うますぎる米(3)
2つの炊飯器から湯気が立ち始め待つこと30分。そして中のゴハンを反して15分。炊きたてゴハンの出来上がり。
「あなた~ン。ゴハン炊けたわよ~ン。」仲村のオネエ声が事務所に響く。
「美味しそうじゃないか。早くよそってくれないかなオマエ!」炊飯器を覗き込む仲村の背後からオレのゲンコツをオネエ仲村のコメカミにグリグリしてやった。しゃもじを持って悶絶する仲村。
「残業してまで付き合ってる部下に酷いじゃないですか。訴えてやる!」ヨヨヨ…とまだ小芝居しやがる。相手すると面倒くさいので無視。
「“うますぎる米”はAの炊飯器、いつもの米はBの炊飯器なんだな?」
「そうです。Aのゴハンは赤のお茶碗、Bのゴハンは青のお茶碗によそいましたよ。夫婦茶碗みたい、ウフッ」
しつこいんだよ!そのフリルいっぱいでピンクのベタなエプロンこの事務所のどこにあったんだ。オレは携帯カメラで仲村のエプロン姿を写した。
「先輩、待ち受けにするんですか。嬉しい。」
「バーカ、本部のSちゃんに写メールするんだよ。彼女が見たら本部中の女の子たちに一斉送信するだろうよ。」仲村の顔が青ざめた。
「やめて下さい!もうしません!マジメに仕事します!ゴメンナサイ!」ピンクエプロンのまま土下座する仲村。そいつも写す。
「今度なんかやったらコレだからな!」オレは水戸黄門の印籠のようにバカ写真を仲村に向けた。「ハハ~。」と中村。なんか新しいネタを振ってしまったようで少し不安が残る。
「冷めないうちに試食するぞ。」「はい。」おっ、効いたね。いつの間にやらピンクエプロンも消えてる。
さて、まずはBのゴハンを試食。吸水時間が短かったのでカタメではあるがいつもの“おいしいゴハン”腹が減ってたせいか試食なのにもっと食べたい。焦らず明日試食すれば良かった。ああ、なんか幸せな気分になるよ。ウチ(自社)の米はやっぱりイイワ~。
「何、ニヤニヤしてるんですか?不真面目ですよ」仲村が突っ込んできた。解かったよ、アイツはBをたいらげ、Aの茶碗を持ってる。解かったよ。
さて、これが問題のAのゴハン。香りも風味もさきほどのBの米と変わらない。変わらない?なんだ?後からくる甘さ?といっても砂糖の甘さじゃない米のほのかな甘さがハッキリ出てる。うまい。Kさんの言葉を思い出した。「同じ米とは思えない」その通りだ、食べてみるまでは“大げさだ”と失礼だけど思ってた。でも確かに違う。この米なら利きゴハンしても当てれる。
仲村を見た。「どうだ?」「美味しいですよ。でも、AもBもさほど変わりありませんよ。オカズ欲しくなりますね。」「?!」この違いがわからないのか?オレも味の違いが解かる様な繊細な舌の持ち主じゃないが、この米の違いは解かる。なのに仲村には解からないようだ。どういう事だ。またKさんの事を思い出した。「おいしいと言うのは私と娘。妻と息子は変わらないと言ってます」この違いは何だ?もっと多くの人に試食してもらって見極めたい。やっぱり、本部にお願いしよう。
「仲村、明日は本部に行くぞ」
「じゃあ、出勤は本部直行ですか?」
「イヤ、そのAの米を炊いて本部で試食してもらうからコッチだな」
「あなたの為ならセッセと炊くわ。」とできないウインクをかましてきた。(なんで口が開くんだ)
いつのまにかピンクエプロンを持ち出してきてる。オレが携帯を持つと「ハハ~」と土下座。
やっぱり、新ネタにするつもりだ。