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斬魔剣エクスブラッド 〜限界突破の狂戦士〜  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
Episode.01

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20/146

20 覚 醒


★★★


 最初に異変に気付いたのはセイギだった。蝙蝠こうもり顔の悪魔と戦いながらも、何かをつぶやく彼に注意を奪われた。


 直後、彼の体から溢れ出した霊力が青白い光となってその体を覆い、手にした何かへ急速に吸い込まれたのだった。


 そして彼が倒れると同時に、手にしていたそれは甲高い音を上げて砕け散る。


★★★


 その頃、具現者リアリゼーターのアジトでは、制御モニターを監視していたオペレーターから悲鳴のような声が上がっていた。


「セレナ導師どうし! これを見てください!」


「どうしたの?」


 そこには、カズヤたち四人の生命力と霊力れいりょくを示すグラフが映し出されていた。


「カズヤのMINDマインドが異常な変化を見せています。激しい増減を繰り返していましたが、今度は急激に上昇中。現在、測定不能!!」


「どういうこと!?」


 セレナはおもむろに顔を上げ、別のオペレーターへ視線を巡らせる。


霊眼れいがんの映像は!?」


「映像が乱れて確認できません。現在、確認できるのは、マンション入口で交戦中のミナとサヤカだけです」


 セレナは親指の爪を噛んで動かない。


「まさか、既に“A-MIN(エー・マイン)”に覚醒したの? そんなはずがないわ。まだ、ほんの三日なのよ……私が彼に感じた力の正体がこれなの?」


 得体の知れない出来事に困惑しながら、呆然とモニターを見つめ続けている。


★★★


「この霊力はリーダー?」


 巨大十字架を構えたサヤカは、背後のマンションを振り返った。


「サヤカ、集中して! 気を抜いてどうにかなる相手じゃないわよ!」


 ミナは敵から視線を外すことなく、手にした装飾銃そうしょくじゅうを構え直した。


「ごめん。それは分かってるんだけど」


 突然現れた不可解で巨大な霊力。凄まじいエネルギーを秘めつつも、底の見えない漆黒で物悲しい色を感じ取っていた。


「この力。A-MIN(エー・マイン)じゃないよね……」


 前方では夕闇に紛れるように、敵のシルエットが不気味に立っている。黒い布を頭からスッポリと被り、さながら黒のてるてる坊主といった姿だ。


 攻撃を仕掛ける内に、サヤカは相手のおおよその戦闘能力を把握していた。やはり自分たちが敵う相手ではない。

 しかし、それは分かり切っていたことだ。彼女の目的は相手を倒すことではなく、あくまでも足止めをすること。そしてそれは今のところ成功している。


 敵の武器は近距離専用だ。距離を保てば恐れることはない。幸い、サヤカの巨大十字架に加え、ミナの銃もある。


 サヤカは不意に笑みを漏らす。


「接近戦も負けないよ。中学ソフトボール部で四番だった打撃、見せてあげる」


★★★


 彼は身を起こし、長い息を吐いた。

 自らの体を確かめるようにじっくりと眺め、両手の開閉運動を繰り返す。


「よし……」


 何かを確信したように顔を上げ、セイギと悪魔の戦いを凝視した。悪魔を目にしたその瞳へ、憎悪ぞうおの色が揺らめいた。


「ぶっ殺す!」


 手にしたゴースト・イレイザーを“右手”に持ち替え、悪魔を目掛けて走る。


 視界の端にそれを捉えたセイギは、本能的に危険を感じ素早く後退。すると悪魔は標的を切り替え、彼へ短剣を向けた。


 刃がぶつかり合い、中庭にはとうてい場違いな鋭い衝突音がこだました。


 彼は悪魔を見上げる形で対峙した。敵の身長は二メートルを越えている。彼の一撃を受け止め、悪魔は嘲笑ちょうしょうを浮かべる。


 しかし彼にしてみても、その一撃を受け止められたことは想定内だったようだ。慣れた調子で敵の刃を打ち払い、左手へ急速に霊力を収束させる。


「イレイズ・キャノン!!」


 霊力球れいりょくきゅうの攻撃だが、これまでとは質が決定的に違う。サイズは同等でも、内部には数倍の霊力が込められていたのだ。

 油断していた悪魔は、その攻撃をまともに腹部へ喰らった。


「ぐおおぉぉぉぉぉ!!」


 破裂音と共に青白い閃光が散り、悪魔を焼き尽くすようにその身を包んだ。


 敵は背中を丸めて大きく吹き飛び、側で身を潜めていたグレイへ激突。両者は閃光に包まれ、無様に地面を転がった。


「ヒャッハッ!!」


 彼は歓喜の声を上げ、追撃を加えようと剣を構えて敵を追う。


「おら、おら! どうしたぁ!? てめーの力はこの程度かぁ?」


 悪魔は咄嗟に身を起こし、慌てた素振りで彼の連撃をどうにか受け止める。


 狂ったような笑みを浮かべる彼は、まるで剣の稽古をつけるように打ち込み続け、敵を防戦一方に追い込んでいた。


「信じられん……」


 目の前で起こっている光景を、セイギは呆然と見つめることしか出来ずにいた。

 悪魔と呼ばれるあの怪物を相手に、ここまで圧倒的な戦いをする者など見たことがなかったのだから。


「まるで別人だな……」


 他人のことには無関心なセイギだったが、彼の余りの豹変ぶりに、戸惑いを通り過ぎ恐怖すら感じていた。


「ヒャッハッ!!」


 彼の奇声が夕闇を切り裂くように響く。そしてその右腕は、目の前の存在を消し去ることだけのために、荒々しくも鋭い斬撃を繰り出し続ける。


 悪魔はその連撃を辛うじて受け流しながら、焦りと危機を隠せずにいた。このままでは、確実に葬られると。

 直後、彼は攻撃の手を止めて距離を取り、余裕の表情で口を開いた。


「おい。とどめを刺す前に、名前ぐらい覚えておいてやってもいいぜ」


蝙蝠こうもりのバッツァだ」


「見たところ、下位悪魔ロー・クラスってところか? はっ! 可哀想になぁ。俺に出会ったのが運の尽きだな」


 笑みを浮かべて右手の剣を構える。


「すぐに終わらせてやるよ」


「シシシッ! どうかな?」


 バッツァと名乗った怪物は意地悪く笑い、背中の羽を大きく広げた。


「充分な時間は貰った。ソニック・ウィンド!!」


 羽ばたきと共に突風が巻き起こった。周囲の草花を吹き散らし、手近な木々すらことごとくなぎ倒してゆく。先程、二人が不意打ちを受けた一撃だ。


「くっ!」


 咄嗟に体制を低くしたセイギだったが、あらがすべもなく軽々と吹き飛ばされた。

 対して彼は、突風の発動と共に左手を怪物へ突き出していた。


「シールド!」


 傘のように展開した青白い霊力壁れいりょくへきが、突風を一瞬のうちに遮った。彼の背後には、無傷の草花が何事も無かったように群生している。


「バカな……」


 必殺の一撃をいとも容易く受け流され、悪魔は困惑の様子を見せる。


「終わりだな」


 霊力壁を解除して勝ち誇ったように言い放った直後、彼の体が大きく傾いた。剣を地面へ突き刺し、慌てて体制を保つ。


「ふざけんなよ……こんな時に……」


 その隙を見逃す悪魔ではなかった。

 倒れて動かないグレイの体を小脇に抱え、素早く上空へ舞い上がった。


 額に汗を滲ませて呼吸を乱した彼が、その姿を忌々しげに見上げる。


「くそっ! 待ちやがれ……」


 悔しさに歯噛みする彼を尻目に、敵は逃げるように素早く飛び去った。


「どういうつもりだ!? さっさと仕留めればいいものを」


 責めるような怒声を響かせ、セイギが彼へ詰め寄っていた。


「へっ! なにもしてねー奴に、とやかく言われる筋合いはねーな」


「なんだと?」


 一瞬にして険悪な空気が漂う。今この場に二人をいさめるものはいない。


「丁度いい。今日こそ、どちらが上かハッキリさせてやろうじゃないか」


 セイギは意気揚々と言い放つ。彼にしてみれば実力を示す絶好の機会であり、彼と戦いたいという強い好奇心があった。


「後で泣き出したって知らねーぞ」


「貴様こそ息が上がっているようだが。額に浮かんでいるのは冷や汗か?」


 彼は呼吸を整え、剣を正眼に構える。対してセイギも油断無く構えを取った。


 近寄りがたい闘気を剥き出し、睨み合う二人。一触即発の空気が辺りへ満ちる。

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