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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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08 分からねぇ。運命惑わす両天秤


「リーダー。ちょっと待って!」


 アジトを出ようとロビーを歩いていたところで、背後から呼び止められた。

 振り向くと、車イスに乗った久城くじょうが、セレナさんに押されながらやってくる。


「セレナさん、すみません。少しリーダーと話があるんで……」


 気を利かせ、俺たちから距離を取って噴水前のベンチへ移動していく。


「どうしたんだよ?」


 やや前屈みになって、久城の顔を覗き込む。やけに神妙な顔つきだ。


「リーダー。すっごく分かりやすいリアクションだったけど、玲華れいか先輩のことどう思ってんの? ねぇ、どうなの?」


「は!?」


 突然どうした。芸能レポーターか。


 俺が大きな声を出したせいで、セレナさんからの好奇の視線を感じる。


「なんだよ? どうしたんだよ。急に……」


 不意に胸元を掴まれ、衰弱しているとは思えない力で引き寄せられた。

 顔が近い。鼻が触れ合いそうなほどの距離で、その瞳がじっと見据えている。


「あたしとの約束、忘れてないよね? 美奈みなちゃんを救えるのはリーダーだけなの。あたしは、美奈ちゃんの本当の笑顔が見たいんだ。リーダーも同じ気持ちでいてくれてると思ってたのに……」


「もちろん、約束は忘れてねぇ。あいつは必ず助ける」


「その後は? あたし、リーダーは美奈ちゃんのこと……」


 最後まで聞かずに慌てて体を起こし、久城へ背中を向けた。


「そこまでの約束はできねぇ。俺、あんまり頭良くねぇから、一つの約束しか守れねぇんだわ。わりぃ……」


 返事を待たずに出口へ歩き出す。心の中を見事に見透かされ動悸どうきが収まらない。


 朝霧あさぎりのことは大事に思っている。実際、好きかと問われればそうなのかも知れない。でもそれは、あいつの見た目が完全に好みという外見的な部分しか見ていないのかも知れないとも思う。


 そんな折、憧れの存在がすぐ間近に現れた。去年の文化祭、ミス光栄こうえいとして体育館の壇上でスピーチする先輩を見た瞬間、まさに一目惚れだった。心を全てかっさらわれたような衝撃だったんだ。


 朝霧もだが、まさかそんな二人と会話を交わす時が来るなんて思ってもみなかった。こんな緊急事に不謹慎極まりないが、俺のテンションは急上昇している。本当に勝手な妄想だが、甲乙付けがたい両天秤の狭間で心が大きく揺れている。


 オタクのことを散々に言っていたが、本当に最悪なのは俺自身かもしれない。


☆☆☆


 夢来屋むらいやの裏口に待機していた移動用のバンへとやってきた。スライド式のドアは開け放たれ、三列シートの前列には、オタクが腕組みをしながら座っている。


 正直、奴にはイライラするが、中央のシートに姿勢正しく腰掛ける桐島きりしま先輩を目にした途端、そんなことも忘れてにやけてしまう。


 ダメだ。これじゃあ変態だ。


 気合いを入れようと頬を思い切りつねってみた。何をしてるんだ俺は。


「すみません。遅くなりました」


 本当は先輩の隣に座りたいけれど、そこまでの勇気はない。最後部へ移動しようとシートを倒したその時だった。


「どうしたの? 三人しかいないんだし、ここに座ったら?」


「へ?」


 先輩は隣の席を軽やかに叩いた。だがこれは願ってもないチャンス。


「あぁ。そうっスね……」


 今日は人生最良の日だ。そう思いながらも、座ったら座ったで妙に緊張する。


 何か話した方がいいんだろうか。でも、何を話していいのか分からない。


 大混乱を始めた俺の気持ちを置き去るように、車は走り始めた。室内は沈黙に包まれ何とも居心地が悪い。何か会話の糸口を探すんだ。頑張れ、俺。


 そしてすぐに思い知る。自分が極度の人見知りだったということに。しかも女性に対してだけ。こんな状態で、まともな会話が成立するはずがない。


「久しぶりだね、新人クン。でも、あれから一ヶ月だっけ? ごめん、ごめん。もう新人クンは卒業だね」


 舌を出し、はにかむように微笑む先輩。


 ヤバイ。すっげぇ可愛いんですけど。

 携帯で写真を撮りたい。でも、これをキッカケに会話を繋げられる。


「あの時、海岸で会った占い師。あれ、やっぱり先輩だったんスね」


 一ヶ月前の出来事が鮮明に蘇る。戦うことから逃避した俺に活を入れてくれた謎の占い師。あれが先輩だったと気付いたのは事件が解決した後のことだった。


「あちゃ〜。バレてたのかぁ……ごめん、ごめん。占い師に変装して、情報収集してる途中だったの。セレナさんから連絡を貰って、元気づけてあげてって頼まれてね」


 あれは爆様ばくさまの仕業か。通信機は捨てたけど、霊眼れいがんで追跡されていたわけか。


「じゃあ、俺に強いオーラを感じるって言ってたのは?」


 すると、慌てて両手を合わせてきた。


「重ね重ねごめん。あれ、適当なの……」


「適当って……」


 全部アドリブだったのか。それはそれで凄い気もする。それに、全ての仕草が余りにも可愛くて、怒る気にもなれない。


「でもね、でもね。セレナさんが、君に強い力を感じるって言ってたのは本当なんだよ。実際、中位悪魔ミッド・クラスを倒したって聞いてるし。凄いなぁって思ってたんだ」


「いや。あれはまぐれというか……」


 力を認められているのは嬉しいけれど、実際はシャドウの力であって、俺自身の力じゃない。なんだか複雑な気分だ。だからこそ、そんなキラキラとした羨望の眼差しを向けられると心が痛い。それ以上に、恥ずかしくて直視できない。


 キラキラ光線と上目遣いのダブル・コンボに、ダウン寸前なんですけど。


☆☆☆


 程なくして、俺たちは再び館の前へと送り届けられた。何かあっても困るので、移動車には夢来屋むらいやへ戻って貰った。


 エアコンの効いた車内とは一転、熱を帯びた空気と、夏の夕日が照りつける。

 鉄柵の門を抜け、庭に伸びた石畳を進む。屋敷の玄関が目前に迫った時だった。


「お兄ちゃん。また来てくれたんだ。新しいお友達も連れてきてくれたんだね」


 頭上からあのイヤな声がする。朝霧に混じり、幼い少女と、低くくぐもった声の三重奏。


 見上げると、二階の窓から朝霧が身を乗り出し、こちらの様子を伺っていた。

 そのブラウスは所々に赤黒いシミがこびり付き、清潔さは微塵みじんも感じられない。おそらく昨日、俺がもたれた時に付着してしまったんだろう。


「お兄ちゃんがどうして動けるのか不思議だけど、私と遊ぶのがそんなに楽しい? 今日は何して遊ぼうか?」


「早く降りてこいよ。こんなくだらねぇゲーム、さっさと終わりにしてやるよ」


「くだらない? ここから始まるんだよ。思う存分楽しんで、そして散って。このお家に入ったことを後悔しながらね」


 無性にイライラする。すかさず、右手の霊撃輪れいげきりん霊力れいりょくを集中させた。


「ゴースト・イレイザー!」


 一降りの剣を左手に構えると、隣へ桐島先輩が並び立った。


「サジタリウス!」


 その手に、黄金色こがねいろに輝く長弓ながゆみが現れた。弓の端々には、鳥の翼を模した装飾がほどこされ、その色と相まって神々しさまで漂っている。弓という武器のチョイスは、先輩の持つ雰囲気に良く合っていた。


「さっさと終わらせたいのは私も同じだ。貴様らは黙って見ているだけでいい」


 オタクは足を肩幅まで広げ、握った左手を腰の脇へ添えた。右拳は、中を覗き込むかのように顔の前へ持ってくる。


「変身!!」


 その体がまばゆい七色の光を放ち、リーダーを誇示するように真っ赤なヒーロー・スーツに包まれた。


 白のグローブとブーツ。胸の中心には光栄高校の校章がかたどられ、背中には「正義」の二文字が。

 頭部も真っ赤なヘルメットが覆う。アゴからうなじへ変わった模様が入り、目の部分はゴーグル型をした遮光性しゃこうせいの黒いプレート。外側からは顔が見えない仕組みになっている。


 両足を広げたまま、前屈みの姿勢を取る。更に両腕を大きく広げて平行に動かし、十時二十分の位置へ。


「光あるところにまた闇もあり。それは揺るぎなき運命さだめ……ならば私は、その闇が果てるまで戦い続けよう。少年少女、安全保証戦士、セイギマン!」


 オタクは、朝霧を力強く指差した。


「来い。レベルの違いを見せてやる」

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