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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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04 てめぇとは覚悟の重さが違うんだ


『カズヤ。くれぐれも気をつけなさい』


「分かってますよ。でも、あいつに憑依ひょういした悪霊は、一体なんなんスか?」


『現時点ではまだ不明』


「そうですか……」


 落胆の息と共に通信を終える。


 屋敷で最後に聞いた朝霧あさぎりの声を思い出す。確かあいつは、デス・ゲームの始まりだと言っていたはずだ。

 遊んでいるのか。でもそう考えれば、俺と久城くじょうが無事なのも納得できる。あのまま命を奪うこともできたはず。


「ふざけやがって……」


 気がつくと、刑務所の明かりが見える位置まで来ていた。そして前方には一人の人影が。あの後ろ姿は間違いない。


 敵はまだ気付いていない。こうなれば先制攻撃あるのみだ。

 シャドウの力を借りて全力で攻めたいところだが、仲間を自分の手で助けたいというエゴと責任感が邪魔をする。


 自力で戦う道を選択し、右手を握る。敵の背中へ狙いを定めた。霊力球れいりょくきゅうの有効射程は十メートル。充分に範囲内だ。

 体にみなぎる霊力へ意識を集中し、それを指先に填めた霊撃輪れいげきりんへ注ぐ。


「イレイズ・キャノン!!」


 ライブ・ジュエルが霊力を含み軟化。高速分裂を行い、バスケットボール大に膨張。圧縮された霊力が瞬間的に封じ込まれ、目の前の朝霧を目掛けて飛んだ。


「ぎゃっ!」


 霊力球れいりょくきゅうが背中へ炸裂。短い悲鳴と共に体を大きく仰け反らせ、前面の草むらへ転がり込んでゆく。

 即座に後を追うが、傷口の痛みで体が思うように付いてこない。

 痛みに顔をしかめながら草むらへ急ぎ、その間にも再び霊力を集中させる。


「ゴースト・イレイザー!」


 愛用の剣を具現化ぐげんかさせ、それを左手でしっかりと握った。しかし、前方の草むらの中に朝霧の姿が見当たらない。


 直後、後頭部に何かが押し当てられた。


「はい。チェック・メイト」


 背後に響く不気味な三重奏。後頭部にあるのは恐らく、こいつの装飾銃そうしょくじゅうだ。


 まずい。完全にやられた。


「お兄ちゃん。こんなところまで来ちゃダメだよ。今日のゲームは終了。続きは、また明日なんだからね」


「ふざけんな! そいつの体を返せ!」


 どうする。どうすれば振りほどける。

 焦りばかりが心の中に広がり、イヤな汗が頬を伝い落ちる。


「どうして私の居場所が分かったの? あぁ。これがあったからなんだ」


 背後の声は、自分の問いに自分で納得したらしい。カチャカチャと金属的な音が聞こえ、視界の端へ何かが転がった。


「なんで分かった?」


 今度はこっちが尋ねる番だ。振り向くことのできない俺は、地面に転がった通信機を見ながら言葉を発した。


「なんか分かるの。知りたいと思ったことは、頭の中に絵が浮かんでくるんだよ」


 まったく意味が分からない。


「お兄ちゃんの名前も分かるよ。カズヤ。神崎かんざき和也かずや……だよね?」


 突然に名前を呼ばれ、心臓を鷲掴みにされたような恐怖と驚きが走る。

 ひょっとしたらこいつは、朝霧の記憶を共有しているんじゃないだろうか。


 一ヶ月前に戦った悪霊は戦国時代に生きていた人物だった。彼等は現代の言葉を話していたが、憑依した人物の記憶を探り、言葉を操っていたというセレナさんの説明を思い出した。


「どうする、お兄ちゃん。このままバイバイして帰るなら、また明日遊べるけど。言うことを聞かない子にはお仕置きするって、ママが怖い顔で言うの」


 こいつはかなり面倒だ。こうなればシャドウの力を借りるしかない。


(シャドウ。聞こえるか?)


 心に向かって問いかけても返事がない。


(おい、シャドウ! 出番だ!)


 ダメだ。何も応えない。こんな肝心な時に一体どうしたっていうんだ。


「お兄ちゃん。お返事は?」


 こうなれば自力で解決するしかない。となれば、方法はただ一つ。



「シールド!」


 大人用の傘にも似た、半円型の青白い霊力壁れいりょくへきを背後へ展開。

 銃を握った朝霧の腕を押しのけ、振り向き様、剣を横凪ぎに振り抜いた。


 朝霧に憑依する霊体へ確かな手応えがあった。包丁で肉を切るときのような手応えが剣を通して伝わってくる。


「痛い! いたいぃぃぃ!!」


 逃げるように距離を取り、半狂乱の朝霧が辺り構わず霊力弾れいりょくだんを乱射する。

 それを防ぐため、再び霊力壁を展開。しかし、これだけ至近距離からの霊撃れいげきだ。さすがに、霊力壁が耐えきれない。


 銃弾に対して玄関ドアで挑むようなものだ。弾のいくつかは霊力壁を打ち破る。一つは頬をかすめ、一つは右肩を打ち抜き、一つは右足の太ももをかすめていく。


 だが俺は止まらない。剣を捨て、霊力壁に力を集中する。打ち抜かれた銃痕じゅうこんがたちまち復元し、前方だけに振り絞った霊力が、更に防御力を高める。


 一歩、また一歩と近付く度に、朝霧の顔が驚きと恐怖にひきつるのが分かった。


「来ないで! こっちに来ないで!」


 銃弾は俺の顔を狙っていた。目の前の霊力壁に弾が食い込み、玉子の殻を割るように亀裂が走る。しかし、更に霊力を込めると、その亀裂はたちまち塞がった。


『カズヤ。もう無理よ! SOULソウルは45、MINDマインド残り15! ここは退いて!』


 通信機から漏れるセレナさんの声。鬱陶うっとうしいことこの上ない。


退けるわけねぇだろうがあっ!」


 朝霧の姿が間近に迫る。もう手の届くところまで来ている。


「いやあぁぁぁぁっ!!」


 更に乱射。霊力壁はガラスが割れるように破砕。左胸と左の太もも、右の上腕部へ、鋭く焼けるような激痛が走った。


 それでも俺は手を伸ばす。久城との約束を果たすため。大事な仲間を守るという、自分自身へのケジメのために。


 震える右手が、ようやく朝霧のブラウスをつかんだ。そのまま倒れるように体重を預けると、左手で朝霧の右腕をつかんで銃を封じ込む。


 意識が飛びそうだ。必死に顔を上げると、怯えた朝霧の顔がすぐ間近にあった。

 こんな時でもこいつの顔は綺麗だ。待ってろ。もうすぐ解放してやる。


「なんで!? どうして倒れないの!?」


 その体が驚愕きょうがくに震えている。これではどちらが悪霊か分かったもんじゃない。だが、俺には引けない理由がある。


「てめぇとは、覚悟の重さが違うんだ」


「なんなの!? なんなのよ!?」


「俺か? 俺は具現者リアリゼーターだ。大事な仲間に手を出したてめぇを浄化じょうかするために、ここまで追ってきたんだ」


 右手に、残された霊力を注ぎ込む。剣を具現化する程度の力は残っている。


「さぁ。終わりにしようぜ……」


 直後、体から急激に力が抜けていく。膝から崩れ落ちるとはまさにこのことだ。


 両足の踏ん張りが効かない。ただでさえ朝霧の体に寄りかかっていた俺は、そこにある大きな二つの膨らみに顔を埋めながら崩れ落ちていた。

 至福の時間はほんの一時。ようやく掴んだ朝霧の体は素早く離れていった。

 支えを失ってその場に倒れると、顔を思い切り打ち付けてしまった。直後、頭上でかすれた笑い声が。


「残念だったね、お兄ちゃん。私が逃げ切ったみたいだね」


 もう体が動かない。ここまでなのか。


 悔しさに涙が込み上げる。また俺は、大事な仲間を守れなかった。もっと力があれば、みんなが傷つくこともないのに。


「今度こそ、終わりだよ」


 顔を上げると、朝霧の履く茶色の革靴がすぐ間近にあった。すらりとした太ももと、その奥に隠された純白の下着が映り、こめかみへ固い物が押しつけられた。


「苦しまないように、一度で終わらせてあげるからね……」


 耳元で、モーターが高速回転するような機械音が響いていた。これはきっと、今日二回目になる溜め打ちだ。腹部を貫通したような強烈な攻撃。本当に、一撃であの世行きに違いない。


 いや、待て。悪霊の攻撃でSOULソウルが0になることは魂の消失を意味し、俺たちは植物状態と化す。つまり死んだも同然の存在ということだ。あの世より、もっとタチが悪い。最悪だ。


「くそっ! こんなところで終われるかよ……こんなところで……」


 到底納得できない。俺の存在価値。それすらも見つけ出せていないのに。だが、気持ちとは裏腹に意識が薄れていく。


「バイバイ。ホワイト・シュート!」


 属性変化ぞくせいへんかを加えられた謎の効果を持つ弾丸が発せられ、視界は闇に閉ざされた。

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