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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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14 ふざけんな! 誰が居場所を奪うって?


「なんなんだよ。この力は?」


 朝霧あさぎりの体へ蛇のように巻き付く黒い気体。それが半透明の黒薔薇を形作り、彼女を覆い隠した。更に、薔薇を守るように棘の付いたツルまでもが幾本も。


 朝霧の体を飲み込んだ巨大な一輪の黒薔薇。これがあいつの闇なのか。


「ねぇ、ねぇ。これ、どういうこと!?」


 隣へ、長弓を手にした桐島きりしま先輩が並ぶ。


「サヤカが言ってたんスよ。ミナの心の奥に闇があるって。きっとこれが……」


 ようやくここまでこぎ着けたと思ったのに、この余りにも禍々しい力を目にして心が折れかかっている。


「私は誰……何のために生きてるの?」


 それはいつもの三重奏などではなく、確かに朝霧本人の声となって響いた。


「誰も本当の私を見ていない。私を必要としない。居場所はどこにもない……」


 重苦しい、心の底から響く声。


「ようやく掴みかけた具現者リアリゼーターという私の居場所。特別な私にしかできない特別なこと……私は自分の力だけで、存在意義を証明しようとした……」


 黒薔薇の中から、切れ長の目が射殺すように睨み付けてくる。


「それがどう? カズヤにセイギ。私の聖域に土足で踏み込んで、居場所を奪おうとする……許せない!」


「俺が、おまえの居場所を奪った?」


 初めて聞く胸の内。俺の心を動揺という名の魔物が瞬く間に浸食してゆく。

 俺は俺の目的のために進み続けていたはずだった。そのことが朝霧をこんなにも追い詰めていたなんて。 


 噛みしめられていた朝霧の口元が、不意に悪意に満ちた微笑みへ変わる。


「お願いだから、消えてよ」


 綱ほどもあろうかというツルの一本が、言葉と同時に襲ってきた。

 真正面から迫るそれを剣で払おうと振り抜くも、逆に体ごと横へ弾かれる。


 なんて威力だ。直撃をうけようものならひとたまりもない。ツルには無数の棘も生えている。ドリルのように体を抉られでもしたら間違いなく致命傷だ。

 それを裏付けるように、軌道を逸らされたツルが、部屋の壁を易々と貫通しながら中庭へ飛び出した。


「これじゃ近付けねぇ。どうすればいい」


 シャドウがいてくれたら。あいつの力があれば、この状況を打破できるのに。


「カズヤ君。少し時間を稼げる? 切り札を出すしかないみたい」


「切り札?」


 その間にも正面から二本のツルが襲ってくる。二人で左右に飛び退き一本をやり過ごしながら、先程と同じようにもう一本の軌道を剣撃でねじ負ける。

 防戦に回るだけならどうにかなるものの、それでは状況は変わらない。


「ケガには気をつけてね。今の私に治癒能力は使えないから!」


「どういうことっスか?」


 俺の声など聞かず、先輩は両手を突き出して身構えた。


「運命の歯車から弾き出されたあなたに未来はない。ここで引導を渡してあげる」


 何をするつもりか分からないが、今は先輩を全力で守るしかない。


 その隣へ並び、霊力壁れいりょくへきを展開する。


大蛇おろち!」


 先輩の背中。肩甲骨けんこうこつへ沿うように、四頭ずつ合計八頭の大蛇が具現化ぐげんかした。

 一頭でもかなりの大きさだ。その胴体は、我が家の炊飯器ほどもありそうだ。


 朝霧は攻撃を警戒したのか、全てのツルを束ねて棘の丸太を作っている。さすがにあれは霊力壁れいりょくへきでも防げない。


「イレイズ・キャノン!」


 霊力球れいりょくきゅうを放つも、ツルの一本を引き千切るのが精一杯だ。棘の束が、俺たちを目掛けて繰り出される。


「行けっ! 天照あまてらす大蛇八式おろちはちしき!!」


 先輩の背へ具現化した八頭の大蛇。ぶつかりそうなほど顔を寄せ合い、大きく開いた口から霊力の砲撃を吐き出した。


 八本の砲撃が混じり合い、棘の丸太を超える太く青白い光の柱となって、敵の攻撃を打ち砕く。

 その勢いは止まらない。霊力の砲撃はツルを薙ぎ、黒薔薇の本体を直撃した。


 黒薔薇は背後の鏡へ激突し、破砕音と共に飛び散る鏡の破片。霊力の青白い光と夕日の朱色を照り返し、光り輝く粒となって眼前を華麗に舞った。

 そこへ黒が混ざった。砕けた薔薇の花片はなびらまでもが欠片となって宙を舞う。


 だが、さすがに全てを破壊するのは無理だったようだ。朝霧の姿を確認することができる厚みを残し、砲撃は消滅した。


 俺の霊力球れいりょくきゅうとは違う持続型の放出。しかもあれだけの規模の攻撃だ。先輩のMINDマインドは残っていないはず。それを裏付けるように、大蛇も消滅してしまった。


「チャンスはここしかないわ!」


「はいっ!」


 額に汗を滲ませ肩で息をする先輩を横目に、剣を手にして走った。

 黒薔薇の中に見える朝霧は、今の一撃を受けてうな垂れている。気を失ってくれていれば絶好のチャンスだが。


「だらあっ!」


 黒薔薇へ剣を突き立てるも、外側の花片はなびら一枚を砕くのが精一杯だ。


「くそっ!」


 絶対にあきらめねぇ。二度、三度と突き刺すが、そう易々と朝霧に会わせてくれそうもない。そして、四度目の攻撃で刃の先がわずかに食い込んだ。


「消えてって言ったわよね?」


 うな垂れていた朝霧が不意に顔をもたげ、深い闇をたたえた瞳と目が合った。

 直後、背筋を這い上がる悪寒。飲み込まれそうに深いその闇に体が動かない。


 どこから現れたのか、一本のツルが右方向から襲いかかってきた。

 慌てて剣を引くが、黒薔薇に突き刺さったままのそれはビクともしない。


「くそっ!」


 間に合わない。咄嗟に右腕を上げ、顔の前へ持ってきた。片腕はくれてやる。


「シューティング・スター!」


 そこに聞こえた女神の声。恐る恐る腕を降ろすと、目の前数十センチのところでツルの動きが止まっている。

 見れば、先輩の放った光線は幾本かの糸と化し、ツルを見事に絡め取っていた。この技は分裂型の霊力糸れいりょくしだったのか。


「ジャマしないで!」


 更に死角から現れた別のツル。それが狙い違わず先輩の左脇を打ち付けた。

 目の前で先輩の体がツルに運ばれ、鈍い音を立てて壁際の鏡へ激突。その体が床へ崩れ、鏡には大きな亀裂と共に赤い物が付着する。


 直後、暴れ出した心臓が大きく震えた。一瞬で全身の血液が沸騰したように体の芯が熱くなり、スローモーションのように周囲の動きが遅くなる。


 背後に何かの気配がする。わずらわしく思いながら虫を払うように左手を振るうと、千切れた一本のツルが宙を舞っていた。


 心臓が大きく脈打った瞬間、それを確かに感じた。砂時計のくびれた場所を流れる砂のように、体の奥底へ微かに流れるもう一つの力を。

 藁にもすがる想いでその微かな流れを感じ取り、神経を集中し、同調シンクロさせた。   

 その一瞬は我ながらまさに神速。この一ヶ月の特訓の賜物たまものだ。この力こそ、失ったと思っていたシャドウの力の欠片。


 栓を抜いたように溢れる力。悪魔と戦った時の勢いはないが、今はこれで充分。


「消えろ! 消えろ! 消えろ!」


 再生したツルが次々と襲いかかって来るが、こんなものは避けるまでもない。

 目の前へ展開した霊力壁れいりょくへきに衝突し、その場でことごとく朽ち果ててゆく。


 悪あがきをするいたずらっ子を叱り付けるように、目の前の朝霧を見る。


「ムダだ。この程度の力で、俺を止められるなんて思うなよ」


 右手で霊力壁を展開しながら剣を投げ捨て、左拳へありったけの力を込めた。


「ミナ。てめぇは大きな勘違いをしてる。居場所を奪うとか奪われるとか、どっちが上だの下だの、俺たちの間にそんなもん、あるわけねぇだろうがあっ!」


 あいつの心に訴えながら、目の前の黒薔薇を思いきり殴りつけていた。

 黒い破片が飛び散り、朝霧か悪霊のものか分からない苦悶の叫びが上がる。


 黒薔薇の前面は崩壊。拳の先へ朝霧の上半身が剥き出しにされたまま、鏡の割れ落ちた壁へ激突する。

 花片はなびらは粉々に砕け、床へ横たわる朝霧だけが残されていた。


 一歩ずつ確かめるように近付きながら、横たわる朝霧の側へ膝を突いた。

 眠ったように動かない朝霧。その頬へ手を伸ばし、包み込むように触れる。


「ミナ。おまえの居場所はここにある。俺たちはいつだっておまえの帰りを待ってるし、必要としてるんだ……」


 きっと朝霧に届いている。そう信じて必死に訴えていた。

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