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28 研ぎ澄ませ! てめぇは絶対、許さねぇ!


 闇導師やみどうしと戦闘を繰り広げるアッシュとアスティ。それを目にしながら、カズヤは急速に萎んでゆくゼノの意識へ思念しねんを投げかける。


(ゼノ、見ただろ? ティアさんの命を奪ったのは俺だ。恨むなら俺を恨め。でも、これしか方法がなかったんだ……)


 ミナの一撃で、ティアが命を落とさなかったのは不幸中の幸いだった。カズヤはこれ以上、彼女の苦しむ姿を見たくなかったのだ。だからこそ、彼女を突き放し置いてきたというのに、ここまで付いてきた。来てしまった。


「ミナはここにいてくれ。後は、俺が何とかしてみせるから……」


 斬魔剣ざんまけんを手に、意識を研ぎ澄ませるカズヤ。闇導師への憎しみに比例して、内包する霊力までもが膨れ上がってゆく。


A-MIN(エー・マイン)、解放!」


 溢れ出す力の奔流は目に見える姿で具現化ぐげんか天女てんにょ羽衣はごろもを思わせるような帯が首へ掛けられ、両端は二の腕へ巻き付いた。


「てめぇだけは絶対に許さねぇ……」


 これまでの戦いで失われた数々の命を想い、カズヤは怒りを募らせた。全ての元凶となった男が今、目の前にいる。

 想定外の展開だが、こうして表層意識に出てこられたことをカズヤは幸運に感じていた。間接的にとはいえ、レイカを奪った憎き存在へ直接、報復することができるのだから。


 闇導師の放った霊力球れいりょくきゅうに、二人の霊能戦士れいのうせんしの体は大きく弾かれた。それと入れ替わるように、カズヤは大剣たいけんを手に走る。

 すると、闇導師の八つの複眼がカズヤを捉えた。八本の脚を大きく広げて威嚇する。


 阿修羅観音を思わせるその姿。頭部を狙い、全力で大剣を振り下ろすカズヤ。

 だが、唸る一撃も、組み合わされた四本の脚で難なく受け止められてしまう。


「くっ!」


 奥歯を噛みしめるカズヤの腹部を狙い、残された四本の脚が突き出される。しかし、それを見越していたように、カズヤは素早く右手を突き出した。


「シールド!」


 斬撃が受け止められるのは先程のゼノの攻撃で確認済み。彼の狙いは、敵の攻撃を敢えて誘うこと。

 蜘蛛の脚が霊力壁れいりょくへきへ突き刺さると同時に、霊力の出力を上げて固定。その一瞬が闇導師に隙を生んだ。


 霊力壁を置き去りにしたカズヤは、闇導師の体に添って踊るように回転。脇をすり抜け敵の背後を取る。

 狙うは腹部。蜘蛛の脚が具現する部位を避ければ、刃は必ず通ると踏んでいた。


 カズヤが剣を構えると同時に、闇導師は霊力壁を打ち砕く。敵が振り返る前に決定的な一撃を加えなければならない。


 闇導師は顔だけを動かし、八つの複眼でカズヤを捉えた。その瞬間、彼の心に過ぎる絶望。このまま攻撃に踏み切ったところで、避けられるのは確実だ。


「ブラック・シュート!」


 と、その時だ。闇導師の隙を突くように胸元へ撃ち込まれた霊力弾れいりょくだん。属性変化の能力を与えられたそれが爆発を引き起こした。


 体勢を崩した相手を見て、カズヤはミナに感謝した。か弱く、守るべき存在だと思っていた彼女だが、大事な局面で必ず的確なサポートをしてくれていたことに改めて気付かされたのだった。


「くらえっ!」


 無我夢中で突き出す大剣。それを避けようと体を捻る闇導師。


 勝負に勝ったのはカズヤだった。狙い澄ました一撃が闇導師の左脇腹を貫通。確かな手応えと共に、切り裂かれた闇導師の上半身が大きく傾いた。

 慌てて追撃へ動くカズヤ。握りしめた右拳へ霊力の青白い光が灯る。


「イレイズ・キャノン!」


 闇導師の体を地面へ叩き付けるように、後頭部を思い切り殴りつけていた。

 すると、荒々しい一撃を受けた闇導師の上半身が千切れ、這いつくばるようにモノクロの大地へ激突した。


 不意にカズヤは、頭上へ立ち篭める暗雲に気付いた。それと同時に、横手からアッシュとアスティの声が上がる。


いかづち攻霊術こうれいじゅつ! 天雷てんらいそう!』


 暗雲から降り注ぐ電撃。天の神が放った一本の槍を思わせるそれが、まばゆいばかりの閃光を放ち、闇導師を直撃した。

 天を引き裂くような轟音と共に、倒れる敵の姿が不気味に照らし出される。


「やったのか?」


 カズヤは閃光に目をしばたたき、瘴気しょうきと化して崩れる敵の下半身を見つめていた。

 ゼノに最後のチャンスを与えてやれなかったことを申し訳なく思ったが、そんなことを気にして勝てる相手ではなかったのも事実。


「ミナ、ありがとう。助かった……」


 闇導師の奥に見える彼女へ微笑むカズヤ。すると彼女も無言で微笑み、それに応えた。


「完全勝利だろ! にしてもアスティ。おまえ遅いんだよ。危なかったっての」


「ごめん。ミナさんの説得に手間取って……カズヤ君に気を遣って、なかなか動こうとしないから……」


 大剣を手に闇導師へ近付いていたカズヤは、驚いた顔で二人を見た。


「アッシュ! おまえもグルだったのか!? なんで黙ってたんだよ!?」


「だって、反対するのは目に見えてたろ? 黙っておくしかないってな!」


 いたずらめいた笑みのアッシュへ溜め息を漏らし、カズヤは斬魔剣を振り上げた。この一撃で、敵を完全に消滅させるために。


神格しんかく!」


 うつぶせに倒れていた闇導師の上半身から衝撃的な言葉が漏れた。直後、その体がまたたに膨れ上がり姿を変える。

 一同の前に現れたのは、体長六メートルを超える巨大な毒蜘蛛どくぐも、タランチュラだ。


はいを倒したつもりで気が緩んだか? 愚か者め! さっさと止めを刺さなかったことを後悔させてやろう!」


「くそっ!」


 舌打ちを漏らし、後悔と共に毒蜘蛛を見上げるカズヤ。敵の威圧感に萎縮する心と比例するように、ゼノから感じる力も小さく弱々しいものだった。


(ゼノ、戻ってきてくれ。こいつを倒すには、おまえの力が必要なんだ!)


 思念で訴えていたその時だ。毒蜘蛛の足下を起点に周囲へ蜘蛛の巣が拡散。カズヤたちの足下にもそれは及んでいた。


暗黒巣波あんこくそうは!」


 蜘蛛の巣をなぞるように吹き上がる強烈な衝撃波。アッシュ、アスティ、ミナは空霊術くうれいじゅつで咄嗟に跳躍。直撃は回避したものの、体を弾き飛ばされていた。


 ただ一人、霊力壁れいりょくへきで耐えることしかできなかったカズヤ。その衝撃波しょうげきはを直に受け、盛大にモノクロの地面を転がった。


「これで終わると思うな……」


 毒蜘蛛は左右の前足を上げ顔の前で付け合わせた。同時に、八つの赤黒い複眼へ不気味な光が宿る。視線の先には、うつぶせに倒れるカズヤの姿が。


「んの野郎!! アスティ、力貸せ!」


 敵の不穏な行動をいち早く察したアッシュ。だが、カズヤを助けようにも間に合わない。意を決し、アスティと共に毒蜘蛛との間へ割り込んでいた。


四混霊術しこんれいじゅつ森羅万象しんらばんしょう!」


守霊術しゅれいじゅつ! えんそう!』


 毒蜘蛛から解き放たれた荒ぶる力の奔流ほんりゅう。それが全てを飲み込み打ち砕く。

 地獄の炎が荒れ狂う。それすらも凍り付かせようかという猛吹雪。神々の怒りを思わせる紫電しでんほとばしり、宇宙の創造を再現したような大爆発までもが炸裂する。


 二人の展開した霊力壁は為すすべもなく砕け散る。爆発に巻き込まれた三人は散り散りに後方へ吹き飛んだ。

 爆風は留まるところを知らず、ミナやティア、リョウまでも巻き込み弾き飛ばした。

 嵐のような爆風が過ぎ去った後には、そこかしこで倒れる六人と、薙ぎ倒された木々が無残に転がっていた。


「ふしゅしゅしゅ……」


 毒蜘蛛は倒れたままのカズヤを見付け、ゆっくりと歩み寄る。その様はまるで、獲物を追い詰めることを楽しむ殺戮生物のよう。


「バルザンドスに続き、ようやく二つ目の悲願を達成することができる。ゼロ。おまえもここで果てるのだ……」


 闇導師が主導権を握ったモノクロ空間で僅かに動きを示す人影。ミナだ。

 倒れたままの彼女が弱々しく顔を上げると、カズヤの背中を狙って脚を振り上げる毒蜘蛛の姿が飛び込んできた。


 アッシュとアスティは霊術の直撃を受け動くことができない。この窮地を救える者は存在しない。


「カズヤ、目を覚まして! お願い!」


 倒れる彼へ力を与えようとするように、目一杯の声を張り上げるミナ。しかし、倒れたその姿は僅かな反応すら示さない。


「ふしゅしゅしゅ……ムダなことを」


 毒蜘蛛の脚を振り上げたまま、足掻き続けるミナを眺めて闇導師は笑う。


(ミナの声が聞こえる……)


 朦朧もうろうとした意識の中、カズヤは確かにそれを聞いていた。だが、二人の霊能戦士と同様、敵の霊術を間近で受けてしまった彼もまた、体が言うことを聞かなかった。


(ゼノ。おまえにも聞こえるだろ? 悔しいけど、やっぱり最後はおまえの力に頼るしかねぇんだ……)


 自らの心へ思念しねんを送り続ける。


(戻ってこいよ! 全ての因果いんがを断ち切るんだろ? ティアさんの死をムダにするつもりなのかよ!? この地上を! 俺たちの未来を救ってくれ!!)


「愚か者よ。ここで果てるがいい!」


 カズヤとミナの願い空しく、死刑執行のように全ての希望を打ち砕く非情な一撃が振り下ろされた。

 情け容赦など微塵も見せないそれが、狙い違わずカズヤの心臓部を貫いたのだった。

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