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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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02 全力だ。ザコはさっさと消え失せろ


 カズヤとクレアは、突如せり上がってきた黒壁を背に、二メートルを超えるゴリラの男性悪魔と対峙していた。


 その全身は深い体毛に覆われ、腰に巻いた薄布を除けばゴリラそのものだ。しかし、両拳にはカイザー・ナックルが握られ、二人を威嚇するように拳を打ち合わせ怪音を鳴り響かせている。


 急襲もせずに様子を伺うその態度。臆病なのか、それとも。


「随分と余裕だな。舐めてるのか?」


 剣を正眼に構え、大きな舌打ちと共に息を吐き出すカズヤ。彼の意識は壁の向こうへ注がれていた。


 ミナとサヤカの力では、あのサイの悪魔は荷が重い。せめてクレアが一緒ならば状況は好転したはずだ。その思いが彼の焦りを一層強くしていた。


★★★


「サヤカは援護をお願い。私がなんとかしてみるわ……」


 ミナの手には、ヨーロッパのアイアン・アンティークで見るような曲線を描く銀色の装飾銃そうしょくじゅうが。それを油断なく構えると、霊力の青白い光が彼女を包んだ。


A-MIN(エー・マイン)、開放!」


 Another Mindアナザー・マインドの略称であるその言葉を引き金に、自らの霊撃能力を引き出しに掛かった。この力を解放することで、一時的に能力を強化させるため。


 ミナの瞳が淡い水色へ染まる。背中まで伸びる艶やかで美しい黒髪は、ペンキでも被ったように頭頂から濃紺へ変色。体を覆っていた青白い光が彼女の中へ吸い込まれて消えると同時に、内包する力が爆発的な高まりを引き起こした。


「進化した力、見せてあげるわ」


 ミナは、悪魔へ銃口を突きつける。


「あたしだって、やる時はやるんだから」


 サヤカは身長と同じ銀の巨大十字架を構えた。その表面へ彫られているのは二人を守るように両腕を広げた女神だ。その祈りは果たして叶えられるのだろうか。


★★★


「始めから全力だ!」


 ゴリラの悪魔へ向かい全力疾走するカズヤ。クレアも反対方向へ展開する。


 闇雲に接近するのは危険と考え、カズヤは様子を探ろうと、五メートル程の距離を保ち右拳へ意識を集中する。


 だが、それと同時に悪魔も二足で立ち上がり、両拳で胸を大きく叩く。ドラミングと呼ばれるゴリラの威嚇行為だ。


「ぐっ!」


 その威嚇に驚いたように、周囲の大気が大きく震えた。途端、カズヤとクレアは体に痺れをきたし、その場へ硬直する。


 動きの止まったカズヤを目掛け、四足歩行の悪魔が急速に接近。一気に間合いを詰め、ナックル付きの拳を突き出してきた。


「シールド!」


 無我夢中での回避行動。目の前へ、大人用の傘ほどの半円型の霊力壁れいりょくへきを展開。同時に自身も背後へ向けて飛ぶ。


 敵の攻撃が霊力壁を直撃。両腕を衝撃が駆け抜けると同時に、青白く輝く壁が砕け散る。あやうく後ろへ倒れそうになるのを踏ん張り、どうにか持ち堪える。


「氷の攻霊術こうれいじゅつ氷結ひょうけつ!!」


 クレアが絶妙のタイミングで詠唱えいしょうを終え、氷の中位霊術ちゅういれいじゅつを放出。悪魔の胸元が瞬時に厚い氷で覆われる。


 初見で相手の特殊攻撃を見極め、対応策に出る早さ。戦士としての経験の違いもあるが、さすがという他ないだろう。


 カズヤは援護に感謝しつつ眼前の大男を睨み、剣を持つ手へ全力を込める。


「ザコはさっさと消え失せろ!」


「カズヤさん! 無茶です!」


 体制を立て直したばかりだというのに、そこから斬撃へ持ち込むカズヤ。その姿は、クレア目には無謀としか映らない。


 だが、円らで愛らしい瞳は次の瞬間、驚愕に大きく見開かれることになる。


 クレアが叫ぶと同時に、ゴリラの左拳がカズヤの顔面を狙っていた。それを視界に捉えた彼は剣から片手を離し、瞬時に攻撃を切り替える。


「だらあっ!」


 歯を食いしばり、ありったけの力で右拳を繰り出すカズヤ。それが淡い光に包まれ、敵の拳と激突した。


 鈍い音と共に、ナックルを付けた悪魔の拳が手首から折れ曲がり、左肘から黒い気体が噴出。悪魔は大きくバランスを崩しながらも、雄叫びと共に、残る右拳を再びカズヤへ繰り出す。


 早く。一刻も早く。カズヤの頭の中にはもはやその想いしかない。目の前のゴミを手早く片付け、急いで二人の所へ。


「うぜぇんだよっ!」


 剣を持つ左腕へ力を込めつつ、上体を捻り拳を避ける。敵の懐へ飛び込むと同時に左肘を素早く持ちあげ、体毛に覆われた腕を上空へ跳ね退けた。


「うらあぁっ!」


 左腕を引き戻す勢いで、敵の喉元を切り裂く。絶叫と共に黒い気体が吹き出すが、悪魔も黙ってやられていない。


 歯を剥き出し、強烈な頭突き。カズヤはそれをまともに額へ受けてしまった。


「くそっ……」


 激痛に顔をしかめた彼が数歩後ずさると、悪魔の右拳が追撃。回避しようにも焦点が定まらない。


螺旋円舞らせんえんぶ轟雷ごうらい!」


 いかづち中位霊術ちゅういれいじゅつまとった紫の渦。横手から咄嗟に飛び込んだそれが悪魔の腕を直撃。焦げ付くような臭いと共に電撃がぜ、右腕が宙へ舞っていた。


「カズヤさん! とどめを!」


 着地したクレアが言うより早く、彼は動き出していた。剣を両手でしっかり握り、突き上げるように敵の喉を刺す。


 確かな手応えが腕へ伝うのを感じながらも止まらない。右手を離し、勢いを付けて柄頭つかがしらへ張り手を加える。その力に押された剣先が敵の頭頂部から突き出した。


 獲物を求め血のように赤く染まっていたゴリラの瞳は黒く濁り、頭頂部から立ち上る黒い煙が絶命を物語っていた。


「これで終わりだ」


 カズヤは腰を落とし左拳を握る。


「イレイズ……」


 拳が淡い光に包まれ、カズヤは敵の喉へ突き刺した剣を引き寄せた。


「キャノンっ!」


 霊力を込めた拳で敵の顔面を思い切り殴りつける。悪魔は顔から石畳へ激突し、滑るように吹っ飛んだ後、二度と動くことはなかった。


 肩で大きく息をするカズヤの目の前で、悪魔の体が気体となって消える。同時に魔空間まくうかんが崩壊し、辺りは色を取り戻した。


 体を覆っていた不快感を伴う空気も晴れ、夏の暑さと蝉の鳴き声が戻ってくる。


「カズヤさん。凄い……」


 クレアはその圧倒的な力を前に呆然としていた。霊能戦士れいのうせんしでさえ、ここまでの力を持つ者はそういない。思い当たるとすれば、霊能戦士を束ねる戦士長。もしくはその下に位置する部隊長クラスだ。


「ミナとサヤカはどこだ!?」


 そんな彼女のつぶやきを余所よそに、慌てて周囲の気配を探るカズヤ。霊力感知の能力を持つ彼ならば、おおよその位置を特定することも可能だった。


「二人ならここだ。アジトからの通信で位置は補足した」


「おまえ、いつから!?」


 カズヤとクレアの視線の先には、学生服姿のセイギが佇んでいた。


「たった今、来たところだ」


 左手でサングラスを押し上げると同時に、右の裏拳を隣の中空へ繰り出す。

 ガラスが割れるような澄んだ音を響かせ亀裂が生じた。確かに、サイの悪魔が作り出した魔空間がそこに存在している。


「ちょうど良かった。手伝ってくれ」


「断る」


 カズヤの存在など見えていないかのようにセイギは隣を通り過ぎ、病院を目指して進んでゆく。


「待てよ!」


 カズヤは慌ててその肩を掴むが、セイギは鬱陶しそうに払い除ける。


「囮役、ご苦労だったな。それだけは褒めてやる。貴様の情報公開の遅れはこれでチャラにしてやろう。私が中を調べる間に、ここの掃除は頼んだぞ」


「おい! セイギ!」


 ムダだと知りながらも叫ばずにいられない。どこまでいっても交わることのないこの距離がもどかしく、彼が何に焦っているのか。それを知る者もいない。


「もぅ。何なんですか、あの人。我の強い人ばかりで、カズヤさんも大変ですね」


 小さくなっていくセイギの背中を見ながら、クレアは頬を膨らませている。


「まぁな。RPGゲームみてぇに黙って後ろを付いてきて一緒に戦ってくれたら楽なんだけどな……クレア、準備はいいか?」


 セイギの裏拳でひび割れたその場所を、カズヤは剣で切り付けた。内部からの破壊は不可能だが、外からの衝撃には脆い。


 簡単に人一人が通れるほどの穴が空き、ようやく開放されたばかりの、不快なモノクロ空間が再び現れた。


「きゃあぁっ!」


 カズヤが急いで駆け込むと同時に、ミナの悲鳴が彼の耳を突いた。


 敵の体当たりに弾かれた細い体が宙を舞い、後頭部から石畳へ叩き付けられる。そして端にも、うつ伏せに倒れるサヤカの姿が。その光景を目の当たりにし、カズヤの怒りが一気に限界点を越えた。


 もう自分の目の前で、誰にも傷ついて欲しくない。そう願って、そのために手に入れたゼノの力。大事な仲間も守れずに、何のための力なのか。悪魔だけでなく、自分自身にも向けられた押さえようのない怒りが、彼の全身へ満ちていた。


 怒りに見開かれたその瞳が、前方に立つサイの悪魔を鋭く睨み付ける。

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