表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満ち潮  作者: たたみ
11/11

さようなら

この、覗き見野郎ども!

“神は見ておられます”ってのは本当だったんだな。忌々しい!


仲村が独り言のようにしゃべり出した。


「ボクが初めて地球に来たのは氷河期の頃です。」

「先輩たちの先祖は暖かい土地を求めて南下していました。そんな集団の一つにボクは目をつけました。」

「その一団は一頭のサーベルタイガーに毎晩襲われ一人づつ消えていきました。」

「力を合わせてサーベルタイガーに立ち向かう事もなくただ逃げ惑い一人を犠牲にして日々をすごしていました。見ていて歯がゆい思いをしました。」


「助けてやればよかったじゃないか。」オレが言う。

「それは、できないキマリです。」

ああ、自然に干渉してはいけないってヤツね。いよいよ動物バラエティ番組のようだな。


「ある日、逃げ遅れた子どもを追いかけるサーベルタイガーの前に一人の女が立ちふさがりました。一瞬サーベルタイガーは立ち止まりましたが一蹴で女を殺しました。すると今まで逃げる事しか出来なかった彼らが石や石器でサーベルタイガーに立ち向かっていったのです。」

「仲間を守るために恐怖を克服したのです。その晩からサーベルタイガーと彼らの攻防がはじまりました。最後にはサーベルタイガーを倒しました。」

「ボクは地球の彼らを気に入りました。ボクの世界で準備を整え物資を地球に転送して後、また訪れた時には氷河期は終わってましたが何世代か後の彼らはまだ食料をさがしてさまよっていました。ボクは彼らに五穀を与え、栽培の方法を教えました。」

「ボクはいつかこの星の人達が猜疑心のおこす恐怖に打ち勝つ事ができると信じています。」

「いつかはボクらの文明をも越えた文明を作り上げるかもしれない」

「ところが、この星はこれだけ科学が発展したにも関わらず予想以上に宇宙へ出て行く技術が遅れているのです。他の星であればすでに隕石に対する防御を備えてるのにコノ星はできてない。」

「人類が今まで隕石による壊滅的な被害を受けなかったのは奇跡です。」

「好奇心に誘われ新しい地に広がりここまで発展したのに、この段階で足踏みしてしまってる。」

「ボクは宇宙へ目を向けてほしくてさらに好奇心を刺激する成分を米に混ぜて広げることにしました。」

「信じてもらえないかもしれませんがボクはこの星も先輩も大好きです。守りたかったんです。」


うなだれてる仲村を見て“マジかよ?”と半信半疑でいるオレ。

だが、ちょっと待て。オレは仲村の手を取り肩をパンパンと叩いた。


「お前、さっき“意識だけを飛ばす”って言ってなかったか?」「これは何なんだ?」

また仲村の身体をパンパンと叩いた。

仲村がいきなり消えた。頭の中で仲村の声がする。


「この方がボクにとっては一番ラクな状態なんです。」「でも、ヒトのフリをする時はイメージを相手にぶつけるというか実際に目の前にいないのに錯覚させる事ができるんです。催眠術のようなものです。」仲村が現れた。仲村が握手してくる。確かに手の感触。「これもか?」

「そうですよ。」

仲村がドヤ顔で「ボクは向こうでも優秀なネンリキの人ですから。」と言った。


「それで、この米の事を見逃せって事なのか?」仲村に聞いた。


「いいえ、研究室の方も興味津々に調べ出したし、小松左京の“オフー”の話を知ってる人もKさんだけじゃないだろうし、今回はボクの失敗です。味覚や聴覚などの感覚は身近にいるヒトの頭脳にシンクロする事で感じる事ができるんだけど今度のはダメでした。騒ぎにならない内に皆さんにはコレで忘れてもらいます。」


仲村が出してきたのは今時珍しい万年筆。まさか、あの映画の…。

「エエ、ボクもあの映画を見た時はビックリしました。」


「どうせ忘れちゃうのに何でバラすんだ?」

すこし間があいて

「失敗だって解かった時、戻って準備を整える頃にはもう先輩と会う事もないと知りました。その前に先輩に聞いてほしかったんです。」ニッと笑う。

「そうか、今度お前が来る時はオレはいないんだな。せっかくMちゃんとの合コンをセッティングしてやろうと思ったのに残念だな。」

「本当に残念です。さようなら先輩」


強い光が…。


西日の事務所。

なんで昔の島での事、ユメに見たんだろう?

気がつかない内に居眠りか?疲れてんのかな。

本部長にお願いしてた増員、誰か頼めないのかな。

麦茶を飲もうと冷蔵庫へ。

「誰がいれたんだ?」

冷蔵庫の中には大量の棒アメが入っていた。


昨日の昼のラジオで小松左京先生の訃報を知りました。

私にとって小松先生は“カッコイイ大人”でした。

「なんや、そんな事で落ちこんどるんか?小っちゃい奴やな。見てみぃコンナ面白いモンあるんやで。ほんでコレがコウなったらコナイなるかもしれんしナランかもしれん。面白いやろ。」(関西弁ってこんなカンジ?)なんて毎回驚かしてくれる“カッコイイ大人”でした。

小松左京先生、ありがとうございました。安らかにお眠りください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ