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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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10 平行線


朝霧あさぎりが消えた……」


 二階を見上げてみたものの、何の気配も感じない。静寂だけが辺りを包み、俺たちが訪れる前の状態を取り戻している。


「ふん。逃げられたのか?」


 玄関扉の側には、いつの間にかオタクの姿が。どうやら虎も片付いたようだ。


「この二人、悪霊に憑依ひょういされている以外に呪印じゅいんまで……ミナも追跡できないし、アジトへ戻って浄霊じょうれいを進めるしかないわね」


 先輩は表へ出ると、通信機で移動車の手配を進める。さすがに手際が良い。

 その横顔に見とれていた時だ。


「ちょっといいか?」


 オタクが声を掛けてくるなんて珍しい。


「どうした?」


「あんなガキの遊びに付き合うのは時間のムダだ。今の戦いで分かっただろう。貴様らだけで対処できるレベルだ」


「は? なに言ってんだよ?」


「懸賞金がどれだけかも分からない。これ以上は無意味だと言っているんだ」


 ヒーロー・スーツを解除し、カツラとサングラスで変装したいつもの姿へ戻る。


「無意味だと? ミナだけじゃねぇ! サヤカと俺の命にも関わるんだぞ」


「勝手に吼えていろ。そもそも、自分たちの不注意と力不足が招いた結果だ。それをもっと自覚したらどうだ? ケツを拭かされる、こっちの身にもなってみろ」


 相変わらず頭にくる奴だが、言っていることには筋が通っている。


「力不足が分かってるから、協力を頼んでるんだ。それが仲間じゃねぇのかよ?」


 サングラスを指で押し上げ、鼻で笑う。


「都合の良いようにその言葉を使うんだな。リーダーの権限か? そういうのをパワー・ハラスメントと言うんだろう?」


「なんだと?」


「なに? なに? どうしたの?」


 通信を終えて戻ってきた先輩は、俺たちの間に漂う不穏な空気を感じて怪訝けげんそうな顔をしている。


「なんでもありません」


 だが、オタクは止まらない。


「どうしてもと言うなら、貴様らの賞金を分けろ。協力を考えてやってもいい」


 どこまでも腐ったヤツだ。


「そんなに金が大事か!?」


「金は裏切らないからな」


 こんな奴に頼っていたなんて情けない。もっとマシな男だと思っていたのに。


 俺はある決意を秘めてオタクを見た。


「アジトに戻ったら勝負しろ。俺が勝ったら、言うことを聞いてもらうからな」


「ほぅ。負けたらどうする?」


「俺が負けたら、今後おまえのやり方に一切口出ししねぇ。どうだ!?」


「いいだろう。受けて立とう」


 オタクはそれだけ言い残し屋敷を出る。


「カズヤ君。本当にそれでいいの?」


「これしかねぇ。あいつの目を覚ます」


「このチームのリーダーは君だし、その決定に異論を唱えたくはないけど、これが君の考えたベストな選択なんだよね? 他に選択はなかったの?」


「他の選択?」


 怒りの勢いで仕掛けてしまったが、他の選択など今の俺にはない。みんなの懸賞金を動かす権限などないし、金で人の気持ちを釣るなんて納得がいかない。


「これでいいんです」


「そう。分かった」


 先輩はそれ以上、何も言わなかった。


 程なくして迎えの車が到着し、俺たちはアジトへ帰還した。


☆☆☆


 館で保護した二人を任せ、オタクと共に訓練場へ向かった。


 桐島きりしま先輩の他に、セレナさん、カミラさん、久城くじょうの姿もある。ここにいる全員が立会人だ。絶対に負けられない。


 みんなの視線を感じながら、ガラスで隔てられた先の別室へ入った。


 見慣れたこの部屋は、戦闘訓練用の個室だ。辺り一面を覆う暗闇に、空間を形作る光のフレームが幾筋も走っている。

 普段はプログラムされた立体映像と戦闘を行うのだが、今日は特別にこの部屋を使わせてもらえることになった。


 ネオンライトのような光のフレームに照らされたオタクの姿を目にして、前に言われた言葉が思い起こされた。


「オタク。俺に言ったよな? 力だけが全てという絶対正義は揺るがないって」


「言ったが、それがどうかしたのか?」


 込み上げる怒りに拳を強く握る。やはりこいつとはどこまで行っても平行線だ。決して交わることはない。


「てめぇの言う力ってのは、自分の強さを誇示するためだけのものか!? そんなもん絶対に認めねぇ!」


「だったら自分の力で証明してみせろ」


 オタクが腰を落として身構える。


「ゴースト・イレイザー!」


「変身!」


 剣を手にすると同時に、オタクの体もヒーロー・スーツに包まれた。

 こいつを負かして、俺の抱く力の定義ってヤツを証明してみせる。


 剣を眼前に構え、そのままの体制でオタク目掛けて走る。だが、接近戦で勝てる見込みは薄い。中距離から不意を突く。


「イレイズ・キャノン!」


 突き出した剣先から霊力球れいりょくきゅうが飛ぶ。


 これもシャドウから教わった戦法だ。指輪が媒介ばいかいということから手の平に限定して考えていたが、霊力れいりょくさえ通わせれば、こういったことも可能だというのだ。


「オメガ・インパクト!」


 オタクはグローブのように両拳へ霊力を纏わせた。左拳の光で霊力球を弾き飛ばし、こちらへ飛び込んできた。


 その胸元を目掛けて剣を突き出した。だが、瞬時に横へ飛び退き、それを難なく裂けるオタク。

 腰を低くして、身構えたのが見える。右拳の光が俺の腹部を狙っていた。


「シールド!」


 ドーム型に展開した霊力壁がその拳をいなし、スリップしたオタクの体が大きくバランスを崩した。


「うおぉぉぉ!」


 上段から振り下ろした俺の一撃は、オタクの背中に確かな手応えを残した。

 勝利を確信したその瞬間、後頭部へ強烈な衝撃が。


「がっ!?」


 何が起こった。視界が激しく揺れる。

 数歩後ずさり床へ片膝を付くと同時に、前方ではオタクが背中から倒れていた。


 こいつは斬られながらも、左足の踵を持ち上げて俺の後頭部を蹴ったんだ。恐ろしい程の身体能力。

 だが、チャンスはここしかない。


「イレイズ・キャノン!」


 再び、霊力球で倒れたオタクを狙う。


「オメガ・インパクト!」


 足へ霊力を纏わせ、霊力球を蹴り上げた反動で素早く体を起こしている。だが、あいつが体勢を整える前に一気に押し切ってやる。


「ふんっ!!」


 腹部を目掛けて横凪ぎに振るった渾身の一撃。しかしそれは、肘と膝に纏わせた霊力で、挟み込むように防がれた。


 まるで時間が止まったように睨み合う。互いの息づかいだけがそこにはあった。


「中々、やるようになったが、まだ本気じゃないな。蝙蝠こうもりのバッツァと戦った時に見せた、あの力を出したらどうだ?」


「自分の力を誇示するだけのてめぇと一緒にするんじゃねぇ。俺の力は、大事な物を守るためのもんだ。この目に映る人たちだけでも助けたい。そのための力」


「ほざけ! 出し惜しみの力に価値はない。綺麗事だけで生き残れると思うな! 力こそが全てだと、なぜ分からない?」


「てめぇの考えはゆがんでるんだよ!」


「貴様はしいたげられた者の痛みを知らないからそんな事が言えるんだ。力こそが全て。強者が生き残り、支配権を得る!」


 突然、胸ぐらを捕まれた。喉を締め上げられ呼吸がさえぎられる。

 そのまま引き寄せられ、ヘルメットに顔を強く打ち付けた。


「自分の世界を変えられる力を持ちながら、なぜ有効に使わない? 貴様の考えこそ歪んでいると気付かないのか?」


「っ……ざっ……けんなっ!」


 ささやくように言葉を発するオタクへ夢中で突き出した剣。それが胸部を貫くも、こいつは微動だにしない。

 俺の胸ぐらを掴んだ左手を緩めないばかりか、右手へ霊力を収束させている。


「オメガ・インパクト!」


 腹部を激痛が襲う。内蔵が口から飛び出してしまいそうな衝撃に意識が遠のく。

 背中と後頭部にも衝撃が起こったが、腹部の痛みが強すぎて何も感じない。


 朦朧もうろうとした意識の中で、見下ろしてくるオタクの姿だけがやけに鮮明に写る。


「貴様も虐げられてみるんだな。力なき正義など存在しない。この勝負にリーダーの座を懸けてもらおうと思ったが、面倒なケツ持ちなど御免だ。まして、仲間も必要ない。仲間など……」


 オタクの姿が視界から消え、意識は闇へと落ちていった。

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