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35 いざさらば。リアリゼーター解散だ


「あいつら、大丈夫だよな……」


 文章編集ソフトへ記録を打ち込みながら、思わず不安が胸を過ぎった。


☆☆☆


 別れの時間が迫る中、霊界ではもっと重大な事件が起こっていたんだ。

 慌てて転移室てんいしつへ駆け込んできたセレナさん。その口から出た驚くべき報告。


 なんと、霊界へ搬送したはずのカミラさんの遺体が消えてしまったというのだ。カイルとクレアの遺体だけを残して。


(ボスがうろたえる顔をこの時に始めて見た。そんな姿はとても想像もできなかった)


 騒然となる中、俺は、ミナとセイギの顔を見た。そして、ゼノもそれに気付いたんだ。

 ジュラマ・ガザードに取り込まれたエデンは、闇導師やみどうしによってとどめを刺された。その際に転がり落ちた宝玉ほうぎょくの存在を。


 宝玉を蜘蛛くもの脚が蹴り付け、転がりながら朽ち果てた。だが、その先にはカミラさんの遺体が確かにあった。


 爆死したエデンは、最後の力を風見とレイカ先輩に分け与えた。その時にはもう、エデンの意識しか存在していなかったとしたら。

 ジュラマ・ガザードの力と意識は宝玉に戻り、まんまとカミラさんの体を乗っ取って生き長らえたというわけだ。


 “あのカス魔王……”忌々しげに奥歯を噛みしめるゼノ。そしてあいつは言い放ったんだ。“どこまででも追いかけて、あいつを絶対に消滅させてやる”と。


 慌ただしいまま別れが訪れ、四人は新たな戦いへ向かって行った。ここからはもう、俺たちが手を出せる問題じゃない。あとはゼノたちの勝利を祈ることしかできないんだ。

 そして、その日の午後、俺たちの引退が正式に決定した。


 会議室に集められた俺たちは、もう必要のなくなってしまった霊撃輪れいげきりんを返却。獲得賞金の最終金額がはじき出された。


 まず、悪魔軍との防衛戦を戦い抜いた俺たちには、一律200万円ものボーナスが支給された。そして、序列じょれつ一位、上位悪魔ハイ・クラスベアルには400万の配当。四混沌しこんとんの一人、毒蜘蛛どくぐも闇導師やみどうしには550万。更に、悪魔王ジュラマ・ガザードに支配された魔人まじんエデンには700万もの配当が。


 獲得した金額はそれぞれの功績に応じて分配。最終金額は以下の通りだ。

 セイギは908万。ミナは610万。サヤカが413万でタイちゃんが506万。そして俺は1850万。


 だがここで、ボスとセレナさんから物言いが付いた。限界突破リミット・ブレイクを使用していた俺の功績には、ゼノの力が多分に含まれていると。

 それを言われては元も子もない。俺は賞金の半分を没収された。結果925万。せめてもの情けということで、多少上乗せの1000万に落ち着いたんだ。


☆☆☆


「ひでぇ話だよな……でも、この年で一千万なんて、とんでもねぇ話だけどさ」


 どう使おうか今から迷ってしまう。


☆☆☆


 賞金は当初の約束通り、今後数年間に渡って分割支給されていく。だが、セイギだけは姉の治療ということで一括支給を求めたんだ。

 家族の記憶を操作してもらい、父が宝くじを当てたことにするという。セイギが貯めたお金だと知れば、姉の負担になるだろうという本人の配慮からだった。


(戦うことしか頭にないのかと思ったら、意外と色々考えてたんだな。すまん)


 一流の治療をほどこすため、海外治療も視野に入れているのだという。


 朝霧あさぎりは、高校卒業後の一人暮らしの資金にすると言っていた。

 宝飾は姉に任せ、それに見合う服飾の道へ進むことを決めたそうだ。アサギリとしての事業拡大も見越してのことだ。


 “神崎かんざき、私を選ばなかったことを、いつか必ず後悔させてあげるわ”そう言って、俺の鼻先に指を突き付けてきた朝霧。


 “でも、気が変わったらすぐに連絡しなさいよね。私はいつでも待ってるから……”さっきまでの勢いはどこへやら、うつむきながら顔を真っ赤にしてつぶやく。


 朝霧を素直に愛おしいと思ってしまった俺もなんだが、そこは男のさがというヤツだ。聞かなかったことにして欲しい。


 久城くじょうは真面目に貯金するそうだ。いつか素敵なダーリンと結婚するための費用にするんだと妄想を膨らませていたっけ。

 看護師か保育士になりたいと言っていたから、案外、学費に消えてしまうのかも。


 辛そうなタイちゃんの顔を見るのがためらわれた。仲間を次々に失い、かけるべき言葉も見つからなかったんだ。


 治療室へ隔離されていた郷田ごうだも、闇導師が滅びたことで呪縛じゅばくから完全に解放。悪魔に関わる記憶を抹消され、日常生活へ戻った。

 ちなみに、三日月島みかづきじまにあった研究所は台風の影響で火災が起こり、全焼したという記憶へすり替えられたのだった。


 地上の危機も去り、夢来屋むらいやも解体。ボスとセレナさん、そしてアジトのスタッフも霊界へ引き上げる準備が始まった。

 みんなへ手短に挨拶を済ませ、俺たちはアジトを出ると同時に解散したんだ。


 その翌日、一抹の寂しさと手持ち無沙汰な気持ちから夢来屋むらいやを訪れた時には、ただの畑にすり替わっていた。

 本当に呆気ない最後だった。心にぽっかりと開いたこの穴は、親しい仲間たちとの別れのせいだけじゃない。


☆☆☆


「はぁ……」


 パソコンから視線を外し、意味も無く外をボンヤリと眺める。でも、そんなことをした所で何が変わるわけでもない。


「そういえば……」


 おもむろにパソコンへ向き直り、数日前に更新した小説投稿サイトを開いた。

 気になるのは、アクセスと登録数。


「お気に入り登録、百十八件か……目標の百件を超えられたし、充分かな……まぁ正直な所、もう少し行くと思ったんだけど……」


 現実はかなり厳しい。そもそも、このサイトの人気ジャンルと傾向をろくに調べもしなかった自分のせいだ。

 これが書きたいという本能だけで、具現者リアリゼーターの活動をエンターテインメントとして脚色してしまったんだから。


「やっぱり、妹と一緒に異世界へ召喚されて、女性限定の具現者リアリゼーターを結成する、とかかな?」


 ここまで来たら何でもアリだ。タイトルだってこれで構わないだろう。


“妹と異世界に召喚されたので、具現少女隊リアリゼーター・ガールズを結成してみた”


 うん。悪くない。


 そんなくだらないことを考えていた時だ。机の片隅に置いていた携帯が、バイブ機能を伴って激しく振動した。

 ディスプレイには啓吾けいごの名前が。


「うぇ……」


 思わず呻き声が漏れる。朝からこいつの相手をするなんて、まるでテレビの星座占いで最下位スタートした気分だ。

 だが、特にやることもないので話し相手には丁度いい。気を取り直して通話を繋ぐ。


「もしもし。どうした?」


『おっ! ようやく掴まった』


 うれしそうな啓吾の声。


「ようやくって、俺は稀少生物か?」


 呑気な笑い声が聞こえてくる。まったく、人の気も知らずにいい気なもんだ。

 だが、こんなくだらないやり取りが、辛いことを忘れさせてくれる。たとえそれが一時的でも構わない。


『どうせカズのことだから、ヒマしてるよね? ちょっと手伝ってよ!』


「勝手に決めつけんな! 俺だって、色々あるんだっつーの!」


 俺をなんだと思ってやがる。


『色々って、なに?』


「ん? ほら、RPGゲームとか……宿題?」


『なんで疑問系なの? しかも、カズの口から宿題って! レア・アイテムを手に入れたのと同じくらいの笑撃しょうげき! あぁ、しょうげきのしょうは、笑うって字ね』


「うるせぇ! くだらねぇ解説まで付けやがって! 切るぞ!」


『こら! 話は最後まで聞きんさい!』


「また、変なキャラが出てきたよ……」


 まったく、どこから仕入れてくるんだ。


『ちょっと手伝ってよ〜』


「なにを?」


『取材だよ。光栄新聞こうえいしんぶん、九月特大号の取材に来てるんだよ』


 言われてみれば、電話口の向こうは何だか騒がしい。それに微かだが波の音も。


「海にいるのか?」


『正解! では、カズに質問です! 夏と言えば海。海と言えば?』


 そういえば、前にもこんな会話が。


「水着美女?」


『ピンポーン! 正解ですっ!!』


 せっかく正解したっていうのに、こうも空しいのはなぜだろう。


『聞いてよ。なんと、ビーチの水着美女特集なのです! いやぁ。昨晩、神眼しんがんを磨いておいて正解でしたぞ! 選り取り見取りで鼻血が出そう。ぐふふふ……』


「わいせつ神眼なんて潰れてしまえ! そのエネルギー、少しは勉強に注げよ……」


 これは紛れもない本心だ。


『と・に・か・く、すぐに神津かみつ海水浴場に来て! ゆうも待ってるから!』


「は? 悠もいるのかよ!?」


『え? 当然でしょ』


 こんな妄想大王もうそうだいおうに付き合わされて、可哀想に。もっと自分を大事にして欲しい。


『待ってるからすぐに来て! ほら! 悠からも言って、言って!』


 電話口の向こうが騒がしい。


『カズ? 急な誘いでごめん! 啓吾が、どうしてもって聞かなくて……』


「悠、おまえも大変だな……」


 もう、苦笑しか出てこない。


「まぁ、とりあえず行くよ。妄想大王が暴走しないように見張っててくれよ」


 お互いに笑い合い通話を終えた。


 ふと顔を向けた窓の外は夏色に覆われている。いつまでも、この部屋の中でウジウジしているわけにもいかない。


「そんじゃ、行きますか!」


 そそくさと準備を整え、部屋を出る。

 ふと気が付けば、今日の服装はブランド・ロゴの入った真っ白なシャツとジーンズ。桐島きりしま先輩とデートをしたあの日と、同じコーディネートだった。


 なんだかモヤモヤした気持ちになったのは、この暑さのせいだけじゃない。

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