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21 攻略法。取り出しゃいいって、どうやって?


 霊能戦士れいのうせんしたちは、吐き出される霊力球れいりょくきゅうたくみに避けながら反撃を始めていた。

 しかし、小型霊力球の爆撃。振り乱される太く長い尾。羽根から襲う烈風。矢継ぎ早に繰り出される攻撃に手を焼いていた。


 ゼノと二人、彼等の戦いを後方で見守るミナ。活路を見失った彼女は深い溜め息をつき、救いの一手を模索していた。


「サヤカ……あなたならどうする?」


 ふと、親友の顔が頭へ浮かんだ。突飛も無い発想をする彼女なら、こんな時にどう対処するだろうかと。

 全員の無事を願って必死に手を合わせているサヤカの姿が浮かぶ。一緒に戦えないことを悔やみ、涙を浮かべる彼女の顔はミナの脳裏に焼き付いている。その想いも託されて、今ここに立っているのだと痛感していた。


 と、その時だ。ミナに閃くものがあり、艶やかな唇がそっと緩んだ。


「そうよ! 取り込まれたのなら、取り出せばいい! それだけのことなんだわ!」


「はぁ?」


「怪物の中に、きっとエデンの本体がある! それを取り出すことができれば……」


「どうやって取り出すってんだよ!?」


「それはあなたが考えてよ!」


「ったく、無茶苦茶だな……」


 巻き起こった爆風が二人の体を引き離した。ゼノが咄嗟に体勢を立て直した時、怪物の頭上へ飛び上がった人影が。


「おい! 無理すんじゃねー!」


 それは霊能戦士カイルの姿。風の結界を身に纏い、飛行霊術ひこうれいじゅつを使ったのだ。

 彼の振り上げた剣先は赤く燃え、炎の力が宿っていることを示していた。


 この怪物を討ち取ることができれば、昇進は確実だと踏んでいた。自分のことを無能だとさげすんできた同期の戦士たちを見返すことができる。英雄になれる。その気持ちだけが、今の彼を盲目的に突き動かしていた。


赤竜爪せきりゅうが!」


 振るった剣筋に沿って炎の霊力刃れいりょくがが飛ぶ。それが三つに展開し、エデンの頭頂を直撃。


「グガアァァァッ!」


 頭を振るい怪物が吠えた。


「効いた!」


 驚きと歓喜の入り交じった声でゼノが叫ぶ。ようやく目にした有効な一撃に、勝機が垣間見えたその時だった。

 怒りと共に振るわれた怪物の尾が信じられない動きを見せた。しなやかに曲線を描き、頭上へ浮かぶカイルを背後から直撃したのだ。


 悲鳴を上げる間もなく地面へ叩き付けられたカイル。それを見下ろしながら、大きな口を開けるエデン。

 口内へ青白い光が収束。誰もが霊力球れいりょくきゅうの攻撃を予感していた。


「カイル!」


 咄嗟に飛び出そうとしたグレンを、ジェイクが慌てて引き留めた。


「間に合わない! 巻き添えになります!」


 怪物の怒りと共に容赦なく打ち落とされた巨大な霊力球。その攻撃は、怪物の足をも巻き込み大爆発を引き起こした。全ての希望を奪うように、閃光と爆音が辺りを支配した。


 一同が爆風に堪え忍んでいる間に、瘴気しょうきが集合した怪物の足は瞬く間に再生。だが、そこに倒れたカイルが動くことは無かった。


「くそっ! ガキ魔人まじんめ……」


 舌打ちを漏らしたゼノ。怒りに歯を食いしばり、カイルの姿を見つめていた。

 即座に起き上がり、再びエデンへ向かっていくに違いない。しかし、そんな思いとは裏腹にその体が動く気配はない。

 自分の目の前で、誰も死なせない。その誓いは呆気ないほど簡単に破られた。目の前にそびえる巨大な怪物によって。


「こんのバカタレがあっ!」


 両手に手斧ハンド・アクスを握ったグレンが飛び出した。斧の刃先へ霊力の光が灯る。


双竜閃そうりゅうせん!」


 頭上からバツの字に振り下ろした斧。その軌跡に沿って交差する霊力刃が飛び、エデンの右足の付け根を強襲した。


「手柄に目がくらんでバカなマネしやがって! 命を粗末にするんじゃねぇ!」


 アッシュ、アスティに続く愛弟子カイル。その死に直面し、冷静さを欠いていた。

 彼の鬼気迫るような無謀さを見抜き、再三に渡って警告した結果がこれだった。


「俺より若い奴が先に死んでいくなんて、耐えられねぇんだよ……」


 過程より結果、集団より個を優先していたカイル。何が彼をそこまで追い詰めていたのかはついに知ることができなかったが、才能があったからこそ教育係を引き受けたのだ。


「グレンさん、危険な行為はさけてください! 接近戦で勝ち目はありません!」


 サリファの警告と同時に、ジェイクとアッシュがサポートに動いていた。


 ジェイクの放ついかづちの矢がエデンの背中を、アッシュの地を這う霊力刃が足下を打つ。怪物は注意を撹乱され、鬱陶しそうに身悶え、激しく尾を振るった。


 ゼノもまた大剣たいけんを担いだ。狙うは頭部。カイルが命を賭して見つけ出した弱点へ、致命的な一撃を見舞うために。


「おい! ボサッとするんじゃねー!」


 隣で呆然と立ち尽くすミナ。ここが戦場であることを忘れてしまったかのように、仲間たちの戦いを静観していた。


「しっかりしろ! 死にてーのか!?」


 その華奢な肩へ手を置き、顔を覗き込むゼノ。乱暴な言葉遣いとは裏腹に、眼差しは包み込むように柔らかい。


「どうして……人の命って、こうも簡単で呆気ないの? 私はどうしたらいいの? 何ができるっていうの?」


 風見かざみ、レイカ、クレア、カミラ、そしてセイギにカイル。次々と見せられる仲間の最後に無力さを痛感するミナ。溢れる涙と共に、戦う気力すら流れ落ちているかのようだった。


「泣くのは後にしろ。死んじまったら泣くこともできねーだろうが! 自分のためでも、カズヤのためでもいい。とにかく生き残れ! 悩むのはそっからだ!」


 自らの誓いを守れなかった後悔を秘め、ゼノは再び怪物を目掛けて走った。


 眼前で続く死闘。霊能戦士四人の攻撃をもってしても怪物の勢いを削ぐことはできず、頭部を攻撃する以外にないと確信していた。


 するとゼノは、後方支援を行うサリファに目を付け、慌てて駆け寄った。


「なんでもいい。あいつの頭を狙う方法はねーのか?」


「私も考えている所です。あの巨体を倒すか、空からの攻撃以外にありません」


「空霊術か……霊術れいじゅつ霊撃れいげきの同時展開じゃ、体への負担がでかすぎんだろーが」


「今の戦力で、空中戦が得意なのはクレアです。彼女が戻ってくれれば……」


 その時だ。エデンが一際高く吠え、モノクロの空間を揺さぶった。使用者の命を絶つか本人が解除しない限り脱出不可能なこの閉鎖空間が、軋みを上げるように振動していた。


「備えろ! 何か攻撃が来るぞ!」


 ゼノが精一杯に叫んだ直後、怪物の背に生えた大きな翼がはためいた。

 足下で暴れる矮小わいしょうな存在を払うように、強烈な衝撃波しょうげきはと鋭利な真空波しんくうはが同時発生。荒ぶる二つの風が一同を強襲した。


 至近距離で戦っていた霊能戦士たちは一溜まりもなく吹っ飛んだ。それは霊力壁れいりょくへきを展開していたゼノとて例外ではない。

 サリファと二人で衝撃波を受け、体が浮き上がった。身動きの取れないその体へ鋭利な風の刃が吹きつけ、霊力壁もろとも体を切り裂かれていた。

 壁がなければ切断されていてもおかしくない。それほどの凄まじい威力だった。大地を洗うように風の死神が駆け抜け、風に運ばれる空き缶のごとく戦士たちの体が軽々と力なく転がった。


 そうして、勝ち誇った怪物の咆吼ほうこうが高々とモノクロ空間へ轟いた。


「ぐうっ……」


 色を失った空を仰ぎ、無様に大の字で倒れるゼノ。幾筋もの風の刃に切り刻まれ、全身が悲鳴を上げていた。

 彼の脳裏に悪魔王あくまおうとの戦いが蘇る。オリジナルには及ばないまでも、エデンの強さは本物だ。加えて、ここまでの連戦が彼の気力と体力を徐々に奪っていた。


 だが負けられない。逃げるわけにもいかない。歯を食いしばり、両腕にありったけの力を込め、どうにか上半身を起こす。しかし、怪物を見上げたゼノの目に映ったのは絶望。


 そびえる黒い影。その口元には巨大な霊力球が蓄えられていた。死のルーレットが回るように次の獲物を求めて。


「ざけんな……」


 斬魔剣ざんまけんを手に取るも、体が言うことを聞かなかった。まるで、ゼノとカズヤを繋ぐ力が断ち切られてしまったかのように。


「動け! 止まってる場合じゃねーんだ」


 前進するため必死に藻掻くゼノ。だが、それよりも早く、怪物の前へ立ち塞がろうと歩み出る一つの人影があった。


「エデン! もう止めて!」


 装飾銃そうしょくじゅうを手に、その体を少しでも大きく見せようと両腕を目一杯広げて存在を示す少女。


「ミナ! レイカか!?」


 そこに立っていたのは、レイカの姿へ変化したミナ。後方で立ち尽くしていた彼女だけが、かろうじて攻撃に持ちこたえたのだ。

 レイカに懐いていたエデンのことだ。この姿なら伝わるものがあるのではないかという、一か八かの賭けだった。


「下がれ! 死にてーのか!」


 その背に向かって叫ぶゼノ。ミナの後ろ姿に、ティアが重なった。


 私はいいからこいつを倒して。彼女と交わした最後の言葉が蘇っていた。あんな胸を引き裂かれる程の思いはもう十分だった。それを二度と繰り返さないために、こうして戦っているというのに。

 この戦いを終わらせるために。全ての因果を断ち切るために。


 エデンがミナの存在を認識。巨大な霊力球を口内へ含んだまま、その顔を彼女へゆっくりと向けた。

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