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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.01

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28 助かった。なんて素敵な奴なんだ


「ゴースト・イレイザー!」


 俺のための剣が眼前へ具現化ぐげんかする。


「尻尾を巻いて逃げ出した上に、作戦までかき混ぜるなんてね。釈明は後で聞かせてもらうわよ。ホーリー・シュート!」


 朝霧あさぎりの手には銀色の銃が具現化ぐげんか。ヨーロッパのアイアン・アンティークで見るような曲線を描く装飾が随所にほどこされ、デザインセンスを伺わせる。


「今は目の前の敵に全力投球でしょ! 神王しんのう鉄槌てっつい


 久城くじょうの手には身長と同等の銀色の巨大十字架。両腕を広げた女神が正面に彫り込まれている。


「変身!!」


 真っ赤なヒーロー・スーツに包まれたオタクは、両足を広げて前屈みの姿勢になった。両腕を大きく広げて平

行に動かし、十時二十分の位置へ。


 やばい。何か恥ずかしいものが始まる。


「光あるところにまた闇もあり。それは揺るぎなき運命さだめ……」


「一気に攻めるぞ!!」


 決めゼリフを遮り、戦いを開始する。仲間の存在が心強いことこの上ない。


 先程から見ている限り、悪魔が攻撃してくる気配はない。女に任せて、高見の見物というワケか。


「オタクは蝙蝠こうもり頭を頼む! ミナ、サヤカ。女を一気に叩くぞ!」


 目障りな小物を排除し、大型を全員で一気に叩く。だが、警戒しなければならないのは蝙蝠頭が起こす衝撃波しょうげきはだ。


 各々が動き出した直後、自分の判断が誤っていたことを思い知らされた。なぜ、鬼斬丸きざんまるを背負ったままのオタクを、悪魔へ向かわせてしまったのかと。


 直後、側に立つ朝霧と久城の通信機から激しいノイズが。それに混じってセレナさんの声が漏れた。通信機の故障か。


『セイギ! 右後方に警戒!! 何かが近づいているわ!!』


「ソニック・ウインド!!」


 視界の端で、悪魔の放った衝撃波がオタクを直撃した。ひるんだヒーローの元へ迫る細長く巨大な白い影。


 それは衝撃波を物ともせずに駆け抜け、あいつの背中へ結ばれた刀を容易く奪ったのだ。同時にオタクは後方へ吹っ飛び、背中を打ち付けながら仰向けに倒れた。


「オタク!?」


 思わず目を疑った。細長く巨大な白い影は蛇だ。夢の中で散々俺を追い詰めた巨大な白蛇がまざまざと蘇る。


 しかし、決定的に違うのはその蛇に腕と足があること。鍛え抜かれた体をウロコが覆い、まさに蛇人間と呼ぶに相応しい。腰の辺りから蛇の尻尾が覗き、気味悪くうねっている。


 言葉を失って立ちつくしていると、再びセレナさんの声が。


『別の悪魔の反応を確認! 各自、警戒をお願い! もう少しだけ持ち堪えて!』


「もう一体、いたのか……」


 ノイズ混じりの音声が途切れ、外界との繋がりは断たれた。世界から隔離されてしまったような絶望感に襲われる。獰猛な獣の檻に放り込まれた俺たちに勝機はあるんだろうか。


 だが、例えここが獰猛な獣の檻だとしても、決して負けられない理由がある。もう逃げるわけにはいかない。

 窮鼠きゅうそ、猫を噛む。俺たちを甘く見ている敵へ一撃を見舞ってやる。


 剣を正眼に構え直し、三体全員が視界に入る位置まで後退した。

 オタクも素早く身を起こし、朝霧と久城も攻撃に備えて身構える。


 蛇顔の悪魔は鬼斬丸を確認すると、大きく裂けた口を開け、細長い舌を伸ばして笑った。その不気味さに鳥肌が立つ。


「ようやく揃った。そこのおまえ、異世いよとか言ったか? おまえから預かった鏡を合わせて全ての準備が整った。喜べ!」


 深紅に染まった瞳で俺たちを見回し、勝ち誇ったように胸を大きく反らした。


「素晴らしい。おまえたちは今日、歴史的瞬間に立ち会うことが出来るだろう。待てよ。それは無理か。おまえたち全員、この場で死んでしまうからなぁ〜」


 両手を広げ、芝居じみた口調でせせら笑う悪魔。見ているだけで腹が立つ。怒りを力に変え、剣を握る両手へ注ぎ込む。


 蛇頭は、突然のプレゼントを手に入れた子供のように落ち着きのない動きで、背後の蝙蝠頭を呼び寄せた。


「後はおまえに任せる。あっ、そうそう。あの女も用済みだ。きちんと始末しておくように。では諸君。ごきげんよう」


 蛇頭の一人芝居は終わったようだ。右手を高く上げた後、恭しい仕草で深くお辞儀をする。すると、床に倒れていたアニキの体を片手で軽々と担ぎ上げたのだ。


「待て、この蛇頭!!」


蛇神様へびがみさま、一体どういうことですか!?」


 悪魔を呼び止めると同時に、グレイが叫んだ。何が起こったのか分からないというような驚愕の表情を浮かべて。


 蛇頭はさも面倒そうに口をへの字に曲げ、女を一瞥いちべつする。


「どうもこうもない。残念だけど、あんたもてあそばれちゃったんだよね」


「生き返らせるという約束は!?」


「え? なにそれ? 僕チン分かんな〜い。ってか、そもそもそんな力なんて持ってるワケないしねぇ〜。ゲヒヒヒヒ」


 口元に手を当て、小馬鹿にしたように笑い続ける悪魔。本当に最低な奴だ。

 俺から見てもハッキリ分かるほど、女の肩が怒りに震えている。


「騙されるおまえが悪いんだよ。初めて会った時から蛇神様、蛇神様って尻尾振って付いてきてさぁ。こぉんな怪しい神様がいるかい? ウブな娘を、ちょっとからかいたくなったのさ」


「きっさまあぁぁ!!」


 殺意を剥き出し飛びかかる女へ、蛇頭は冷ややかな視線を投げた。


「暑苦しい奴は嫌いなんだよ……」


 頭上から振り下ろされた女の右刃。

 アニキを担いだままの蛇頭は、空いている左手でそれを容易く受け止める。


「この能力も俺が授けた力だろぉ。それが通用すると思ってんの?」


 直後、その右足から蹴りが繰り出され、女は声を上げる間もなく宙を舞った。

 背中を丸めた姿勢で床に叩き付けられ、俺の眼前へ転がり込む。


「では諸君。出会ったばかりだが、ここで失礼させてもらうよ。後は、このバッツァ君に好きなだけ遊んでもらうといい」


 逃げられる。焦る余り、咄嗟に右手を突き出していた。


「イレイズ・キャノン!!」


 飛んできた虫を追い払うように、霊力球れいりょくきゅうを手首の返しだけではねのける。

 角度を変えた霊力球は、死角から迫っていたオタクを直撃。真っ赤なヒーローは情けなく床を転がった。


 まるで背後にも目があるかのようだ。手の出しようがないどころか、霊力球を容易くはねのけた。まさに化け物だ。


 忌々しい笑みを浮かべる蛇頭。アニキと鬼斬丸を抱えたまま、先程破壊された魔空間の出口へ走ってゆく。


 それを目にした女が、体を起こして再び身構える。だが、こいつが敵う相手じゃない。恭子きょうこの体を守るためにも、グレイの好きにさせるわけにはいかない。


「待て。おまえじゃ無理だ」


「うるさい!」


 その肩へ手を伸ばした直後、振り向き様に放たれた一閃。左上腕を切り裂かれ、鋭い痛みに慌てて傷口を押さえた。

 そしてグレイは、悪魔を追って魔空間まくうかんを飛び出してゆく。


「いってぇ……」


 耐え難い激痛。切り裂かれた断面に風を当てられているような鋭い痛みが。


 幸い腕は繋がっているらしく、指先もどうにか動く。恐らく大量の出血をしているだろうと恐る恐る傷口を見ると、信じられないことに一滴の血も見あたらない。それどころかワイシャツすら無傷だ。


「どうなってんだ?」


 痛みと疑問が交互に襲っているところへ、久城が駆け寄ってきた。


天女てんにょ羽衣はごろも!」


 その手に白銀の布が現れ、傷口へ素早く巻き付けてくれた。


「これで大丈夫。痛みもすぐに引くから。どうして血が出ないか不思議でしょ? 相手の攻撃も霊力を具現化したものだから、実体は傷を受けないの。分かる?」


「セレナさんが言ってたのはこのことか」


 改めて納得しながら、魔空間に残った蝙蝠頭へ視線を移した。

 相変わらず戦う意志を微塵も見せず、遠くから俺たちを眺めているだけだ。


「ネイスめ。あの女にまでばらしやがって。俺の計画が台無しだ。おかげで俺が戦う羽目になったじゃないか。クソッ!」


 怒りをまき散らすように独り言を吐きながら、武器である短剣を取り出したのだった。

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