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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.01

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34 ついに出た! これが切り札、斬魔剣


 黒い球体から放たれ続ける禍々しい力。それが周囲へ渦巻き、ただならぬ力を放出し続ける。異質な存在であることは誰の目にも明らかだろう。


 すると、球体の中からうなり声が漏れた。獣の咆吼のような重く低い声が。


「久しいな。ついに目覚めたか……呪われし運命さだめを背負いし者よ」


 数年来の友と偶然再会したような面持ちで、シャドウは僅かに口元を緩めた。


「ヒャッハッ! 幻獣王げんじゅうおうも元気そうじゃねーか。また、その力を借りるぜ!」


 幻獣王。それを耳にしたネイスの目が驚きに大きく見開かれた。しかし、余りの衝撃に言葉を紡ぐことなどできずに。


「よかろう。久方ひさかたぶりに楽しめそうだ」


 喜悦きえつを含んだ声が響くと、その気配は急速に遠ざかって言った。それと入れ替わるようにシャドウは残忍な乾いた笑みを浮かべ、おもむろに球体へ右手を突き入れた。


「見せてやるぜ。俺のとっておきを!」


 宣言するように言い放ち、球体からゆっくりと右手を引き抜いてゆく。


 最初に覗いたのは、その手に握られた象牙色ぞうげいろの細いもの。彼は数歩後ずさりながらそれをゆっくりと引き出していった。

 現れたのは、少年の身長を優に超える一抱えの大剣たいけんだ。まるで石から削り出したように無骨ぶこつで荒々しい。簡素で飾り気もないそれだが、近付いただけでその身を切り裂かれそうな猛々しい力強さを遺憾なく放っている。

 そして、象牙色の握りからは想像もできない深紅の刃が、不気味さを一層際立たせる。


 ネイスは信じられない光景に目を疑っていた。戦慄せんりつがその全身を包み、歯の根が恐怖に打ち鳴らされる。


「さっき、幻獣王げんじゅうおうって言ったよねぇ? それはまさか、斬魔剣ざんまけん!?」


「ほう。これを知ってんのか?」


 感心したような、小馬鹿にするような、どちらとも取れる声を上げて微笑むシャドウ。

 その目が、足下で腹ばいになっている凍り漬けの悪魔へ注がれる。


「正式には、斬魔剣エクスブラッド。俺とあいつの血を混ぜ合わせた、究極の剣だ」


「知らないはずがない。ジュラマ・ガザード様に深手を負わせた剣……でも、その剣の使い手は死んだはずだよ? どうして、人間のおまえごときがそれを……」


 シャドウは不適な笑みを浮かべたまま、その大剣を軽々と肩へ担ぎ上げたのだった。


「言っただろ? 復活したってな」


「まさか、おまえの正体はあいつなのか!? 始まりの……」


 直後、シャドウの振るった一閃が、凍り付いた悪魔の腹部を両断していた。


 砕氷さいひょうをまき散らし、腕ごと切断された上半身が純白の空間を転がる。響く悪魔の絶叫。


「その名前で呼ぶんじゃねー。カスが! あやうく、怒りの一撃でそのまま消しちまうところだったじゃねーか!」


 床へ転がった悪魔の後頭部が裂け、そこから巨大な白蛇はくじゃが飛び出した。少年から慌てて距離を取ると瞬時に手足を生やし、またたに悪魔の姿を再生させる。


「おい、カス悪魔。随分と息が上がってきたじゃねーか? 脱皮する体力も使い果たしたんだろ? もう終わりだな」


 悪魔は荒い息を吐きながら、目の前に立つ人ならざる者を見つめていた。


 到底、太刀打ちできる相手でないことはもはや明白めいはく。恐ろしい怪物を目覚めさせてしまったことを後悔していたが、既に手遅れ。

 せめて先程の少女がいれば、それを人質に逃げ出せたかもしれないのにと、悲壮的な思考に陥っていた。それほどまでに、彼の力と存在は圧倒的だった。

 蛇の姿を持つはずの自分が、目を合わせただけで一飲みにされてしまいそうな迫力と存在感。前方に立つ少年の姿が何倍にも膨れ上がり、まるで巨人を見上げるような錯覚が。


 そして、シャドウは余裕の笑みを崩さない。最強の相棒を再び手にしたことで、絶対的な強さと自信までもがみなぎっていた。


「覚悟しろよ。カス悪魔」


 シャドウの足が地を蹴る。この空間の中で彼の運動能力は極限まで高められ、瞬く間に悪魔のふところへと迫っていた。


「うらあぁぁっ!」


 彼の叫びを掻き消さんとするような轟音を上げ、大剣が荒々しく宙を舞う。それはもはや剣の描く軌跡などではなく、獲物を狙う竜の爪と化し、空をも切り裂く勢いで。


 斬撃が悪魔の右腕へ振り下ろされた。

 二の腕から先が一瞬で粉砕され、瘴気しょうきを散らして霧散する。


「があぁぁぁぁ!」


 口元からよだれをまき散らし、狂ったように絶叫する悪魔。


 生にすがる必死の防衛本能が働いたのか、残された左腕を振りかざし、シャドウを狙って鋭い爪が突き出されていた。


「うるせーんだよ!」


 目障りな虫を鬱陶うっとうしがるような顔で身を捻り、その突きを容易く避ける。


 一見、何と言うことのない動きだが、相手も中位悪魔ミッド・クラス。その一撃をこうも簡単に避けるのは霊能戦士れいのうせんしとて容易ではない。


 そのまま、返す刃が左腕を切り上げた。唸りと共に悪魔の左肘は破壊され、僅かな間に両腕を失ってしまったのだった。


 唖然とする悪魔の顔を一瞥いちべつしたシャドウは、腹部を目掛けて中段蹴りを見舞う。


「があっ!」


 背を丸め、苦悶くもんに顔を歪めるネイス。


「飛べよ」


 不敵に微笑んだシャドウはすかさず、悪魔の眼前へ左手を突き出したのだった。


「イレイズ・キャノン!」


 圧縮された霊力球れいりょくきゅうが炸裂し、悪魔は悲鳴を上げる間もなく宙を舞う。


 折れた牙が飛び、その体は二度、三度と激しく回転し、顔面から床へ激突。それでも勢いは止まらずに、悪魔の体は転がり続ける。


「まだ、こんなもんじゃ足りねーぞ」


 シャドウは、顔を上げた悪魔の下へゆっくりじっくりと歩み寄る。まるで死神を引き連れたような重々しい足取りで。


「ひいっ……」


 仰向けになったネイスは、立ち上がることもままならず、足だけを闇雲に動かして後ずさって行く。


「どこに行こうっていうんだ? てめーの行き着く先は、たったひとつだろーが」


 逃げようとする悪魔の胸元を踏みつけ、大剣の切っ先を喉元へ突きつける。


「てめーに聞きたいことがある。返答次第じゃ逃がしてやってもかまわねー」


 その言葉で、弱々しかった悪魔の瞳へ再び生気が宿ったのだった。


「“闇導師やみどうし”はどこだ?」


 だが、その名を聞くなり、ネイスの顔色が急変してゆくのを見逃さない。


「なんのことだか分からないねぇ……」


 苛立ちを込めて舌打ちするシャドウ。


「とぼけるな! 霊魔大戦れいまたいせんで敗走したてめーらを束ねてるのはあいつだろ!?  悪魔軍の再興でも狙ってんのか!?」


「そんなのは、おまえの妄想だよ」


「へぇ。てめーが欲しがってた刀と鏡。次元じげんとびらを開くためのもんだろ? てめーのような中位悪魔ミッド・クラスごときが思いつくような策じゃねー。闇導師の入れ知恵だろ?」


 大剣を喉元から離すと、おもむろに悪魔の太ももを一閃。その両足は一瞬の内に消滅してしまった。


「があぁぁぁぁぁっ!!」


 悪魔は絶叫し、体を揺らして苦悶くもんする。


「次は本当に消滅させるぞ! 言え! 闇導師はどこだ!?」


 怒りを押し殺し、シャドウが吠える。


「だからそれは妄想だって……」


「消えろ。カス」


「待っ……」


 冷徹な瞳で振り下ろした一撃が悪魔を両断。その姿を跡形もなく消し去った。

 悪魔が消えた後には、頭上へ舞い上がる二つの光が残されて。


才蔵さいぞう異世いよか。今度こそ間違いなく転生てんせいして、まともな人生を送れよ」


 笑い飛ばしながらも求めていた情報を得られず、物悲しい表情へ変わるシャドウ。


「俺は絶対にあきらめねーからな」


 その手に握られていた最強の相棒も、悪魔の体と同様に霧散むさん具現化ぐげんかを解かれ、あるべきところへ帰還していった。


「カズヤ。ひとまず体は返すぜ。さすがに疲れた。ミナっつったか。あいつの毒も消えた。おめーは夢の中で今の戦いを反芻はんすうするはずだ。これだけは覚えておけよ。俺の事は絶対に言うんじゃねーぞ」


 その体が仰向けに倒れると同時に、周囲を取り巻く霧の空間が解除された。辺りの風景が徐々に姿を取り戻してゆく。

 そこには、気を失ったミナを抱きかかえるサヤカの姿があった。


 後から駆けつけた霊能戦士れいのうせんしに保護された一同だったが、カズヤがたった一人で中位悪魔ミッド・クラスを仕留めたという事実に代わりはなく、その情報は瞬く間にアジトへ広まったのだった。


 カズヤたち四人、そして秀一しゅういち恭子きょうこも保護され、共にアジトで一夜を明かすことに。


 こうして、今回の事件は無事に幕を降ろしたのだった。

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