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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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29 はいチーズ。間違い探しの家族写真


 三号室の扉を開けると、アッシュとクレアが続いてきた。


 室内には、セレナさんとカミラさんに囲まれ、ベッドへ横たわる久城くじょうが。


 額に脂汗を滲ませ、土気色つちけいろに変色した顔が苦しみに歪む。微かに開いた口からはうなり声が漏れるのみ。痛々しい光景に、思わずこちらまで顔を歪めてしまう。


「どうなんスか? まさかこのまま呪いで。なんてことにならないっスよね?」


「何とも。カミラさん、どうですか?」


「恐らく、持って一日、二日かもしれないわね。危険な状態よ」


 口の中の棒付きキャンディを転がすカミラさんに、苛立ちが込み上げてきた。


「こんな時まで飴なんか食って、マジメにやって……ぐっ!」


 まくし立てている途中で、そのキャンディを口に突っ込まれ、思わずむせ返る。


「病人がいるんだから静かになさいな。それに、これを口にするのは気を静めるため。私なりの集中法なんだから」


 俺の口に入っていたキャンディを、ブラブラと振ってみせる。っていうか、これは完全な間接キスだろ。


 気が付けば、背後から突き刺さるような二人分の視線が。ここは無視しよう。


「まいった。久城の力が必要だったのに」


 胸ポケットから写真を取り出した。


「それ。カズヤさんが今日、手に入れたものですよね? なんなんですか?」


 クレアが隣から覗き込んでくると、アッシュとセレナさんも近付いてきた。


「事件の謎を解くヒントがあるらしいんだ」


「ただの集合写真だよな?」


 アッシュの言う通り、それは屋敷の前で撮影された家族写真だ。手前に若い夫婦。二人の間には、一体の着せ替え人形を大事そうに抱えた少女。その三人を挟み込むように、年配夫婦が立っている。


戸埜浦とのうらさん一家ね。真ん中の女の子が、行方不明になっている亜里沙ありさちゃんよ」


 セレナさんの説明に、写真へ目を凝らしてみる。屋敷の戦いで見た黒い人影。やはり、背格好も似ている気がする。


「この写真に何があるっていうんだ?」


 モヤモヤした気持ちと共に、違和感を感じてきた。何かが足りない気がする。


 とにかく、久城がこうなってしまった以上、回復を待つ以外に方法はない。最悪は、勢いに任せてあの悪霊を消滅させれば、呪印じゅいんの解除は問題ないんだが。


 久城のことをカミラさんへ頼み、俺達はその場で解散した。アッシュに話の続きを聞こうかとも思ったが、これ以上のことは出てこないように思えたし、何より俺の気力が限界を迎えていた。用意された個室へ移動し、泥のように眠った。


☆☆☆


 翌日、夢来屋むらいやの入口で複製クローンと入れ替わって登校し、身の入らない授業を受けた。意識は放課後の戦いに集中。それ以外のことは全く考えられなかった。


 そして、ついに決戦の時を迎えた放課後。夢来屋の裏口に待機していた移動車へ乗り込む。車内には、朝霧あさぎり、セイギ、三人の霊能戦士れいのうせんしの姿もある。


 両手足を破壊された風見かざみ先輩は療養中だ。幸い、アスティの癒やしの霊術れいじゅつのお陰で、身動きできるほどには回復している。


 朝霧の母と祖母は事件に関する記憶を消され、既に帰宅。朝霧の様子を見る限り、無事に和解したようだ。


 気持ちを奮い立たせるように、ワンボックスのエンジンが唸りを上げた。

 みんなも緊張しているんだろうか。声を上げる者は一人もいない。走行音だけがBGMのように流れる中、不意に頭上のスピーカーへスイッチが点灯した。


『みんな。聞こえる?』


「セレナさん? どうしたんスか?」


『サヤカの意識が戻ったの。みんなに伝えたいことがあるそうよ』


 その報告に安堵の溜め息が漏れた。


『心配かけてゴメンね。とは言っても、まだベッドに寝たきりなんだけどね』


「無事で何よりだわ。凄く心配したのよ」


 朝霧が真っ先に声を上げる。その一声は全員の気持ちを代弁していた。


「久城、心配したぜ。後は任せて、ゆっくり寝てくれ。でも、そうまでしても伝えたいことがあるんだよな?」


『うん。写真を持ち帰ってくれたお陰で悪霊の正体が分かったんだ。よく聞いてね。悪霊は亜里沙ちゃんじゃなくて、写真の中であの子が持ってる人形なんだよ」


「は? 人形?」


 驚きに、思わず声が裏返ってしまう。


『うん。写真へ一緒に写るほど愛着を持ってたんだと思う。人形に宿った生き霊が、怪現象を引き起こしてるんだよ。リーダーたちの戦いの記録で確信したの』


「俺たちの戦いの記録?」


『そう。沙緒里さおりさんと鬼島きじまさんが行方不明になった後、最初に戦った相手は?」


 その言葉に記憶の糸をたぐる。


「玄関で戦った虎だな。ジョンだっけ?」


 そこまで言って、欠けていたピースがピタリとはまった。


「ジョン! そうだ! あの写真の中には、ペットなんて写ってねぇ」


 ペットを飼っている人は、家族同然に思っているという話を耳にする。自分の屋敷で撮影したのなら尚更、写真に加えたいと思うのが心情だろうに。


『正解! あたしもそれでピンと来たんだ。あの子が持ってた人形、知ってる?』


「エリカちゃん人形だろ?」


 男の俺でも知っている。昔から根強い人気を持つ、金髪少女の着せ替え人形だ。


『そう。エリカちゃんには、ドール・ハウスっていう人形用の家が別売されてるんだけど、そこにオマケで付いてくるのが、ジョンっていう犬の人形なの」


「ちょっと待て! つまり、人形に宿った霊が、あの屋敷を使ってリアル・ドール・ハウスを再現してるのか!?」


『そういうこと。しかもタチが悪いことに、その悪霊は亜里沙ちゃんと同化してる。亜里沙ちゃんはまだ、屋敷にいるはずだよ。スタッフさんの協力で、未確認のスペースを見つけたんだ』


☆☆☆


 久城とやり取りをしている間に、車は屋敷へ到着。車を降りて柔軟運動をしていると、アッシュが隣へ並んだ。


「カズヤ。さっき話した通りでいいんだな? 俺たちとセイギの四人で、正面突破をして敵を引きつける」


「頼む。亜里沙を成仏させれば、呪印も解けるはずなんだ」


 首筋には呪いの傷跡が残っている。これを解けばシャドウと同調シンクロできる。そうなれば、悪魔相手でも充分に戦える。


「セイギも頼んだぜ」


「ふん。私は自分のやりたいようにやるだけだ。手負いの孔雀くじゃくを倒して賞金が貰えるんだ。見過ごす手はない」


 本気で賞金目当てなんだろうが、今は一緒にいてくれることが心強い。


「ミナ。準備はいいか?」


「大丈夫よ。任せておいて」


 朝霧は俺と一緒に、未確認のスペースを探す役目だ。久城は確信を持って、亜里沙がそこにいると言い切った。今はその言葉を信じるしかない。


「よし。行こう!」


 四人の姿が屋敷の中へ消えていくのを確認しながら、朝霧と裏手へ回り込む。

 依頼人から事前に借り受けていた合い鍵で勝手口の施錠せじょうを解き、通信機のスイッチを入れた。


「中の様子はどうですか?」


『四人の姿が消えました。どうやら、魔空間まくうかんが展開されたようです』


 オペレーターの言葉を確認し、俺たちは目的の場所へ走った。敵に気付かれる前に亜里沙を探し、切り札を取り戻す。


 やってきたのは、一昨日に戦いを繰り広げたフィットネス・ルームだ。先日の戦いの傷跡がまだ真新しい。


 憑依ひょういされた朝霧のツルが抉った壁の穴。桐島きりしま先輩や黒薔薇が激突して、無惨に砕けたガラス壁。未確認スペースはここに隠されている。


「かくれんぼに選ぶほど、馴染み深い場所だったというわけね」


「そういうことだろうな」


 この間は気付かなかったが、黒薔薇が激突したことで、未確認スペースへのドアがあらわになっていた。折り戸のように、ガラスを開閉できる仕組みらしい。


 ドアに手を掛けようとしたその時、不意に背後へ霊力が生まれた。怒りと憎悪の渦巻く淀み濁った力が。


(右に逃げろ!)


 脳内へ響いたシャドウの声。それに従い咄嗟に横へ。今まで俺がいた場所を、霊力の矢が一閃した。


「その扉に触らないで」


 低く冷たい三重奏が響く。


「出やがったな……」


 部屋の入口には、長弓を手にした桐島先輩の姿があった。

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