うますぎる米(2)
「到着、こんにゃく~!」駐車すると仲村が無理なダジャレを発した。ツッコムと調子づくので無視。Kさんの家から持ってきたコシヒカリと他の農家で作ったコシヒカリを1袋づつ肩にかついで歩き出す。「先輩、待って下さいよ。」車にカギをかけ仲村が走ってきた。「ほら、上司に荷物運ばせんな」と仲村に米をかつがせる。渋々従う。「あの棟の1階だから近いだろう。」「先輩、これってセクハラってヤツじゃないですか」「バーカ、パワハラだろ」マズイ!仲村にツッコミいれてしまった。見ると仲村の空いてる左腕が小さくガッツポーズを決めてた。さすがにイラッときたのでケリ入れようとすると、危険を察知したのか仲村はソソクサと実験棟の方へ歩いていった。
「○○食品の石川です。米の検査お願いします。」開けっ放しのドアから声をかける。奥から返事と一緒に白衣を来た若い女性が現れた。「先程の電話の方ですね。コチラへどうぞ」奥へ手招く。女性とすれ違い様、「あげる。」仲村が棒アメ(まだ持ってたのか)を強引に女性に渡す。セロファンの中で溶け掛かった棒アメに困ったような表情で「ありがとうございます」と応える女性。すかさず、できないウインクをかます仲村。いいかげんにしろよ!
「O先生、スミマセン。急な検査お願いして」
「いいえ、こちらも援助いただいてるんですから。それに発表が終わってちょうどヒマだったんです。」
O教授は偉ぶった所もなく素人のオレたちにも解かり易く分析の結果を説明してくれる。検査に関しては信頼できる先生だ。同年代という事もあって気安く(失礼)利用させてもらっている。
「電話での話ですと“うますぎる”という事ですが、味覚はそれぞれ人によって変わるのでコチラは検査結果を提示するだけで原因までは難しいですよ。」
「それで結果はいつ出ます。」
「検査結果だけでしたら明後日には」
「では、よろしくお願いします」
仲村を呼ぶと仲村はテーブルの上にKさん宅のコシヒカリそして他の農家のコシヒカリを置いた
「初めまして。先輩と一緒にこちらの地区を担当する事になりました仲村といいます。よろしくお願い致します。」仲村がO教授にあいさつをする。教授がよろしくと応えながらオレのほうに向いて「石川さん、良かったですね、いつも一人で大変だって言ってたじゃないですか。彼は力もありそうだし頼りになりますね」それを聞いた仲村はさきほどの女性にできないウインクをかました。やめろって!
たしかに仲村は力持ちだ。手足の長いヒョロヒョロ体形だが10kgの米を肩に2袋づつ両肩で4袋をかつぐ。中に入ってるのは綿じゃないかと思わせるほど軽々とだ。顔は及川光博似のイケ面なのだが身体はアンガールズの田中体形。本部の女の子達にイマイチなのはダジャレのせいなのか、このミスマッチのせいなのか本当に残念なヤツだ。
帰りの車中、タバコ替わりの棒アメを口に仲村がはなしかける「さっきの女の子可愛かったですね。」「そうだな。」「怒ってるんですか?」「呆れてるんだ。お前のナンパは所かまわずか?仕事中だぞ。」「先輩も欲しいなら欲しいって言えばいいのに。」「?」棒アメを持ったヤツの左手がぬっとオレの目の前に現れた。ヤツは今、運転手だ。事故を起こしてはいけない。ヤツの首を閉めたい衝動を押さえるのが精いっぱいだ。早く事務所に着いてくれ。オレはクーラーのスイッチを切り、車窓をフルオープンにした。仲村が「エー!熱いですよ!」「もう夕方だ。コレでいいんだ!燃料倹約だ!」ザマァミロ!