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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.01

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29/146

29 突き進む。敵の強さは関係ねぇ!


「戦いは性に合わないな。影で傍観ぼうかんし計画におとしいれる。パズルのピースがピタリとはまったような快感だろ?」


 見ているだけで虫酸むしずが走る。不快感を払うように剣を振り、蝙蝠こうもり頭へ向けた。


「悪魔ってのは、どいつもこいつも最低な奴ばっかりだな。てめぇらに存在価値はねぇ。今すぐ消してやるよ!」


 いきり立つ俺の隣へ、オタクが並ぶ。遮光プレート越しに見られている気配が。


「絶望的な選択肢をやろう。あの蛇の悪魔は何かを企み、貴様の兄を連れている。時間がない。私の力でどちらか一体を潰せるが、どちらがいい?」


「おまえ、本気で言ってんのかよ!? 目の前の蝙蝠頭の強さは昨日、味わってるだろうが。集中攻撃しかねぇだろ!」


「貴様は私の本当の力を知らない。時間がないんだ。早く答えを決めろ」


「だったら、俺が狙うのは蛇頭だ」


「決まりだな」


 オタクは素早く蝙蝠頭へ向き直る。


「あなたたち本気なの? 私たちだけで、あいつらをどうにかするつもり?」


「無茶だよ!」


 朝霧あさぎり久城くじょうの顔には不安の色がありありと見て取れる。悪魔の強さを目の当たりにし、怖じ気づくのも無理はない。


「二人は後方でサポートを頼む。どっちみち、あと二十分くらいで奴等がくるんだろ? 無理しなくていい」


「殺されたい順番は決まったか? 面倒だから早く終わらせたいんだ」


 蝙蝠頭は短剣を手にした腕を気ままに振りながら、暇を持て余している。


 すると、オタクが一歩踏み出した。


「決まったとも。ただし、一番に消えるのは貴様だがな……」


 膝を曲げ、腰を落としたオタクは両拳をきつく握り、見えないバーベルでも持ち上げるようにその拳を両脇に添えた。


「二段変身!!」


 直後、オタクの体から霊力の噴水でも吹き上がるように、その身を包んでいた霊力れいりょくが一気に増幅ぞうふく。同時に、ヒーロー・スーツへ変化が起こる。


 灼熱の太陽を思わせるその赤は、次第に血のように赤黒く濁り始め、闇夜さながらの漆黒の黒へ変貌へんぼうしたのだ。


「セイギマン、モード・ブラック。堕ちた貴様に極上ごくじょうの痛みを与えてやろう」


 言うが早いか、オタクの姿は既に俺の側にはない。魔空間まくうかんの出口を塞ぐように立つ蝙蝠頭へ、瞬く間に迫っていた。


「オメガ・インパクト!」


 霊力を帯びて青白く光る右肘を、敵の腹部へ素早く打ち込んだ。


「ガアッ!?」


 背中を丸めた敵の後頭部を両手でつかむ。そのまま思い切り引き寄せ、顔面へ強烈な膝蹴り。へし折れた蝙蝠頭の牙が床を転がった。


 体制を崩した悪魔の顔へ、追撃の上段蹴り。敵は大きな体を揺らして後ずさり、牙の折れた口元を怒りに歪めた。


「小僧があぁっ!!」


 その背に生えた巨大な羽根が開き、悪魔を取り巻く霊力が膨らむ。


「ミナちゃん! 今だよっ!」


「イエロー・シュート!!」


 久城の言葉と共に、朝霧が動いた。


 銃口から黄色い光を放つ弾丸が飛び、蝙蝠男の羽根へ炸裂。落雷のような電撃がほとばしり、敵は集中を遮断された。

 その体を取り巻いていた霊力が霧散むさんし、目の前に迫ったのは漆黒のヒーロー。


 敵の頭を踏み台に背後へ回り、左右に生えた羽根の片翼を脇に抱えた。そのまま敵の背中へ足をかけ、一瞬のうちに羽根を引き抜く。轟く蝙蝠頭の絶叫。


 オタクが投げ捨てた悪魔の左翼は、砂で作られているかのように霧散した。


「グズグズするな。さっさと行け!」


「おっ、おう……」


 見事な連続攻撃に見とれてしまった。オタクの第三の能力。圧倒的な力を目にした今なら、あいつの自信も納得できる。


「後は頼む。俺は蛇頭を追う!」


 出口へ走ると、隣へ朝霧が並んだ。


「あなただけじゃ心配よ。私も行くわ」


 引き留めたいが、その時間も惜しい。言って聞くような奴でもない。好きなようにさせておくしかないだろう。


 魔空間を飛び出すと、降り止むことを知らない雨が再び体を打ち付ける。

 濡れるのはイヤだが、あの気味悪い空間にいるよりはずっといい。振り返り空間の中を覗き込む。オタクのあの強さなら心配ないだろうがやはり気になる。


「あいつの能力、私も初めて見たわ。普段、体が無意識に押さえ込んでいる力を無理矢理に解除して、能力を限界まで引き上げるらしいわ。持続時間はおよそ五分。全てのMIDNマインドを消費する、捨て身の技らしいけど」


「押さえ込まれてる力か。そういうのテレビで見たことあるな。火事場の馬鹿力を自由に引き出せるってわけか」


 朝霧は頷きながら、通信機のスイッチを入れた。


「聞こえる? 新たに出現したネイスの霊力を探して欲しいんですけど」


『ネイスですか!? 待ってください』


 朝霧の通信機から女性の驚いた声が返ってくる。そして沈黙。俺がやりとりしているのは男性だ。各自、専属のオペレーターがいるんだろうか。しかも音声はいつも通りクリアに聞こえる。先程までのノイズは魔空間の影響なのかも。


『ミナ。そこで霊能戦士れいのうせんしを待ちなさい。悪魔を追ってはダメ!』


「セレナさん? どういうこと?」


『ついさっき解析が終わったわ。あの悪魔、中位悪魔ミッド・クラスよ』


「私たちじゃ手に負えないってこと?」


 朝霧の瞳が俺を見ている。こんなシチュエーションでなければ胸が躍るような気持ちを味わえるのかもしれないが、今の俺たちの間にはどうしようもないほどの失望感しか湧いてこない。


 でも、立ち止まることなんて出来ない。弾かれるように朝霧の腕を取り、通信機を口元に引き寄せる。


「時間がねぇんだ。相手がどうだろうと関係ねぇ! さっさと教えろ!!」


『カズヤ!? 戻っていたのね? でも理解して。無理なものは無理。あなたたちを死なせるわけにはいかないわ!』


 朝霧の腕を放し、込み上げる悔しさを吐き捨てるように舌打ちする。隣に立つ大木を蹴りつけたその時、確かにハッキリと伝わってきた。

 その方向へ素早く視線を向ける。


「どうしたの? まさかあなたも、サヤカと同じ感知能力かんちのうりょくがあるの!?」


 鬱蒼とした木々と雨の影響で視界はかなり悪いが、その先へねっとりと絡みつくようなおどろおどろしい霊力がある。間違いなく、あの蛇頭だ。


 全力で駆け出すと朝霧が並んだ。


「もう一度だけ言うぞ。ここに残ることを責めたりしねぇ。ここからは俺の独断だ。みんなの命を危険にさらせねぇ」


「弱いくせに強がるんじゃないわよ。お兄さんを助けたいんでしょ? やるしかないじゃない。あなたを見ていると自分を見ているようで、放っておけないのよ」


「どういう意味だよ?」


「その説明、今、必要?」


 何かを吹っ切るように、覚悟を決めた瞳で微笑む朝霧。仲間がいるということを今日ほど心強く思ったことはない。


 そういえば啓吾けいごが以前に言っていた。朝霧には姉がいると。美人姉妹としてメディアに取り上げられたこともあるとか。


 直後、朝霧の通信機からオペレーターの声が漏れてきた。


『セイギ、タイムアウトまで三十秒』


『セイギ、右後方に敵を弾いて。サヤカはその場でBの用意!』


 セレナさんの緊張した声。Bは久城の二番目の技。相手との距離が近いほど強力な威力を持つという衝撃波だ。


「向こうの戦いも大詰めみたいね」


 走りながらも、朝霧は通信機の音声に耳を傾けている。久城が心配なんだろう。なんだかこちらまで緊張してしまう。


『残り二十秒!』


『セイギ、弾いて! すぐにその位置でBの用意! サヤカ、今よっ!』


 通信機から、炸裂音と共にオペレーターたちのどよめきが上がる。


『よし! セイギ、そこでB!!』


 オタクの技、確かオメガ・インパクトと言ったか。見事に蝙蝠頭を仕留めたんだろう。通信機からオペレーターたちの歓声が漏れてきた。


『セイギ、SOULソウル50。MINDマインドは0表示により戦闘不能。同時に、悪魔の消滅を確認』


「向こうは任務完了ね。サヤカのさばきのいかずち、成功したみたいで安心したわ」


「ホッとしてるところりぃけど、今度はこっちの番だぜ」


 林道を駆け抜けた先へ、開けた砂地が。左手に切り立った岩肌がそびえ、そこに掘られた一つの大穴が見えたのだった。

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