ボンヤリとした不安(2)
「おはようございます。イイナー、たまには営業車貸して下さいよ。」
バス通勤の仲村がゴネる。
「貸しても駐車する所ないだろ」アァそうか、という風に納得の仲村。
「Mちゃんをデートに誘ったら貸してやるよ。」
「営業車でデートなんかできるワケないでしょ!」そりゃ、そうだ。
「研究室には10時に伺いますって電話いれましたよ。」
「ありがとう」
さて結局、“味の違いを感じない”というグループの共通項は解からぬままか。検査結果で何か解かるのだろうか?タメイキをつく。仲村の方はテキパキと留守中にたまったFAXやメール、留守電に入っていたお客様からの注文をパソコンに打ち込み配達指示を本部にしている。仲村が来てから机上作業は全部やってもらってる。
午後からは会員と委託農家の獲得のための営業廻りでいっしょに動いてくれる。本当に指示された仕事は“できる男”なのである。禁煙用の棒アメを口にしながら。
禁煙!そうだ、仲村とSちゃんは喫煙者だ。他の人間は…。
オレは本部に電話した。予想通りSちゃんが電話に出た。
「Sちゃん?急でゴメンだけど調べてほしい事があるんだけど…」
「何?」
「昨日試食した人達の中で“味に変わりはない”って答えた人は喫煙者じゃないかって予想したんだ。だから調べてほしいんだ。」
「そうなの?そういえば私も解からなかったわ。いいわよ、でも人数多いとチョット…」
「大丈夫、5名だから。事務のLさんと新入社員のOちゃん、Pちゃん。それと本部営業の新入社員DとE。わかり次第オレの携帯に連絡ちょうだい。できるだけ急いでね。」
「まかせて。」
「イイ返事。この借りはいずれ精神的にネ。」オレは電話を切る。
5名はSちゃんが調べてくれる。問題は本部長。
社員に「食べ物にニオイがうつるから禁煙!」って言ってきたのは本部長なんだから。
思えばタバコのニオイする時はあった。来客のニオイが移ったと思ってたから…。
本部長の携帯に電話する。
「どうした?なんかトラブルか?」
「たいした事じゃないんですけど、今お時間ちょっとイイですか?」
「かまわんよ。」
「昨日の試食の件ですが、“味に変わりはない”と答えた人は喫煙者ではないかと考えてるのですが…。本部長、喫煙してらっしゃいますか?」
しばらく沈黙。やっぱりね。
「他言もしませんし、責めたりもしません。正直に答えて下さい。…お願いします。」
「…たまに、吸ってる。」
「ありがとうございました!」オレは電話を切った。たぶん、オレの考えはあってる。
「ズルイじゃないですか。」仲村がオレを見てる。
「ボクには仕事中にナンパするなって言うくせに。」
「今のSちゃんでしょ。“いずれ精神的に”って何ですか?合コンですか?Mちゃんは来るんですか?」
仲村が詰め寄ってくる。
「違うよ、ちょっとねSちゃんに試食の件で調べてもらってるんだ。」
「何ですか?」
「たぶん“味に変わりはない”って答えてる人間は喫煙者だよ。」
驚いた顔の仲村。
「昔みたマンガで、…たしか“美味しんぼ”だったかな?喫煙者は嗅覚、味覚が鈍くなるってあったんだ。とは言っても微妙な差なんだろうけど、この米に関しては強く出てくるのかもしれない。あとはSちゃんの電話でハッキリするよ。」
時計を見る。そろそろ研究室に向かおう。