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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.01

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35 運命の歯車は回り始める


「今宵は満月。地上に満ちる霊的エネルギーが最大になる日だ。そして、生命力と霊力を存分に蓄えた魔染具ませんぐ防空壕ぼうくうごうの内部へ反射させた月光を浴びせ、次元じげんとびらを作ろうとしていたのだろう」


「ボス。次元の扉ってなんなんスか?」


 そういえば、シャドウも同じ事を言っていたはずだ。


 アジトへ運ばれた俺たちは数時間後に目を覚ましたのだが、いてもたってもいられず、こうして会議室へ集合していた。

 家には複製クローンが帰宅している。何の心配もない。


「簡単に言えば、地上と暗黒界あんこくかいを結びつける入口だ。鏡が扉を作り、刀はそれを開くための鍵といったところか。カズヤ君のお兄さんを連れ去ったのは、扉へ仲間を呼び寄せるためのエサ」


「エサ!? 何のためにそんな扉を?」


 ふざけた奴等だ。アニキをエサ代わりに使おうとしていたなんて。


「暗黒界にいる仲間を呼び込むためだ」


「おかしくないっスか? 堕落だらくした悪魔に、戦闘能力なんてありませんよね?」


 セレナさんの話を思い返していた。


霊魔大戦れいまたいせんの生き残りが暗黒界にも存在するのだ。ジュマラ・ガザードは地上に侵攻する際、一部の部下を残した。霊界の戦士たちが戦い続けているのはそれだ」


「暗黒界にも悪魔が……」


 この戦いは、俺が思っている以上に根の深い問題なのかもしれない。

 視界の端で、セレナさんがおもむろに席を立った。


「とにかく、事件は解決。みんなも無事に戻ってくれて本当によかった。才蔵さいぞう異世いよも霊界へ旅立ったわよ」


「二人も無事だったんですね。よかった」


 朝霧あさぎりは笑顔で安堵の息を漏らす。

 アジトへ戻ってきてから、なぜかあいつは目を合わせようとしない。


 俺、なんか悪いことした?


「結局、この世に未練を残して彷徨っていた異世が、悪魔に付け込まれてしまったのね……偶然に波長のあった恭子きょうこさんへ憑依ひょういして、数々の事件を起こした」


 腕組みし、頬に手を置くセレナさん。

 爆様は今日も苦しそうです。


「あ~ぁ。あたしも、そんな大暴走するような、素敵なダーリンが欲しい!」


 イスに腰掛けたまま大きく伸びをして、足をブラブラ揺らす久城くじょう


 誰だ、こんなところに変な人形を置いたのは。


「事件の話はここまで。さぁ、みんなお待ちかね。獲得賞金の発表ですっ!!」


 背後に置かれた黒板ほどのディスプレイに、俺たち四人の名前が並ぶ。


「まずはセイギ君。捜査と下位悪魔ロー・クラス蝙蝠こうもりのバッツァの撃破。総額は230万円!」


 一気に100万以上の上昇だ。


「次はミナちゃん。捜査と戦闘補助。あいにく撃破ボーナスはないけれど、総額は170万円に上昇!」


 不満そうに口を尖らせる朝霧。そんな仕草もなんだか可愛らしく見えてしまう。


「サヤちゃんにも悪魔の撃破ボーナスが追加。捜査も含めて160万円に上昇!」


「やったぁ! ごく、うれしい!」


 ガッツポーズを作る久城。

 そして、セレナさんが俺を見る。


「さて。最後はついにカズ君よ。捜査に加えて、中位悪魔ミッド・クラスネイスの撃破ボーナス付き。賞金はなんと……230万円っ!」


「230万!?」


 自分でも驚きだ。周囲からも、どよめきが上がっている。


「大型ルーキーの登場ね。でも、喜ぶのは早いわよ。言ったはずよね。マイナス査定があるって。二度の命令違反により30万の減額で、総額は200万円」


「ぐはっ!」


 身から出たサビとはまさにこのことだ。反論の余地もない。


 ちなみに、この報酬は即時支払とはいかず、具現者リアリゼーター引退後に、分割または一括払いとなるらしい。未成年にそれほどの大金を持たせるのは危険だという判断だ。


「でも、カズ君の力の秘密は今だ不明。そもそも、どうやって悪魔を一人で?」


「さぁ。自分でも分からないっス。やっぱ、A-MIN(エー・マイン)なんスかね?」


 とりあえず頭を掻いてごまかしてみる。

 シャドウとの約束もある以上、下手なことは言わない方が良さそうだ。朝霧にしても朦朧もうろうとしたあの状態では、後半の記憶は残っていないはずだ。


「とにかく、彼が悪魔を倒したことに代わりはないわ。仕方ないけど、リーダーと認めざるを得ないわね」


 朝霧が観念したようにつぶやいた。


「よかったね。リーダー」


 久城は自分のことのように喜んで笑顔を見せている。こいつがいなかったら、どうなっていたか分からない。どれだけ感謝しても足りないくらいだ。


 不意に、オタクが歩み寄ってくる。


「調子に乗るなよ。必ず貴様を超えてやるからな。真のヒーローは私だ」


 別にそんなもんに興味はない。


「力だけが全てという私の絶対正義は揺るがない。馴れ合いも御免だ。貴様らは任務を遂行するための兵士に過ぎない」


 言いたいことだけ言い、オタクは会議室を出て行った。結局、このチームに結束を生むことはできなかったが、チャンスはまだまだある。


「切りもいいし、今日はここまでにしましょうか。メディカル・ルームに個室を用意したから、ゆっくり休んで」


☆☆☆


 枕に頭を預け、携帯の画面を覗いていた。ネット・サーフィンの先に広がるのは、小説投稿サイトだ。


 正直、自分が何をしたいのか、何を夢にしていけばいいのか、答えはまだまだ見つかりそうにない。

 ただ今は、前を見据えて進んでいくしかない。自分の命が尽きる時、悔いのない人生だったと満足できるように。


 そして、具現者リアリゼーターという能力に目覚めたのは偶然じゃなく必然。

 その日の出来事を日記に記すくらいなら、いっそ小説を書いてみるのも面白い。


「それにしても、この『小説を書こう』ってサイト、作品偏ってねぇか? 異世界転生と転移ばっか……このランキングを塗り替えられたら楽しいよな。まかり間違って出版なんて話になったら」


 妄想を爆発させ一人含み笑いを漏らす。怪しいことこの上ない。妄想は啓吾けいごのオハコだったはずなのに。


 とりあえず今は眠ろう。また新しい一日が始まろうとしている。

 そう思うと、途端に夢の中へ誘われた。


☆☆☆


 翌日、学校へやってくると、普段の生活に戻ったことをしみじみと実感した。

 日常に戻れば、朝霧も久城もただの女子生徒。何の接点もない同級生。なんだか不思議な気分だ。


 机に頬杖をつきボンヤリとそんなことを考えていると、不意に背中を叩かれた。


「オッス、カズ!」


 そこにはいつも通りの啓吾の姿。


「どうしたの? テンション低いよ。巨乳グラビアでも持ってこようか?」


「んぁ? 欲しいけど、そういうのはコッソリ持ってくるもんだろ」


「はははっ。あれかい? 袖の下が軽いなぁ……お代官様、これを。みたいな」


 出た。妄想大王の一人夢芝居。役者の方が向いてんじゃねぇの。


 こんな日常が素直に楽しい。アニキも今日中には家へ戻ってくるだろう。


「朝から騒がしいね」


 白い歯を覗かせたゆうが並ぶ。


「心配かけたな。もう大丈夫だ」


 それ以上の言葉は必要ない。悠も聞いてこない。俺たちにはそれで十分だ。


「なになに? 何があったの?」


 啓吾は、秘密を抱えるカップルでも見るような目で俺たちを交互に見ている。

 笑いを堪えきれずに思わず吹き出した。


 クルクルと頭を振る啓吾を見て、最後の疑問が頭に浮かんでいた。


「ところで、運命の歯車は回り始める、ってフレーズ、聞いたことねぇ?」


 なぜか、二人の動きが止まった。


「本気で言ってるの!? カズがそれを忘れるなんて、天変地異の前触れ? まさか、魔王軍の襲来!?」


 この世の終わりのような顔をする啓吾。


「素直に凄いよね。なんか新しいことに興味でも湧いたんっしょ」


 興味深げに微笑んでいる悠。


 俺、おかしなこと言った? 地雷?


「どういうことだよ!?」


 イライラする。答えを知りたい。


「思い出してごらんよ。去年の文化祭」


「文化祭?」


 くそっ。啓吾のメガネをへし折りたい。


「第二ヒント。ミス光栄こうえい


 記憶が一つの映像を呼び覚ます。

 きらびやかなティアラを乗せ、体育館の壇上を歩く、優雅で美しい姿。


「まさか……」


 どうして忘れていたんだ。そんな大事なことを。俺の人生最大の汚点。


「最終ヒント。桐島きりしま先輩のスピーチ」


「分かった! もう分かったから!!」


 あの御方がスピーチで話したフレーズ。そしてあの円を描く仕草も。全てが脳裏に焼き付いていたはずなのに。


 今思えば確かに不自然な点があった。


 あの占い師、俺を見ていた瞳は黒目。霊界のスタッフは紺色の瞳だ。それにセレナさんを、さん付けで呼んでいた。本来なら、セレナ導師どうしと呼ぶはずだ。


「ウソだろ……」


 色々な感情が混じり合う。まさか具現者リアリゼーターのメンバーにあの人が。しかも胸の内をさらけ出し、罵声を浴びせる不祥事。合わせる顔がない。最高に嬉しいような、最高に恥ずかしいような。


 次に会った時、どうすりゃいいんだ。


 俺の運命の歯車がついに回り始めた。

<Episode.01 END>

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