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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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07 再編成。地上に女神が舞い降りた


 夕方、アジトへ顔を出した俺は、更衣室で制服に着替えた。

 今夜、あの悪霊と決着を付ける。その決意を胸に会議室のドアを開けた。


 上座には、ボスことラナークさんの姿。その脇にはセレナさん。そして、車イス姿の久城くじょうが並んでいる。その久城の向かい側、部屋の中央辺りの壁にもたれながら立っているオタク。入口の側には、なぜかカミラさんの姿もある。


 別の事件を担当していたオタクだが、こんな非常事態となれば話は別だ。呼び出してもらい、朝霧の救出協力を頼んだ。


 ウィンクを飛ばしてくるカミラさんへの返しにとまどいながら、オタクの前を通り過ぎ、久城の正面の席へ腰掛けた。


「では、揃ったところで始めるとしよう。セレナ君。報告を頼む」


 ボスの一言に気持ちが引き締まる。


「事件の発端は、ある館の調査を依頼されたことによるものです」


 セレナさんの言葉と共に、その背後に置かれた黒板ほどのディスプレイへ、昨日見た欧風邸宅おうふうていたく外観がいかんが映し出された。


「建物の所有者は、戸埜浦とのうら純一郎じゅんいちろう。夫人とお孫さんとの三人暮らしでした」


 戸埜浦という名前に心臓がドクリと高鳴った。まさか、ついさっきまで話題にしていた人物の住まいだったなんて。


「五年前、金品目的の強盗に押し入られ、戸埜浦夫妻は殺害。使用人も犠牲になったそうです。ただ一人、八才の孫娘、亜里沙ありさちゃんだけが行方不明」


「行方不明?」


 俺の言葉に黙って頷くセレナさん。


「依頼は、純一郎氏の弟さんからです。亜里沙ちゃんの生存を信じ、館を残していましたが、維持が困難になったと」


 放置され埃を被った家財道具も納得がいく。まさか八才の少女とは、朝霧あさぎり憑依ひょういしている悪霊じゃないだろうか。


「館の解体を試みたところ怪現象が発生。途方に暮れ、当店へ依頼。しかし、館の探索中、悪霊がミナへ憑依し、神津刑務所かみつけいむしょへ移動。タクシー運転手が襲われましたが、どうにか一命を取り留めました」


「運転手、助かったんスか!?」


 微笑み返してくるセレナさんの顔に胸を撫で下ろした。あやうく、朝霧を犯罪者にしてしまうところだった。


「刑務所の入口付近で、使用済みの結界板けっかいばんが見つかっています。何か明確な目的があったものと思われます」


 結界板。半分に折ると特殊なガスが発生し、付近から一般人を遠ざけ、防音効果を生み出す板ガムサイズの道具だ。有効範囲が周囲数百メートルのため、現場で直接使うしかないのが欠点だが。


「セレナさん。鬼島きじまって男が、刑務所から逃げ出したんスよ。多分、ミナはそいつと接触してるはず……」


「リーダー。それ、どういうこと?」


 眉根を寄せ、唇を尖らせる久城。


「目的は分からねぇけど、逃げた鬼島は戸埜浦一家を襲った犯人。デス・ゲームなんて言ってるくらいだ。何をやらかしてもおかしくねぇ」


「カズ君。どこから、その情報を?」


「まぁ、色々とツテがあるんで」


 驚くセレナさんへの照れ隠しに、後頭部を掻きむしる。


「ご覧の通り、サヤカは呪印による衰弱で戦闘不能。ミナ救出のため、チームの再編成を考えています」


「再編成?」


 久城を見ると、彼女も首を傾げている。いぶかしく思いながら視線を向けると、いたずらめいた笑みのセレナさんが。


「カズ君に、最高の助っ人を用意したわ。どうぞ、入って」


 その声と共に、扉がわずかに開く。


「失礼しま〜す」


 様子を伺うように隙間から小顔が覗いた。その姿に思わず硬直してしまう。


 これは夢か。ついにあの人が目の前に現れた。実物だよ。実物。そこいらのアイドルなんて比べものにもならない。我が心のマドンナ。いや、我らが光栄高校男子の憧れ。いや、女神降臨。


 彼女が入ってきただけで、室内の華やかさが何百倍にも増幅される。全身からみなぎる可憐なオーラは半端じゃない。


「レイちゃん。わざわざ呼び出してごめんなさい。カズ君の隣へ座って」


「へっ!?」


 隣に座る、だと。心の準備が。急にそんな振りをされると、動揺するだろうが。

 スラリとしたその姿が一歩進むごとに、まるで花びらが振りまかれているようだ。

 隣に立たれただけで異常に緊張する。心臓が早鐘を打ち、変な汗が滲んでくる。


「よろしくね」


「はひっ!? よろしくお願いします!」


 声が上ずり、顔が熱くなる。その姿をまともに見られないが、啓吾けいごに貰った写真を毎日のように眺めているだけあって、彼女の顔はハッキリと思い浮かぶ。


 大きくクリッとした、子猫のように可愛らしい目と、その印象を倍増させる長いまつげ。すっと通った小高い鼻筋と、リップで輝いた蕾のような桜色の唇。


「リーダー。顔が真っ赤……」


 久城の声がやけに大きく響いた。お願いですから、そこに触れないでください。


「十九代目のメンバーに了承を得て、ミナ救出までの間、協力を頼みました」


「うむ。妥当な選択だろうな」


 ボスはセレナさんの言葉に頷き、目の前に置かれていた牛乳を口へ運ぶ。


「こちらからも支援させてください」


 入口の側に座っていたカミラさんが不意に声を上げる。組み合わされた足はこちらへ向けられており、その奥に潜む三角地帯へつい視線が向いてしまう。


「私の直属の部下、霊能戦士れいのうせんし三名をこちらへ常駐させる許可をいただけますか?」


「願ってもないことだ。こちらからもよろしく頼む……それからセレナ導師どうし。ミナ君の状態について。彼女の攻撃を受けると、直接に傷を負うそうだが?」


「はい。過去に同様のケースがないので確証はありませんが、恐らく悪霊に憑依ひょういされたことが原因で、実体への攻撃が可能になったのではないかと」


 ボスは俺たちをぐるりと見回した。


「ミナ君と接触する際は慎重に。サヤカ君も戦えないとなると、治癒の能力を持つ者もいないわけだからな」


「それなら問題ありませんよ」


 隣で桐島きりしま先輩の声が上がる。腰を浮かせると、久城へ手を伸ばした。


「サヤカ。手を出して」


「そっか。レイカ先輩の能力があったね」


 どんな能力なのか分からないが、目の前で握手を交わしている。


「ジェミニ・リンク!」


 二人の体を青白く輝く淡い光が包む。久城を包んでいた光が右手へ集まり、それは先輩の体へ流れ込んだ。


「何が起こったんスか?」


「サヤカの能力をコピーしたの。私の能力の一つ。誰か一人を選んで、相手の能力を取り込むことができるのよ」


 なんだか、とんでもない能力だ。


「ってことは、自分のオリジナルと合わせて五つの技を使えるってことっスか?」


「そういうこと。これでサヤカの持つ治癒能力も使えるわ。本当はミナの能力が手に入るとベストなんだけど。あの能力が敵になると思うと厄介よね」


「やっぱり、そう思いますか?」


 銃での遠距離攻撃に加え、弾丸の効果を変化させる力。更には、360度をカバーする衝撃波しょうげきは。攻略は頭の痛い問題だ。


「サヤカ。あなたの分も頑張るからね」


「お願いします。リーダーもすぐ無茶するんで、目を離さないでくださいね」


「俺は、近所のやんちゃ坊主か!?」


 先輩が吹き出した。やった、ウケてる。そんな事がたまらなく嬉しい。


「二つ、確認しておきたいことがある」


 後方で黙っていたオタクの声が上がる。


「一つは、ミナに懸賞金がかかるのか。二つ目は、今どこにいるかということだ」


 何を言うのかと思えば、こんな時でも金の話とは。こいつの思考回路を疑う。がめつい正義のヒーローなんて最悪だ。

 だが、朝霧の行方は俺も知りたい。通信機を持たない以上、居場所を探すすべがない。すがるような思いでボスを見た。


「懸賞金か。ミナ君が憑依されている以上、それを退治すれば支給しよう。敵のランクについては現在、検討中だ」


 敵には懸賞金が設定され、事件への貢献度を元にメンバーへ分配される。当然、敵が強くなるほど金額も上昇。それを計る目安として悪霊の能力を参照するわけだが、衝撃波が攻撃の主体となる。それ以外の力を持つと、レベルⅡと呼ばれる存在へ格上げされるのだ。


「居場所については、館のはずだ。憑依している悪霊は地縛霊じばくれいだろう。館に強い未練を持ち、そこを離れる可能性は限りなく低い。カズヤ、セイギ、レイカの三人はくれぐれも慎重にな。カズヤ君の言う通り、何が起こるか分からない」


 ボスの言葉でミーティングは終了し、再び館へ乗り込むことになった。

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