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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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17 大切な仲間


 柔らかな風が駆け抜け、二人の間を沈黙が支配した。一瞬のはずなのに、時間が凍り付いてしまったような錯覚がする。


 息が苦しい。先輩の腕を掴んだまま、次の行動が見付からない。


 俺を見つめていたはずの先輩の視線が足下を漂い、その仕草に言いしれぬ不安が胸をぎった。

 先輩の答えを知りたいはずなのに、何も聞きたくない。耳を塞いでこの場を逃げ去り、無かったことにしたい。


 全てを失うような恐怖が襲う。調子に乗って告白なんてするんじゃなかった。俺はなんてバカなんだ。


神崎かんざき君の気持ちは嬉しいんだけど……そんな風に想ってくれてたなんて全然気が付かなかった。なんだか、仲の良い弟みたいに思ってたんだ……」


「弟?」


「ごめん、ごめん。怒らないで。でも本当に、今は誰かと恋愛をするとか、そういうこと考えられないんだ。具現者リアリゼーターとして、がむしゃらに走ってきたから」


「でも、俺たちが引き継ぐんスから、もうすぐ引退っスよ。だったら考えを変える気になりませんか?」


「ゴメンね……」


 かけるべき言葉が見付からない。でも、何か突破口があるはずだ。


「彼氏はいないって聞いてたんスけど、もしかして気になる人がいるとか? それとも、朝霧あさぎりに気を遣ってるとか?」


 言葉は空しく吹き流されて。先輩はうつむいたまま、顔を上げようともしない。


「なにか言ってくださいよ……」


「君のことは本当に大切な仲間だと思ってるんだよ。でも、それ以上でも、それ以下でもないの……」


 大きく息を吐き出し、気持ちを落ち着けながら先輩の腕をそっと放した。そしてこの瞬間、俺たちの繋がりも途端に断ち切れたんだと実感した。


「それが先輩の選択ってことっスね。でも、俺の運命の歯車は回り始めてる。絶対にあきらめません。先輩が引退した後、必ず新しい選択肢に、俺と付き合うっていう項目を加えてみせますから」


 今はここまでを伝えるのが精一杯だ。それに、これ以上先輩を困らせるようなことはしたくない。


「私も自分の気持ちときちんと向き合ってみるよ。正直、君と過ごすのもまだ二日目なんだよ。自分の中でも恋愛感情まで昇華できてないと思うんだ」


「そうっスね。勝手に片想いして、先輩のことを分かったつもりでいただけなのかも……まずは友達からってことで」


 クレアのことを言える立場じゃない。


「友達じゃなくて、仲間。でしょ?」


「はい……」


 無理に微笑んでみせたが、そんなことはお見通しだろう。心臓をナイフで抉られたように胸が苦しい。気が狂いそうだ。

 今ここで、先輩を押し倒してでも手に入れたいという破滅的な衝動が襲う。


 だがその時、そんな感情に待ったをかけるように、通信機へ赤いライトが灯った。受信を知らせる信号だ。


 重苦しい空気に耐えられなかった俺には、まさに天からの救いだ。何のためらいもなく通信ボタンを押す。これが、完全崩壊へのスイッチとも知らずに。


「カズヤです」


『まだ近くにいる?』


 切羽詰まったセレナさんの声。


「どうしたんスか? もうすぐ駅に着くところっスけど」


『ミナが勝手にアジトを抜け出して、自宅へ向かったそうなの。追って!』


「いや。話がサッパリ見えないんスけど」


『リーダー、あたしだけど!』


 突然、久城くじょうに切り替わった。


『検診が終わった後、二人で生命維持装置を覗いたの。そしたら、鬼島きじまさんと一緒に運ばれてきた女の人、ミナちゃんの家のお手伝いさんだったんだよ!』


「は!? どういうことだよ?」


 ダメだ。訳が分からない。それに今の精神状態じゃ、まともな判断もできない。


『ミナちゃん、慌てて飛び出して行っちゃったの。あたしもこんなだし、霊能戦士れいのうせんしのみんなも余計な霊力れいりょくを消耗できないから、状況を見てからじゃないと動けないって言うし。どうしたらいいの!?』


「落ち着けって! 俺が行くから、あいつの家の住所をメールで送ってくれ!」


 思わず舌打ちが漏れる。やはりまだ終わっていないということなのか。でも、どうして朝霧あさぎりばかりが狙われるんだ。


「私も一緒に行くわ」


「いえ。一人で大丈夫っスから」


 心配そうな顔をする先輩を留める。正直、これ以上一緒にいるのは苦痛だ。今は一人にして欲しい。


 駅前のロータリーでタクシーに乗り込み、朝霧の自宅の住所を告げる。隣の駅だ。ここからなら十五分程度だろう。


 シートに深くもたれながら大きく息を吐いた。ようやく人心地ついた気がする。

 今更ながら、取り返しの付かないことをしてしまった後悔が込み上げてきた。告白なんてしなければ、これまで通りでいられたはずなのに。大切な物を自分自身で壊してしまった。


「でもこれが、俺の選んだ選択……」


(随分、辛気臭せぇ顔してんなぁ)


 突然の声に驚き、思わず辺りを見回してしまった。この声はまさか。


(シャドウなのか!?)


(おうよ。数日ぶりだな。おめーがあのお嬢ちゃんから悪霊を払ってくれたお陰で、呪印じゅいんの力が軽減されたんだ。ようやく会話ができるほどには回復したぜ)


(軽減? ってことはやっぱり、呪印は消えてないんだな?)


(そういうこった。まだ終わりじゃねー。女に振られたからって、落ち込んでる場合じゃねーんだよ)


(それを言うなって……)


(あのお嬢ちゃんでいいじゃねーか。俺はあいつの方が断然好みだぜ)


(おまえの意見は聞いてねぇ)


 こいつは朝霧が好みだと前から言っている。ああいう気の強い女を屈服させて、自分色に染めるのが最高なんだと。


(お嬢ちゃんと付き合ってくれりゃあ、俺もおめーの体を借りて一発できるってもんだろ? なぁ。そうしろよ)


(ざけんな! 誰がそんなことするか!)


 勝手なことばっかり言いやがって。


(ヒャッハッ! 体を借りるっていやぁ、呪印が消えるまで同調シンクロできねーからな。おめーの力だけでなんとかしろ。セイギの小僧にまで負けるなら、呪印の肩代わりなんてしなきゃ良かったぜ)


(一応、状況は分かってるんだな?)


(ったりめーだろ。会話できねーってだけだ。アジトには入ってねーけどな)


 だが、一つ引っかかる。


(さっきの戦いの最中、おまえの霊力を感じたんだ。あの時確かに、同調シンクロと同じ感覚を味わったんだけどな)


(俺も驚いたぜ。逆同調ぎゃくシンクロってところか? 俺の力を無理矢理取り込みやがったな。まぁ、呪印で力を押さえられてるし、せいぜい二割程度の力しか出せねーけどな)


(そんな方法があるなら早く言えよ!)


(俺も知らなかったんだ! まさか、おめーがそんなことまでできるなんてな。でもそんなこと言ってっけど、おめーが自分の力で乗り越えなきゃ意味がねーんだろ? 分かってんだぜ。)


 全てお見通しというわけか。


(でも、セイギは一筋縄じゃいかねーだろうな。あいつは俺と同じ臭いがする)


(どういう意味だよ?)


(まぁ、いずれ分かるだろーよ)


 突然、ポケットの中の携帯が振動した。慌てて取り出しディスプレイを確認するが、なんとそこには朝霧の名前が。


 胸騒ぎを覚えながら通話ボタンを押す。


「どうした!?」


 長い沈黙。車の走行音だけがいやに大きく聞こえる。


「おい、朝霧! 聞いてんのか!?」


「カズヤ。助けて……」


 弱々しい息づかいと短い言葉だけを残し、通話は突然に途絶えた。


 一体、何が起こってるっていうんだ。


☆☆☆


 程なくして、窓の外へ延々と伸びる垣根かきねが現れた。

 タクシーは徐々に速度を落とし、古風な木製の門扉もんぴの前で停車する。


「着きましたよ」


「え?」


 思わず声が裏返る。そこはまさしく純和風の大豪邸だ。表札には確かに朝霧と書かれているのが見える。


 支払を終えて門扉の前へ立つと、開け放たれたままになっていた。玉砂利たまじゃりへ等間隔に置かれた敷石しきいしの上を進んでいくと、日没迫る夕日に照らされた荘厳そうごんな日本庭園が眼前に広がった。


「なんなんだよ……」


 駆け込んだ俺を待っていたのは、とても信じられないほどの壮絶な光景だった。


 そして、完全崩壊の瞬間は訪れる。

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