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13 リベンジに来たはいいけど勝てるのか?


 女から視線は外さず、後退して間合いを取った矢先、腰へ何かが触れた。


 驚きと共に振り返ると、そこにあったのは駐車された乗用車。安堵したのも束の間、その一瞬が命取りだった。

 目を離した隙に女が動いていた。新しいオモチャで早く遊びたいと浮かれる、好奇心むき出しの笑みを浮かべて。


 横凪ぎに繰り出された鋭い一閃を、逃げることでどうにか避ける。


『背中を見せない! 剣を振り抜いて!』


 通信機から漏れたセレナさんの声。振り向き様、ヤケになりながらも振るった一閃が敵の斬撃を見事に弾いていた。


 おかげで冷静な思考をいくらか取り戻せた。考えてみれば、この剣には補正プログラムが施されている。余程のヘマをしなければ負けることはないはず。


 覚悟を決め、女の瞳を真っ向から睨んだ。敵から放たれる憎悪ぞうおを打ち砕くため、剣先を相手へ向け全力疾走。


 すると、敵は刃を大きく振りかぶり、俺の頭頂へ勢いよく振り下ろしてきた。


「シールド!」


 突き出した右手を中心に、傘のような形をした青白い盾が広がる。

 甲高い音と共に火花のような光がはぜ、半透明の盾が刃を弾く。


「うりゃあぁっ!」


 左上段から斜めに思い切り振り下ろした一撃。そこに確かな手応えがあった。

 包丁で野菜を切るような軽い手応えだが、女の発した空を裂くような悲鳴がその威力を証明していた。


 霊力を具現化した刃だ。本体の女性を傷付けずに悪霊だけを攻撃するため外傷がない。良いことだが、反対に敵がどれだけ弱っているかを把握しにくい欠点も。


「おのれ……」


 恨みがましい敵意に満ちた瞳で俺を睨み、肩を押さえた女が数歩後ずさる。


 ここで一気に叩くしかない。剣を正眼に構えて再び突進した直後、視界から不意に女が消えた。


「小僧。そこまでだ」


 右後方からの声に慌てて振り返った直後、思わず言葉を失った。


 数メートル先へ敵の姿がある。しかも一人じゃない。エナジー・ドレインを仕掛けた女性の喉元へ刃を突きつけている。


「てめぇ、卑怯だぞ!」


 戦うことに必死で、被害者の存在を完全に忘れていた。テレビドラマやマンガで散々見てきた安直な手法に、まさか自分が引っかかるなんて。


 悔しさに歯噛みすると、それは突然やってきた。頭を鈍器で殴られたような激痛に呼吸が一瞬止まる。視界が激しく歪み、眼前の二人へ別の光景が重なった。


 こんな場面を以前にも経験している。いや、待て。そんな経験なんてあるはずがない。でも、この記憶は一体……


“私はいいから、こいつを倒して!”


 頭に浮かぶ女性の叫び。懐かしいこの声は、昨日、夢で見たティアに似ている。


“うっせぇ! てめーは黙ってろ!”


 おまえだけは絶対に死なせない。そう心の中で叫んだはずだ。


『どうしたの!? しっかりしなさい!』


 セレナさんの声が遠い。歪む視界の中、鋭い光が俺の目を射抜いた。

 体から全ての力が抜け、前のめりに地面へ崩れる。口の中を切ったのか血の味が広がり、頭上で敵の笑い声が。


「隙だらけだな。その力、また頂いたぞ」


 何かが倒れるような大きな音がする。恐らく女が、人質としていた女性の体を手放したんだろう。

 直後、片頬を地面へ付けていた顔に力強い圧力が加えられた。顔を踏まれるという屈辱。だが怒りとは裏腹に、体はまったく言うことを聞かない。


「おまえたちは良質な霊力が取れる。だからこそ、生命力を奪うことを断念した」


 勝利を確信した、優越感に満ちた声。


「しかし、今日は手痛い斬撃を受けた。あれにはかなり腹が立った……」


 青白い刃が鼻先をかすめて地面へ突き刺さる。その刃へ、驚きと恐怖に目を見開いた世にも情けない自分の顔が映る。


 今度こそ殺される……


「カズヤ、MINDマインド0表示! 戦闘不能です!!」


 通信機からオペレーターの声が漏れる。まさに昨日の状況を再現してしまったが、状況は更に悪い。悪いどころか最悪だ。


「おまえはもう不要だ。昨日の娘たちから更に良質な霊力を頂くとしよう」


 眼前にあった刃がゆっくりと引き抜かれる。処刑の幕開けと共に、ギロチンの刃が引き上げられでもするかのように。


 極限の恐怖に言葉も出ない。瞳を硬く閉じて歯を食いしばった。


 死ぬのはイヤだ。もし殺されるなら苦しまずに死にたい。刃で刺されるという状況に、狂いそうなほどの恐怖が広がる。


「さようなら……」


「それは、こっちのセリフだ」


 男の声と共に、女の短い悲鳴。足下の方で小石を引きずる音が続いた。


「無様な姿だな」


「うるせぇよ……」


 口元の笑みを隠せないまま、サングラスの位置を直すオタクを見上げた。


「立てるか?」


「まぁ、とりあえずな……」


 オタクの助けを借りてどうにか立ち上がったが、やはりめまいが酷い。


「その女と安全な所にいろ。邪魔だ」


「邪魔!?」


 こいつの物言いに怒りが込み上げる。確かに霊力のない今はお荷物でしかないが、そこまで言われる筋合いもない。


「グズグズするな!」


 納得いかないが渋々従うことにした。仲間割れをしている場合じゃない。

 霊力を奪われることに抵抗力が付いたのか、昨日よりは体の自由が取れる。


「私が勝ったら、リーダーの座を渡せ」


 背中へ投げられた声に振り向くと、身を起こした女が刃を構えていた。


「おまえも仲間というわけか……」


「あいつと一緒にするな。レベルが違う」


 いちいちカンに障る奴。こうなったら、どれほどのものか見定めてやろう。


 立っているのもつらい。崩れるようにその場へ尻餅をつくと、襲われた女性が側に倒れていた。

 私服姿にあどけなさの残るその顔は、おそらく高校生だ。彼女を敵から隠すように座り、視線を戦いの場へ戻した。


 オタクは足を肩幅まで広げ、握った左手を腰の脇へ添えた。右拳は、中を覗き込むかのように顔の前へ持ってくる。

 女も油断なく動きを追っている。


「変身!!」


 直後、オタクの体がまばゆい七色の光を放ち、とんでもない姿へ変貌へんぼうしていた。


「マジかよ……」


 その体は真っ赤なヒーロー・スーツに包まれていた。まるで、戦隊ヒーローのショーが始まったかのようだ。


 オタクの体を包むのは、リーダーを誇示するように派手な赤のスーツ。そして白のグローブとブーツ。胸の中心には光栄高校の校章が大きくかたどられ、背中には「正義」の二文字。

 頭部も真っ赤なヘルメットに覆われている。アゴからうなじへかけて変わった模様が入り、目の部分はゴーグル型をした遮光性の黒いプレート。外側からは顔が見えないという念の入れようだ。


「なんなんだ、あいつ……」


 そういえば、朝霧あさぎりが言っていた気がする。正義の味方かぶれした奴と。


 両足を広げたまま前屈みの姿勢を取る。更に両腕を大きく広げて平行に動かし、十時二十分の位置へ。


「光あるところにまた闇もあり。それは揺るぎなき運命さだめ……ならば私は、その闇が果てるまで戦い続けよう。少年少女、安全保証戦士、セイギマン!」


 こんなヤツに任せて大丈夫なのか。


 女は珍獣を見るような目つきで呆然としていたが、突然に吹き出した。


「道化とは片腹痛い。せいぜい私を楽しませてみるんだな」


「その笑い、いつまで続くかな?」


 オタクの姿は一瞬のうちにそこから消え、女のふところへ飛び込んでいた。強烈な正拳突きが敵の腹部に食い込む。


「ゲエッ!」


 苦悶くもんの表情で後ずさる女。その脇腹へ、追撃となる中段蹴りが炸裂。敵の体は大きくよろめいた。


「おのれぇっ!」


 女もタフだ。強引に体制を戻し、怒りに任せて刃の突きを繰り出す。


 だが、オタクは軽い身のこなしでそれを避けると、相手の手首へ反撃の手刀しゅとう

 よほど強烈な一撃だったのか、女の刃は波打つように大きく乱れ消滅した。


「覚悟しろ」


 腰を低くして構えるオタク。右手を押さえた女は、怯えた表情で後ずさった。

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