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サイキックJKかすみ  作者: 神村 律子
天翔学園高等部二年編
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第八章 かすみの秘密

 気を失った道明寺どうみょうじかすみを背負って天翔学園高等部の保健室に着いた風間かざま勇太ゆうたは、途中から同行したクラス担任の新堂みずほの手を借りて、かすみをそっとベッドに寝かせた。

「風間、まさかあんた、とうとう……」

 仁王立ちで勇太を問い詰めるのは、保健の先生の中里なかざと満智子まちこ。身長が百七十センチを超え、腰まで伸びた黒髪を大雑把おおざっぱにポニーテールにしている豪快な女性だ。切れ長の目に高い鼻、厚ぼったい唇の持ち主で、勇太の好みではないが、美人である。

「ご、誤解ですよ、中里先生! かすみちゃん、変な男と戦って、気絶しちゃったんですよ」

 勇太は中里に今にも首をへし折られるのではないかと思って汗まみれで弁解した。

「だったら、どうしてお前、さっきから前屈まえかがみなんだ?」

 中里は目敏めざとかった。かすみを背負ってここまで来た勇太は、その間中かすみの大きな胸に背中を突かれ、いけない妄想が膨らんだだけではなく、違うところも膨らんでしまったのだ。

「え?」

 かすみの様子を看ていたみずほが中里の驚愕の言葉にビクッとして振り返った。

「ち、違いますよォ、中里先生……。これはその……」

 恥ずかしさと緊張が勇太の「膨らみ」を沈静化させた。

「わかってるよ。この子をおんぶしていて、いろいろと当たったらいけないところが当たったんだろ?」

 何もかもお見通しの顔で、中里は言う。そのドヤ顔が勇太は悔しかったが、何も言い返せない。

「お前、案外ガキだったんだな? もう桜小路さくらこうじとすませたのかと思っていたけどな」

 中里はかすみに歩み寄りながらも尚も勇太をからかう。

「す、すませた?」

 精神年齢は勇太達とさして変わらないみずほは目を白黒させていた。

(すませたって、何を?)

 カマトトではなく、本当にわからないらしいみずほを見て中里は苦笑いだ。

「な、何言ってるんですか!? あんなお子ちゃまと何するって言うんです!?」

 そう言い終わった時、勇太は背後に人の気配を感じてドキッとした。

「だーれが、お子ちゃまよ!?」

 そこには怒りで目が吊り上がった桜小路あやねが今にも掴みかかりそうな態勢で立っていた。それを押さえているのは、彼女の親友の五十嵐いがらし美由子みゆこだ。

「あやね、落ち着いて!」

 そう言いながらも、美由子はもう一人の侵入者を探している。

「どこに隠れたのよ、てる!? 大人しく出て来ないと、痛い目見るよ!」

 低くて迫力のある声で美由子が怒鳴った。みずほはギクッとして美由子を見た。中里は美由子の声に応えるように動き出し、

「ほら、もう観念しろ、横山。出て来た方が身のためだぞ?」

と言うと、奥のベッドの周りに引かれたカーテンをサッと開いた。その向こうには、バツが悪そうに立つ横山よこやま照光てるみつがいた。

「あはは、見つかっちゃった。今度は俺が鬼だね」

 横山はヘラヘラ笑いながらそう言うと、どさくさに紛れて逃走しようとしたが、

「往生際が悪いよ」

 中里に襟首を掴まれ、項垂れた。


 そんなドタバタがあって、かすみが気を失ってしまった経緯を勇太から聞いたあやね達は、疑いの眼差しで勇太を見た。

「作り話をするにしても、もう少しマシな嘘を吐きなさいよ、風間君。小学生じゃないんだから」

 あやねは他に人がいるので、勇太の事を名字で呼んだ。

「風間君、本当の事を話して」

 みずほが目を潤ませて言ったので、勇太は困ってしまった。

「作り話でも嘘でもないんだって、みずほちゃん。かすみちゃんは、妙な外国人のおっさんと戦って、おっさんを撃退したんだけど、その後でばったり倒れちまったんだよ」

 勇太自身も、あれが本当の事なのか未だに信じられないのだが、現実だと思うしかないのは、かすみが気絶しているという事実があるからだ。

「まあ、風間の話が嘘でも本当でも、道明寺が酷く疲労しているのは間違いない」

 中里はかすみの脈拍を計測しながら言った。そしてクルリと向きを変えて勇太を見ると、

「新堂先生をみずほちゃんと呼ぶなと何度も言ってるだろう?」

 軽めの拳骨を見舞った。

「いてて……」

 勇太は油断した、と思いながら涙目で中里を見上げた。

「バカだな、勇太は」

 自分の事を棚に上げてほくそ笑む横山を、

「あんたが言うな」

 美由子がコツンと殴った。

「いてえな!」

「痛くしたんだから当たり前でしょ!」

 またいつもの痴話喧嘩が始まった、と勇太とあやねは呆れ顔で二人を見た。

「保健室で大声出す奴は許さんぞ」

 横山と美由子の襟首を掴んで、中里が囁いた。

「す、すみません」

 美由子と横山は異口同音に謝罪した。

「ここは……」

 その騒ぎのせいという訳でもないのだろうが、かすみが目を開け、起き上がろうとした。

「あ、ダメ、道明寺さん」

 みずほが慌ててかすみを押し戻して布団をかけ直す。

「あれ、新堂先生?」

 かすみはまだ自分がどこにいるのかわかっていない。

「ここは学園の保健室よ。貴女、気を失ってしまって、風間君がここまで運んでくれたの」

 みずほは微笑んで説明した。

「え? 勇太君が?」

 かすみが勇太を名字でなく名前で呼んだので、あやねはキッとし、横山は涙ぐんだ。

「良かった、かすみちゃん。どこも痛くない?」

 勇太はみずほを押し退けてかすみの顔を覗いた。するとかすみは、

「うん、大丈夫だよ。それより、勇太君こそ、どこも痛くない?」

と目を潤ませて勇太を気遣った。かすみの瞳と言葉に勇太はデレッとしてしまい、

「かすみちゃんが助けてくれたから、どこも痛くないよ」

 あやねの目がギラッと光ったのを美由子は見て、

(風間君、後で大変……)

と心の中で手を合わせた。

「良かった……」

 それは偽りのないかすみの思いだった。

(ロイドに気を取られて、勇太君がついて来ているのに気づかなかった私のせいだから……。本当に無事で良かった)

 かすみはスウッと起き上がり、勇太を抱きしめた。

「え?」

 勇太もみずほも、そしてあやねも虚を突かれた感じで、一瞬何が起こったのかわからなかった。

「ありがとう、勇太君。私、重かったでしょ?」

「い、いや、そんな事ないよ。かすみちゃんが軽いのは、体育館の裏で会った時から知ってるし」

 勇太はかすみの胸の膨らみが妙にダイレクトに感じられるので、失神寸前だ。

「あ……」

 かすみが先に気づいた。勇太が中里に怒られている間にみずほがかすみのブラウスのボタンを外して呼吸をし易くしていたので、前がはだけており、ブラが剥き出しだったのだ。

「いや!」

 かすみは顏を真っ赤にして勇太を突き飛ばし、布団で前を隠した。


 職員室から出た坂出さかいでみつるは、携帯のバイブが作動しているのに気づいた。

「はい」

 相手はボスだった。

「そうですか。では道明寺かすみは保健室にいるのですね?」

 坂出は今すぐにでもかすみの息の根を止めに行きたかったが、ボスがそれをまだ許してくれていない。

「ロイドが道明寺を殺さないように自分がガードするのですか?」

 殺したい相手を守れと言われ、坂出は意気消沈してしまった。しかし、ボスに逆らう事はできない。

「あ、いや、不満がある訳ではありません……」

 ボスに何かを言われた坂出はビクンとして言い繕った。

「はい、ロイドから道明寺を守ります……」

 坂出は歯軋りしてボスに返事をした。携帯を乱暴に閉じ、ジャージのポケットに押し込む坂出を一人の女子生徒が見ていた。長い黒髪を腰まで伸ばし、楕円形の黒縁眼鏡をかけた利発そうな顔立ちだ。

(貴方は咬ませ犬なのよ、坂出)

 女子生徒はニヤリとして踵を返すと、廊下を歩き去った。


 しばらくして落ち着いたかすみは勇太達に自分の事を話し始めた。

「私の話を信じようと信じまいとそれは皆さんの判断に任せますが、他の誰かに話したら、確実に命を狙われるという事だけは信じてください」

 かすみの真剣な表情にいつもおちゃらけている横山も真顔になった。

「私は予知能力と瞬間移動能力が使えるサイキックです」

 かすみは最年長の中里を見て話している。みずほはすでにパニック気味で、目が泳いでしまっているのだ。

「そのせいで、ある組織に狙われています」

「狙われている?」

 勇太は眉をひそめて鸚鵡返しに言った。彼はロイドの事を思い出しているのだ。

(あいつがその組織の奴なのか?)

 長身で無表情な男。思い出しただけで勇太は背筋が寒くなる。

「サイキックって何?」

 横山が美由子に小声で尋ねる。美由子は顔を引きつらせて、

「そういう事はクラス委員のあやねに訊きなさい」

と言って自分の無知を誤魔化した。横山は黙って頷きあやねに尋ねようとしたが、彼女はとてもそんな雰囲気ではなかった。

(道明寺さん、貴女は一体何者なの?)

 あやねは学園に戻るきっかけとなった警視庁公安部の森石という刑事の事を思い出していたのだ。

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