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満ち潮  作者: たたみ
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うますぎる米(1)

炎天下に駐車された車は走行して、しばらくしてもサウナのようだ。

「先輩、クーラー入れましょうよ。燃料代倹約って熱中症になっちゃ意味ないですよ。」

入社1年目の仲村はハンドルを握りながら空いた左手でシャツの胸ポケットから何かを出そうとする。

「オレの車は禁煙だ。商品にニオイが付くだろ。前にも言ったろ、食品を扱う仕事だから禁煙しろって。」

仲村が正面を見ながらニヤッと言う。

「そうくるだろうと思って、ホラ。」ドヤ顔で棒アメを出してきた。

「…溶けてるぞ。」セロファンにべったりとアメがひっついてる。

横目でそれを見ると仲村は苦々しげに「だからクーラー入れましょうよ!」と呻く。仕様がないヤツだな。クーラーのスイッチを入れる。待ってましたとばかりに仲村はパワーウインドウのスイッチを入れる。急に車内が静かになる。ラジオのスイッチを入れながら

「でも、良かったですねクレームじゃなくって。」と言う。さっき訪ねた会員の事だ。

「そうなんだけどね…。まずはこの米を調べての結果が出ないと安心はできないね。」

いつの間にセロファンをむいたのか仲村の口から棒アメの棒がニョキと上下に動いている。運転しながらむいたのか?器用なヤツだ。

「大丈夫ですよ。会員さんの気のせいですよ。それに“まずくなった”なら大変ですけど“異常にうまい”ですよ。」モゴモゴと「大丈夫ですよ。」と重ねた。

 契約農家で作る無農薬野菜と米を会員に直接販売配達する会社に勤めて10年。大手スーパーの商品に比べると割高なのだが、ここ数年頻発する「食品疑惑」事件が拍車をかけ年々会員は増え会社自体の営業成績も上々。入社以来この地区を一人で任されていたのだが遂に念願の部下ができた。それがこの仲村。そしてその仲村と会員宅へ謝罪(?)に行って来たのだ。

 事の始まりは会員Kさんからの「配達された米が変だ」との電話。「替わりの米を持ってすぐに伺います。」と応え仲村を伴ってKさんのお宅へ。「先程は電話口で失礼致しました。石川と申します。米が変との事ですがどういう事でしょう?」Kさんは困った顔をして説明した。以前と同じ銘柄の米なのに「異常にうまい」との事。同じ米とは思えない。その理由を知りたいとの事。

 どうやら苦情では無いようなのでホッとしながら言った「今回Kさまにお届けした米の農家からは特別変わった事は報告されておりませんし、米の銘柄も同じモノなので変わりは無いハズです。」Kは少しガッカリしたような顔をして、すまなそうに言った。「そうですか…。そちらが解からないのならお手上げですね。スミマセン、こんな事でお呼び立てして変ですよね。問題あるならまだしも“うまいのは何故だ”なんて…。気になりだしたら落ちつかなくってツイ電話してしまってスミマセン。」「それに、ウマイと言ってるのは娘と私だけで妻と息子は“いつものゴハンだ”というのも不思議で…。」なにやら、オカシナ話だ。とりあえず、気になる米なら取り替えたほうがよいだろうという事で別の農家で採れた米に取り替えてもらった。帰り際「もしも何か解かったら連絡下さい」とKさんが言った。「はい、ご報告に上がります。では失礼します。」とその場を引き上げた。Kさんは無茶な要求をしてくるクレーマーとは違うようだ。顧客名簿を見ると会員になったのは5年前、注文以外の問い合わせは今回が初めてのようだ。

 「仲村、そのままA大学に向かってくれ。研究室に米の検査依頼しておこう。」

 「明日でいいじゃないですか。」

 「文句は言わず、働け。」仲村は下唇を突き出し不満そうに右にウインカーを入れると車線を変えた。

 

初投稿です。よろしくお願いいたします。

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