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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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33 俺の剣。おまえは言うんだナマクラと


 ゼノは駆け抜け様、巨人の左足を一閃。手応えは感じたが巨体への傷は浅い。


「チッ! このナマクラじゃ無理か」


 右手へ握ったゴースト・イレイザーを恨めしそうに睨む。


 仲間たちがいることを警戒し、斬魔剣ざんまけんを召喚しなかったことが裏目に。その口から大きな舌打ちが漏れたのだった。


★★★


「セレナ導師どうし! 屋敷のロビーにて複数の霊力れいりょくを補足。映像、回復します」


 カズヤの接近に伴い砂嵐と化していた霊眼れいがんの映像が、オペレーターの言葉通り、ホールに倒れる四人の姿を映し出した。その無残な光景に絶句するセレナ。


「間に合わなかったのね。百目巨人ひゃくめきょじんは召喚されてしまった……でも、カズヤは?」


「分かりません。霊力を補足できないということは、恐らく魔空間まくうかんの中かと……セイギはMINDマインド0により戦闘不能。加えて両腕を完全に破壊されています。霊能戦士れいのうせんし三人のSOULソウルも20を低下。全員、早く手当てをしないと危険な状態です」


「屋敷へ向かっている医療スタッフへ、二手に分かれて救助作業するよう伝えて」


 セレナの返答に、オペレーターは慌ててマイクへ向き直った。


 現状の報告に、途端に苛立ちをあわわにするカミラ。背を向け退室しようとすると、入口からサヤカが駆け込んできた。


「戦いは終わったんですか!?」


 ガウンタイプの入院着に身を包み、苦しそうに喘いでいる。呪印じゅいんから解放され、居ても立ってもいられず駆けつけたのだ。


「自分の目で確認してごらんなさい」


 背後の巨大モニターを顎で示し、ポケットから棒付きキャンディを取り出す。

 セレナへ駆け寄るサヤカの必死な姿を眺め、カミラは室内から姿を消した。


★★★


 迫り来る巨人の拳。それを蹴り付け、反動の力で軌道から逃れるゼノ。強烈な風圧が顔に吹き付け、その威力を物語る。


「逃げるばかりじゃ勝てないわよ」


「うるせーんだよ!」


 怒声と共に振り下ろした剣。巨人の腕を斬り付けるが、かすり傷程度のものだ。


 敵を睨むゼノ。切り札を召喚したいが、巨人の想像以上の身軽さに印を結ぶ余裕がない。それが彼を苛立たせていた。


「いつまで逃げ続けられるかしら? 力と体力なら上位悪魔ハイ・クラスにも負けないわよ」


「ヒャッハッ! 上位悪魔ハイ・クラス? ハエ・クラスの間違いだろーが?」


 巨人の脇を駆け抜け様、左太ももを一閃。傷を与えはするものの致命傷には遠く、動きを鈍らせるにも足りない。


(1分でいい。気を逸らす手はねーか?)


 焦るゼノの脳裏に、昨日の戦闘でクレアが見せた空霊術くうれいじゅつが蘇る。


 六つの系統に分かれる霊術。生まれつきの才能による所が大きく、得手不得手は個人によって異なる。それはゼノにおいても同様であり、攻撃能力が秀でる彼には空霊術は得意とは言えない力だ。しかし、それを嘆いているヒマはない。


 左手の人差し指と中指を突き上げ、印を組む。その体を風の渦が取り巻いた。


空霊術くうれいじゅつしょう!」


 驚異的な跳躍力で上昇。一気に巨人の眼前へ飛び上がる。左手の印は解かぬまま、右手の剣を肩口へ引き寄せた。


「イレイズ・キャノン!」


 振り抜く剣の軌跡に沿い、三日月型に湾曲した霊力刃れいりょくがが飛ぶ。この一撃が、巨人の両目を切り裂くはずだった。


「グバアッ!」


 それを待っていたように、口から吐き出された一抱えもある巨大霊力球きょだいれいりょくきゅう


 ゼノの放った霊力刃をいとも容易く粉砕し、空中で身動きの取れなくなった彼を直撃。その体が霊力球に弾き飛ばされ、屋敷の壁へ激突する。


 自動車が壁に突っ込んだような轟音を上げ、霊力球がゼノの激突地点を追撃。壁の一部が崩壊し、閃光が弾けた。


 目を覆いたくなる程のまばゆい閃光に照らされた巨人が、赤い瞳を細らせ満足そうな笑みを浮かべる。


「人のことをハエ呼ばわりするから、こういう目に遭うのよ。思い知った?」


 光が消え去った先には、崩壊した壁材に埋もれて横たわるゼノ。余程のダメージだったのか、仰向けに倒れたまま、眠ったように動く気配がない。


「覚悟しなさいよ。躾のなっていないボウヤには厳しくしないとね」


 その巨体が床を蹴り付け飛び上がる。走り幅跳びのように両足が向かう先には、倒れるゼノの両足。


 挽肉を握り潰すような生々しい音は、床を踏み抜く轟音にかき消された。

 巨人の大足の周囲は見事に陥没。両足の指先にはゼノの姿があった。


「ぐああぁぁぁぁぁ!!」


 声にならない声で絶叫する少年。その光景を遙か上から見下ろして笑う悪魔。


「か・い・か・ん。なんて清々しい気分なのかしら。豚だのハエだの、散々好き勝手に言ってくれた罰よ!」


 背中を丸め、巨人の満面の笑みが迫る。その太い腕がゼノの両腕を掴んだ。


「これもしつけよ。我慢しなさいね」


 巨人が力を加えると、割り箸を折るような他愛なさで少年の両腕から鈍い音が漏れた。最早、叫ぶ気力もない。


 その変わり果てた様子を見て、巨人は退屈そうに鼻から息を漏らした。


「つまらないわ。もっと喚いて、命乞いをしてごらんなさいよ。そんなボウヤを呆気なく、むごたらしく殺してあげるから」


 すると、ゼノは弱々しく口を開く。


「楽しそうだな。ブタ野郎……」


 眉間にシワを寄せ、歯を剥き出す巨人。怒りに任せてゼノの体を背負い、そのまま床へ叩き付けたのだった。


 甲高い音と共に床板が割れる。少年の体は大きく弾み、勢いで床を転がった。


「どう! 思い知った!?」


 荒々しく息を吐き出す巨人。その眼前でぐったりとした少年の口が開く。


「神の左手。悪魔の右手。覇王の両目をいだきし魔竜……」


「しぶといわね! ムダよ。ムダ!」


深淵しんえん漂う力を結び、闇を滅する刃とさん」


 巨人の大きな口が開き、無慈悲な霊力球れいりょくきゅうが吐き出された。床板を打ち砕き、倒れたゼノを直撃。再び閃光が弾ける。


 後には完全に動かなくなった少年。霊体れいたいを攻撃しているため外見の変化は見られないが、巨人は絶命を確信していた。


「思い知ったかしら? アタシを侮辱するから、こんな目に遭うのよ!」


 高らかに笑う巨人。その耳障りな声がモノクロの空間を支配する。


 彼がポリシーとする美しさとは程遠い勝ち方。罵声を浴びせられ、自己を見失ってしまった失態に思わず首を振る。

 その余韻に浸りながら周囲を見渡す。不意にあることが気になり、いくらかの冷静さを取り戻していた。


「それにしてもこの空間、何かしら? ボウヤが死んだっていうのに解除もできないの? それに、この寒さ……」


 雄孔雀のクジャにとって、それは久しく忘れていた感覚。だがそれは、寒さというより肌を突き刺す痛みだ。まるで、魂さえも凍り付かせようかというほどの重く寒々しい空気に覆われている。


 その時。巨人の視界の端で何かが頭上へ舞い上がった。クルクルと回転する黒く細長いもの。それは腕だ。


 重々しい音と共に床へ落ち、黒い霧と化して消滅。見覚えのあるその腕に、巨人は怖々と自らの右腕へ視線を向けた。


 ない。あるべきはずの腕は肘から先がない。今になってようやく感じた激痛。傷口を押さえ、慌てて周囲を見渡す。


「随分と楽しそうだったから起こすのをためらっちまったが、ブタを始末しねーと帰れねーしな。消えてくれよ」


 それは夢か幻か。巨人の側には、腰に手を当て、巨大な大剣たいけんを担いだ少年が。


「どうして?」


「は? 俺が印を結んで跳んだ時、勝負はついてたんだよ。てめーはまんまと引っかかったのさ。俺の仕掛けた補霊術ほれいじゅつ夢幻むげんに。幻の世界は楽しかったか? もっとも、ここからは悪夢の始まりだ」


 そう。跳躍し、剣を振り絞ったゼノの姿は既に幻。仕掛けは完成していた。苦手な系統霊術のため持続時間はわずかだったが、幻に踊らされる巨人の姿を眺めながら切り札を召喚するには充分だったのだ。


 巨人は、少年の抱える大剣へ釘付けになっていた。それは彼の身長を優に超え、石から削り出したように無骨で荒々しい。簡素で飾りっ気もないそれだが、近付いただけで切り裂かれそうな猛々しい力強さと、血を思わせる不気味な深紅の刃。


「まさかそれは……斬魔剣ざんまけん!?」


「斬魔剣エクスブラッドだ」


 恐怖に引きつる巨人の顔を見上げ、少年は不敵に、楽しげに微笑む。

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