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平原へ

 目を覚ますと空は明るくなりだしていた。

 赤から青に少しずつ色を変える空を、見たことのない大きな鳥?がおっかない声で鳴きながら横切ってゆく。


「……って、しまった!見張り!」


 慌てて飛び起き周囲を見回す。


「おや、やっと起きたかい」


 ケイがこちらを振り向き、からかいの混じった眼を向ける。

 どうやら既に皆起きていて、朝の準備をしているらしかった。


「ごめん!!」


「構わんよ。あんなの貰っちまった後だしね。皆と話して、起きないんなら寝かしとこうって事になったのさ」


「いや、ほんと悪かった。次からはちゃんとやる」


 頭を深く下げて謝るが、ハイハイと適当な返事を返される。

 クリスが「朝食の準備が出来ました~」と皆に声を掛け、思い思いの場所に座る。

 行儀の悪くならないレベルで会話を交わしながら、食事を終えるとルーが話し掛けてきた。


「つーかニャンだオマエ?魔物が怖い~ニャンて言いながら朝まで寝てるとか、どんニャ神経してるニャ」


「……う、返す言葉もない」


 自分でも問題だとは思っている。平和ボケしたお国柄と言ってしまえばそれまでだが、このままだといつか死ぬ。

 反省していると、横からケイがニヤニヤ笑いながらからかってきた。


「いやいや。アタシは感心したよ。外であれだけ無防備に寝顔晒すなんて、只者じゃないと思ったよ」


「只の馬鹿ニャ。間抜け面だったニャ」


「無邪気な寝顔でした~。元々トオルさんは若く見える顔立ちですけれど~更に幼く見えました~」


 ルーはぶっきらぼうに、クリスはくすくす笑いながら追撃してくる。


 ……何これ?罰ゲーム?それともイジメ?


 顔が紅くなっていくのが自分でも分かる。

 昨日会ったばかりの女性達に寝顔について好き放題言われて平気な程、俺の神経は図太くない。

 しかし、熟睡していた負い目がある為、彼女達の気が済むまで耐えなければならない。


 (勘弁してくれ!)


 まだ見ぬ魔物よりも女性陣の方が恐ろしいと心底思った。




 ミラージュ平原。

 かつてはユミルの森の一部だったが、異界より幻獣クラスの魔物が現れた際に主戦場になった事で大きく姿を変えた。不自然な窪地に出来た水場や、点在する大岩など、今でもあちらこちらにその戦いの名残が見られる。

 そんな古戦場跡を歩む一行。索敵能力の高いルーを先頭に、ケイ、俺と続き、クリスにティア、最後尾にリオといった隊列で進む。


「そういやトオルは戦えるのかい?」


「いや全然。一応、護身術を習った事はあるが、たった一年で辞めたからな。殆ど素人と変わらない」


 それに護身術とは文字通り「身を護る術」でしかない。ケイの言う「戦えるのか?」は敵を倒せるのか?更に言えば殺せるのか?という意味だろう。そんな自信も覚悟もありはしない。


「こっちじゃ戦う力がないとまずいのか?」


 この質問にはリオが答えてくれた。


「あった方が良いだろうな。お前にはこちらでの土台が無い。ならば金を稼ぐ方法は限られる」


 町に入るには許可証が必要で、審査が緩く、最も安いのは短期のものだ。延長するには金が要るし、定住するならもっと多くの金が要る。

 出稼ぎに来る者達は最低限の滞在費を用意して来るが、俺は文無し。宿代、食費、生活雑貨を揃えるだけでもかなりの金が必要となる。

 手っ取り早く稼ぐには苛酷な場所での肉体労働しかないが、俺の場合はそれだけでは正直厳しい。

 払えない場合、良くて追放。最悪、借金の挙句、奴隷に身を落とす事もある。

 戦う力があれば、リスクは高いが冒険者として、そこそこ稼げる。

 つまり身体を張るだけじゃ足りないから命を賭けろ、と。


 (どっかに異世界の貨幣を買ってくれる酔狂な金持ちは居ないもんかな?)


 荒唐無稽な事を考え、暫しの間、現実逃避。

 因みにティア達に財布の中身を見せたら、まず紙幣の概念に驚き、次に偽造防止の技術に感心し、最後に十円玉に釘付けになった。細かな図柄が気に入ったらしい。マジで売れねえかな?


「運良く仕事に恵まれたとしても、やはり戦う事が必要な場面に遭遇する可能性はある。その時に採れる選択肢を増やす意味でも、戦闘技術は磨いていた方がいい」


 つくづく物騒な世界だ。

 溜め息を飲み込み、自分に必要な知識を詰め込んでいると、先頭を歩くルーが立ち止まった。耳をピクピク動かし周囲を気にしている。ケイとリオも武器に手をやり様子を窺う。


「ゴブ共の待ち伏せニャ。数はそんなに多くないニャ」


「こっちは風上か。風向きに恵まれたね、連中は」


 ケイが面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 こちらの警戒が伝わったのか、待ち伏せは無理だと判断したゴブリン共が姿を見せた。

 矮小な緑色の体躯に長い鼻。粗末なボロ布を身に着け、手には錆びた武器や棍棒を持ち、耳障りな威嚇の声を上げている。数は十二。

 これで多くないの?と皆の様子を窺うが、余裕綽々の表情だ。


「ふむ。どうだトオル。お前も戦ってみるか?覚悟を決めるなら実戦に勝る場はないぞ」


「ああ!それはいいね。今ならアタシ達もフォロー出来るし。相手はゴブだし初陣にはうってつけだ」


 二人の言葉を吟味しながらゴブリン達を観察する。

 小剣が一、短槍が二、短剣が三、残り六が棍棒。指示を出している様子の小剣持ちが、おそらくリーダーだろう。

 棍棒持ちに目を向ける。棍棒というより木の棒といった感じだ。サイズはバラバラだが、連中の体躯でも扱える長さと太さ。巧く防げば軽い打ち身程度で済むだろう。

 刃物持ちは怖いけど、こいつら相手なら勝てる……かも!!


「よ、よし!やれるだけやってみる!」


 そうして俺は自分の意志で一歩前に踏み出した。

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