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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.03

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01 ハーレムか? 美少女三人、はべらせて


「暑っ……」


 移動車を降りた途端、むせ返るような熱気が体を包む。時刻は十七時を迎えようというのに、留まることを知らない暑さが不快感と倦怠感を加速させる。


 目の前には緩やかな上りを描く石畳が一直線に伸びる。先に見えるのは十階建ての建造物、神津かみつ総合病院だ。

 清潔感を醸し出す白を基調とした外観。円筒形の中央棟から、翼のように左右へ突き出しているのが東棟と西棟。正直、この田舎町では巨大建造物といっても過言じゃない。さながら、老人と病人を中心とした一大テーマ・パークか。


 大きな樹木が石畳に沿って並び立ち、まるで病院へ誘う案内人のように見える。樹木の悪魔はさすがにいないだろうが、何が起こってもおかしくない。そう。ここは既に、悪魔の手の内なのだから。


「ちょっと。こんなところで立ち止まらないでくれる? 邪魔なんだけど」


 俺の脇を遠慮がちに抜け、朝霧あさぎりが移動車から降りてきた。


「あぁ。わりぃ」


 脇へずれると、クレアと久城くじょうが続く。


「あっついですね〜」


 手をかざし顔へ当たる日差しを遮ると、クレアは渋い顔で病院を見つめる。


「クレアちゃん。さっきから、そればっかりだね。こっちまでごく、暑い気分になるから勘弁してよ……」


「でも、暑いものは暑いんですから」


 夏を象徴するような赤い長衣の胸元を手で揺らし、顔へ風を送るクレア。俺の視線に気付くと、肩へかかるツインテールを揺らして首を傾げた。


「どうしたんです? 恥ずかしいから、そんなに見つめないでくださいよ」


 頬に手を当て腰をくねらせる仕草に、言葉を失って硬直してしまった。


「誤解すんな。アッシュとアスティ戻ってこねぇなぁ、って考えてただけだから」


 なんだか、朝霧からの険しい視線を感じる。その眼力で射殺いころされそうだ。


 そう。二人は霊界へ一時帰還したまま戻らない。合流後にここへ来るつもりが、うっかり情報を漏らしてしまったのだ。


 凄まじい剣幕でその情報に食いついたのは、今ここにいないセイギだ。すぐにでも出発するとまくし立てる勢いに、動かざるを得なくなってしまったんだ。


「心配いりません。カズヤさんは私が守りますから。あっ! でも、カズヤさんはいつでも私を襲っていいんですからね」


「遠慮するよ」


「もぅ。恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。可愛い!」


 歩いていたら、隣へ寄り添ってきた。


「ちょっと、クレア。あなた緊張感が足りないわよ。気を引き締めなさい」


「ミナさん、怖い。やきもちですか?」


「そんなんじゃないわよ!」


 機嫌を損ねた朝霧の背中へ、怒りのオーラが満ちていくのがはっきり分かる。


「ガンガン攻めればいいんですよ。でないと、私も張り合いがありませんから。恋愛は自由競争ですよっ!」


「クレアちゃん、分かってないなぁ。リーダーはそういうの苦手なんだって! 包み込むような優しさと、見守る慈愛の眼差し。絶対に癒やし系が好みだって!」


 久城。おまえが俺の何を知っている。と問いたいところだが、当たっているだけになんだか悔しい。


「カズヤさん。本当なんですか?」


「あぁ。その通りだよ。ってわけで、俺のことはあきらめろ。はい、終わり」


 強引に話を打ち切ると、並木から漏れ聞こえるせみの鳴き声が耳をついた。


 この世に生を受け土の中からはい出すまでに十年以上を要する種類も。ようやく光を手に入れたところで、わずか一ヶ月程で生涯を終える。全力で生と向かい合うその姿は称賛に値するだろう。


 蝉の生涯を辿りながら、不意に闇導師やみどうしの存在が重なる。霊魔大戦れいまたいせんから約三十年。蝉がじっくり成長するように、虎視眈々《こしたんたん》と機会を伺っていたに違いない。その計画を絶対に叩き潰してみせる。


 挑むように病院を見つめたその時、背筋を悪寒が駆け抜け、思わず身震いする。


 唾を飲み下す音がいやにハッキリと聞こえる。左右へ視線を素早く向け、視覚と聴覚を研ぎ澄ませ周囲を警戒。前方から悪意を伴う気配が近付いてくる。


「リーダー。これって……」


「構えろ。来るぞ!」


 久城の声には振り返らず、霊力を高めるために意識を集中。体を流れる血液のように霊力の取り巻きを感じる。その力は撫でられるような感覚と共に背筋を這い上がり、右肩を通じて右肘へ。そのまま、指先に填まる霊撃輪れいげきりんへ注がれる。


「ゴースト・イレイザー!」


 指輪に付いた三つの宝石。ライブ・ジュエルと呼ばれるそれに組み込まれた専用の設計図。霊力を含んで軟化したそれは高速分裂を行う。呼び声と設計図に則って近接攻撃用の剣が具現化ぐげんかする。


 銀色に輝く刀身。つばの中央には赤く輝く菱形の宝石と、そこから左右に伸びる、翼を模したデザイン。つかへ滑り止めの黒皮が巻かれ、柄頭つかがしらに球形の青い宝石が取り付けられている。


 直後、腕に填めた時計型の通信機から、聞き慣れたセレナさんの声。


『総員、警戒態勢! カズヤ! 周囲に霊力反応を感知。おそらく悪魔……』


 音声は耳障りなノイズに包まれ強制的に切断。同時に視界は色を失い、モノクロの風景へ変貌を遂げた。

 悪魔が、持てる力を最大限に発揮するために作り出す特殊空間、魔空間まくうかんだ。


「さっそくお出ましか……わざわざお出迎えとはご丁寧なこった」


 目の前には、サイの顔を持つ男性の悪魔。生前には格闘技でもしていたのだろうか、鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく晒し、重量感のありそうな黒塗りの両刃戦斧りょうばせんぷを軽々と肩へ担いでいる。


 敵からわざわざ出てきたということは、おそらく周囲を警戒する見張り。やはりここには重要な何かがあるに違いない。内なる声を探り、意識を集中する。


(ゼノ。行けるか?)


(ヒャッハッ! 任せな。こっちはいつでも臨戦態勢だぜ!)


(力は極力温存したい。まずは俺を主体にして様子を見る……)


 呼吸を整え、体の奥底を流れるゼノの霊力を探る。それをつかみ取り、自分の中へ取り込むイメージを完成させた。


限界突破リミット・ブレイク!!」


★★★


 カズヤは腹部の熱と共に、大きな力が全身へ満ちるのを感じていた。


(相手は中位悪魔ミッド・クラスみてーだな。油断するんじゃねーぞ)


「任せろ!」


 正面に立つ悪魔を睨み据え、剣を片手に走り込む。相手の体格と武器から接近戦主体と睨み、利き腕へ狙いを定める。


「イレイズ・キャノン!」


 突き出す右拳。霊力を含んだライブ・ジュエルが軟化と高速分裂を行いバスケットボール大に膨れ上がる。それへ圧縮された霊力が瞬間的に封じられ、悪魔に向かって飛んだ。


 平手で打つような甲高い音と共に、霊力球れいりょくきゅうが悪魔の脇腹を直撃。その体が、前のめりに折れ曲がる。


 開始早々のチャンス。カズヤは剣を握る手に力を込め、駆け抜け様、自身の倍はあろうかという二の腕を切り付けた。


「がっ!?」


 手応えがない。と言うより弾かれた。


「リーダー! サイの皮膚は、動物の中でも最硬さいこうだって本で読んだよ!」


「そういう豆知識は早く言え!」


 悪魔が振り向き様に振るう戦斧が、カズヤの顔を目掛けて迫る。


 咄嗟に剣を構えると、横手から飛んできた弾丸が悪魔の腕を直撃。それでも攻撃が中断することはなく、カズヤの剣と真っ向から激突。金属同士のような音と共に、かつてない衝撃が彼の腕を伝う。


「ぐっ!」


 体を弾き飛ばされたカズヤが、モノクロの石畳の上を激しく転がる。ミナの撃った弾丸の援護を受けて尚、この威力。直撃ならば無事では済まない。


 カズヤが体を起こすより、悪魔の方が素早い。薪を割るように戦斧を高々と振り上げ、彼の体を死神の影が覆った。


 咄嗟に横へ転がるカズヤ。間一髪、戦斧が石畳を打ち砕き地面へ突き刺さる。


 その敵の背後を取り、両手に短剣を構えたクレアが飛びかかっていた。


螺旋円舞らせんえんぶほむら!」


 短剣の刃が炎に包まれると共に、彼女は風の霊術れいじゅつを纏い独楽こまのように回転。真紅の渦が敵のうなじを直撃した。


「があぁぁっ!」


 さすがにこれは効いたようだ。悪魔は激しく身を揺すり、真紅の渦を弾いた。


 クレアが着地すると同時に、敵のうなじから黒い気体が漂い漏れる。サイの顔が睨むように一同を見回した。


「もう一度、同時攻撃だ」


 カズヤが隣のクレアを見た直後、足下から黒い壁がせり上がった。なんとサイの悪魔だけでなく、ミナとサヤカが壁の向こうへ追いやられてしまったのだ。


「どうなってんだよ!?」


「分断されました。恐らく新手です!」


 背後を振り返った二人の視界へ、ゴリラの顔を持つ男性悪魔が佇んでいた。

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