うますぎる米(5)
テンション下がったまんまの仲村の為に帰りは車のクーラーはONにしてやった。
先程の集計結果にざっと目を通す。
試食した、50名の内“味に変わりはない”と答えたのは7名。男性3名、女性4名。
8割以上が“おいしい米”と答えてる。
“味に変わりはない”と答えたグループの共通項は?
性別、年齢、体重は関係ないようだ。
男性は本部長と今年入った新入社員2名。女性はSちゃんとLちゃんは知ってる。他の2人はやはり新入社員。
7名のうち新入社員が4名ね…。
「アッ、先輩忘れてました。さっきSちゃんから先輩に渡してって預かってたんです。」
座席の背のあたりからB5の茶封筒を出してきた。差出人を見るとKさん。どうしたんだろう。
封を開けてみた。中には一冊の文庫本とメモが入っていた。小松左京の短編集「骨」古い文庫本だ。確か「日本沈没」で有名なSF作家だよね。メモの方は…
「石川さん達が帰ってあと、こんな下らない事で呼び出したりして申し訳ないなと反省しております。それでも親切に対応して戴いてありがとうございました。ただ、あの米を味わった時の不安感がどこから来るものなのかと考えて思い出したのが同封した文庫の「オフー」でした。“昔の作り話”に大の男が不安を覚えるなど馬鹿げていますよね。お忙しい所お騒がせしてすみませんでした。“何か解かれば知らせて下さい”と言いましたが、調査は無用です。」
でも “人によって味が違う米”なんて品質管理上、放置もできないしね。何かわかったらKさん宅に本を返しながら寄ってみるさ。
「Sちゃんからラブレターですか?」仲村が悔しそうに言ってきた。
「こんなデカイ茶封筒がラブレターな訳ないだろ。」オレは茶封筒の角で仲村のホッペをつついた。
「ですよねー。このボクが貰わないモノを先輩が貰うワケないですよねー。」
“キモイー”よりは、マシだと思うが。言わせておくさ。
「じゃ、何ですか?」
「Kさんから本を送ってきたよ。この中の“オフー”という話が気になったって書いてる」
「それって、農薬汚染とかのドキュメントですか?」
「いいや、昔の作り話だって」
「誰が書いてるんですか?」
「小松左京。」
ちょっと、気になる表情の仲村。
「どうした?」
「いえ、冷蔵庫に小松菜の漬物あったなと思い出して。まだ、食べれましたかね?」
そっちかよ。