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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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34 ブタ野郎。てめーに二つの質問だ


「今回は失敗ね……」


 司令室の扉へ寄りかかり、カミラは口にした棒付きキャンディを舌で転がす。

 そんな彼女へ近付いてくる一つの足音。顔を上げた彼女の視界には少年の姿が。


 真っ直ぐ伸びた背筋。前だけを見つめる迷いのない二重の瞳。すっと通った鼻筋に、固く結ばれた唇。

 一歩を進める度、肩まで伸びる長髪がなびき、整った顔を隠そうとする。それが余計に、見る者の視線を釘付けにする。


「もう完治したのかしら?」


 少年、風見かざみしゅんは扉の入口で立ち止まる。


「どうしたんですか、こんな所で? 戦いは続いているんじゃないんですか?」


「そうね。興味が無くなっただけ。あなたも見てきたらいいじゃない。どうぞ」


 寄りかかっていた扉から離れる彼女を、瞬は盗み見るように伺う。


「何が目的なんです? ただの研修、という訳でもなさそうだ……」


「あら。そのまさかよ。ただの研修」


「では、どうしてそんなにいらついているんです? なにか手違いでも?」


 その一言にカミラの纏う雰囲気が変わり、張り詰めた空気が流れる。


「なかなか食えないボウヤね。大人の女のデリケートな問題に首を突っ込むと、痛い目に遭うわよ。じゃあね……」


 足早に立ち去るカミラ。キャンディを噛み砕く荒々しい音が、瞬の耳を突いた。


★★★


 魂さえも凍り付かせようかという程の重く寒々しい空気が満ちたモノクロ空間。恐怖におののく巨人が震える唇を開く。


「お嬢さんから引き出した記憶で、白蛇はくじゃのネイスが消されたと聞いたけど、まさかあんただったの。始まりの魔人……」


 直後、巨人のぼってりとした腹部を大剣たいけんが一閃。傷口から黒い霧を撒き散らし、苦痛に顔をゆがめた巨人が後ずさる。


「ちっ! どいつもこいつも、その名前で呼ぶんじゃねー。イライラすんぜ!」


 振り抜いた大剣を再び肩へ担ぐ。


「ブタ野郎。てめーに二つの質問だ。まずは、エナジーを吸収させたネックレスと、行方不明の女どもをどこへやった?」


「そんなことを聞いてどうするわけ?」


「大人しく質問に答えりゃいいんだ」


「あら!? 残念!」


 吐き出される霊力球れいりょくきゅう。だが、ゼノは動じず、両手で握った大剣を振り抜いた。


 二つに裂けた霊力球が彼の左右を抜け、背後の壁へ激突。弾ける閃光が彼のシルエットを不気味に浮かび上がらせた。


 続け様、巨人も臆することなく全身に力を込め、背中を丸くする。


百花繚乱ひゃっかりょうらん!」


 巨人は左腕と、切断された右腕を大きく掲げた。直後、全身を覆う目玉模様から野球ボール程の霊力球が一斉に射出。


「シールド!」


 ゼノは右手で半円形の霊力壁れいりょくへきを展開。霊力球をことごとく弾き、敵の懐へ。


 右腕一本で振りかざす大剣。それは獲物を狙う竜の爪と化し、振り抜き様に巨人の左足を太ももから切断。その足が黒い霧となって消えると同時に、巨人の体が派手な音を立てて仰向けに倒れる。


「やってくれたな。ブタ野郎」


「ひいっ! 来ないでぇっ!」


 恐怖に顔を歪める巨人。残された左腕と右足を慌ただしく動かし、這うようにゼノから距離を取ろうともがく。


「いい加減、質問に答えろ」


 大剣が巨人の右太ももを貫通。重々しい音と共に床板を打ち抜き突き刺さる。


 激痛に悲鳴を上げ、巨人は顔を押さえた。


「次は首をはねるぞ。蛇頭は俺の質問に答えず消滅した。助けてやってもいいって譲歩してやったんだがな」


「分かったわよ。答えるから! ネックレスと人質は、神津かみつ総合病院に運んだわ」


「病院で何をしてやがるんだ?」


 ゼノは怪訝けげんそうな顔をする。


「アタシも知らないわよ。そこに運ぶように言いつけられたのよ!」


「誰にだ?」


「分かってるんでしょう? 闇導師やみどうしよ!」


 その名に、ゼノの顔つきが途端に険しくなる。右足を貫く大剣に力がこもり、痛みを感じた巨人が悲鳴を上げる。


「てめー、あいつの居場所を知ってるんだな? 教えろ。それが二つ目の質問だ」


「教えたいのはヤマヤマだけど、本当に知らないのよ。伝令の使い魔が、闇導師の言葉を伝えに来るのよ!」


「本当だな?」


「嘘じゃないわよ! 信用できないなら、とっておきの情報をあげるわ。闇導師は何かの計画をくわだててる。それがもうすぐ実現するっていう話よ。霊魔大戦れいまたいせんでの敗走以降、表舞台に姿を見せなかったのはそういう理由だったみたいよ」


「計画? ふざけた悪あがきを……」


「アンタが焦らなくても、じきに向こうから姿を見せるわよ。逃れられない終局の足音が近付いてくるわよ」


「ケッ! 俺には何も聞こえねーな」


 ゼノは大剣を引き抜いた勢いで、巨人の右足を切り落とす。敵の哀れな悲鳴。


「助けてくれるんじゃないの!?」


「バカか? なんで俺が、てめーら悪魔を生かしておかなきゃならねーんだ」


 嫌悪をあらわに大きく跳躍。巨人のぼってりとした腹部の上へ着地し、その顔に向けて左手を突き出した。


「イレイズ・キャノン!」


「ちょっ……」


 バスケット・ボール大の霊力球が巨人の顔面へ深くめり込み、後頭部を貫通。助けを求めて宙へ伸びていた左腕が、小刻みに痙攣しながら床へ崩れた。


「今回はまあまあの収穫か」


 直後、背後に膨らんだ殺意。咄嗟に前方へ飛んだゼノだったが、腰から右肩へ斬撃が駆け抜け、その顔が痛みに歪む。


「こんのカス孔雀くじゃくぅ……」


 足下にあった巨人のむくろ。その腹部を引き裂いて飛び出した孔雀の悪魔が、彼の背中を切り付け大きく跳躍していた。


 空中で悪魔は両腕を広げる。二の腕から手首にかけて垂れ下がる羽根が、霊力を含んで硬質化。鋭利な刃と化す。

 その両腕を眼前に組み、上空からギロチンのように急降下。先程の一撃で右腕の上がらなくなったゼノは、左手一本で大剣を握り直し身構える。


 だが、勝負の行方は明白。半ばヤケともいえる悪魔の特攻と、ゼノの暴力的で圧倒的な、全てを切り裂く無双の一撃。


 孔雀悪魔の体が肩口から二つに裂け、黒い気体を撒き散らしながら床を滑る。そして、顔の残った半身から弱々しい声が。


「どうせアンタもこっち側の存在……素直に運命を受け入れなさいよ……」


「そんなもん、クソ食らえだ。てめーの運命はてめーで切り開いてやるよ」


「せいぜい足掻くのね。呪われた運命からは逃れられない……最後に一つ。今回、大きな見落としをしているわよ。アンタが闇導師に出会う時、世にもおぞましいものを目にすることになるわ……」


 悪魔の体は巨人の骸共々、蒸発するように黒い気体となって霧散する。


 うれいに沈んだ彼の顔。それに気付く者も気遣う者もない。その手にある斬魔剣を見つめ、眉間へ深いシワを寄せる。


「それでも俺は、戦わなきゃならねーんだ。全ての因果を断ち切るために」


 同調シンクロを解除し、カズヤの意識の底へ眠りにつくゼノ。同時に、屋敷のロビーを再現したモノクロ空間が崩壊。霧が晴れた先には、慌ただしく駆け込んでくる医療スタッフたちの姿があった。


☆☆☆


 アジトへ帰還した早々、俺を除く全員がメディカル・ルームへ直行。


 朝霧あさぎり桐島きりしま先輩はすぐにでも動ける状態だったが、霊能戦士れいのうせんしたちは重傷。


 セイギはと言えば、巨人の攻撃で壁に激突する寸前、アスティに庇われていたお陰で意識だけは早々に回復した。


 霊能戦士を除いた全員が会議室に集められ、ボスへの報告を済ませた後、恒例の賞金更新が行われた。


 対象は、レベルⅢ認定となった80万円の亜里沙ありさ下位悪魔ロー・クラスサソリのオービスと、雌孔雀のシャクナが各100万。中位悪魔ミッド・クラス、雄孔雀のクジャと、百目巨人ひゃくめきょじんアルゴスに各200万もの金額が。


 霊能戦士の参戦により賞金の取り分が減額されるという誤算はあったが、集計の結果、セイギは468万へ。ミナは210万。サヤカが183万。シュン先輩は208万で、レイカ先輩が196万。そして俺は、500万というとんでもない金額に跳ね上がった。


 百目巨人の撃破が相当大きい。案の定、周囲から疑惑の目を向けられたが、限界突破リミット・ブレイクの力だとうやむやにしてしまった。


 亜里沙も浄霊じょうれいされ、今回の事件も無事に片付いた。同時に、戸埜浦とのうら邸の取り壊しが正式に進められることになったんだ。

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