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サイキックJKかすみ  作者: 神村 律子
天翔学園高等部三年編
32/107

第一章 新たな敵

 かすみは不安そうに自分を見つめている新堂みずほに微笑み、

「わかりました。森石さんには再会を楽しみにしていますって伝えてください」

 途端にみずほの顔が明るくなった。

「わかったわ。章太郎さんに伝えるわね」

 かすみは踵を返して廊下を歩き出したみずほに、

「森石さんとお付き合いしているんですね、新堂先生」

 力を使う事なく言うと、みずほはビクッとして立ち止まり、

「お、お、お付き合いなんてしてないわよ、道明寺さん。おかしな事言わないでね」

 そんな事を言いながらも、かすみをまた手招きした。

「章太郎さんの連絡先を私が知っているのは、中里なかざと先生には内緒にしてね」

 周囲を警戒しながらみずほは小声で告げた。保健教師の中里満智子も森石に気があるのをみずほは知っているのだ。かすみは苦笑いして、

「言いませんよ。お二人が付き合っている事は」

「ち、ちが……」

 強く否定しようとしたみずほだったが、かすみが異能者サイキックなのを思い出し、

「道明寺さんに隠しても仕方ないわね」

 溜息を吐くと、再び踵を返し、項垂れて廊下を歩いて行った。

(ちょっとやり過ぎたかな……)

 かすみはみずほが森石とみずほが付き合っているのを力を使って知った訳ではないが、それを否定したところで意味はないので、あえて何も言わなかった。

(名前で呼んでいれば、誰だって気づく事なんだけどね)

 かすみは肩を竦めて教室に戻りかけた。その時、視界の端に風間勇太と桜小路あやねの姿を捉えた。

「おはようございます」

 二人は項垂れているみずほに挨拶してから、ほぼ同時にかすみの存在に気がついたようだ。

「おはよう、勇太君、あやねさん」

 かすみは一瞬迷ったのだが、二人を名前で呼んで挨拶した。あやねが敵意を向けてくるかと思ったが、彼女は微笑んで、

「おはよう、かすみさん」

 かすみが拍子抜けするくらい穏やかに返して来た。

「お、おはよう、かすみちゃん」

 勇太はオドオドして言ったが、あやねには嫉妬の気持ちは湧いていない。

(なるほどね。二人の気持ちが完全に通い合ってる)

 かすみは勇太とあやねの思いがぶつかる事なく互いの気持ちを包み込むように広がっているのを感じた。そして、ホッとした。

(勇太君の気持ちは嬉しいんだけど、私は男の子とお付き合いできる人間じゃないから)

 自分の境遇に落ち込みそうになるかすみだが、何とか笑顔のままで、

「今日は仲良く登校したんだね。羨ましいな」

 少し妬けるので、からかってみた。するとあやねが、

「勇太がどうしても私と登校したいって言うから。ね?」

 勇太はあやねの発言に目を見開いたが、潤んだ瞳で自分を見ているあやねに気づき、

「あはは、そうなんだよ。あやねって可愛いだろ? 最近気づいてさ……」

 余計な事を言ってあやねの肘鉄を脇腹に見舞われた。

「ぐほ……」

 勇太はそのせいでむせたが、笑っている。

(風間、いつかぶちのめす)

 各教室から二人の様子を見ている「あやね命」の男子生徒達が勇太に殺気を放っているのをかすみは感じて、

(勇太君、いろいろ大変だね)

 これから先苦難が待ち受けている勇太に同情した。

(風間はかすみ様を諦めたようだ)

 かすみは別の男子の一団の思索も感じた。そして、溜息を吐いた。

(私を対象にしないで)

 恋の相手は不可能だと全ての男子に対して通告の念を送りたいくらいだ。

「じゃあな、あやね」

 脇腹の痛みに顔を歪ませたまま、勇太は憤然として立ち去るあやねに言ったが、あやねは無言で歩いて行ってしまった。

(全く、何様だよ、あの女!)

 勇太はイラッとしてあやねの華奢な背中を睨みつけた。

「勇太くうん、そろそろォ教室に入ってねえ」

 背後からいきなり間延びした声をかけられ、勇太はギクッとした。振り返ると、そこには数学教師の蒲生がもう千紘ちひろが立っていた。彼女は勇太達のクラス担任でもある。

「お、おはようございます、蒲生先生」

 勇太は嫌な汗を背中に伝わらせながら言った。千紘はフフッと笑い、

「おはようございます。彼女との別れはすんだ?」

「え、あ、いや……」

 勇太は顔が熱くなるのを感じ、慌てて教室に飛び込んだ。千紘はニヤッとして、

(そのうち可愛がってあげるわ、勇太君)

 千紘は窓越しにかすみを睨んでから、中に入った。しかし、かすみは千紘の視線を感じる事はなかった。

(貴女は自分の力がセーブされている事に気づけない。それだけ、あの方のお力は素晴らしいという事なのよ、かすみさん)

 千紘は他の生徒達には笑顔を振りまきながら、かすみを嘲笑っていた。彼女は敵であった。


「畜生、何て事だ!」

 天翔学園高等部の近くの路地に車を駐めている森石は古巣(CIA)からの情報を確認して、歯軋りしていた。

(予想以上に再生が早かったようだ。もうすっかり浸蝕されちまってるな。今夜、かすみと会えるのか?)

 森石はタブレット端末の画像を見て思った。

(天馬翔子は間違いなく死んだ。しかし、あの女のパトロンがあの女以上の異能者サイキックだというのか……)

 森石は自分の読みの甘さを悔やんでいた。

(桜小路グループのお嬢様にもっと食い下がるべきだったな)

 森石はあやねとの間に割り込んで来た勇太の顔を思い出し、ドンと車のドアを拳で叩いた。その時、助手席側のウィンドをノックされた。

「む?」

 森石は人の気配を全く感じなかったので、ギクッとしてそちらに目を向けた。

「よお、兄ちゃん。あれこれ嗅ぎ回っているようだけど、やめといた方がいいよお」

 そこにいたのは、痩身で、ブロンドの髪を真ん中から分け、肩まで伸ばし、無精髭を顎に生やした若い白人の男だった。白い無地のTシャツを着て、藍色インディゴのジーパンを履いている。

(サイキック?)

 瞬時に森石はそう感じ、このまま車内にいるのは危険だと判断した。

「警告だけだよ、兄ちゃん。俺はそこまで気は短くない」

 ドアを開けて逃げようと思った森石はニヤついている男を唖然として見た。男は車から離れながら、

「だが、次はねえぜ。今度嗅ぎ回っているのを見つけたら、ボン、だ」

 右手で物が破裂する様を表現して、歩き去った。その間、森石は瞬きもできないほど緊張していた。


 男は路地の角を曲がり、肩を竦めた。そして、道の反対側にあるビルの屋上を見上げ、

「そんなところで高見の見物とは、随分と偉くなったんだな、ロイド?」

 余裕の笑みを見せたままで言った。

「お前こそ、いつから外道の犬にまで落ちたんだ、チャーリー?」

 ビルの屋上には、季節外れの黒のフロックコートを着たガラス玉のような目の黒髪を七三に分けた長身の白人男性が立っていた。以前、かすみ達と共に天馬翔子と戦った異能者サイキックのロイドである。

「言ってくれるねえ、ロイド。外道の犬か? 確かに奴は外道だが、俺は犬になんかなっていねえぜ。間違えるなよ!」

 チャーリーと呼ばれた男はそう言ったと同時に全身を輝かせ、ロイドに向かって飛翔した。

念動力サイコキネシスの応用で空を飛べるのか)

 ロイドは目を細めて迫り来るチャーリーを見た。

「燃え尽きろ、ロイドォッ!」

 チャーリーは右手を突き出すと、その人差し指から業火を放った。

「無駄だ」

 ロイドは目を細めたままで瞬間移動し、チャーリーの背後に現れた。

「ぬう!」

 チャーリーは素早く反応してロイドを視認するともう一度業火を放った。ロイドはまた瞬間移動した。

「お前は永遠に俺には勝てない」

 ロイドは更にチャーリーの背後を取っていた。

「向こうで仲間が待っているぞ」

 ロイドはチャーリーに向かってサイコキネシスを放った。ところが、その力は何故かねじ曲げられ、何もないはずの空間に吸い込まれてしまった。

「……」

 ロイドは目を見張った。

(何だ、今のは?)

 不可解な現象を目の当たりにし、彼はその場から逃げ去った。チャーリーはフッと笑って、ロイドがいた屋上に着地した。

「さすがのロイドも、あの方のお力の前ではガキ同然さ」

 チャーリーは下卑た笑いを顔に浮かべた。

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