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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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11 膝枕。俺の希望は爆様で


「身体的なダメージはないから、もう少しで目を覚ますと思うけれど……」


 遠くから、囁くような声が聞こえる。


「身体的なダメージはないって、セイギ君にごく、殴られてましたよ」


「打撃系の霊撃れいげきも原理は一緒。お互いの体が霊力の膜に包まれているような状態なの。体に触れる寸前で攻撃は止まり、霊体だけが損傷を受けるの。分かる?」


 なんだか、ゴチャゴチャとうるさい。頭の下には心地よい温もりと、ザラザラした妙な感触がある。なんだコレは。


「サヤちゃんへ更に分かりやすく言うと、カズ君はあれだけ殴られてもケガがない。でも、SOULソウルは残り30。剣で切られても血が出ないのと同じ原理よ」


「つまり、切っても殴っても体は大丈夫ってことなんですね?」


「そういうことね」


 どうやらセレナさんと久城くじょうの声らしい。

 とりあえず、今はまだマッタリしていたい。攻撃を受けた腹部に違和感がある。


 顔をわずかに横へ向けると、頬へ当たるザラリとした感触と温もり。だからこれは何なんだ。それにいい香りがする。


「あんっ! くすぐったいってば……王子様、お目覚めみたい。私のキスが無くても起きられたみたいね。残念……」


 この鼻にかかったような甘い声。まさかの展開に再びハッキリと覚醒する。

 慌てて上半身を起こすと、背後にはカミラさんの姿が。まさかの膝枕なのか。


神崎かんざき君。大丈夫?」


 左手には、心配そうな眼差しを向けてくる桐島きりしま先輩。俺の腹部には、巻き付けられた羽衣はごろもが青白い光を放っていた。


 どうせなら、先輩の膝がよかった。


「カズ君。派手にやられたわね」


「でも、惜しかったよ」


 右手には、セレナさんと車椅子の久城。

 これだけの美女に取り囲まれて眠っていたことが、たまらなく恥ずかしい。


 あのまま気を失っていたようだが、変な寝言とか言わなかっただろうか。


「ボウヤの寝顔、可愛いかったわぁ。私は負けてくれて得した気分」


 エロ姉さんは、俺の右方向へゆっくりと歩いていく。


「そ・れ・と・も、こっちのお姉さんの、やわらか枕の方が良かったぁ?」


 突然、セレナさんの背後から手を回し、そこにある二つの爆様を鷲掴む。いや。正直その大きさを持て余し、掴むことは不可能だ。手の平に乗っているという表現の方が正しい。恐るべし爆様。


「きゃっ! ちょっとカミラさん! どこを触ってるんですかっ!?」


 その圧倒的ボリュームを前にして、思わず喉が鳴った。


「ねぇ。また大きくなったんじゃない? やっぱりこの弾力、クセになるわぁ」


 セレナさんは悲鳴を上げ、後ろにしがみつくエロ姉さんを引きずりながら訓練室の奥へ消えていった。


 まずい。爆様に気を取られて、先輩がいることをすっかり忘れていた。スケベな奴だと思われたらショックだ。


「ところで、オタクは?」


 思考回路をシリアス路線へねじ曲げる。


「約束通り、私の好きにさせてもらうぞ、って出て行っちゃったよ。担当中の連続失踪事件を追い続けるみたい」


「やっぱりダメか。あいつの考えを変えるなんてムリだったか……」


「ねぇ、ねぇ。二人ともいい?」


 先輩が、俺と久城を交互に見ている。


「私にはよく分からないんだけど、彼はどうしてあんな風になっちゃったの?」


「どうしてって、元からあんなっスけど」


「最初からアレはないでしょ? 何か切っ掛けがあったんじゃない?」


 切っ掛け。その言葉に、初めて会った時のことを思い返してみた。


 確かに、オタクという色メガネでくくり、あいつを遠ざけていたのは俺自身だ。知らず知らずに壁を塗り込め、その距離を大きくしたのも俺。


 第一声はなんだった。確か、友好の印にドライバー・グローブを渡そうと歩み寄ってくれていたはずだ。それを拒絶し、最初に壁を作ったのは紛れもなく俺だ。


 オタクを。いや、セイギを受け入れない限り、本当のチームワークなんて生まれるはずがなかったんだ。


「あいつを遠ざけたのは俺なのか?」


「リーダーだけじゃないよ。美奈みなちゃんだって、セイギ君のことを嫌ってる。あたしたちは上辺だけのチームなんだよ。見て見ぬふりをしてたのはあたし……」


 言葉と気持ちを見失い、沈黙が訪れる。


「ほら、ほら。過ぎてしまったことにクヨクヨしても仕方ないよ。それが君たちの選択だったんだよ。次にどうするかを考えるのが先決でしょ」


「次の選択ってことっスか?」


「そういうこと。でも、彼が戻らない以上、私たちで何とかするしかないけどね」


 先輩のウインクに心臓を射貫かれた。


 もう死んでもいい。そんなことを思っていると、息を切らせたセレナさんが、爆様を盛大に揺らしながら戻ってきた。


 もの凄い迫力。あまりの有り難さに、手を合わせて拝みたいくらいだ。


「三人で神妙な顔をしてどうしたの?」


「次の動きを話し合ってるんスよ」


「なるほど。レイちゃんから報告は聞いているわ。霊眼れいがんで映像も確認済み。カズ君が気を失っている間に、運ばれた男性の身元も判明したわ。彼が鬼島きじま阿揮羅あきらよ」


「鬼島。あいつが!? 女性は?」


「そっちは調査中。まだ分からないわ」


 ますます混乱してきた。


「悪霊は、パパとママって呼んでたんスよ。どうして鬼島が?」


 セレナさんが首を傾げる。


「おかしいわね。あの館に住んでいたのは、純一郎じゅんいちろう夫妻と、孫娘の亜里沙ありさの三人。孫娘の両親は、事故で他界しているのよ」


「意味が分かんねぇ……」


 思わず頭を掻きむしる。


 第二ステージを用意するためだけに、わざわざ刑務所へ鬼島を攫いに行ったんだろうか。その必要性が分からない。なぜ、鬼島を選んだんだ。それにもう一人の女性も気になる。一体、誰なんだ。


「とりあえず、女性の身元確認も急いでください。何か分かるかも……」


「今日は解散しましょう。鬼島も保護したことだし、ボスの記憶操作の力を借りて、彼が再び捕まったという情報を人々へ刷り込んでおくわ」


 訓練場の出口で、カミラさんと目が合った。どこから持ってきたのか、棒付きのキャンディを口に咥えている。


「ボウヤ。あまり気を落とさないことね。早ければ明日にも、私の部下たちが到着するわ。お姫様奪還に協力するわよ」


「ありがとうございます」


「つらかったら、メディカル・ルームへいらっしゃい。待ってるわぁ」


 そう言って、V字の胸元に指をかける。


 やわらかそうな膨らみが見えるんですが、もしやノーブラですか。


「カミラさん!」


 背後からセレナさんの叱責が飛び、叱られた子供のように肩をすくめる。


 ロビーでセレナさんたちと別れ、先輩と共に夢来屋むらいやの裏口へ出た。

 携帯の時計は二十時過ぎ。暑さも多少和らぎ、虫の鳴き声が聞こえてくる。


 二人で他愛もない話をしながら、駅へ向かって歩いている時だった。

 隣を歩いていた先輩が不意に俺を追い越し、後ろ手を組んだまま振り返った。

 肩まで伸びる髪と整った顔が、月光を受けてまばゆいシルエットを見せつける。


「ねぇ、ねぇ。神崎かんざき君。明日、ヒマ?」


「日曜だし、特に予定ないっスけど」


 嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。


「よろしい。あのね、あのね。明日、買い物に付き合って欲しいんだけど」


 心臓が止まりそうなほどの衝撃的な言葉。まさかそれって。


「デートのお誘いっスか!?」


「ん〜。惜しいかなぁ。なんか君のこと見てたら放っておけなくってね。全部背負い込んでつらそうなんだもん。二人で気晴らししようよ!」


 なんなんだ。デートじゃないなら、なんなんだ。


「分かりました。デートじゃなくてもいいっスよ。勝手にそう思い込みますから」


 先輩は楽しそうに笑っている。 


「もう少し肩の力を抜いたら? 人生なんて、そう思う通りに行かないって」


 携帯番号とメールアドレスを交換し、俺は有頂天になっていた。オタクという貴重な戦力を失い、明日の決戦に向かわなければならないというのにだ。


 でも、今はそんなことも忘れてしまおう。これがベストな選択だったんだと、自分自身に言い聞かせながら。

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