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魔術

 太陽が中天にかかる頃に水場に着いたので、ここで大休止をとる。

 皆が思い思い過ごす中、俺はクリスに魔術について教えを乞うていた。

 クリス曰く、俺は人間にしては魔力が高いらしい。だが肝心の魔力というものがよく分からない。なのでまずは魔力を感じ取る訓練から始まった。

 訓練といっても、クリスが魔力を纏いながら俺の手を握り、その魔力を感じ取る、といったものだ。暫く続けていると、痺れに似た感覚が掌を覆っているのが感じられた。


「もしかして、これ?」


「分かりましたか~?では手を離しますので~今度はトオルさんの中にある魔力を掌に集めてみてください~」


 まず意識を己に向け、集中して魔力を探る。クリスの魔力とよく似た何かが自分の内にあるのを感じる。

 今度はそれを掌の方へ動かしたいのだが、なかなか巧くいかない。額に汗を滲ませながら、うんうん唸って動け動けと念じたが、逆に力を入れすぎだと注意を受けた。他にも二、三アドバイスを受けやっと動かすことが出来た。




 次に魔術の詠唱。ここで大きな問題にぶち当たった。詠唱に用いられる言語は古代語と呼ばれるものだが、これが全く理解できなかったのだ。

 自分の語学力の低さは学生時代に思い知っている。主に英語と古典で。クリスは丁寧に教えてくれたが、比較的簡単な単語さえ上手く発音出来なかった時点で、先に俺の心が折れた。




 言葉の壁に遮られはしたが、魔術というものに憧れを持つ俺は諦めきれなかった。

 古代語の代わりに日本語を使っちゃ駄目なのかな?

 そう思ってクリスに詠唱の翻訳を頼んでみたところ、内容は同じ意味の言葉を僅かに表現を変えながら繰り返すといったものだった。

 感想は長い。くどい。あと正直恥ずい。

 永久とわなる風のなんたらかんたら~なんて言ってる間に羞恥のあまり舌を噛み切りたくなる。

 もっとシンプルで良くね?と聞いてみたら、極端な話、無詠唱でも発動はするがその場合、魔力暴発の危険性が付きまとう。正しいイメージと確かな制御の為に、このやり方が主流らしい。

 そんな説明を受けても、どうにか他のやり方は無いものか、と模索している俺がいる。


(つまり魔力に指向性を与えるのが詠唱の主な役割なんだから、それに代わる意味ある言葉を当て嵌めれば良い訳だ)


 頭の中であれこれと理屈を捏ねて、ある程度考えが纏まったところで、物は試しと手頃な石を拾い、言葉を紡ぐ。


「【一石二鳥】」


 石に魔力を宿らせ投げる。石は上空を飛んでいた鳥に吸い込まれるように命中し、その後あり得ない角度で曲がり、もう一羽を撃ち落とした。


「よし、成功!」


 落ちてくる鳥を追いかけ拾う。そして振り向くと、一体いつから見ていたのか、全員がこちらを向いていて、変な生き物を見るような目をしていた。

 ヤバい、何かやらかしたか!?


「えっと、もしかして禁猟区だったとか?」


 恐る恐る聞いてみる。それに答える声はなく、逆にルーが詰問してきた。


「オマエ、今ニャにをしたニャ?」


「いや、こう……魔術を使えないかなー、と」


「石に魔力を籠めたように見えたのですが」


「うん、そういうイメージで試してみた」


「付与魔術かニャ?……にしては魔力の動きがおかしいニャ」


「そうなんです~。変なんです~。それなのに~……どうして発動するんですかぁ!?」


 えー?何で俺怒られてんの?一生懸命考えたんだよ?凄くね?俺、凄くね?


「自分の中では納得出来る理屈を立てたし、詠唱代わりに使った言葉には意味があり、更に文字にも意味がある。正直これならいけると思った」


 そう説明したが反応は鈍い。……何で誰も褒めてくれないんだろう?


「もう一度やってくれませんか~」


 難しい顔をしたクリスにお願いされたが、上空を見ても鳥の姿はない。手元に目を移し、


「じゃあこれで……【弱肉強食】」


 魔力が鳥を包み、羽が抜け落ち、それぞれの部位に分かれ、魔石が転がり落ちる。って魔物だったんかい。



「解体まで出来るのかい。こいつは便利だね」


クリスは額を押さえて呻いているが、ケイからお褒めの言葉を頂戴出来たので良しとしよう。

 とりあえずこれで俺の立てた仮説は正しいと証明された。ならば次は正統な魔術の実演といこうではないか!


 枯木に右手を向け魔力を集中。


「【電光石火】!」


 …………不発。


「あれ?」


 ……何で!?ノリノリでポーズまで決めたのに!恥ずかしい!


「何がしたかったんだ?お前は」


 やめて。そんな冷めた目で見ないで。


「えーと……掌から雷が迸るイメージだったんだけど」


(言葉は問題ないよな?イメージもバッチリ。なのに失敗したって事は、もしかして魔力の使い方が違ってたからか?)


 石を拾って【電光石火】を籠めて、エイヤッと投げる。石は物凄い速さで飛んでった。


「つまり一旦何かに籠めないと使えないのか。他に何が出来る?」


 リオの言葉を受けあれこれと試した結果、幾つか判った。


 一、使える言葉は四字熟語のみ。一つの対象に一つのみ。続けて使うと上書きされる。


 二、籠める対象に触れていないと発動しない。生物には効果なし。但し装備品に籠める事で装備者は効果を得る。


 三、複数の装備品に複数の言葉を使い、複数の効果を得る事は可能。但し同じ言葉を複数使っても効果は無い。類義語ならOK。


 四、効果時間は三分。発動中に同じ言葉を掛け直した場合、後に掛けた時から三分。加算される事はない。


 五、籠めた対象によって効果が異なる場合がある。


 例えば【電光石火】を投擲物に使うと高速で飛んでゆくが、靴などの装備品に使うと装備者の瞬発力が上がる。


 うーん。使えるような、そうでもないような。靴に【電光石火】を掛けたものの、あまりの速さに身体が付いていかず見事にこけたからな。

 今は【自由自在】で空中遊泳の練習中。速さは駆け足程度。

 ケイとルーは物足りないとか言って【電光石火】と【自由自在】を併用して、キックボードの要領で空中スケートの真っ最中。延長二回目です。楽しめてるようで何よりだ。

 リオは少し離れた所で【一刀両断】と【快刀乱麻】の試し斬りをしている。こちらもとっても楽しそうです。

 ティアとクリスは【千変万化】を掛けた石で小物を作っては手に取り眺めている。和むなぁ。


 地上に降り立ち、ケイとルーに声を掛ける。


「そろそろ三分経つよ~」


 その声に進路をこちらに変える二人。それを見届け空になったペットボトルを手に水場に向かう。

 満タンまで水を補給してから、匂いを嗅ぎ陽に透かしてみる。特に問題はないようだが、念には念を入れてみた。


「【人畜無害】」


「あらあら~今度の魔術は何かしら~?」


「うーん、解毒にあたるのかな?」


 効果があるか調べるまでは気休め程度だけど。


「トオルさんの魔術は本当に何でもありですね~」


 ちょっと拗ねた感じで言われるが、これには反論させてもらう。


「いやいや。出来ない事も多いし。何より俺は魔力を飛ばせない」


 石などに【自由自在】を付ければある程度距離があっても操る事は出来るが、その為には一度対象物に触れなければならない。

 つまり戦闘中に相手に掛けるには懐まで潜り込む必要があるという事だ。今の俺には自殺行為に等しい。


 荷物を置いた場所まで行き座り込む。リュックの中身を漁りつつ問う。


「そう言えば昨日の飴、あと四つ残ってるけど誰かいる?」


「くれるのかい?」


 真っ先に反応したのはケイ。ティアとクリスは控えめに手を挙げる。ルーは視線を逸らしているが片耳が真っ直ぐこちらに向いているので、ある意味判り易い。


「では私は遠慮しておこう」


「んじゃ、そっちの四人で分けて」


 リオの意思を聞いてから、ケイに箱ごと渡し、暇潰しの為にと部屋から適当に持ってきた本を取り出す。


 四字熟語辞典。


 電車の中で開いた時はさすがにこれは……と嘆いたのだが、まさかこんな形で役に立つとは。

 ページをパラパラと捲る。使える言葉を増やしておきたい。意味を読み、漢字を捉え、俺なりの解釈でイメージを固める。

 その作業に没頭していたがいつの間にか皆に囲まれている事に気付いた。


「あ、もう出発?」


「いいえ~、異世界の文字が珍しいだけです~」


「これがトールの魔術に使っている言葉ニャ?」


「そう。こんな風に四つの文字から成る意味ある言葉」


「先程、水に掛けていた言葉はどれですか?」


 興味深い面持ちで眺めながらティアが訊いてくる。

 ページを繰り探すが載っていなかったので、地面に人畜無害と文字を書き、一つずつ指差し答える。


「これ。人や、動物に、害の、無いもの。人柄を語る際に用いる事が多いかな」


 例えば俺みたいな奴、と我ながら良い喩えと思いつつ口にしたのだが……


「ゴブ、フルボッコしてたよね」


「鳥を石で撃ち落としたニャ」


「言いたい事は判るのですが~少し喩えが悪かったかしら~」


 ……そうだけど!!言い返せないけど!!


 そして話題は完全に俺に移り、朝に引き続きまた、女性陣の気の済むまで弄られる事となった。

 会話の内容は諸事情により割愛する。


魔力の動きがおかしい、というのは四字熟語の意味と漢字の意味、二重の制御が掛かっているから。

基礎の途中で思い付きで行動した事により妙な癖が付いてしまい、魔力が飛ばせない、通常の魔術の習得不可という二つの弊害が出た。

矯正不可能。覆水盆に返らず。

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