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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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25 どうすんだ? 孔雀女が倒せねぇ


 突如現れた悪魔により、アジトの作戦本部は対応に四苦八苦していた。


 セレナは巨大スクリーンを睨み、オペレーターへ指示を飛ばす。その隣へ、他人事のような顔をしたカミラが並んだ。


「みんなの基礎データ、見せてもらったわよ。あの懸賞金システムはあなたが考えたの? なかなかおもしろいじゃない。全員のある程度の力量も分かるし」


 二人の視線の先には壁一面を覆う巨大スクリーンがある。それは三分割され、戸埜浦とのうら邸、宝石店、十九代目を追った、それぞれの映像が映し出されている。


「カズヤ220万。セイギ310万。ミナ190万に、サヤカが175万。セイギが抜きんでているのね。シュンは200万だけど、この差はなに?」


「悪魔との戦闘経験の差ですよ。十九代目はそれが少ないんです。訓練室で幻影相手の特訓はしていますが、実際に戦ったのは下位悪魔ロー・クラスとの一戦のみです」


「ふ〜ん。総合力では二十代目の方が優秀なのね。それに、ボウヤの謎の力。限界突破リミット・ブレイク? 地上の人間が、まさか中位悪魔ミッド・クラスを倒すなんてね。しかも一人で」


「はい。並の霊能戦士れいのうせんしが二、三人がかりでようやく倒せる相手ですからね」


 セレナにとっても未だに信じられない事実。例えそれがA-MIN(エー・マイン)の覚醒による物だとしても、そこまで急激な力の上昇が起こるとはどうしても思えなかった。


 その時、戸埜裏邸の玄関を移し出すモニターへ、クレアの姿が映り込んでいた。


★★★


 ミナが引きずり込まれた先は、リビングの隣にある二十帖以上の洋室。壁際に大きなアンプスピーカーが置かれていることから、シアタールームのようだ。

 彼女の身長を超えるハイサッシ。そこから差し込む夕日が室内を茜色に染める。


 二人は三メートル程の距離で睨み合っていた。ミナにしてみれば、自分の母親とこんな形で相対する時が来るなどまったく想像していなかったに違いない。


「くらえっ!」


 悪霊へ向けた装飾銃そうしょくじゅうからピンポン玉ほどの霊力弾れいりょくだんが飛ぶ。しかし、敵はその弾道を見切り、体を捻ってやり過ごした。


 だが、それに動じるミナではない。敵の体制が崩れた隙を狙い、右手に持った銃を背後へ向ける。


「モーブ・シュート!」


 薄紫の弾丸が射出されると同時に、それは推進力を生み出した。彼女の体は浮き上がり、敵との間合いを一気に詰める。


 悪霊は突然のことに反応が追い付かない。肩から飛び込んできたミナの体当たりを脇腹に受け、床へ倒れ込んだ。


「とどめよ!」


 至近距離から顔面を狙った狙撃。しかし悪霊は床を転がりそれを避け、ミナへ伸ばした手から衝撃波しょうげきはを繰り出した。


 咄嗟に腕をバツの字にしたミナ。その体が弾き飛ばされ、背後の壁へ激突する。


「詰めが甘いね。お姉ちゃん」


 母の姿をした悪霊が、したり顔で身を起こそうとする最中、ミナはその表情に不快感をあらわにしてつぶやいた。


「その言葉、そっくり返してあげるわ」


 悪霊が床へ手を突いた瞬間、淡いベージュの光が彼女を円形に取り囲む。

 轟音と共に光の洪水が天井へ伸び、断末魔の悲鳴ごと敵を飲み込んでいた。


「言っていなかったわね。さっき避けられた弾丸は、アイボリー・シュートよ」


 悪霊は、地雷さながらに用意されていた攻撃にまんまと引っかかったのだ。


 乱れた髪を整えたミナは、アジトで浄霊じょうれいを行うため、ポーチから取り出した封印の腕輪を悪霊の手首へ填めた。


「これでいいわね。そういえば、カズヤたちはどうしたのかしら?」


 直後、その胸元を一筋の閃光が貫いた。


 声を上げることも忘れたミナ。床へ両手を突いてどうにか体を支えると、閃光の襲ってきた方向へ視線を向けた。


「どうして、あなたが……」


★★★


 戸埜浦とのうら邸の二階を再現した魔空間まくうかんの中、カズヤと孔雀くじゃく悪魔の戦いが続いていた。


 悪魔が腕を振り回す度、そこから数枚の羽根が襲い来る。何度目かになるその攻撃を、カズヤは余裕の仕草で避ける。


「どうした孔雀女? そんな羽根じゃ、俺を倒すなんてムリだぜ」


「あら? そうかしらね?」


「こっちには時間がねぇんだ。さっさと終わりにさせてもらうぜ!」


 続け様に襲い来る羽根を、即座に展開した霊力壁れいりょくへきで防ぐ。敵の懐目掛けて飛び込み、横なぎの一閃が腹部を狙う。


「よっと!」


 悪魔が手にした一枚の羽根が展開。盾のように大きな扇を形作った。

 刃と扇がぶつかり合い、甲高い音を響かせカズヤの一撃がいなされる。


 悪魔は扇の角度を変えて剣先を受け流し、それをカズヤ目掛けてフリスビーのように投げつけてきた。

 横へ飛び、難なく避けるカズヤ。すぐさま次の攻撃へ移ろうという矢先、シャドウの勘が背後に何かを感じ取った。


「くっ!」


 背後へ先程の扇が迫っていた。慌てて剣を眼前に構え、真っ向から受け止める。

 両腕に重い衝撃。そのまま扇の回転方向へ腕を持って行かれながらも、どうにかそれをはね除けたのだった。


 だが、ビリヤードをするように、壁の反射を利用して扇が再び襲い来る。


「ざけんなっ!」


 剣を上段から振り下ろすも、扇を破壊することができない。


「ハハハッ! さぁ。踊りな!」


 背後から孔雀女の嘲笑ちょうしょうが響き、視界の端に二枚目の扇が繰り出される。


(シャドウ。なんとかなんねぇのか!?)


(だから言ってるだろーが。今の俺の力は二割程度だ。いつもなら、こんなカス悪魔は秒殺だが、そうもいかねー)


 カズヤは大きく舌打ちしながら、二枚の扇をどうにか避け続ける。


(カズヤ。荒技だが、これしかねー)


 脳内に響くシャドウの声に従い、カズヤは悪魔を目掛けて走りながら、霊力球れいりょくきゅうを連射する。霊力の消耗が気になるが、そうも言っていられない。


 だが、それらは悪魔に擦ることもなく、テーブルや棚を破壊しながら、次々と背後の壁に炸裂しては消滅する。


「くそっ!」


 毒づきながら目の前の悪魔に狙いを定め、剣を袈裟斬けさぎりに振り下ろす。


 悪魔は余裕の仕草でカズヤの頭上を飛び越え、背後へ回り込む。それを目にしたカズヤの口元がわずかに緩んだ。


「イレイズ・キャノン!」


 横なぎに振り払った剣の軌跡に沿って、三日月型の霊力刃れいりょくがが飛ぶ。それが悪魔の背中を斬りつけると同時に、二枚の扇はカズヤの背後の壁へ突き刺さった。

 敵の背中へ駆け込むカズヤ。その右手へ、再び霊力の光が灯る。


「イレイズ・キャノン!」


 霊力球を受けた悪魔が、ダイニング・テーブルを破壊しながら床へ倒れた。


「仕掛けは見切ったぜ。扇は羽根を介して反射させないと使えねぇんだろ?」


 それはまさに、シャドウの経験から導き出された答えだった。相手を狙うフリをしながら、背後の壁に設置されていた羽根を狙っていたのだ。


「よくも私の体に傷をつけてくれたね!」


 怒りに震え、素早く身を起こした悪魔が両腕を突き出した瞬間だった。


 悪魔の頭上にあった魔空間がガラスを割ったように砕け散り、コマのごとき激しい回転を伴う赤い渦が飛び込んできた。

 雨のように降り注ぐ魔空間の欠片と共に、赤い渦が悪魔のかたわらへ着地する。


螺旋円舞らせんえんぶほむら


 両手へ短剣を逆持ちに構えたクレア。その言葉と同時に、雌孔雀の右肘から先が黒い霧となって消滅していた。


 魔空間まくうかんを切り裂くような悪魔の悲鳴。クレアは立ち上がり様に素早く悪魔を組み伏せ、カズヤへ視線を向ける。


「カズヤさん。とどめを!」


「あぁ。分かった!」


 一瞬の出来事に呆然としていたカズヤはすぐさま我に返り、剣を構えて走った。

 だが、その行く手を遮るように、彼の眼前を一本の矢がかすめてゆく。


 慌てて視線を向けたカズヤは、あまりの衝撃に大きく目を見開き、その場に硬直してしまった。唾を飲み込んだ喉からは、言葉にならない息が漏れるのみ。


「ダメ、ダメ。そんなんじゃ動物虐待になっちゃうよ。とかいうのかな? このお姉ちゃんだったら……」


 魔空間を通り抜け、突如現れた人物。見紛うことなきその姿はレイカだ。


「てめぇは、セレブ女に憑依ひょういしてたはずじゃなかったのかよ!?」


「あははは! あれは囮。憑依させた悪霊に私のマネをさせただけ。どう? ゲームのラストに相応しいでしょ?」


 レイカの顔が悪意の笑みに歪む。

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