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~ホラフキー・メディチマルクス本社三階 打合せ室~
E田「はい、ではこれで『アブサン』の7巻の原稿を上がりとさせていただきます。……あの、ところで、田所さんに折り入って頼みがあるのですが………」
田所「?何でしょう。僕の担当編集になって2年と半年になるE田さん」
E田「何のために私の紹介をしたのか分かりかねますが……。今度、我がホラフキー・メディチマルクスが10周年ということで、社を代表する作家さんたちで短編集を作ろうということになりまして」
田所「なるほど。その短編を私に書いてほしいと」
E田「はい」
田所「わかりました。その仕事、二つ変身で引き受けましょう」
E田「……二つ返事?」
田所「そう、それ」
E田「…………えーっと、それでですね、短編のテーマなんですが、『リンゴ』でお願いします」
田所「赤くて丸い、英語でアポーというやつですか?」
E田「他にリンゴがありますか?」
田所「ないですけど、普通こういうときって自分たちの会社をテーマにするんじゃないでしょうか」
E田「そうなんですが……。うちの社長の鶴の一声で決まったので」
田所「社長にリンゴにした理由を聞かなかったんですか?」
E田「聞きましたよ」
田所「そしたらなんて?」
E田「うちの社長、椎○林檎の大ファンなんです」
田所「………」
E田「………」
田所「………テーマ、リンゴじゃなくてもいいですか?」
E田「そこはなんとかこらえていただいて、どうか、リンゴで一つ」
田所「はぁ、まあいいですけど………あ、じゃあこんなのどうです?」
E田「何々?『アッ○ル社の歴史~故ス○ィーブジョ○ズ氏に捧ぐ』?言わなくてもわかりますよね?」
田所「OKですか?」
E田「却下です」
田所「ダメですか」
E田「だめですよ。あたり前じゃないですか。まずどこぞの誰かがこの内容で書いてるし、そもそも短編に収まらないでしょう」
田所「それもそうですね。じゃあ……舞台は大学。中庭にある長椅子でたまたま隣り合った男女の頭に2階から振ってきたリンゴが当たって……」
E田「渋柿先生、ストップです。それ、森見登美彦先生が書いてます」
田所「つまり、僕の発想力は森見先生並!」
E田「えらくポジティブに考えますね」
田所「僕はこれからいかなる時もポジティブに生きると決めたんです」
E田「先生、それ失敗するフラグです」
田所「と、とにかくそう決めたんです。くれぐれも邪魔しないでくださいね」
E田「何のために邪魔するんですか。しませんよ。それより」
田所「他のアイディアですか。そーですね。青森のリンゴ農家の一人娘が主人公なんてどうです?」
E田「ほう。面白そうじゃないですか」
田所「主人公の名前は春奈」
E田「う、うん?」
田所「主人公はリンゴ酒工場の息子に惚れています」
E田「…………」
田所「さて、二人の恋の行方や如何に!」
E田「……一応意見を言うべきでしょうか」
田所「そんなに褒めないでくださいよ」
E田「まだ何も言ってないですし、そもそもこれは没一択です」
田所「我ながらいい出来だと思うんですが!」
E田「梅酒のCMのパクリじゃないですか!」
田所ちっ、ばれたか」
E田「今、舌打ちしました!?」
田所「まあ、いいじゃないですか、そんな些細なことは」
E田「パクった作品をOKして怒られるのは私なんですよ!」
田所「パクリじゃなくって、リスペクトと呼んでいただきたいものですね」
E田「今ののどこに尊敬の要素があるんですか。あるのは利用しようという下心だけじゃないですか。そ んな先生が尊敬だなんて言うと言葉のほうが汚れそうですね」
田所「失礼な!僕だって尊敬している人ぐらいいますよ!」
E田「じゃあだれなのか教えてくださいよ」
田所「杉崎k―――」
E田「葵○きな先生に謝ってください」
田所「じゃなくって、上条当m」
E田「先生のその腐った幻想をぶっ壊してやりましょうか」
田所「せめて最後まで言わせてくれませんか!?」
E田「ハーレム作りたいだけじゃないですか。聞いて損しましたよ」
田所「なぜわかった!?」
E田「そりゃわかりますよ。杉崎○でもしやと思って上○当麻でピンときました。せめて尊敬してる人を3次元から選んでくれませんか?」
田所「そういうE田さんは誰か尊敬してる人がいるんですか?」
E田「私ですか?私はグーテンベルグを尊敬していますが」
田所「誰ですか、それ」
E田「画期的な活版印刷の方法を発明した人ですよ」
田所「?」
E田「要するに印刷技術を作った人です」
田所「そりゃすごいですね。……あ、いました。僕の尊敬している人!」
E田「誰ですか?」
田所「魏延です」
E田「………『はが○い』の再現しようとしてます?」
田所(ギクッ!)
E田「はぁ……。遊んでないで早くアイディアを出しましょうよ」
田所「わかってないですね。こういう会話の積み重ねが面白い本の完成に一役買ってるんですよ」
E田「じゃあ、なんか思いつきましたか?」
田所「いえ、何にも」
E田「……怒っていいですか?」
田所「ははは。E田さん、なに『ベン○―』の○梅梅みたいになってるんですか?」
E田「怒っていいですよね?」
田所「え、ちょ、まっ、こ、ここは平和的に行きましょう。僕らはきっと話し合えば分かり合えるはずで痛たたたたgtryktggghf」
E田「じゃあ、先生。本題に戻りましょうか」
田所「……」
E田「どうしたんですか?ああ、首の骨がまだ外れてるんですね。ちょっと待ってください」
(ゴキッ)
田所「……」
E田「?まだどこか外れてるんですか?」
田所「違いますよ!作家の首の骨を外すような編集が一体どこにいるんですか!?」
E田「ここにいますが……?」
田所「E田さんを除いてですよ!」
E田「まぁ、でも作家がいい作品をかけるように作家の愛犬を殺そうとするドMな編集もいることですし、そんなに目くじらを立てなくても……」
田所「その編集がいるのは2次元でしょうが!」
E田「そんなことよりリンゴをテーマにした作品を作りましょうよ」
田所「僕の命はそんなことなんですか……」
E田「何か言いました?」
田所「いいえ、何も」
E田「えっと、それで改めて何かありますか」
田所「杉○林檎の外伝を―――――すいませんでした」
E田「わかればいいんです」
田所「うーん、他に何かリンゴが出てくる作品あったかな?」
E田「どうしてパロディを前提に考えるんですか。……そういえば白雪姫にリンゴが出てきてましたね」
田所「白雪姫?そんなアニメありましたっけ?」
E田「先生の脳は本当に残念なことになってるんですね……」
田所「憐れまないでください。覚悟の上です」
E田「その覚悟、誰得ですか……?いや、そうじゃなくてですね、童話の白雪姫ですよ」
田所「ああ、あのお姉さんの指先と、かかとが切り取られる」
E田「シンデレラの元のほうと混ざってますよ」
田所「よくわかりましたね」
E田「はぁ、なんとなく」
田所「でも、白雪姫はいいアイディアかもしれないですね。ありがとうございました!」
E田「いえ、これも編集の務めですから」
田所「E田さん……」
田所「E田さん……」
E田「おやおや、渋柿先生。こんな時間にどうしたんですか?」
田所「僕の話が短編集に乗ってないってどういうことですかー!」
E田「あの話を編集部みんなで読んだんですが、これはないな、ということになりまして」
田所「な、なんともったいないことを……!」
E田「いえいえ、一冊本を書くごとに二冊分の本を書いて半分を没にしているどこぞの先生に比べれば大したことではありませんよ」
田所「ぐぬぬ……。E田さん、やはり僕はあなたのことが好きになれそうもありませんよ……!」
E田「まあまあ、そんなこと言わずに。次の作品で勝負ですよ」
田所「次の作品?」
E田「はい。今度はこのホラフキー・メディチマルクスの本が百タイトル突破記念ということで先生にはキノコをテーマにして……」
田所「もう勘弁して!」
初めまして。
ブッポウソウと申します。
とんでもなく不定期な更新になると思います。
なにはともあれこれからよろしくお願いします。