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14 猿芝居。誰があんたを信じるの?


「シュン! どうしてこんな酷い事ができるの!? あなたを見損なったわ!」


 頬を涙で濡らしたレイカ。装飾銃そうしょくじゅうを片手に、風見かざみの背後へ足早に歩み寄る。


「どうしちゃったの!? こんなのシュンじゃない……まるで悪魔だよ!」


 嗚咽おえつを漏らし、左手で涙を拭いながら、銃口を倒れたカミラへ向ける。


「もう手遅れだよ。癒やしの力を持つ弾丸を打ち込んだところで助からない」


 風見の背に具現化ぐげんかしていた大蛇。その鋭い牙がカミラの喉に深々と食らいついていた。

 相手の息の根を確実に止める。彼の執念がありありと見て取れた。

 そうして振り向いた風見は、今にも泣き出しそうな顔でレイカを見つめる。


「助けてくれ……体の奥底から込み上げてくる悪意と欲望を抑えることができないんだ……見捨てないでくれ! 君が必要なんだよ」


 懇願する風見を前に、レイカは恐ろしさの余り、自らの体を抱きすくめたまま後ずさってしまう。


「来ないで! 来ないでっ! 言ってることとやってることがまるで違うって気付かないの!? 見捨てるつもりはないけど、信じることもできない……」


「今は信じてくれなくていい。闇導師やみどうしを滅ぼせば、きっと元の僕に戻るから。君は、側にいてくれるだけでいいんだ……」


「だったら、だったらもうこれ以上、誰かを傷つけるのはやめて! カズヤ君と協力して、闇導師を倒してよ!」


「衝動を抑える努力はするよ。大丈夫、カズヤ君とは既に協力を約束したから」


 レイカへ背を向けた風見。その口元に浮かんだ邪悪な笑みに気付いたのは、彼の正面にいたシーナだけ。

 直後、風見の目が驚きに見開かれる。


「シーナ! 後ろだ!」


 風見が叫ぶと同時に、シーナの背後へカマキリ顔の男性悪魔が出現。その体へ触れると、二体の姿は忽然と消え失せた。


「なに? なにが起きたの!?」


魔空間まくうかんだ。シーナが引きずり込まれた! 悪魔の気配に気付かないなんて」


 不安そうにするレイカの隣で、風見はB-QUEEN(ビー・クイーン)の力を解放。体から黒い気体、瘴気しょうきが立ち上ると、とぐろを巻く蛇のように螺旋を描き、その体を取り巻いた。


「他にもいるはずだ。僕の側を離れないで」


 レイカを守ろうと、刀を持っていない左手を大きく広げる風見。万が一、ここで彼女を失えば、カズヤの怒りの矛先が自分へ向かうであろうことをよく分かっているからだ。

 その時、二人の耳へ届いた靴音。土煙を上げて滑り込んできたのはクレアだ。


「カミラ導師どうし?」


 風見の足下に倒れる彼女を目にして、呆然とするクレア。直後、怒りに肩を震わせ風見を鋭い目付きで睨んだ。


「風見さん。あなたの仕業ですよね!?」


 手を伸ばせば切り裂かれそうなほどの怒気をはらみ、ゆっくりと歩みを進める。


「クレア君。誤解だよ。シーナが……」


「シュン! どこまで卑劣なの!? あなたは罪を償うべきよ!」


 レイカに割り込まれ、平静を装っていた風見の顔に苛立ちが現れた。


「償う? この僕が? 冗談じゃない! 僕は神となる存在なんだ。神が下々の者に、なにを償うっていうんだ?」


「カミラ導師は恩人なんです。私にとって本当のお姉さんのような人だった……それをあなたは、自分のエゴのために!」


 その両手へ具現化した愛用の短剣、炎龍えんりゅう雷龍らいりゅうを力強く握りしめた。


「姉さんの夢を実現させてあげたくて、全力でサポートしてきた。私にできることはそれくらいしかないから……」


 涙を流すクレア。その脳裏には、これまで共に過ごしてきたカミラとの想い出が過ぎっているに違いない。

 その無念を思い、唇を噛むクレア。強い復讐心を胸に地を駆ける。


「カズヤさんならこう言いますかね? 風見! てめぇを絶対に許さねぇ!」


 クレアの双剣と風見の刃が激しく交錯。グラウンドへ衝突音が鳴り響いた時、後を追っていたミナとアスティがようやく到着した。


「どうなっているの?」


 風の結界が解かれ、状況の飲み込めないミナは、立ち尽くすレイカへ言葉を投げかけた。


「ミナ……どうしたらいいの?」


 うろたえた顔で二人へ近付くレイカ。


「カミラ導師……」


 信じられない光景に言葉を失うアスティ。その反応を楽しむ女性の笑い声が響いた。

 三人が声に釣られるように空を見上げると、腰を薄布で隠しただけの女性悪魔が。の顔と羽を持った気味の悪い姿。


「最っ高に面白いね! メイガ、こっちに来て正解だったよ〜」


「シーナを魔空間へ引きずり込んだのは、あなたの仲間ね?」


 レイカは装飾銃の具現化を解き、愛用の長弓を油断無く構えた。


中位悪魔ミッド・クラスが四体。序列持ち(ナンバーズ)黒豹くろひょうだって、あれだけの怪我なら楽勝だよね〜。そうそう。魔人まじんの子供も消せって命令だから、五体の悪魔を差し向けたよ〜」


 A-MIN(エー・マイン)を解放したミナは装飾銃を具現化。レイカへ水色の瞳を向けた。


「レイカさん、ごめんなさい。しばらくの間、離れていてください。B-QUEEN(ビー・クイーン)の力に飲まれたら、襲ってしまいそうだから」


「分かった。後はお願いね……」


 ミナと風見の姿をもう一度確認し、レイカは校舎の陰を目指した。


 何もできない無力な自分への怒り。拳をきつく握りしめ、せめて邪魔にだけはならぬようにと無我夢中で走った。


★★★


 その頃、ベアルの一群と戦い続けていたゼノとジェイク。群がる悪魔の勢いは衰えず、二人は苦戦を強いられていた。


 息を乱したジェイクが腕を伸ばし、レイピアの先端を悪魔たちへ向けた。その剣先へ紫電しでんほとばしる。


大鳴神おおなるかみ!」


 連続で繰り出される高速の突き。その一突きごとにいかづちの矢が生み出され、悪魔を目掛けて次々と飛んだ。

 殺傷能力はさほど高くはないものの、足止めをするには十分な威力。ある者はひるみ、ある者は地を転がる。


 巨大なムカデを背負ったような男性悪魔と切り結んでいたゼノ。いかづちの矢を目にして、思い出したように声を上げていた。


「あの技……あいつ、霊魔大戦れいまたいせんの……」


 ゼノはその技を過去に目にしていた。


 四混沌しこんとんの一人、深淵しんえん。対峙していた戦士の中に、いかづちの矢を放つ戦士がいたはずだった。その戦いで、部下を守って亡くなった部隊長がいるとも聞いていた。


「確か、名前はマルスとか言ったか……」


 独り言と共に振り下ろした大剣たいけん。描かれた赤い軌跡と獣の唸りにも似た轟音。

 その一撃がムカデ悪魔を一刀両断。勢いは止まらず、モノクロのアスファルトまでも深々と切り裂いた。


 再び剣を担ぎ上げ、敵の真っ只中へ駆け込むゼノ。その左手に結ばれたいん


「光の攻霊術こうれいじゅつ! 惑星砕ほしくだき!」


 ゼノの体を中心に、周囲を純白に染め上げるほどの閃光が弾けた。


 繰り出された光の上位霊術じょういれいじゅつは爆発と爆風を発生。近接していた悪魔たちは軽々と宙へ舞い上がり、爆風に耐えかねた周囲の木々たちは一溜まりも無く薙ぎ倒されてゆく。


「まさか、これほどとは……」


 効果の対象外に指定されていたジェイクは、その光景に棒立ちになっていた。

 攻霊術でも扱いが難しい光と闇の属性。加えて彼が操った上位霊術は、五人の部隊長の内、二名にしか扱えない大技だ。


 爆炎から飛び出した上位悪魔ハイ・クラスベアルが吠えた。その存在を恐れるように大気が震え、神格しんかくの力を解放した彼は、六メートルもある巨大なヒグマと化した。


「ようやく本気モードかよ」


 口端をもたげたゼノは大剣を構えた。


★★★


 アジトの前で繰り広げられる光景をモニター越しに見ながら、セレナは慌ただしく指示を飛ばし続けていた。

 三分割されたモニターには、一同の戦闘状況が映し出されている。しかし、魔空間に引き込まれたゼノを追うことは叶わず、風景しか映し出されていない。


 アジトの周囲も結界を展開しているとはいえ、一般人への被害を心配していたセレナ。高台に位置したこの場所は、裏手に広い公園があるものの、近くに民家がないことがせめてもの救いだった。

 彼女が不審に思ったのは数分前の報告。光栄高校へ向かっていた十体ほどの反応が、突然二手に分かれたというのだ。


「悪魔の狙いはなんなの?」


 アジトを包囲した二十体ほどの敵も、この施設内への進入を狙うような動きを見せている。しかし、霊能戦士たちの活躍により突破を許した悪魔はいない。


★★★


「だあぁっ! 鬱陶しいんだよっ!」


 長剣を振り乱したアッシュは、ネズミの顔を持つ男性悪魔を薙ぎ払った。

 そのまま、背中合わせで戦っているカイルを目掛けて問いかける。


「バッタの悪魔、見たか!? さっきまで、ここにいたはずなんだ」


「さぁな! それより、二体倒したぞ。おまえはまだ一体だろう? 絶対に勝つ」


「こんな時に、いちいちカウントしてられっか! 勝手にやってろ!」


 面倒そうに吐き捨てたアッシュ。その視界に信じられない物が飛び込んだ。


「マジかよっ!? 避けろおぉぉっ!」


 アッシュの叫びは戦闘音にかき消された。彼が見たのは、上空から急降下してくるバッタの男性悪魔。


 その両足から繰り出された鋭い蹴りが、眼下で戦うタイガの背中を直撃した。

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