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33 明かされる。ゼノの素性と悪魔の王


 ゼノの怒声に、一同は思わず動きを止めた。


「ついに来たね。狂戦士バーサーカー……」


 黒豹くろひょうが牙を覗かせて笑う。


 一方、名を呼ばれたローブの男も、目深に被ったフードはそのままに、顔をゼノへ向ける。そして、右手の大剣へ目をとめた。


斬魔剣ざんまけんエクスブラッドだと? そういうことか……始まりの魔人まじんゼロ。生きていたとは」


 その言葉にゼノは顔をしかめる。


「そんなムカツクあだ名を付けたのは、てめーだったな! 俺はゼノだ!!」


「笑止。名を持たぬ存在よ。ゼロとて仮初かりそめの名。魔人であるおまえを識別するための、コード・ナンバーでしかないのだからな」


 闇導師やみどうしと呼ばれた男が笑いを漏らす。


「おまえの母も困っていたな。ゼロと呼ぶことに抵抗したが、でなければ反応しない。ゼロをもじってゼノ。苦し紛れの名付けだ」


「黙れ! 昔話をするために、てめーを探してたわけじゃねーんだ。魂を地上へ留めたのは、てめーを倒すこの時のためだ!」


「愚かな。これだけの時を経て尚、復讐に固執するとは……人間に付き、我らに仇なす馬鹿者。父も地の底で嘆いていることだろう」


 男が目深に被っていたフードを払う。そこに現れたのは八つの眼を持つ蜘蛛くも


「ゴチャゴチャうるせーんだよ。てめーの眼を一つずつ潰して、鋏角きょうかくをへし折ってやるからな。覚悟しやがれ!」


 大剣たいけんを構えたゼノが駆ける。


 そのやり取りを離れて聞いていた黒豹。大きな体は小刻みに震えていた。


「魔人ゼロだと……道理でティガでも敵わないはずだ。どっちが勝っても、あたしにはマイナスにしかならないね」


「シーナ、どういうこと? 状況がさっぱり分からないんだけれど」


 ゼノを見つめるミナは怪訝けげんそうな顔で、隣に立つ黒豹へ問う。側に立っていた風見かざみも、魔人という言葉に驚きと興味を隠せない。


「あんたが熱を上げているあの小僧。中身は全くの別物さ。魔人ゼロ。霊魔大戦れいまたいせんの場にいた者なら、知らない奴はいないだろうさ。悪魔の王に生み出された最強の悪魔だよ……」


「悪魔の王……まさか、ジュラマ・ガザードの息子っていうこと!?」


「そんな所だね。ジュラマ・ガザード様は、人の姿で導師どうしの女性をはらませた。母体に瘴気しょうきを注ぎ続けることで、霊能戦士れいのうせんしと悪魔の力を併せ持つ究極の生命体を造りだしたんだ」


「それが魔人なの?」


 ミナは戸惑いを隠せない。しかし、黒豹が恐れる程の存在は自分たちの味方をしてくれている。不安は何もないと言い聞かせた。


 大剣を巧みに避ける闇導師。怒りに駆られた大振りの斬撃は、動きが単調になっていることにゼノは気付いていない。


「今からでも遅くない。はいの仲間にならないか? ジュラマ・ガザードに変わって、我々が世界の王となるのだ!」


「んなもんに、興味ねーんだよっ!」


 横凪に払った一撃を、バック・ステップで避ける闇導師。ローブの一端を切り裂いただけで敵には届かない。


「俺の興味は、てめーを消滅させること。この因果いんがを断ち切ってみせる!」


「おまえも愚か者か。残念だが、おまえたち馬鹿親子の時代は終わる! ジュラマ・ガザードが生み出した原初オリジナル。そして女王が生み出した新世代セカンド。それを凌駕りょうがする第三の力、魔人まじんの生成に我が輩も成功したのだよ!」


「魔人だと!?」


 肩で大きく息をするゼノは、眼前で雄弁に語る闇導師を睨んだ。


「苦労したぞ。霊魔大戦で、初期型のおまえが、後継のⅠとⅡを処分したせいだ。馬鹿な王も封印され、生成方法は闇の中だった」


 蜘蛛の顔が鋏角きょうかくを揺らして笑う。


「魔人の力と、間もなく完成する闇蜂やみばち。地上の人間を闇蜂で悪魔に変える。どれだけの兵力か想像できるか? 戦神せんじんなど敵ではない!」


「ヒャッハッ! 戦神どころか、てめーは変人だな! 妄想ごとぶった斬ってやるよ!」


「妄想かどうか、試してみるか?」


 闇導師がひるがえしたローブ。その下では左手の人差し指と中指が伸び、いんが組まれていた。


造霊術ぞうれいじゅつ闇法陣やみほうじん


 ゼノを取り囲むように五つの魔法陣が展開。直後、それぞれの法陣から、四人の成人男性と一人の成人女性が具現化ぐげんかする。


「失敗作だが、身体能力は上位悪魔ハイ・クラスにも匹敵する。甘く見ない方がいいぞ」


「ヒャッハッ! 所詮、失敗作だろーが。そんなんで、俺に勝てるかよっ!」


 言うが早いか魔人目掛けて斬りかかる。


★★★


 その頃、ヒグマの悪魔ベアルが造りだした魔空間まくうかんでも死闘が続いていた。


 剣を振るうアッシュと、拳を繰り出すセイギ。しかし、神格しんかくを解放して巨大熊と化した悪魔を相手に、決定打を叩き込めずにいた。


補霊術ほれいじゅつ阿修羅あしゅら!」


 後方のクレアが霊術を発動。四人の武器へ青白い光が灯り、一時的に霊撃力が高まった。


補霊術ほれいじゅつ金剛こんごう!」


 立て続けに繰り出される霊術。すると四人の体が淡い光に包まれた。こちらは、全員の防御力を高めるための術。

 補助霊術を仕掛けたクレアは、攻撃に加わるため双剣そうけんを手に駆ける。


 彼等の攻撃が続く中、同じように後方へ控えたアスティはいんを組み、集中を続けていた。


 ベアルの頭上へ沸き立つように現れたのは暗雲。それは徐々に大きさを増し、内包するエネルギーの強さを示していた。


 暗雲は、神々の怒りを彷彿させるように、地の底を揺るがす程の轟音を響かせる。その中に幾筋もほとばしる紫電しでんが、真下で戦う一同を不気味に照らし出した。


「アッシュ! 行くよ!」


「よっしゃ! ぶちかまずぜぇっ!」


 弟の言葉に、彼は口元を笑みに変えた。その左手は既に印が組まれている。


いかづち攻霊術こうれいじゅつ! 天雷てんらいそう!!」


 暗雲から降り注ぐ一筋の電撃。それは神々が放った一本の槍か。はたまた、災厄を払うために使わされた神龍の降臨か。


 まばゆい閃光と共に、凄まじい電撃が悪魔を直撃。その悲鳴は雷の轟音にかき消され、天へ向かって口を開けた熊のシルエットが不気味に映し出されていた。


 効果時間を終え、雷と暗雲はたちまち消え失せた。後に残ったのは、黒煙を上げるヒグマと、モノクロの通路に立つ四人。


「倒したの?」


 クレアは警戒を解かずに悪魔を見る。


「これで魔空間が解除されれば……」


「さすがに絶命しただろ」


 アスティの言葉に、笑みを浮かべたアッシュが振り返る。


 上位悪魔ハイ・クラスと渡り合うためには更なる力が必要不可欠。戸埜浦とのうら邸での戦いで、二人が下した結論がそれだった。


 霊界の修行は熾烈を極めた。武術を更に磨き必殺技の習得。そして上位霊術じょういれいじゅつの習得。だが、いくつもの系統を持つ霊術を極めるにはあまりにも時間が不足していた。二人は比較的得意とする雷の攻霊術こうれいじゅつに的を絞り、上位霊術の習得に辛うじて成功したのだ。


 アッシュの中には、この術で倒せないはずがないという絶対的な自信があった。


「危ない!」


 クレアの声と同時に、ベアルが動いた。四つん這いで駆ける熊の体当たりに、アッシュは声を上げる間もなく弾き飛ばされていた。


「アッシュ!?」


 アスティが叫ぶと同時に、クレアが飛び出していた。追撃をかけようと身構えたベアルへ連撃で応戦する。


 その直後だった。腕を振り上げたベアルの顎へ強烈な上段蹴り。天を向いた熊が、数歩後ずさりながら仰向けに倒れた。


「油断するな!」


 そこにいたのは、青白い翼を纏ったヒーロー。しかもその全身は、闇夜を思わせるような漆黒に包まれていた。


 驚いたアスティはたまらず声を上げる。


「モード・ブラックへの二段変身にA-MIN(エー・マイン)まで!? そんなことをしたら、セイギ君の体が持たないよ! 今すぐに止めるんだ!」


神崎かんざきとの約束を果たすためだ。そして、この力で自分の世界を変えてみせる!」


 覚悟を決めた黒いヒーロー。その姿が巨大熊を目掛けて突進する。


★★★


 闇導師の造りだした魔空間の中、ゼノと五体の試作魔人による戦闘が始まっていた。


 大剣を振るい魔人を牽制するゼノ。しかし、戦いを続ける中で妙な違和感を感じていた。


 眼前の魔人が放ってきた炎の攻霊術こうれいじゅつ。その火球を大剣の一降りで薙ぎ払う。


 後方から襲ってきた別の魔人。そいつの腹部を蹴りつけ床へ転倒させる。


 ゼノの目に映ったのは、魔人が着る緑の長衣ちょうい。闇導師も同じ物を着ているが、これは造霊術士ぞうれいじゅつしであることを象徴する物。それはラナークやセレナとも一致しており、闇導師が造霊術の導師だったことを思えば合点がいく。


 再び違和感の正体に思いを巡らせながら、男性魔人の一人を肩から袈裟切りで葬った直後、それに気付いた。気付いてしまった。


 背中を丸め、うつぶせに倒れる魔人。その奥で、悠長に戦闘を眺める闇導師を睨んだ。


「この魔人、霊界人れいかいじんをベースに造ってんだろ? どっから攫ってきた!?」


 ゼノが感じた違和感。それは魔人の瞳と髪の色。地上の人間を掛け合わせたなら黒目黒髪のはずが、召喚された魔人は全員が紺色。それは間違いなく霊界人の特徴。


「ふしゅしゅしゅ。気付いたか。知らずに死んでいれば幸せだったものを……」


 闇導師が右手を挙げると、残された四体の魔人は動きを止めた。


「あの女。何という名だったかな? 若々しく活発で、健康的な肉体」


「てめー。何が言いてーんだ」


 分かっていた。そして、聞きたくないと拒絶する自分がいる。それを知ってしまったら、自分が自分でなくなってしまいそうで。怒りの衝動に身を焼かれ、いとも容易く飲み込まれてしまうことは容易に想像が付いた。


 剣を握る両手は震え、イヤな汗が背中を伝い落ちるのを感じていた。

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