日は落ち着いていますね? 先日は映像が見えなくなって取り乱していましたけど……」


「そうね、大丈夫よ。全く問題ないわ」


 軽く微笑み、長衣ちょういのポケットから棒付きキャンディを一つ取り出した。


★★★


 怒りに見開かれたカズヤの瞳が、前方に立つサイの悪魔を鋭く睨んでいた。内に沸き立つ怒りは留まるすべを知らず、彼の体を溢れ出し周囲へ充ち満ちた。


 彼の背後に立つクレアもまた、肌を突き刺す怒りの波動に当てられ、声を掛けるどころか身動きすらできずにいた。


「クレア。二人を頼む」


「分かりました……」


 返事をするのが精一杯だった。この人ならやってくれる。そう信じられるだけの力強さが彼の背中を伝っていた。


 一歩、また一歩と悪魔との距離を詰めるカズヤ。その心へ思念しねんが響く。


(おいおい。どーなってんだ。同調シンクロ率が急激に上がってんぞ。いつの間に、俺の力をここまで引き出せるようになりやがった!?)


(ゼノ。ちょっと黙っててくれ)


 思念を遮りながら、仰向けに倒れたミナの隣を通り過ぎる。意識を失った彼女の体はA-MIN(エー・マイン)の力が解かれ、普段通りの美しい黒髪を取り戻していた。


 その姿をの当たりにして、カズヤの表情が一層険しさを増す。そして、彼の視線に晒されたサイの悪魔は、怯えたように僅かに後ずさりながら口を開く。


「どうしておまえたちがここに? ゴウラムがいたはずだ……」


 途端、カズヤの顔が苛立ちに歪む。


「バカか? 下位悪魔ロー・クラスのゴリラごときで、俺たちを止められるわけねぇだろうが!」


 カズヤが剣を持ち上げると同時に、悪魔もまた両刃戦斧りょうばせんぷを構えて走る。


「情けねぇ……自分が許せねぇよ」


 頭頂目掛けて振り下ろされた悪魔の渾身の一撃。カズヤは体を反らせ紙一重で避ける。だがそれは紙一重でしか避けられなかったのではなく、その程度の動きで事足りるということ。


 唸りを上げて振り下ろされた戦斧が石畳を打ち砕くと同時に、カズヤはがら空きになった敵の腹部へ狙いを定めた。


「アッシュと別れる時、約束したんだ」


 腰を落としたカズヤは歯を食いしばり、青白い光に包まれた右拳を繰り出す。


「がはあっ!」


 拳が悪魔のみぞおちを強打。最硬さいこうと言われる皮膚を持って尚、敵の顔は苦痛と驚きに歪み、真っ赤な瞳を見開いた。


「おまえらが戻ってくるまで、みんなは俺が守るって……」


 苦痛に背中を丸める悪魔。その胸元へカズヤは右手を伸ばした。直後、その手から霊力球れいりょくきゅうが放出。悪魔の巨体が軽々と吹き飛び、背後の樹木へ激突する。


 悪魔の体が石畳へ落下すると同時に、その直撃を受けた樹木が、乾いた音を立てながらゆっくりと倒れてゆく。


「それがこのザマだ。情けなくて笑える」


 鬼気迫るカズヤの姿に、悪魔は小さな悲鳴を漏らした。それを呆然と見つめるクレアは一つだけ気付いたことがあった。

 それは、ゴリラの悪魔との戦いから気になっていたこと。素手で攻撃するカズヤの拳に、なぜあれ程の威力があるのか。その疑問が今の一撃で明らかになった。


 攻撃が当たる寸前、拳が青白い光に包まれるのを見た。その光の正体は霊力球だ。衝突の瞬間にだけそれを発生させ、瞬間的に攻撃力を高めていたのだ。


 彼女自身が操る螺旋円舞らせんえんぶも原理は同じ。手にした短刀の刃へ攻霊術こうれいじゅつを乗せ、自身に回転運動を加えることで攻撃力を上乗せしている。だが、今のカズヤが繰り出す拳の威力はその比ではない。


 サイの悪魔は怒りに身を振るわせ、戦斧を手に再び立ち上がる。


「バカな。何かの間違いだ……俺が、俺がこんなクソガキに押されるなんて」


 左手で顔を押さえ、目の前に立つカズヤを拒絶するように睨む。


 妙な力を使う学生とおぼしき少年ごときにここまでやられているという事実を認められず、悪魔は半狂乱へおちいっていた。


 前のめりの前傾姿勢を取り、眉間へ意識を集中させる悪魔。そこに生えた一本の角へ霊力が収束すると同時に、カズヤへ突進を仕掛けた。


「チャージ・スピア!!」


 角を中心に、青白い霊力の膜が悪魔の体へ展開。巨大な円錐型の光と化し、カズヤを突き刺そうと襲いかかる。


 サイの最高時速は五十キロを超えるとも。直撃を受ければ確実に致命傷だ。


「あの小娘どものように吹っ飛べ!」


「あぁ? 小娘、だと……」


 カズヤが激しく反応した。目の前に迫る円錐の一突きを避ける素振りも見せず、奥歯を噛みしめ真っ向から睨む。


「ミナとサヤカのことか!?」


「カズヤさん! 避けてくださいっ!」


 黙って見守っていたクレアだったが、これにはたまらず声を張り上げていた。 だがカズヤは突進してきた円錐を避けるどころか、先端を素早く右手で掴んだ。


 その体は円錐に押され、数メートルの距離を滑るように後退。それでも吹き飛ばされはしない。両足を踏ん張り、突進の勢いを完全に殺してしまったのだ。


「二人の痛み、三倍にして返してやるよ」


 右手が青白い光を放ち、そこを中心に円錐へ亀裂が走った。ガラスの砕けるような音を響かせ霊力膜れいりょくまくが崩壊。驚愕に目を見開いたサイの悪魔が姿を現した。


「うらあっ!」


 左手に持った剣を悪魔の胸元へ突き刺す。斬撃が無理ならば突き刺すのみ。単純明快な発想だった。


 貫きはできないものの先端が食い込み、その剣先へ瞬時に霊力が注がれる。


「イレイズ・キャノン!」


 至近距離から霊力球を受け、背中を丸めた悪魔の巨体が大きく吹き飛んだ。


 巨体は背中から地面へ落下。下敷きになった石畳が悲鳴を上げるように砕ける。


「ほら、どうした? 立てよ。まだまだ、こんなもんじゃ足りねぇんだぞ」


 冷徹な瞳を向けるカズヤ。手にした剣の切っ先を再び悪魔へ向けた。


 一方の悪魔は、吹き飛ばされた衝撃でいくらか冷静さを取り戻していた。実力差はもはや明白。このまま戦いが続けば、待っているのは間違いなく消滅への道。


 その巨体が持てる最大の速さで身を起こし、目の前の少年へ視線を向けた。


「覚えていろ! おまえは必ず、このライガンが仕留めてみせる!」


 捨て台詞を放った悪魔の体が、魔空間まくうかんへ解けるように飲み込まれていく。


「カズヤさん! 早くとどめを!」


「放っとけ。あいつがもう一度襲ってきたとしても負ける気がしねぇ。それより二人を連れ帰る方が先だ」


 クレアの言葉を遮ると同時に魔空間は消滅。四人は色彩を取り戻した現実空間へ移動していた。それを確認し、カズヤも限界突破リミット・ブレイクを解除する。


★★★


 体が重い。急に疲れが襲ってきた。怒りに任せてあれだけの猛攻を繰り返したんだ。負担がかからない方がおかしい。


「クレアはサヤカを頼む。俺はミナを背負っていくから」


「あっ! カズヤさん。なんだか私もフラフラしますぅ……」


「クレア。今の俺はそんな冗談に付き合うほど余裕がねぇんだ。さっさとしろ」


「ごめんなさい」


 少しきつく言い過ぎただろうか。しおらしくなってしまったクレアに罪悪感を感じながら、朝霧の体を背負った。


 病院の側に待たせていた移動車へ乗り込む。一人で突っ走るセイギも心配だが、そこまで気にしている余裕がない。


 アスティはセイギのことを気に掛けていた。自分が霊界へ戻れば、彼がまた一人になってしまうんじゃないかと。でも、あいつが自身が心を開いてくれなければ、歩み寄ることなんてできるはずもない。


 アジトへ連絡するため、車の上部にあるスピーカーのスイッチを入れた。


「セレナさん、聞こえますか? ミナとサヤカがやられた。これから戻ります」


『状況は確認済みよ。二人のSOULソウルは正常。命に別状はないから安心して』


 その声に混じり、背後では慌ただしいやり取りが。何かが起こったんだろうか。


「どうしたんスか?」


 問いかけると同時に、スピーカーから男性スタッフの声が微かに漏れだした。


光栄こうえい高校、校舎内。行方不明中の女生徒、四人目の被害者です。呪印じゅいんを刻まれた状態で発見されました!』


 その報告に言葉を失ってしまった。

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