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とある家族のドタバタ米D

作者: ばばあ

転載、ダメ絶対(・ω・)ノ

 「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 我が家に凄まじい悲鳴が轟いた。


  この声色からして、悲鳴の主は母だろう。


 「どうしたの、お母さん!」


 「ピ――が、あの黒々しくて、おぞましい造型をしたピ――が!! しなやかな身体を駆使してどんな隙間にも侵入する地球最古の害虫、ピ――がぁああああああああああああああああ!」


 「お、落ち着いてお母さん!」


 説明口調ということは、視界にゴキブリでも飛び込んできたのだろう。過剰な反応を見せる母は、ゴキブリが出没したときにしかお目にかかれない。普段はとてもじゃないが、大声を出すような人柄ではないからだ。一応、母の為に弁解しておく。


 「ああ、お終いだわ……。アレが出たからにはこの家には、もう住まうことは出来ないわね…………」


 「な、何言っているの!? 一昨日、引っ越してきたばっかりなのに! 新築ローン三十五年分はどうするのよ!」


 母の冗談であってください……に的確なツッコミをいれている場合ではない。私としても、イニシャルGがこの家に住居しているということは死活問題なのだ。


 「お母さん気をしっかり持って! 奴は今、どこにいるの?」


 私はアースジェットを片手に尋ねる。母のG嫌いもあって大抵、家にはゴキ○ェトやゴキブリホ○ホイが常備されているのだが、引っ越してきたばかりでそこまで手が回らなかったようだ。


  「ピ――は、そのピ――は……ピ――は今、ピ――にいるわ!」


 「お母さん! ピ――を多用しすぎて何を言っているのか分からないよ!」


 というか普通、ピ――は自分で言うものではない、と思う……。あまりに堂々と言うものだからツッコむタイミングを逃してしまったが。 


 「ご、ごめんなさい」


 目を泳がせて謝る母は、明らかに狼狽の色を見せていた。


 そして一つ間をおき、とんでもない事を言い放ったのだ。

 「彼(?)は今、冷蔵庫の中にいるわ」


 「か、彼?」


 ……まぁいい。この切羽詰ったとき、百……いや千歩譲ってその激しく気になる呼び名については触れないでおこうか。しかし……っ、やっぱり訊きたいっ、でも……その前にこれだけは訊いておかなければっ――


 「『中』、とな!?」


 「ええ、『中』よ」


 「冷蔵庫の『下』ではないの……?」


 言い間違えであってほしい。


 というか、あってください……! 神様、仏様! あ、ちなみに家は無宗教です。


 「不潔きまわりないことに……冷蔵庫の『下』ではなく、『中』にいるのよ」


 そう訴える母の顔は……、Gそのものだった。←あれ? 


 何か私、テンパッてル?? 母がGの顔なわけ、な、い。


 「嫌ぁあああああああ嗚呼ああ――――――!」


 私は一瞬にして決壊した。


  Gが冷蔵庫に……という事実は普通の(←ここ大事)女の子として生理的に受けつけられなかったのだ。決して私がおかしいのでは無い、と思う。ああ、断言出来ない自分が憎い……っ

        

 「うををををををををををおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 「み、美佐!?」


 気づいたときは、時既に遅し。私の手の中には言わずと知れる『目・鼻・喉にやさしい低刺激』を売りにしている強力殺虫剤、アー○ジェットが収まっていた。


 そして無言で冷蔵庫のほうへ、一歩、二歩と歩みを進める。


 「くふふふふふふふ……」


 私は変質者顔負けの気色悪い笑いを浮かべながら冷蔵庫の取っ手へと手をのばした。


 ガチャコ(冷蔵庫を開ける音)


 「何を……や、やめなさいっ!!」


 母の声も届かず、私は――


 ブッシュ――――――――――――――――――――――


 冷蔵庫の中にアー○ジェットをまんべんなく噴射していた。

 

 それはもう、恍惚たる表情で。


 「あっは――――――――!! ざまぁミロ!! この■■■■がぁ!!!!」


 「美佐子ぉぉぉおお―――――!! やめなさ――――い!」


 お母さんの絶叫が耳に入る。


 それでハタと自分が何をしているのかに気づく。


 「食後のプリンが不味くなるじゃない!」


 「なっ」


 あくまでもプリンが大事なのか。好物なのは知っていたけど、こうなっても食べる気でいるのか! 勇者だね!


 「プリンぐらい、また買えばいいでしょ!」


 少し、興奮気味の私は語勢を強くして言う。


 「ぷぷぷぷぷぷぷぷ、ぷ! プリンぐらいですって! プリンを嘗めないで! いや、舐めたら美味しいけれど! と、とにかく、プリンはねぇ、例えばプッチンした時! 私に人生の歓びを教えてくれたわ!!」


 憤慨したように母はプリンの大切さを訴える。意味がさっぱり分らないけど。

 

 あとで、詳しく聞かせてもらうことにしよう。

 

 ……それと、プリン舐めたんだね。その事実に今日一番のカルチャーショックだよ。

 

 それから、お互い喚きながらスプレーを噴射し続けること数分、

 

 ぽとっ


 不意に、不穏な音が聴覚を通して、脳内に届けられた。


 そんな不吉なものでしかない音は、今すぐ返品したいのだが、音にもれなく付いてきた返品不可の文字が私を苛ませる。


 綺麗にワックスが塗られている、真新しいフローリングの床に落下したものそれは……………………、世界も驚く脅威の生命力をお持ちのG様(害虫)だった。


 ぴくっ、ぴくっぴくっ、ぴくぴくぴく


 「まだ生きてるぅうううううううううううううう――――――――――! どーしよ、お母さん!」


 Gは仰向けになってはいるもののウネウネと不気味な肢体を蠢かせていた。相変わらず、おキモいですね。『お』を付けたところで、丁寧さが増すばかりか、気持ち悪さを強調するだけになってしまった。


 「半殺しだけでは、彼は理解しないのよっ! やるときは、殺らないとっ!」


 この状況を知らない人が聞いたら真っ先に110番通報するような物騒極まりない言葉を吐き散ら母。


 そして鬼の形相で私の手にあるアースジェットをひったくり、Gに向かって集中攻撃を喰らわせる。

 

 ブッッシュ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――……………………


 しばらくして、残り少なかったアースジェットを使い切り、部屋は静けさを取り戻す。


 「……………………、殺った?」


 我ながら恐ろしい質問だと思う……。


 ぴ……くっ


 彼はしぶとくもまだ、生きていた。満足に動かない四肢を懸命に動かして、その存在を主張するかのように。こんな風にいえば、感涙を誘う話のように聞こえもするが、『彼』は『G』なのだ。ここで慈悲深く、Gに同情でもしていたらお人よしを通り越して、えーと、お虫よしだ。て、テキトーなことなんて言ってないんだからね! ツンデレの否定は肯定。これ鉄板だよね! 


 「ちっ、しぶといわね。ゴキジェットでなければ、お亡くなりにはなってくれないということねっ!!」


 丁寧な物腰だが言っていることは悪にまみれている。悪の娘、でなく悪の母だ。何を言っているのかというと、みくちゃんの話だよ!


 そんなこんなで万事休す。膠着状態が続く最中、


 「ただいま――――!」


 姉の香織が学校から帰宅。


  すぐにスクールバックとテニスのラケットが入ったラケットバック、略してラケバを放り出す。


  どうでもいいことだが姉はテニス部に所属している。どうでもいいことだが、姉は全国トップ3の実力を持ち合わせている。本当にどうでもいいただの家族自慢でしたー。


 「そーいえば、めちゃくちゃ叫び声が聞こえてたんだけど?」


 まぁ、あれだけ騒げば聞こえもするだろう。


 何しろ、姉の通う学校は家の真正面にあるからだ。家と学校の距離は、道路を挟んでも、10メートルも無い。私の通う学校は10キロメートルも離れているのに。


 ……いいなぁぁぁぁ。……………………運動不足で太っちゃえ。


 「あー、喉渇いた。あれ、冷蔵庫開けっ放しじゃん。地球に優しくないなー、まったく」


 「ちょっ、おねえちゃ、」


 止める暇も無かった。……本当は少しぐらいならあったかもしれないけど。それは、無かったという方向で。あ、姉にだけは、どうかご内密に……。


 姉はその足で冷蔵庫に駆け寄った後……Gを……………………ぷちっと、踏んだ。……ぷちっと!

 

 「ぷは――――――!! 部活あとの牛乳は良いねっ!」


 そうとは気づきもせず、冷蔵庫から取り出した牛乳を直飲みする、姉。いい飲みっぷりだゼ。アー〇ジェットかかっているけどね! その牛乳。


 「ん、どうした? そんなにジロジロ見て」


 私と母の些か無遠慮な視線に気づいたのだろう。それに母は見かねて、口をひらく。


 「あのね、とっても言いにくいことなのだけれど――……」


 「んー?」


 まだまだ、牛乳を飲みつつ母に目線だけを向ける。


 うん、とりあえずその牛乳は飲まないほうがいいよ。何度も言うけど(口に出しては言わない)。アー〇スジェットかかっているからね。


 「その、ね……」


 母は困ったように私のほうにチラリと視線を流す。ただいま、助け舟は出航しておりません。なんてね。でもあんまり関わりたくないぁ……。


 姉は牛乳を口から離す。


 「何? 早く言ってよー」


 姉はせっかちな性格なのだ。そのせっかちな性格も相まって、この前、彼氏と破局したしね(実際は遠距離恋愛の問題)。


 自分だけ幸せになろうなんて他が認めても、この妹だけは許さないぃぃぃ。祝福しないぃぃぃ。


 「真奈美、貴女――、ゴキブリ踏んだのよ」


 オブラートに包む気はまったくないらしい。先ほどまでの、ピ――はどうした。ピ――は。


 「はい?」


 姉は怪訝な顔をして、そのまま足の裏へと視線を移して、目も背けたくなるような悲惨な『彼』(破片)の遺骸を発見する。


 「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 今日一番のその叫びは、お隣さん(学校の職員室)までばっちり、聞こえていた……らしい。同級生の女の子が教えてくれた。


 その後の姉の怒りようは凄まじいもので、一日中不機嫌にしていましたとさ。ちゃんちゃん。



 ……………………。


 え? だから終わりだってば。




楽しんでいただけたでしょうか。


それではまたー(・ω・)ノ

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