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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.02

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03 任せとけ。水玉パンツに誓うから


 どれくらい気を失っていたんだろう。再び目を覚ますと朝霧あさぎりの姿はなく、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

 体を起こすと、打たれた脇腹に軽い痛みが走ったが、羽衣はごろもの効果で出血はない。


「おい。大丈夫か?」


 側で倒れる久城くじょうを揺り起こす。あれだけの至近距離で衝撃波しょうげきはを受けたんだ。俺よりもダメージが大きいはず。


 弾かれ倒れた際にスカートがめくれたらしく、白地に水色の水玉模様が入ったパンツが丸見えだ。見ないようにと言い聞かせながらも視線を外すことはできないまま、そっとスカートを直した。

 携帯を取り出し時間を確認する。時刻は十九時過ぎ。朝霧はどこだ。


「いい加減、目を覚ませって……」


 横倒しになっている久城の顔を覗き込むと、首筋に妙なアザを見つけた。

 爪で引っ掻かれたように刻まれたそのバツの字には見覚えがある。相手の生命力を取り込み、自らの力を増幅させるという悪霊の技、エナジー・ドレインだ。


「くそっ! マジかよ!?」


 やり場のない怒りと焦りが込み上げる。


 これを仕掛けられたということは、久城の命は持って一週間。呪印じゅいんを刻んだ本人が解除するか、そいつを消滅させるしか助ける方法はない。そして、導き出される答えはただ一つ。仕掛けたのは朝霧。


 右手首の通信機を口元へ運ぶ。ここなら通信も繋がるはずだ。


「セレナさん。聞こえますか?」


『大丈夫よ。霊眼れいがんで映像も見ているわ』


「多分、ミナが憑依ひょういされました。サヤカは呪印を刻まれて動けない。あいつの現在位置、分かりますか?」


『建物内にはいないわ。どこかへ向かって移動しているようね。そっちへ車を向かわせたから二人は戻りなさい』


「ミナのことはどうするんスか!?」


 思わず声を荒げてしまった。


『夜が更けるほど悪霊の力は強まる。闇雲に動くと危険よ。それにSOULソウルも70まで低下。早く手当しないと。肉体が直接ダメージを受けるという今までにない状況。一度対策を練った方がいいわ』


「このままになんてできるかよ!」


 当てつけるように通信を切断した。気分を落ち着かせようと大きく息を吐くと、再び静寂が辺りを包み込んだ。


「リーダー……」


 蚊の泣くような、か細い声が聞こえた。


「サヤカ。おまえ、意識があるのか!?」


 これまで見てきた被害者たちは、呪印を刻まれると同時に意識が戻ることはなかった。さっきの出血といい、これまでの展開とは何かが違う。

 その顔を覗き込むと、弱々しい笑みを浮かべながら、ワイシャツの袖を強く握りしめてきた。


「リーダー。美奈みなちゃんを助けて……きっと悪霊に憑依されたんだよ。美奈ちゃんは心の奥に闇があるんだ。そこに付け込まれたんだと思う……」


「闇?」


「そう。美奈ちゃんの技、ローズ・スプレッドってあるでしょ? あの薔薇ばらは心の象徴なんだって。自分の闇を覆い隠すための棘の鎧……」


 久城の瞳から大粒の涙が溢れた。


「リーダーなら、きっと美奈ちゃんを苦しみから解放できるはずなんだ。だからお願い……そしたら、あたしのパンツ見たことも許してあげるから」


「ぶっ! 気付いてたのかよ!?」


 こんなセリフも、俺の不安を和らげるためのせめてもの心遣いなんだろう。自分より相手を想う姿勢に頭が下がる。


 そんな久城を見て、俺の決心は一層強くなった。何としてでも朝霧を助ける。

 袖を握り続ける久城の手を取り、両手でそっと包み込んだ。


「後は俺に任せろ」


 その言葉に安心したのか、力なく微笑むと目を閉じて気を失った。


 もう大切な仲間を失いたくない。誰にも傷ついて欲しくない。

 一ヶ月前のネイスとの戦い。肩口を噛み付かれた朝霧を見た瞬間に感じた、あいつを失うんじゃないかという恐怖がまざまざと呼び起こされる。あんな思いはもう二度と御免だ。


 久城の体を背負う。こいつの小さな体はこんなにも軽い。だが、いつも俺たちを気遣い、チームの輪を保つために奮闘してくれている。それを思うとなぜか自然と涙が滲んできた。

 絶対に朝霧を助ける。やや小振りな二つの膨らみを背中に感じながら、内なる決意に燃えていた。


 屋敷の外へ出ると、セレナさんの手配してくれた移動車が。そこから、初老の男性スタッフが慌てて駆け寄ってくる。


「お手伝いします」


「触るな!」


 久城へ手を伸ばす彼を、思わず怒鳴りつけてしまった。


「すみません、大きな声を出して……こいつは俺の手で運びたいんです」


 決して、背中に当たる感触をもう少し味わっていたいなんていうスケベ心じゃなく、俺自身のケジメとして、これはやり遂げなくてはいけないことなんだ。

 三列シートの最後尾に久城を横たえ、中央列に乗り込む。即座に、天井のスピーカーへ手を伸ばしていた。


「セレナさん。聞こえますか?」


『どうしたの?』


 揺るがぬ決心を秘め、スピーカーの向こうにいるセレナさんを睨み付けた。


「ペナルティでも何でも構わねぇ。俺は絶対にミナを助けに行く! 言いたいことはそれだけだ!」


 すると、大きなため息が漏れてきた。


『そう言うと思ったわ。言い出したら聞かないんだから、まったく……ただし、無茶はしないこと。いい?』


「そればっかりはなんとも」


 確約なんてできない。分かりっこない。


『カルト、聞こえる?』


「どうぞ」


 初老の男性スタッフが返事をする。


『今、そっちのナビゲーション・システムへ、ミナの通信機の測位を転送したわ。カズヤを側まで送ってあげて』


「かしこまりました」


 返事と同時に車は走り出す。


「セレナさん。ありがとう」


『お礼はまだ早いでしょう? ミナを無事に助けてからにしてちょうだい』


 車は走り続けた。エンジン音だけが支配する車内で、否応いやおうなく集中力が研ぎ澄まされてゆく。


 市街地を離れ、どんどん人気のない方角へ向かっていく。朝霧に憑依した悪霊はどこへ向かっているんだろうか。


「この辺りですね……」


 三十分近く走っただろうか。車が停車する。ナビが示す位置はほぼ県境だ。

 その地図上に、大きめの建物が一つ表示されている。


「その建物、なんスか?」


「刑務所のようですね」


「刑務所?」


 カルトさんの言葉に首を傾げる。何のためにこんな所へ来たんだろうか。


「エンジンを切って、明かりも消して、ここでじっとしていてください」


 車外へ出ると、蒸し暑さと草の青臭さが鼻をついた。日は沈み、虫の鳴き声が辺りを包む。辺りに人の気配はない。


「なんだ?」


 刑務所の方角へ顔を向けると、平行に並ぶ赤い二つの明かりが目に付いた。

 一歩ずつ、ゆっくりと近付いていく。歩く度に脇腹へ痛みが走るが、それを気にしている場合じゃない。


 ある程度の距離まで近付くと、それが車だということが分かった。車体には神津かみつタクシーの文字が見える。


 恐らく朝霧が移動に使ったんだろう。屋敷から歩いて移動できる距離じゃない。

 後部座席のドアが開け放たれたままになっている。室内灯が煌々と明かりを放ち、光に誘われた羽虫が車内を飛び回っているのが見えた。


 何か様子がおかしい。


 中腰のまま、開け放たれた左ドアを避け、右側から運転席へ回り込んだ。

 腰を上げ、運転席を覗き見る。


「うわあぁぁぁぁぁ!」


 驚きと恐怖に腰が抜け、アスファルトに尾てい骨を打ち付け転倒した。

 途端に吐き気が込み上げる。道路の真ん中へ盛大に内蔵物をぶちまけると、酸っぱい味が口一杯に広がった。

 車内を見ないよう完全に視線を外し、刑務所だけに注目した。


 口元を拭い、震える手で通信機のスイッチを押す。


「セレナさん、聞こえますか?」


『どうしたの!?』


「ミナはタクシーで移動したらしい。停車中のまま放置されてるんスけど、運転手……頭を打たれて死んでます……」


 あまりの衝撃に、それ以上の言葉を続けることができなかった。

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