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馬「お前ら上司と部下かよ??!!」上司様・魔法女史「「何か問題が?」」

お久しぶりです。


今回、実はもっと続く予定だったのですが、

モチベーション、もとい私のテンションが持つか微妙だったので、一応誤魔化しましたがちょっと変な所で切りました。



バーン!!


重厚な扉が勢いよく開く。


びゅう、と扉の内へ白い雲とも言って差し支えない濃霧が、これまた勢いよく吹き込んでくる。


カツリ!


濃霧の中から、小柄な人影が飛び出して来る。


とんっ!


人影が大理石に着地するのを見、広い部屋の奥に座る部屋の主が、むくりと肘掛けからその身を起こした。


「何ごとだ、」


主は低く問うた。


霧が徐々に引いていき、人影がよりハッキリとした輪郭を現す。


「逼迫した事態につき、略式にて失礼します。」


人影は完全に霧が晴れないままに簡易の礼をとり、申し出る。


「よい、それで?」


「はっ!先ほど頂いた任務の完了をご報告させて頂きます!」


部屋の主は無言で頷き、人影を促す。


「ご指示の通り、通りにて対象(ターゲット)を捕獲、その後筆記創造魔法にて籠を用意、収容いたしました。」



「結構」


「はっ、恐れ入ります。」


鷹揚に応える主に対し、人影は優雅に礼をとる。


「して、それ(・・)は?」


「ご指示頂ければすぐにでも、」


漸く元の位置よりも低くなった頭部が顔を見せた人影の言葉の裏に、何処へでも、と言う言葉を見てとり、主は唇を引き上げる。


「ではこの(のち)にでも厩舎に届けよ。私が連絡をやっておこう。すぐに騎士が引き取りに来よう、其奴に報告書も一緒に渡せば良い。」


「はっ、ご配慮痛み入ります。」


人影からはどんどん霧が引いていき、もう肩のあたりまでが見えていた。だがしかし、肝心の顔は未だ低頭しているため、窺えない。


部屋の主はその人影の肩の辺りを無為に見下ろし、暫く人影の報告を聞いていたが、聞いた分が一通り終わったと判断したのか、人影が話すのを止めると、しばし無言でその肩を眺めた後、興味が失せたようにすっ、と視線を外す。


「それで?」


広い部屋に沈黙が落ちる。


人影の登場から、割合騒がしかった室内が急激に静まり返り、気まずい空気が流れていく。

その空気に耐えられず、いつの間にか佇んでいた象牙の美しい巨体からは何やらもぞもぞと身動きする様子がそれとはなしに窺えた。


が、一方、現状の元凶と言うべき部屋の主は、己の傍にいつの間にか寄せた飾りっ気のない大きな執務机の上に、これまたいつの間にか積み上げた未処理の書類の束を一つ一つ取り上げては広げ、何やら書付け、判を押し、また一つ取り上げ、を繰り返している。


主に、この場の空気など全く気にしていないことを隠す気も無いことはまる分かりである。


対して、未だ低頭する人影には動揺や怯んだ様子も見られない。


自由に口の聞ける人間が揃って現状打破にやる気がまるでないので、残念ながら口の聞けるはずのないその他の物体はもし「ねぇ、どんな気持ち??どんな気持ち??」と聞かれて答えられるなら、きっと「やきもきしている気持ち!」と答えてくれたに違いない。


しかし、その他の予想に反し、事態は動く。


ギリギリと限界まで引き絞られた弓のように、痛いほどに張り詰めた空気の中、突如そんな空気をぶち壊すマヌケな音が響いた。


きゅぽんっ!


音が聞こえた瞬間、先程までとはまるで別の意味で痛い沈黙が流れる。


、、、何の音だろうか。

いやにしてもなんとマヌケな、、、


なんて心の声が部屋の隅に置かれた白亜の巨体から漏れてきそうである。

(、、いや実際だだ漏れなのだが。)


さて、何の音なのかと問われれば、それは今や完全に姿が丸見えな元人影の手元にある。

今にも、弱々な無いに等しい握力で粉砕せんばかりに、力()の限り握りしめている、、、

そう、インク壺である。


先程のマヌケな音は、単に力一杯持ち主の元人影が栓を引っこ抜いた音である。

中身がだばーっとなっていないのは僅かに残した理性の賜物だろうか。


しかし、その僅かな理性も次の瞬間見る影もなく爆散した。


がんっ!!


大理石を砕く勢いで右手のインク壺を床に叩きつけ、びちゃっびちゃっっ、とその黒々とした液体を白亜の肌に飛び散らせた。

その身に纏うローブがぶわりと舞い上がり、気付けばその手に握られていた『毛付き棒()』は、この格式高く壮麗かつ優美な一室にはとてもではないが調和し得なかった。

場違い感も甚だしい。


しかし、それは持ち主が『毛付き棒()』をインク壺にブスッと突き刺し、またしても大理石にインクをダボダボと垂らしながら、次の瞬間にはビッシャァアアアアアっっっ!!!!!と勇ましく『毛付き棒()』を叩きつけるまでであった。


持ち主が大理石を哀れ無残に黒く染め上げるや否や、瞬く間にインク壺と筆が眩しくも青く輝いた。幾重にも広がり、伸びていく光が帯のように、ともすれば意志を持った生き物のように使用者に纏わりつく。そして、もう一度蒼く煌めいた後にはこの格式高い部屋に見合うどころか、へやの装飾が総て霞むほどの美しい紋様が、その姿を持ち主の肌の上に幾重にも重ねては消え、煌めき、重ねてを繰り返す。


その美しさを遺憾なく発揮していた間にも、持ち主はやる事をやっていたようである。


いつの間にか、残念なことに汚されまくっていた大理石の白亜の肌に、新たに謎の円と、もう何を書いているのか分からないほどに書き殴られた『かくせーき!』という文字が円の内側にあった。

最後の仕上げと言わんばかりに、もう一度あたり一帯にメイドが見ればこの世の終わりを見たような悲鳴をあげるであろう、輝くインクの染みを作り上げて、『かくせーき!』の隣にもう一つ『!』を殴り書き足した。


書き足した途端に書いた円と文字、それに加えてご丁寧に飛び散ったインクも、一斉に、より一層強く輝き出して、いつの間にかインク壺も毛付き棒も何処ぞにしまい込んだ持ち主のての内に、もう一度円と文字として正しく現れた。


さて、正しく現れた魔法陣と呼ぶには余りにも残念な()からは、あれ?もう出たの?というくらい、例のブツが現れたかと思えば既に持ち主の手に握られ、その上構えられていた。


え?どんな構えだって?

そりゃあ皆さん書かれた円の中の字でお察しの通り、アレです。

古き良き日本警察の立て籠もり事件御用達の、アレ。



「あー、立て籠もり中のー、えー、犯人に告ぐぅ!」

「君がー、えー、何に対して怒りを覚えたのかは分からんが、あー、兎に角今すぐにそこから出て来なさいぃ!」

「あー、私達が、えー、話を聞こうじゃないかぁ!」

「えー、っんっ!!あー、早く出て来なさいぃ!えー、おふくろさんがー、あー、泣いているぞぉ!!えー、ささ、どうぞ、お母様。」

「はっはい、分かりましたわ!」

「っん、んんっ!!あーっ、たっ、たかしぃ?!分かる?!お母さんよ?!何があったかは分からないけれど、それはお母さんも警察の方と一緒にしっっかり聞きますから!!ねっ?!だから早まったことはせずに、早くこっちへ来なさい!!!ねっ?!」

「うっせぇ!!!クソババァッッ!!!!!〜(以下略)

というアレです。



そう、『拡声器』である。


かちり、と音が鳴った。

そしてお決まりのキィーーーーンっっという耳鳴りのような音が、部屋と言うには(広過ぎて)憚られる室内で、過不足皆無で響き渡った。


そうこうしている間にも相も変わらず事態は進んでいたのである。

あれよと言う間もなく、気付けば現れ、そして握られていたブツ(・・)はとうにそのスイッチが押されていた訳ですな。へえ。





して、


すぅ、とその機能を既に発揮し出したブツ(・・)は問題なくその音を拾った。


「別途、危険手当を要求しますっ!!」

「却下」


上司様はすげなかった。

まず机から顔を上げてすらいなかった。

想定内にしてもすげな過ぎる上司の反応に、ぱっかーーっと口を開けてケディスは固まった。


「い、っいやいやいやいや!?」


慌てて風化した自分の起動ボタンをべしべし連打して、何とか上司に食い下がるが、返ってくるのはペラリと書類を扱う音のみ。


(仰っている、、仰っている、、、!!『あうと・おぶ・眼中』であると、、!!!


涙が出そうだった。

相変わらずの無言で返してくる上司に内心頭を抱えるも、この数年で嫌が応にも磨かれた根性で、ケディスはひぃひぃ言いつつ更に食い下がる。


「あのですね??!!今回の案件、ひっじょーーっに、ひっじょーーっに、いやな予感しかしませんでしたのですけどぉッッ??!!」


毎度の事だが今回ばかりは流石に、、!!との思いを支えに、孤軍奮闘とは正にこの事であると、ケディスは心にゴリゴリ刻み付けることとなった。


(労組が来い!!!)


兎に角ケディスは頑張った。


「せめて人類の言語で話せ。『種族:サルモドキ(猿っぽい何か)』、」


だがしかし、やはり上司様は上司様であった。


「お黙りあそばっしゃいませッッ!!!!

私怒ってるんですけど?!何でソコで油注いでくるんですか??!!と言うか何度も言ってますけど、人のことサルモドキサルモドキ言うの止めてくれません?!アレそんなに人を例えるイキモノじゃありませんから!!どころか顔スライム被ったみたいになってるじゃないですか!!それと手足10本くらいありますよね??!タコか!!唯一考えられるかもしれないかもと言う所が、手足全部揃えたら指らしき何かの数が全部で20あるかもしれない所ってどういうことです?!大体、ファシフィール上級佐官は何で私をサルモドキに例えるんですかっ!今更ながら言いますけど、別に似てませんから!」


もう本当に泣いてやろうかと内心号泣しながら、ケディスは叫ぶ。


「『タコ』?サルモドキ、異言語を話すな、説明しろ。」


でもやっぱり上司様は上司様であった。


「食いつく所が可笑しい?!くっ、何故です!どうして話が通じていないんですかぁ!!??」


やけを起こしそうだと、いつの間にかブツ(かくせーき)を何処かに放り投げた手も一緒に、両手でばしばしと大理石を叩く。


「後15秒」

「会話のキャッチボールができない、、、だと?!?!?!」


やけを起こした。ケディスは気付けば、息をするようにネタに走っていた。


「10秒」

「ええい、分かりましたよ!!分かりましたよ!!答えれば良いんですよね!?ええと『タコ』とはですね、遠いとぉーーいどこかの魚類というか軟体動物というか無脊椎動物というかですね、えーーっと、何だっけ、、、っあーもう!『タコ』のマトモな説明なんて要求されたことありませんよッ!!!!あーーーっと!、、はっ、!そうですね!スライムから手足代わりに10本それらしいのが伸びてて攻撃力やや強めで防御力ほぼゼロの生息地が海中版です!!」


ケディスはもう、やけクソだった。最後の方は特にそうで、サービスで力強くサムズアップすらした。


が、勿論上司様には無視された。

しかしもうそれ位でめげるケディスではない。今度はこっちの番だとばかりに、無視されたことを無視した。

唯の現実逃避である。


「成る程」

「今ので分かるんですか!!??」


ケディスはうん世紀ぶりに上司様と会話が成立したような気さえして、視界の端が感涙のあまりにぼやけて見えていた。


タコダート・オモッ(蛸っぽい)ターカ=()バカメ()の弱体版だろうな。」


久しぶりの感動の会話に、ケディスの心は沸き立ち、ニコニコと上司の言葉に応えていく。

客観的に見ればとても可哀想な人であるが、その事実からは、渦中の本人はそれはもう素早く、かつ無意識下で目を逸らした。


「あっ、後そこから魔法攻撃力を抜いて縮小した感じですね。」

「初めからタコダート・オモッターカ=バカメを出せば良い話だろうが。これだから貴女はすっからか.......サルモドキだと言っているんだろう。」

「いや、、前から思ってたんですけど、ココの生物名って多分大体人のこと馬鹿にしてません?.....って、!?何、人の事すっからかん呼ばわりしてるんですか?!本当にちょいちょい失礼ですね?!」


と言い切った辺りで、室内の温度がぐんと低下したような錯覚に襲われる。

ひぃ、と声が漏れそうになるのを必死で呑み込み、ケディスは室温に負けず劣らずの冷え冷えとした視線が自身に突き刺さっているような気がした。

いや、気がしたというのは、気のせいであってほしいというケディスの内なる願望が滲み出た結果であった。率直に言って実際、上司の凍てつく絶対零度の視線はケディスの慌てて逸らした視線の始まりに、正しく突き刺さっていた。


「ほぉ?」

「えっ、、」

(怒ってらっしゃる!怒ってらっしゃるぅうう!!!)


上司のその声に、思わず声が裏返る。

ケディスは冷え切った視線と声に体を縮み上がらせながら、なんでなんでとまたしても内心頭を抱えて天を仰いだ。


(えっ?えっ??いやなんで今更??だってついさっきも似たような事言ってたけど完スルーだったよね?!え、何で!?)


ケディスの背中には自前の滝がだばだば流れ、頭の中ではお馬鹿犬がグルグル延々と自分の尻尾を追いかけていた。


「それで?」


だから何でだとケディスが混乱のあまりに窒息寸前となっていようが、彼女の上司様は何事もないように更に室温を下げながら言葉を紡いでいく。

ケディスは顔の緩みきった犬の隣であれ、つい最近同じ言葉を言われた気がする、と思った。


「貴女はいつから、上司にそんな口をきけるようになったんだ?」


ん?と大変爽やかな声音で必殺コンボをきめてくる上司の顔は言わずもがな全く笑っていない。



(だから何でだ!)



ケディスは何度目になるのか、もはや分からない心の叫びを上げた。

同じく、ピシリと固まったのは一体何度目なのか神のみぞ知る所の、ケディスの顔からは、見えない血涙がだーっと流れていった。、、、とかいっていないとか。

あれ?おかしいな、、予定ほど話が進んでいない、、、だと?!?!

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