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東区へ


 予想以上に懐が潤った現在の我が心境は「こんな大金持って、知らない町をチョロチョロ出来るかああぁぁ!!」と荒れに荒れていた。

 小心者なんだよ!小市民なんだよ!こんな大金なんざ、日本に居た時でも高校最後の思い出作りに一人計画した卒業旅行の時以来だよ!言っとくけどボッチじゃないよ!ボッチじゃないからね!

 あの時も胸を占めた不安は、見知らぬ町に対してよりも、金を紛失したらどうしよう、ってのが大半だったしなー。

 思わず遠い目になり、かつての自分を重ねてみる。俺、全然成長してなくない?


 とりあえず金を減らす事から始めよう。俺の心の平安の為に。




 まずは借金返済だ。皆は気にしなくていい、と言ってくれたが俺は気にする。金が無い時に頼りはしても、金が有るのに甘えるのは駄目だろう。

 それに、こういう金は後回しにすればする程、返すのがしんどくなるからな。多少無理をしても早め早めに返さなくては後々気まずくなる。それは嫌だ。


「そういう訳でこの金はきちんと受け取って欲しい。なあなあの関係にはしたくない」


「ふぅ、分かったよ。そこまで言われちゃ仕方ない」


 困ったような、擽ったそうな顔で苦笑するケイ。

 これは後で聞いた話だが、神殿にはアウター関連の義務が幾つかあって、その内の一つに生活の基盤が整うまで金銭面の援助をする義務があるらしい。

 それ、何てナマポ?




 お次は、ルーとの約束を果たそう。王都で一番人気と言うからには、中央区に店を構えているのかな?と思い尋ねてみたら、目を大きく開いてぽかんとした表情を浮かべた。どうやらこのタイミングで言われるとは予想していなかったようだ。


「……フツーはまず必要な物を揃えるのを優先するんじゃニャいか?」


「そっちを優先してしまったら、いつになるか分かんないよ?キリ無いから。最低限、揃えるだけなら何とかなる」


 うん。マジでキリが無い。それに、身の回りの物を揃えようにも家がない現状では、持ち歩ける量しか買えないのだ。

 その説明に納得すれば、早く行くニャ!とばかりに急かされる。店までの道中ずっと、ルーが尻尾を俺の足に擦り寄せてくる嬉しいご褒美があった。きっと無意識なんだろうなー、と思うと、緩みそうになる唇をキリリと引き締めなければならなくなった。

 ルーの案内で店まで行き、12個入りの菓子箱を買う。持ちたがるルーに箱を渡し、さて次は東区へ移動だ。




「うっわー、これはまた……カオス」


 東区に足を踏み入れるとそこは、様々な異種族がごった返していた。

 エルフやドワーフ、獣人といった、人に近い姿を持つ種族は中央区でもちらほら見られたが、獣人よりも獣の特性が強い半獣人、表情が全く読めないリザードマン、身の丈3メートルは優にある巨人族、額に角と皮膚の一部が鱗に覆われた竜人族など、本当に様々な異種族が、客として、または店員として声を上げている。


「いやもう、活気が凄いんだけど、今日はお祭りか何か?」


「いや、ここはいつもこうだよ。地方から来る連中はまず驚くね」


 おぅ、田舎者丸出しでしたか。いや、でもこれは圧倒される。なんてーの?皆、身体中からエネルギーを放出してない?


「ここは冒険者御用達の区画だからね。自然、連中の持つ雰囲気に感化されちまうのさ」


「そんな事はどうでもいいニャ!サッサと買い物を済ませるニャ!ティアが神殿で待ってるニャ!」


 いやいや、ルーは箱の中身を早く食べたいだけだろ。

 適当な店に入り、必要最低限の衣類と雑貨を値段の安い物を選んで購入。流石に下着、肌着の類は肌触りで選んだ。

 後は酒場に行き、酒を数種類購入したところで本日の買い物は終了、神殿へ向かう。

 いや、もうちょい色んな店を覗きたかったのだが、箱を見てはソワソワするルーとケイの姿を見てると付き合わせるのも悪いかなー、なんて気がして。今度は一人で落ち着いて来よう。


「へぇ、酒イケるんだ?」


「人並みには。後、ちょいと試してみたい事がありまして。ケイも嗜む方?」


「アタシ?好きだよ。でもリオ姉はもっと凄い。ザルだね、顔色一つ変えない。後、間違ってもクリスに酒を飲ませちゃ駄目だよ」


 わぉ、カッコいい。クールなお姉様は酒にも強いのか。いつか二人きりで飲んでみたい。

 それに、クリスに飲ませたらどうなるかも教えて欲しい。絡まれるのか?乱れるのか?脱いじゃうのか?大事なところはそこだろうに!



    ◇



 先程もたらされた報告によって、神殿内部に動揺が走りました。封印の綻びにアウターの出現、神殿の存在理由を根幹から揺るがす大事件です。

 この報を持ち込んだのは、まだ年若く経験こそ少ないものの、能力・人格共に認める巫女。彼女は事態を把握するやいなや、この報告は速さが要と判断し、しかし役目も放棄出来る状況ではなく、最後に立ち寄った町で早馬に手紙を預け、自らは大の男でも音をあげる強行軍を敢行したと聞きました。

 そんな健気な少女の奮闘も虚しく、最後の最後でアウターの出現に立ち合うという結果に終わったのです。


「ティア。あなたには大変な苦労を掛けてしまいましたね」


「いいえ、フローラ様。これが私の役目ですから。……それに、私の短慮によって要らぬ心労をお掛けしてしまって、申し訳ありません」


 そう、早馬に託したという手紙は未だ届いておらず、もしアレが他者の目に触れでもしたら、と気ばかり焦ってしまいます。しかしそれを目の前の若き巫女に気取られてはいけません。今も責任感の強さから自分を責めてしまっているのだから。


「大丈夫ですよ。恐らく何らかの事情で足止めされているのでしょう。こちらからも確認の早馬を飛ばしました。追々、報告が来るでしょう」


 予定通りに早馬が着いていれば、こちらからも巫女を派遣したでしょうし、そうすれば今回のアウターの出現を阻止できたかもしれません。彼女の判断は正しかったと私は評価しています。

 私も若い頃は巫女として務めておりましたが、私が彼女位の年の頃に同じ状況下にあったとして、彼女と同じ決断を下せたかどうか……。

 肉体の衰えを感じ、前線を退き、後進の指導に回って数十年。私もすっかり歳をとりましたが、だからこそ私を慕う可愛い「孫達」とも呼べる彼女達を守っていきたいと思っているのです。


「あなたがお会いしたアウターの方はどのような人でしたか?強く当たられたりはしませんでしたか?」


 突然、右も左も分からぬ所に放り出された者が冷静であれる訳がない。目の前の少女に酷く当たってはいないか?私の懸念はそこでした。まあ、彼女の護衛達がそれを許すとは思えませんが。

 その場に居合わせただけで、心無い言葉に彼女が傷つけられる謂れはないのです。だがどうやらそれは杞憂だったようです。

 ティアが言うには、責めるような言葉は一度も吐かず、それどころか落ち込む自分を気遣い、様々なお話を聞かせてくれた優しい人だ、と。これにはつまらぬ先入観に囚われていた私が少々恥ずかしくなりました。


「良くできた人なのですね」


 と尋ねれば、何故か微妙な顔をされたのはどうしてでしょうか。

 報告に付き合っていた護衛のリオが、言葉を探しつつ、といった感じで補足してくれました。


「あー。……ケイ曰く、『底抜けにマヌケでヘタレ、何をやらかすか分からないお人好し』。これには私も同意します」


「少々考え足らずな所がありますね~。良い人なのは間違いないですが~」


「……はい。優しい、その、良い人です」


 聞けば聞く程、良い人というより、お人好しな所が唯一の長所のような気がしてきました。


「今も、あのルーが、人間の男の買い物に自主的に付き合っています。アレはどこか目を離すのが心配になる所がありまして」


「まあ!『あの』ルーが?あらあら、年甲斐もなく会うのが楽しみになってきました」


 王宮への報告、各地の調査、前任者の聴取に神殿内部への説明。考えなければならない問題は多々ありますが、どこかとぼけた印象を受ける、まだ見ぬ異世界の方とお会いするのが待ち遠しくて、心が高鳴るのを抑えられませんでした。



     ◇



 難所で土砂崩れによる足止めを食らい、予定より遥かに遅れた早馬が王都に着いたのは、この三日後の事だった。

ですます口調、むつかしい。誤った表現があればご指摘ください。

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