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エレメント皇国物語  作者: rurata
第二章:魔法学校クーラン
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第四話

「これがエリお姉ちゃんの通う魔法学校クーランか。思ったよりも大きいかも。」


しばらく魔法で飛んで学校が見えるところまで来た二人の内、クウリが感想を述べた。


学校の敷地は広かった。どれだけの数の建物があるのかは分からないがかなりのようだ。まあ、飛ぶ事前提の話ならこの広さでも特に問題はないのだろうが。


「生徒の総数は大体8500で一学年には1500−2000の生徒がいるはずだわ。校舎は学年別に分けられていて、後は教師達の研究用の建物、食堂や寮があるから建物の数は凄く多いわ。」


「なるほど・・・」


改めて辺りを見渡すクウリ。よくみれば寮と思われる建物には数多い生徒の出入りがあるようだ。


「えーっと、まずは私の寮に行っていい? そこで一旦荷物を置き、それからクウリがどの寮に入れられたのかを聞きましょう。新入生の寮割りが載った名簿はそれぞれの寮長にも配られているはずよ。細かい部屋割りや鍵の受け渡しなどは当然その寮まで行かないと駄目だけど。」


「うん、分かった。じゃあ先にエリお姉ちゃんの寮まで行こう。エリお姉ちゃんが荷物を置きにいっている間に寮長を見つけてどの寮かを聞いておくよ。」


「そうと決まったら、私の寮はこっちの方よ。行きましょう。」


先に行くアクエリに付いていきながらクウリは他の生徒達に視線を巡らせ観察することにした。



「少しだけここで待ってて。すぐに荷物を置いて来るから。」


そう言って寮のロビーにクウリを置き、アクエリはいそいそと自分の部屋に向かった。一人だけ残されたクウリは当初の予定通りに寮長を捜そうと寮長室に向かおうとしたがなにやら自分が注目されていることに気づいた。


はて・・・自分の格好はそれほど珍しいのだろうか? そう思い、自分の体を見下ろすが特に何も変わっていないはずだ。


自分の後ろに誰も立っていない事を確認してからもう一度辺りを見回すがやはり気のせいではなく、皆の視線が自分に集まっているみたいだ。しかし、理由の分からない注目についてあれこれ考えるのは無駄だし、とりあえず今は寮長を探さないといけないのでそれについては後でアクエリにでも聞こうと決める。


「さて、それらしい部屋は見当たらないけど、どこにあるのかな?」


寮長を捜しに行こうと少し歩き回っていたら、それがどこにあるのかが分からない事に気づいた。


「むむ・・・・いきなり困った。どうしよう・・・」


(エリお姉ちゃんに場所を聞いておくのを忘れてしまった・・・)


そうやってしばらく一人でうんうん唸っていると、不意に誰かに声をかけられた。


「そこの君、何か困りごと? 私にできることなら手伝うよ?」


声をかけられ、振り向くとそこには背の高い女性、と言ってもクウリと同じぐらい、が立っていてクウリの事を見ていた。


何と言うか、かっこいい人だった。体はすらっとしていて、背筋はビシッと伸びていて、顔も整っている。髪はダークブラウンのショートカットで、いかにも「できる」人を思わせる。地球ならどこかの女社長かモデルが似合っていただろう。


「うん? どうしたんだ? 助けはいらないのかな?」


何も言わないクウリを変に思い、女性は再度クウリに話しかけてからその場を離れようとした。それを見て、クウリはやっと正気に戻った。


「えっ? あ、いえ、その、とても困っています。」


慌てて女性を呼び止めるが何を言えばいいのかとっさには思いつかず、ただ現在の心境を告げることしかできなかった。


「ふむ、そうか。で、助けが必要?」


「えと、はい、お願いします。」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「いや・・・何を困っているのかを教えてくれないと何もできないぞ。」


やや困惑気味に女性が言うと、まだ思考が完全に回復しきっていないらしいクウリがはっと息を呑んでどもりながら状況を説明しようとする。


「ええと、その、寮長を捜しているのです。」


「寮長? なにか部屋の不都合でもあったか?」


「あ、いえ。実はまだどの寮に入れられたのかが分からなくて。お姉ちゃんに寮長なら知っていると言われたのです。」


「なるほどね。もしかしてお姉ちゃんはここの寮生?」


「うん、今部屋に荷物を置いて行ってるんだけど、その間に寮長を捜そうと思っていたのだけど場所が分からなかったのです。」


「あはは、そういうわけ。困ったお姉ちゃんだね。まあ、そういうことなら任せてくれ。寮長ならこっちだ、付いて来てくれ。」


軽く笑ってからクウリを案内するために女性が歩き出し、クウリは助かったと安堵してありがたくその人の後ろに付いて行った。



「それで、お姉ちゃんって言ったけど、その人はこの寮に住んでいるわけ?」


寮長まで案内をされながら何か話題がないかを考えていたら女性のほうから話しかけられた。


「うん、お姉ちゃんにはそう言われた。」


「ふむ、だったら私も知っている可能性があるな。お姉ちゃんの名前は?」


「アクエリ・ティアレイク。今年から四年生だったと思う。」


「ほう、あのティアレイク嬢の弟か。」


一瞬驚いた顔をしてから何かおもしろい物を見つけたときのような嬉しそうな表情が女性の顔に浮かび上がった。


「お姉ちゃんを知っているの?」


「まあ、知っていると言えば知っているな。ティアレイク嬢は有名だからね。」


「お姉ちゃんって有名なの?」


「それはそうさ。さすがに学年主席ともなれば学校中に知れ渡る。おまけにあの容姿。無名でいられる方が難しい。」


そういえばアクエリはなんて言っていたっけ? 一学年には1500から2000人の学生からなっていると。その中での主席、それにミスト一の魔法学校でそれなら、それはつまりアクエリはその年のミスト一の魔導士候補だ。


「家だと普通だから、そんな事は全然考えた事はなかった。」


「くっくっくっ、普通ね、普通か・・・いやあ、あのアクエリがねえ。」


「え? 何?」


「何でもないさ。気にするな。っと、着いたな。ここが寮長の部屋だ。」


寮長室の扉の前で止まり、ドアにノックをしてからクウリと向き直った。


「それじゃあ私は君が出てくるまで待ってるよ。またロビーまで帰らないといけないからね。」


「ありがとう。そういえば、あなたの名前——」


「入っていいよー。」


名前を聞こうと思った時、部屋の中から寮長の声が聞こえて来た。


「ふふ、確かに自己紹介がまだだったね。でもそれはちょっと先に送ったほうがいいみたいだ。」


「うん、そうだね。」


ちょっとおかしな雰囲気を残し、クウリが扉の取手を回してドアをゆっくりと内に開けた。


「失礼します。」



部屋に入ると30くらいの女性が机に座ってこちらに向いていた。


「うん? 知らない顔だね。もしかして新入生?」


「はい、そうです。まだどの寮に入れられたのかを知らなくて、ここなら分かるって言われました。」


「ああ、うん、そうだね。新入生の寮割りならここにあるよ。名前は?」


「クウリ・ティアレイクです。」


「ティアレイク? もしかしてアクエリ・ティアレイクの弟?」


「はい、そのティアレイクです。」


寮生のリストを手に持っていた寮長はそれを聞き、そっと紙の束を机に置いてからもう一つの、最初のより少し小さめ束を取った。


「あなたならここの寮生になったよ。」


「えっ? ここ?」


「そうよ。まあ、この学校に入った兄弟姉妹が同じ寮に入れられるのはよくあることよ。」


そしてパラパラと紙の束に目を通し、やがて捜していた物を見つけて再びクウリに話しかけた。


「あったあった。クウリ・ティアレイク、207号室だね。ほい、これ鍵。案内いる?」


鍵を壁の鍵掛けから取ってクウリに渡しながら寮長が聞く。


「いえ、ここまで案内してくれた人が外に待っていますから。」


「そう。あたしは寮長のレジェン・フィローネ、これからよろしくね、クウリ君。」


「はい! よろしくお願いします!」


鍵を受け取ったクウリは寮長に微笑み、一礼してから後ろのドアを開けてここまで案内してくれた人が待っている廊下に出て行った。


「おっ、どの寮に割り当てられたか分かったか?」


「はい、実はここの207号室みたいです。」


目を細めながら答えるクウリ。


「ほほう、それはよかった。ならお姉ちゃんと一緒で安心だな。」


「うん、まあ、そうかな?」


面と向かってそう言われると照れるけど、実際、クウリもそう思っていたので強く反論できなかった。


「これも何かの縁だし、もしこれから何か困った事があれば私もできるだけ手伝うとしよう。」


「ありがとうございます・・・」


そういえばまだ名前を聞いていなかった。


「あっ、まだ自己紹介の途中だったな。あたしはーー」


「クウリ! こんなところにいたの?」


突然大きな声がして、そっちを見るとアクエリが小走りでこちらに近づいていた。


そしてクウリの側まで来ると、怒った顔をして両手を腰に当てながらクウリを叱った。


「もう! 捜しちゃったじゃない! 部屋から戻ればロビーにいないし、いったい何をやっていたのよ!」


ちゃんと寮長を捜しに行くって言ったはずだけど・・・


アクエリの怒りを多少理不尽に思ったけど、自分の事を心配しての怒りなので怒りが湧いてこなかった。でも、それとアクエリの間違いを指摘するのは別々だ。


「エリお姉ちゃん・・・でも俺、寮長を捜して割り当てられた寮を聞いて来るって言ったよ?」


「えっ? そうだったかしら?」


言われたアクエリはまるで初めて聞いたような反応をしてくる。


「もしかして聞いてなかったの?」


「えっ、えっ?」


「エリお姉ちゃんが返事したから分かってたと思ったのに。」


「うっ・・・」


アクエリの身振りから本当に聞いていなかったと分かり、クウリは思わずため息をつき、それを見たアクエリは慌てながらクウリに謝罪した。


「ご、ごめんね、クウリ。でも、部屋から戻った時にいなかったから本当に心配したのよ!」


「分かってるよ、エリお姉ちゃん。俺もごめん。エリお姉ちゃんが部屋に行ったとき、寮長室の場所を聞いてなかったって気がついて、実は少し迷っちゃったんだ。だからちょっと遅かった。」


「えっ? 迷ってたの? じゃあ、どうやってここまで来たの?」


「えっと、とても親切な人が案内してくれたんだ。」


「親切な人? 私が知っている人かしら。お礼を言わないと。」


「うん。さっきからそこにいるんだけど・・・」


クウリに言われ、アクエリが振り向くと、そこに笑いを必死に堪えている、クウリを案内してくれた人が立っていた。


「ぷぷっ、くくくっ、あっははははははは。もうだめだ、耐えられない。あははははは。こんなアクエリは初めて見たよ。」


「あーーーーーーーー! ラク!」


(えぇー! ラク!?)


「あははははは、アクエリ、クウリ君に付いていたらアクエリの驚いた顔が見られるかもって思っていたけど、これは期待以上だ!」


笑い涙を拭く女性(ラク?)をアクエリはまたも怒り顔をして、今度はその人を大声で怒った。


「なによ、もう! ラクこそこんなところで何をしているのよ!」


「おやおや、それが弟をここまで案内してくれた人に言う事か?」


「うっ。」


「それに、私とクウリ君はもう友達だしな?」


ラクはそう言いながらクウリの方に向いて同意を求め、それに対してクウリは小さく頷いた。


「ほらな?」


「うぅー・・・」


「じゃあ、部屋まで案内するよ、クウリ君。207号室だったか? あと、薄々分かっているかもしれないけど、私はラク・ドリズクだ。これからよろしく頼むよ、クウリ・ティアレイク君。」


どうやら部屋までも案内してくれる様子のラクが歩き出しながらクウリに自己紹介をする。


「えっと、よろしくお願いします。クウリって呼び捨てでいいですよ。お姉ちゃんの友達なのでしょう?」


「そうか。なら私もラクでいい。」


「はい、ラク先輩。」


「では行こうか。」


「でも、エリお姉ちゃんは?」


少し後ろでとぼとぼ付いて来るアクエリをちらちら見ながら聞くクウリ。


「気にするな。」


「でも・・・」


「こんなアクエリは滅多に見られないからな。今の内に堪能しておきたいのだよ。」


(ラク先輩ってこんな人だったのか・・・)


と、思いながら部屋へと案内されていくクウリであった。


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