表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

【番外編】知の少女の羞恥 2


その日から、ゆっくり、一つずつ、クロエラはひたすら思考に没頭した。

両親や使用人たち、護衛騎士たちは静かに、そっと見守ってくれた。


たかが子供の無知だと、大人はたぶん許すだろう。

でも、クロエラはどうしても許せなかった。無知を、ではなく、無意識に人を見下す自分を。


マジョルテは、剣術が得意だ。でも、ルディオと仲がいい。

双子だからじゃない。お互いが、お互いの得手不得手を尊重して、支え合っているからだ。


ノーマンが乱暴? クロエラは、ちゃんと嫌だと伝えたことがあっただろうか。

ノーマンが運動することが好きと知っているのに、一緒に遊ぼうとしたことがあっただろうか。


ノーマンは、いつも必ず誘いに来た。

怒ってばっかりだったけど、大きい彼にはわからないはずの感覚を、クロエラは説明したことがない。


いつも、ノーマンばかりがクロエラに話しかけて、誘って、手を引く。

クロエラは、一度も誘ったこともなければ、できるだけ離れて過ごしていた。


「ノーマン様」


名前を呼ぶと、びっくりした顔の婚約者が振り返った。

ああ、そっか。名前すら、呼んでいなかったのか。


「手、強すぎて痛いです。歩くの早すぎます。追いつけません」


「え、痛い? ごめん。これくらい?」


あ。怒らないんだ。


「あと、虫も蛙も嫌です」


「そうなの? 可愛いのになあ。見るだけならいい?」


「……触らないなら」


ああ。可愛いと思うものを共有したかったのか。


「大きい声も苦手です。ノーマン様は身体が大きいから、怖いのです」


「え。そうなんだ。ごめん」


「置いていかないでほしいです」


あ。クロエラは、これを一番伝えたかったのかもしれない。

目頭が熱くなって、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。


「……さっさと歩いて行かないで」


「ごめん。わかった」


歩幅が違うのだ。早くて大きな足は、あっという間にクロエラを置いて行ってしまう。

階段が、とか、速さが、とか、拙い言葉で言い募るクロエラの話を、ノーマンは遮らずに聞いていた。


それから、手をつなぎ直して、慎重に一歩ずつ進む。

振り返って、クロエラの歩幅を確認して、また進んで、振り返って。


そう、こうやって歩きたかった。伝えてもよかったことなのだ。


「……ノーマン様、馬鹿にしててごめんね」


「ははっ。俺、馬鹿にされてたの? まあ、馬鹿だしなあ」


こんなに失礼なことを言っても、朗らかに笑っている。

本当に強い人は、きっとおおらかで大雑把なのだ。受け止める度量があるから。


「でも、お婿さんに来るなら、勉強はしましょう」


「そうだよな……馬鹿は困るよなあ。クロエラが教えてよ」


「よ、喜んで!」


なんだ。なあんだ。ちっとも難しいことじゃなかった。

歩きづらそうなノーマンのために、いつもより早めに足を動かしながら、クロエラはやっと笑顔を浮かべた。




────────────────────────


「クロエラー」


思い出に浸っていたクロエラは、自分を呼ぶ婚約者の声に、ふと顔を上げた。


何度思い返しても恥ずかしい、思い上がった幼すぎる思い出だ。本当に恥ずかしくてたまらない。

この羞恥は、あえて繰り返し思い出すことで、自分を律すると決めている。


「クーローエーラー」


「あ、はーい」


そういえば、返事をしていなかった。慌てて声を上げ、庭にいる婚約者の元へ急ぐ。


「ちょっ、ノーマン様! 服着て!」


素振りをしていたはずのノーマンが、上半身裸でびしょ濡れで立っているのを見て、ぶわっと顔が熱くなる。

咄嗟に背中を向けたが、心臓が壊れそうなほどバクバク鳴っていた。


「え? ごめん、暑いから水浴びしたんだよ。タオルほしいんだけど」


本当にもう、昔っから謝るのは上手なんだから!


真っ赤なまま使用人からタオルを受け取り、背中越しに手渡す。

振り返れるわけがない。鍛えて割れた腹筋なんて、婚姻するまで見るはずがないものなのに。


「あれ? クロエラ、なんか赤くない? 風邪か?」


「ちょっ」


赤く染まっているであろう耳の先に触れられて、ますます身体が火照る。

本当に、こういうことを意識しないでやるからたちが悪い。


「は、離れてください」


「なんで? クロエラと一緒がいいんだけど」


「な……っ」


「俺、クロエラ好きだしなー。ちっこくて可愛いし」


ぷるぷる震えたクロエラは、涙目で振り返って腹の底から叫ぶ。



「ほんっと、そういうとこ!!!!!」














ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ